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国連とビジネス・トップ
企画の目的と内容

概論(説明と目次)
1.さまざまな切り口
      (田瀬和夫)
2.環境セクターの一考察
      (宇野智之)

3.パートナーシップ
      (井上良子)

4. ICTと開発 (今泉沙織)
5. BOPビジネス(武藤康平)
 BOPについての議論
6. CSRとCSV (前川昭平)
7. 赤道原則:持続可能な金融に向けた取り組み
      (柴土真季)

8. マーケティング: その進化が投げかける可能性
      (豊島美弥子)


シリーズ
国連グローバル・コンパクト
プロローグ
1. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん)
2. 橋田さんインタビュー「グローバル・コンパクト 本部とローカル・ネットワークの連携」(橋田由夏子さん)
3. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん、甲賀聖士さん)

シリーズ
『国連とビジネス』の具体的事例
1. ユニセフイノベーションチーム Terra Weikelさん
2. JICA民間連携事業部連携推進課 馬場課長

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フォーラムトップ > 国連とビジネス > シリーズ「『国連とビジネス』の具体的事例」 ユニセフイノベーションチーム、Terra Weikelさんインタビュー


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ユニセフイノベーションチーム
Terra Weikelさんインタビュー

Terra Weikelさん

今回、国連とビジネス班インタビュー企画として掲載するのは、ユニセフイノベーションチームの取り組みについて、イノベーション・パートナーシップ・スペシャリストTerra Weikelさんへの英語でのインタビューを日本語に書き起こした記事です。世界の子どもたちの生活改善・向上を目的として、テクノロジーを活用し民間企業と連携しながら、どのような画期的なアプローチで取り組んでいるか、お話を伺いました。


インタビュアー&写真:今泉沙織 (国連とビジネス班幹事、世界銀行勤務)



以前から私の仕事の同僚を通して聞いていた、国連の中でも画期的な取り組みを行っているユニセフのイノベーションチームの活動について学び、また国連フォーラムの皆さんにもお伝えするため、2015年3月5日に、私はサンフランシスコのフロッグというデザイン系会社のオフィスで活動しているユニセフイノベーションチームを訪ねました。ユニセフイノベーションチームはユニセフの組織内にあるグローバルな学際的なチームでユニセフの活動を強化させ、世界の子供の生活を向上させるようなテクノロジーや活動を見つけ、試験的に試し、実施規模の拡大を行う事を任されています。今回はイノベーションパートナーシップスペシャリストのTerra Weikelさんとインタビューを行い、ユニセフイノベーションチームがどのような画期的なアプローチを用いて民間企業やテクノロジー関連の会社と働くのかについて学びましたので、ご報告致します。




1) そもそもユニセフイノベーションチームはどのように始まった取り組みなのでしょうか?

2007年にユニセフイノベーションチームの先駆けが、開発途上国現場で特に携帯電話やソーシャルメディアに関するイノベーションに気付き始めていました。小さな遠隔地にある村でさえ、人々がコミュニケーションを取るために携帯電話を利用していました。国連は当時大々的にはこれらのツールについて評価したり認識したりはしていませんでしたが、ユニセフイノベーションチームは子供達にとってよりよいインパクトを届けるために、携帯電話やソーシャルメディアに関する技術に関して更に調査する事にしました。そのために、当時のコミュニケーション部門のヘッドであったSharad Sapra博士、Christopher Fabian そして Erica Kochiが協業でニューヨーク本部および国別オフィスにユニセフイノベーションチームを立ち上げ、政府、パートナー、現地のエンドユーザーとチームを組み、意味のある継続的な解決策を見つけるために新しい問題解決方法の調査を始めました。私も当時ユニセフイノベーションチーム立ち上げ初期メンバーとして関わっていました。現在では70名以上の同僚がイノベーションチームメンバーとして認識され、イノベーションラボ、国別オフィス、地域別オフィスで働いています。イノベーションチームはコミュニケーションチームから派生する形で小規模に始まりましたが、現在では保健、教育、緊急援助を含むプログラムにも携わっています。チームメンバーはプログラムスペシャリスト、モニタリングと評価スペシャリスト、そしてコミュニケーションスペシャリストという様々なバックグラウンドの職員で構成されています。オペレーションの形態としてはグローバルイノベーションチームが世界4都市のオフィスから全体のプログラムを司り協業しています。これら4つのオフィスはニューヨーク本部のグローバルイノベーションユニット、南南協力およびプログラムの拡大にフォーカスしたナイロビのグローバルイノベーションセンター、コペンハーゲンの製品供給オフィスそしてサンフランシスコの技術連携オフィスから成っています。そして、世界各地にはイノベーションプログラムの実行部隊であるイノベーションチームのメンバーがイノベーションラボ、地域別オフィス、国別オフィスで活動しています。

