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国連とビジネス・トップ
企画の目的と内容

概論(説明と目次)
1.さまざまな切り口
      (田瀬和夫)
2.環境セクターの一考察
      (宇野智之)

3.パートナーシップ
      (井上良子)

4. ICTと開発 (今泉沙織)
5. BOPビジネス(武藤康平)
 BOPについての議論
6. CSRとCSV (前川昭平)
7. 赤道原則:持続可能な金融に向けた取り組み
      (柴土真季)

8. マーケティング: その進化が投げかける可能性
      (豊島美弥子)

シリーズ
国連グローバル・コンパクト
プロローグ
1. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん)
2. 橋田さんインタビュー「グローバル・コンパクト 本部とローカル・ネットワークの連携」(橋田由夏子さん)
3. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん、甲賀聖士さん)  


シリーズ
『国連とビジネス』の具体的事例
ユニセフイノベーションチーム、Terra Weikelさんインタビュー

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「国連とビジネス」概論(1)
さまざまな切り口

田瀬和夫
2012年10月26日


国連フォーラムのみなさん、

こんにちは。田瀬@イスラマバードです。 昨日国連フォーラムの新しい企画として発表した「国連とビジネス」、1日あまりですでに多数の方に「Like」を押して頂き、また参画されたいという多くの方から幹事会にメールをいただいています。

さて、さっそくに議論を始めていきますが、この企画は扱う事象がとても大きいことから、視野を狭め過ぎないようにすることが大切かと思います。「国連とビジネス」という言葉を聞いてみなさんが想起する対象はおそらくとても広いでしょう。その「広さ」が重要なのです。なのでしばらくは「国連とビジネス」と聞いて何を連想するか、どういう論点があるか、そういう自由で大局的な議論ができればと思います。それからだんだんと個別具体的な事例も紹介し、みなさんのご協力を得てインタビューやワークショップなども実施していければと考えます。

具体的には、しばらくのあいだみなさんで「概論」を出し合い「いま」の知見・意見を蓄積していってはどうでしょう。私が以下にその先陣を切ってみます。この投稿に意見のある方はMLに返信されてもよいし、国連フォーラムのFacebookページで表明されてもかまいません。
http://www.facebook.com/pages/国連フォーラム-UN-FORUM/160270550675925

私は「国連とビジネス」と聞いたら、国連が直接に関わっている分野と国連が直接に関わっていない分野の、大きく分けて2つ分野を思い浮かべます。そしてそれぞれにいくつかの切り口を思いつきます。こうした分類は人それぞれだと思いますので、あくまでも私的な意見ということでご理解ください。以下にそれぞれについて考えてみます。

1.国連が直接に関わっている分野:国連とビジネスの新しいパートナーシップという流れ

10月24日の企画のイントロにもあるように、公的部門と民間部門、特に国連機関と企業やビジネスの関係は最近10年くらい大きな変化の中にあるように思います。そして、切り口としては次のようなことがあろうかと考えます。

(1)従来の「国連とビジネス」:国連の民間部門への伝統的な取り組みというのは、一言で言えば「国連が政府に助言する」が基本でした。途上国での「工業化支援」や「中小企業振興支援」あるいは「技術移転」など、国連の活動はどれも基本途上国において経済発展のための政策があることを前提としていて、これを中立な立場から助言することが必要だと考えられていたわけです。その意味でUNIDOをはじめとする諸機関は、途上国政府の政策立案・実施の両方において役割を果たしてきましたし、ESCAPなどのいわゆる「地域経済委員会」はもう少し大きな観点から地域の経済発展を促進する牽引役だったわけです。そしてこうした国連の機能はこれからも続いていくと思います。例えば私がいるパキスタンでUNIDOのできることは実に大きいしパキスタンもUNIDOを必要としています。この部分だけでも学ぶことがたくさんあります。

(2)国連とビジネスが共同で規範づくり:それが最近では、国連とビジネスが直接に対話し協力し、作業するという事例が飛躍的に多くなってきたと感じます。もっとも端的なのは、国連の大きな役割の一つである「ルールづくり」に企業が参加する「グローバル・コンパクト」です。これは1999年にコフィ・アナン事務総長が世界経済フォーラム(いわゆるダボス会議)で提案したものですが、内容としては企業がグローバル化の進む世界の中で責任のある役割を果たすこと、人権や環境や腐敗防止などの10原則を守ることを求めています。先の「私の提言」で大和総研の河口真理子さんが「社会的責任投資」について述べておられましたが、ここでは「ビジネスが主体的に国際規範づくりに関わっていく」ということがとても新しいように感じられます。

(3)国連とビジネスが現場で協力:それから最近よく聞き目にするのが、実際の支援の現場での、国連とビジネスの新しい形のパートナーシップです。例えば前回久木田純さんの本の関係でご紹介した「ネピア千のトイレ」プロジェクト。これはユニセフとネピアが協力して東ティモールに1000のトイレを作ろうという試みでしたが、国連の専門性と資源だけでは実現が困難な課題に企業が独自の技術や方法を持ち込むことによって共同で取り組むことができるという事例です。また、住友化学が生産する「オリセット・ネット」(殺虫剤をねりこんだ蚊帳)の技術は国連のアフリカ開発支援を現場で大きくサポートしています。ほかにもこの分野は極めて多くの具体例があるでしょう。