2) ユニセフイノベーションチームはユニセフ内部のスタートアップのようにも見えますが、新しい問題解決法を組織に持ち込むのにはどのようなチャレンジがありましたか?

リスクを取り失敗を認める組織文化を作るのが難しかったです。私達は失敗と改善を繰り返し、意味のある解決策を早急に見つけるプロセスを実施できる環境を見つけなくてはなりませんでした。新規アプローチには、実験的要素そして成功および失敗に関する率直な評価が必要です。実際ユニセフイノベーションチームの2014年度年次報告書にハイライトされている多くのアプローチが、子供達に意味のある解決策を届けるため何度も繰り返し検証された物となっています。

3) ユニセフイノベーションチームの仕事内容はどういうものでしょうか?

ユニセフイノベーションチームは、国別オフィス、イノベーションラボから出てくる新しいアイディアやイノベーションを支援し共有すると共に、技術系スタートアップの会社や大企業、大学を含む外部パートナーからのアイディアも同時に提供する解決策供給チームとして機能しています。イノベーションチームはユニセフの仕事を強化するようなテクノロジーやモデルを見つけ、プロトタイプを実施し、その後実施規模を拡大します。ある国では政府、民間企業、アカデミア、若者を巻き込むイノベーションラボを設立し、その国に特化した課題に対する解決策の開発および実行を行います。その際、それぞれのラボがニーズベースで活動を行っていることから、ラボごとに異なる解決策が展開されます。例えばウガンダではハードウェア、ソフトウェア、および携帯電話関連の解決策が展開されていると同時にインキュベーションも行われています。その一方で、コソボのイノベーションラボは“By Youth, For Youth”という、特に起業を通した若者の雇用促進をサポートしています。また前述のグローバルイノベーションセンターに関して言えば、ナイロビでは大学、リサーチラボ、民間企業、国際開発パートナーとの南南協力にフォーカスすると共に、すでに実証されている画期的な解決策をグローバル規模に拡大させ、新たなイノベーションを生み出しています。ナイロビオフィスとニューヨーク本部は国別オフィスのニーズをサポートし、コペンハーゲンオフィスはユニセフの供給部門として製品イノベーションを行い、サンフランシスコオフィスは特に技術セクターにフォーカスしたパートナーシップ形成を行います。

イノベーションチームが実施するプロジェクトは時々ユニセフのより大きなイニシアチブの一部として、 各プロジェクトにおいて効果的なソリューションとなる可能性のある新しいアプローチをテストし開発します。 また「イノベーション基金」から資金が拠出されているプロジェクトもあります。この基金は、開発初期段階にあるプロジェクトに興味を持つドナーからの資金で成り立っています。民間企業も当基金に参加することができ、例えばスターウォーズ/ディズニー/ルーカスフィルムも、ユニセフイノベーションラボが世界的な課題に対してクリエイティブな解決策を見つけられるよう、当基金に貢献しました。

イノベーションチームがフォーカスしている分野の1つにリアルタイムデータがあります。リアルタイムデータとは即時に収集、分析可能なデータのことで、例えば公共サービスの品質および提供場所に関する評価と全国の統計データ収集を目的に、市民からリアルタイムでデータを収集/分析するため、携帯電話とウェブシステムを用いた追跡方法を使っています。例えばナイジェリアでは、テキストメッセージを利用して市民から基本的な出生情報を収集するために、SMSベースのシステムが使われています。他にも若年層の雇用や情報へのアクセス向上についてチームは活動しています。ウガンダではイノベーションラボを通じて、ソーラーパワーで充電されるコンピューターのキオスクが田舎の若年層対象のコミュニティセンターに設置され、教育、ライフスキル開発、財務リテラシー、マイクロビジネスマネジメントコース等についてのマルチメディアを通じた情報提供が行われています。

イノベーションチームのキーとなるプロダクトの1つとしては当初Rapid SMSそして現在はRapidProと呼ばれるオープンソフトウェアのアプリケーションプラットフォームがあります。このプラットフォーム上では、ユニセフイノベーションチームが利用するU-Report、mTracなどのアプリケーションが開発されています。このプラットフォームを利用し、現在、多くのプロジェクトにおいて、保健や教育セクターに関する効率的なモニタリングおよび評価を実施しています。

4) Terraさんご自身はイノベーションチームでどういうお仕事をされていますか?

私が所属するサンフランシスコオフィスは、技術連携オフィスとして民間企業とのパートナーシップを組むことにフォーカスしています。国別オフィスやラボからの要請にも応じながら、パートナー企業との連携をコーディネートします。私達の主な活動は@テックコミュニティーへのアウトリーチおよび教育(TechCrunch Disruptのようなハイプロファイルのイベントに参加する場合もあります)、A私達が開発したツールおよび国別オフィスのニーズの査定、Bニーズに応じて戦略的パートナーシップの機会を様々な企業や可能性のあるパートナーと探る、などがあります。


5) ユニセフイノベーションチームは、どのように民間企業と働いていますか?何か事例はありますか?

民間セクターとは3つの異なる方法で協業しています。

  1. ファンディング
    民間企業との主な関係構築は、まだ寄付の分野に偏っています。

  2. CSR
    ユニセフは民間企業のポリシーに影響を与える仕事をしています。このような官民連携の仕事は通常ユニセフのジュネーブオフィスが運営しており、ポリシーアドボカシーにフォーカスしています。

  3. 企業のコアビジネスおよび専門性を生かした協業
    この協業方法は、専門性の共有、プロダクトやサービスの共創、共同開発を行い、ユニセフ、コミュニティーパートナー、そして新興国の顧客を対象にした製品開発および適正化の専門家と協業します。

民間企業との連携は、まずは趣意書または更に軽い合意から始まり、関係がどのように発展して行くのか様子を見ます。私達は“innovation principles”を共有し、パートナー企業と開発されたイノベーションが公共財であること、エンドユーザーにフォーカスしたもの、そして現地の人の能力開発が可能であるように作られたものである事を確認します。

民間企業との関係は、問題意識や特定のトピックに関する知識関心を高めるためのイベント開催から、現地におけるプロダクト開発への投資など多岐にわたります。例えば短期的関係構築としては、イノベーションチームの代表が民間企業のパートナーと一緒にパネルディスカッションに登場し、どのようにウェアラブル(着用可能)技術が社会貢献のために利用できるよう再考され、再デザインできるかについて話すこともあります。

また、ハイタッチな長期的関係構築の事例として、現在サンフランシスコチームのオフィススペースがあるデザイン会社のフロッグとの関係を取り上げたいと思います。フロッグは消費者向け技術にフォーカスしたデザイン会社で、長い間社会的インパクトに興味を持ってきました。