(4)国連とビジネスがアドボカシー:また別の形態の協力として、アドボカシーや広報のための協力ということがあるでしょう。例えばUNHCRとユニクロ。医療を無駄なく活かしたいユニクロと迅速に難民に物資を届けたいUNHCRだからこそできた協力関係ですが、両者はwin-winな状況を作っているように思われます。それから、ユニセフとグッチがグローバル・パートナーシップを結んでいるというのはみなさんご存知でしょうか。ユニセフはほかにもアメックスやイケア、ソニーなどと協力しています。こうした協力がどのような原則のもとで、どのような効果を挙げているのか、課題は何かといった切り口はとても面白いのではないでしょうか。

2.国連が直接に関わっていない分野:グローバルな課題とビジネスという流れ

こうした「国連が直接に絡む」関係に加えて実はもっと大きな変化は「国連そのものは絡まないが、これまで国連が得意としてきた分野や、国連が不得意な分野でビジネスが活発に貢献している」ということではないでしょうか。そしてこの現象は特に開発の分野で顕著ですが、平和構築や防災などほかの分野でも重要になってきているように思えます。ここでもいくつか切り口を挙げてみましょう。

(1)BOPビジネス:BOP(Base of the Pyramid)ビジネスはまだまだ「熱い」ですよね。BOPビジネスの定義について議論し始めるとたいへんですが、例えば経済産業省の報告では「主として、途上国の低所得階層を対象とした持続可能な、現地における様々な 社会的課題の解決に資することが期待される新たなビジネスモデル」と捉えられているようです。「私の提言」第24回槌屋詩野さんの記事などをお読みいただければ、その裾野の広さを垣間見ることができます。この企画でももちろん取り上げるであろう切り口ですが、単に事例の紹介にとどまらず、世界の開発の文脈の中で、それぞれがどのように位置づけられるのかという観点を大切にしながら理解したいところです。

(2)企業の社会的責任(CSR):これも裾野の広い話ですが、基本的には企業の活動が社会に与える影響に責任を持つための意思決定・プロセス・活動ということで、寄付やメセナやフィランソロピーとは違うと理解しています。もし私の理解が間違っていたらご指摘をお願いします。そしてまた、CSRは「グローバル・コンパクト」とも近い関係にありますが、それよりも広い視野を持っていると理解します。面白いのは、日本では江戸時代から企業の持続的発展のための「善行」が蓄積され、CSRという概念が明確にあったことでしょうか。下記の社会的責任投資とも、「規範の形成」という文脈で共通点があると考えます。

(3)社会的責任投資:「私の提言」の河口真理子さんのお話にも出てきましたが、近年この分野は注目を浴びています。例えばミュージック・セキュリティーズは老舗の酒蔵、無農薬米、被災地の復興などにファンドを提供していますし、グラミン銀行のようなマイクロファイナンスは開発の中で極めて大きな役割を果たしています(グラミンを社会的責任投資のカテゴリーに入れてよいのかどうか自信はありませんが文脈は一貫しているように思います)。またより大きく「開発金融」ということでは、世銀を含む国際機関と民間金融機関の両方が関わってくると理解します。これらとBOPや社会的起業との関係も興味深いところです。

(4)社会的起業:これだけで一つの企画にできそうなほど、近年この分野は注目されています。私の勝手な分析では、社会的起業には(イ)公的機関にはできないイノベーティブで柔軟なアプローチ、(ロ)その結果公的機関がカバーできない問題に対処、(ハ)小規模で始めるため大規模な初期資本を必要としない、などたくさんの利点があると感じられ、これからも成功をおさめる起業家が多く出てくるでしょう。一方で、小規模の「点」をどうやって「線」や「面」にして社会の変化に貢献していくかが今後の課題なのではないかと感じます。フォーラムでもすでにHasunaの白木夏子さんほか様々な方にお話を伺っていますが、ここが「国連とビジネス」の一つの切り口になることも間違いないと思います。ちなみに、必ずしも営利を求めていない組織や団体、例えばKopernikやSoket、Table for Twoなどは「社会的起業」のカテゴリーに入れてよいのでしょうか。中村俊裕さん、金平直人さん、いかがですか?

(5)平和構築とビジネス:「開発とビジネス」のほかに静かな脚光を浴びている分野として「平和構築とビジネス」があります。国連フォーラムでもすでに「私の提言」第2回で、東大の佐藤安信さん、水田眞一さんの寄稿を取り上げていますが、紛争後の社会における平和地構築には開発とは異なる考慮を要します。そして、近年ビジネスは平和構築において重要な「アクター」の一つになっている点に注意が必要です。例えば地雷除去技術など、先進の技術が平和構築をサポートする場合もあるでしょうし、民生品の軍事転用の禁止・防止など、規範づくりに近いとりくみもあるかと考えます。

(6)防災とビジネス:さらに、東日本大震災や世界中の自然災害などへの対応のなかで注目を浴びている分野として「防災とビジネス」があります。先の震災の際、グーグルが3月11日のうちに「Google People Finder」を立ち上げたのはよく知られている話ですし、緊急地震速報などの技術は、公的機関だけでは実現できないもので、官民一体の努力が求められます。またそれらの防災技術を途上国にも移転する必要性についても最近よく話題にのぼります。こうした分野でもビジネスが大きな役割を果たしていて、国際機関や各国政府の取り組みを補完していると感じます。

以上、長くなりましたが「国連とビジネス」企画の立ち上げを準備する上で私が想起した切り口を挙げてみました。これ以外の切り口も、またそれぞれの切り口に対する分析も歓迎します。国連とビジネスをよりよく理解する一助となれば幸いです。

田瀬和夫(在イスラマバード国連広報センター所長代行、大阪大学OSIPP招聘教授)