フロッグとの協業は、2009年にザンビアのプロジェクトMwanaと共に始まりました。ザンビアの田舎にある診療所や医療サービス提供機関を対象に、HIVに関する検査結果や検査結果送付のリマインドをリアルタイムに携帯電話を利用して提供するサービスです。フロッグはまずデザインチームを現場に派遣し、新生児のHIV/AIDS治療に関する問題について調査を行いました。そこでチームはHIVのテスト結果が診療所や家族に届くのが遅いことに気付き、どのようにしたら結果がもう少し早く届くかについてさらに調査する事にしました。そこから最初の製品デザインプロセスに6週間、製品開発完了までには最低1年はかかりました。そして最終的に完成した製品の活用により、検査結果の情報伝達が1.5倍早くなりました。またこの他にも、フロッグは過疎地の問題解決を行う製品のリサーチ、デザイン、実装を行ってきました。1つの面白い事例として、ユニセフと一緒に開発した緊急支援時のシミュレーションゲームがあります。これはシミュレーションゲームを通して、緊急事態にユニセフがどのように機能するかを他のパートナーに理解してもらうために開発されました。

6) 民間企業との協業で何が成功する要素となりましたか?(どのようにウィンウィンの関係を作っていますか?)

ウィンウィンの関係構築が民間企業との連携ではキーとなります。例えばユニセフが提供する途上国の人口成長予想や若年層の市場拡大等の問題についての情報は、新興市場に興味を持つ企業にとって有益です。また従業員の満足度向上も企業にとってプラスです。企業がユニセフと働くと、従業員は自分の仕事が社会的に意味のあるもので社会問題解決に貢献していると感じ、仕事に対する満足度が向上します。加えて、ユニセフには政府、民間企業、大学、市民団体、そして市民全てを巻き込む力があり、これにより民間セクターはユニセフと連携することで新興市場の全てのステークホルダーから学ぶことが可能となります。反対にユニセフにとっても、民間企業との連携は民間企業から新規市場を開拓する際のビジネスアプローチや製品開発戦略などについて、成功事例を学ぶことに繋がります。ユニセフが新たな技術を開発の仕事に導入する際にも、ビジネスセクターの新規市場開拓と同様な問題に直面するため、ビジネス界からの経験を学ぶ事が役に立つのです。また、ユニセフは民間セクターが持つ交通セクター、ID、ウェアラブル、モバイルファイナンス、eラーニング等に使われている近未来的解決策や技術等にアクセスすることができます。これらは私達が近未来技術と社会インパクトを考えた際に全て重要となるものです。

7) 民間セクターと働く上でのチャレンジは何ですか?

主なチャレンジは異なる企業文化を持つ組織同士で働くことです。締め切り日やリスクの取り方に関する考え方、そしてお互いの組織のモチベーションも異なります。両組織に関する知識が不足していると、世界が直面する大きな課題に関する議論や協業に関する機会について話す共通のプラットフォームがなく、協業が困難になります。私達は企業に対し"Doing good is good business"というメッセージを発信し、ユニセフとの協業がチャリティーではなく企業のコアビジネスにも響くものであることを伝えたいと思っています。またパートナーシップの構築にあたって、最初の盛り上がりから実際のプロジェクトの実行に移すまでも、また重要で難しいステップです。




インタビューを終えて感じたのは、国連のような官僚的組織でもタスクフォースのような形でイノベーションチームを作り、早いサイクルでテクノロジーはイノバティブな活動のテスト、実行、規模の拡大を行う事が可能であるということです。ただこのような活動を持続的に行うためには、組織内のマネジメントレベルが活動を認識し、体系的にオペレーションの中に組み込むことが重要だと思いました。このような組織内のインフラができてこそイノベーションチームの活動に協賛し、実行する人が増え、組織内の文化も徐々に変革していくことが可能なのではないかと思います。また、継続的にイノベーションを促進していくためには事例を増やし、多くの人に伝え、共感してもらい、根気強く仲間を増やし、様々なステークホルダーとの関係構築が必要だと思いました。


インタビューの最後にはTerraさんから2014年度年次報告書 をいただきました。またユニセフイノベーションチームやパートナーが利用したツールやプロダクトが載っているInnovation at UNICEF − from start-up to scale-upという小冊子もありますので、ユニセフイノベーションの画期的な活動について更に学んでみて下さい。

2015年11月23日掲載
ウェブ掲載:藤田綾