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国連とビジネス・トップ
企画の目的と内容

概論(説明と目次)
1.さまざまな切り口
      (田瀬和夫)
2.環境セクターの一考察
      (宇野智之)

3.パートナーシップ
      (井上良子)

4. ICTと開発 (今泉沙織)
5. BOPビジネス(武藤康平)
 BOPについての議論
6. CSRとCSV (前川昭平)
7. 赤道原則:持続可能な金融に向けた取り組み
      (柴土真季)

8. マーケティング: その進化が投げかける可能性
      (豊島美弥子)

シリーズ
国連グローバル・コンパクト
プロローグ
1. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん)
2. 橋田さんインタビュー「グローバル・コンパクト 本部とローカル・ネットワークの連携」(橋田由夏子さん)
3. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん、甲賀聖士さん)  


シリーズ
『国連とビジネス』の具体的事例
ユニセフイノベーションチーム、Terra Weikelさんインタビュー

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フォーラムトップ > 国連とビジネス > シリーズ「国連グローバル・コンパクト」グローバル・コンパクト・セッション


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「グローバル・コンパクト・セッション」
スピーカー:野村 彰男さん
(グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク 理事)

野村彰男さん


2015年1月11日




国連とビジネスメンバー(前川さん)からの説明
■1■国連とビジネス班について

・国連とビジネス班では、国連及び開発セクターとビジネスがどのように協力できるのかについて、これまで例えば企業の社会的責任(CSR)、Base of the Economic Pyramid(BOP)層向けのビジネスや赤道原則といった切り口で模索し、発信して参りました。私たちの企画の根底には、ミレニアム開発目標(MDGs)を始めとする国連の目標を達成していく上で、ビジネスの力を活用していくことが不可欠となりつつあるという考えがあります。どのようなプロジェクトでも、ヒト、モノ、カネ、情報といったリソースが必要です。これらのリソースが集中しているのが企業であり、国際的な問題解決においてもその企業を活用しない手はないということです。

・今後、国連機関がビジネスセクターをどのように効果的かつ効率的に活用していけるのかについて考えていくために、国連とビジネス班では「シリーズ:グローバル・コンパクト」と題して、国連機関とビジネスセクターの接点とも言えるグローバル・コンパクトについて、記事の発信や講演の場を設けていく予定です。

・グローバル・コンパクトの主な役割は、企業活動を国連の目的に沿ったものにしていくということにあります。そのために設定されているのが、人権/労働/環境/腐敗防止の4分野にわたるグローバル・コンパクトの10原則です。企業はグローバル・コンパクトに加入する際に、この4分野10原則に沿った企業活動を行うことを宣言し、毎年報告を行い、報告ができなかった場合は、グローバル・コンパクトから除名されることになります。

・今後このシリーズでは、グローバル・コンパクトの活動を掘り下げていくとともに、企業との連携や、グローバル・コンパクトが抱えている課題についても議論していく予定です。

・ではまずその皮切りとして、本日はグローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークの野村理事からお話を伺いたいと思います。

野村理事の講演
■2■国連グローバル・コンパクトの歴史

・私は2003年に国連広報センター(UNIC)の所長を務めており、その際に国連活動の一つにグローバル・コンパクトがあることを初めて知りました。私はもともと新聞記者だったのですが、国連の職員になって、国連の活動が想像していたよりも幅広く、その活動が国と国との関係に限らないことを知りました。特に冷戦後に民族紛争、宗教対立が多発した90年代は、難民も多数出て国連が国家中心主義から人間中心主義にシフトした時代でした。国連として途上国や難民キャンプの人々に対して何ができるか、何をすべきか注目が集まっていました。私が国連広報センター所長になってほどなくイラク戦争が始まり、国連がその無力をかつて無いほどに批判された時期でした。アメリカの単独行動を止められなかった、という批判で、当時の小泉首相も、国連は助けにならん、日本が困った時に助けてくれるのはアメリカだという発言を国会で発言したような、そのような時期でした。

・国連グローバル・コンパクト(UNGC)は2000年に創設されたのですが、03年に私が広報センターの仕事を始めたときはまだ数社しか日本企業は加盟していませんでした。グローバル・コンパクトを日本で広める仕事は国連本部と外務省との連絡をとったり、国連活動を日本の皆さんに広報したりするUNICの活動の中では異色で、企業経営者らに会い、グローバル・コンパクトの意義を説明して加盟を要請したりといった活動はなかなか大変でした。UNICだけでは日本での普及はままならないと考え、すでに加盟していた企業の方々と一緒に、グローバル・コンパクト・ジャパンネットワーク(GC-JN)を立ち上げました。いまもGC-JNの理事をしている環境経営学会会長の後藤敏彦さんや人権問題や腐敗防止の問題に詳しい学者にお手伝いいただいたのですが、運営委員会をつくり企業の自主性を高める努力をしました。しかし、UNICを事務局とする体制では、企業を束ねて前進させる役割を担うのは難しいため、2008年に企業の社会的責任(CSR)の問題を真剣に考え、グローバル・コンパクトへの取り組みにも熱心だった富士ゼロックスの有馬利男前社長が代表理事となり、日本で最初にグローバル・コンパクトに加盟したキッコーマンの茂木友三郎会長(当時)やリコーの会長で元経済同友会の代表幹事だった桜井氏らに理事をお願いして企業中心の運営を始めました。

・冒頭でご説明頂きましたが、グローバル・コンパクトには4分野にわたる10の原則があります。10の原則はいずれも世界人権宣言など普遍的な条約や合意に裏付けられています。2003年までは9原則でしたが、2003年の末に国連腐敗防止条約ができたので、10原則目の腐敗防止が追加されました。

■3■日本企業の現状

・日本企業と関わって気付いたのは内向きであることでした。企業に限らない日本社会の傾向なのですが、国際社会で起きていることに自分たちが直接関わっているという意識が希薄で、国連は遠い存在であり、国連とパートナーシップを組んで共に地球規模の課題解決に取り組んでいくというグローバル・コンパクトの考えはピンとこなかったようです。例えば経団連はグローバル・コンパクト加盟の旗を振ることなどに消極的でした。2003年は「日本のCSR元年」と言われるのですが、当時はまだCSRといっても経営者もコンプライアンスやリスクマネジメントといった非常にdefensiveな意識で、一緒に国連とともに課題克服に取り組むという考えにはなかなか至っていませんでした。

・しかし、現在はそこから意識がずいぶん変わりました。CSRそのものも進化し、企業の考え方も社会の中で自分たちの存在自体が「良き企業市民」とならなければブランドを維持し、ビジネスを持続させることはできないことが分かってきたのです。今後の課題としては、グローバル・コンパクトの活動をもっと中小企業に広げていくことが挙げられます。中小企業は特に人員不足と語学力不足が国連活動に関心を持ち、グローバル・コンパクトでの活動に取り組む上での大きな壁となっています。

・2004年にアナン事務総長(当時)が来日し、経団連で日本のビジネスリーダーと昼食会を持ったとき、アナンさんはグローバル・コンパクトの意義を説きました。小泉首相が官邸での開いた歓迎晩餐会でも当時経団連会長だったトヨタの奥田会長らを前にしてグローバル・コンパクトの意義を説かれました。普及活動に苦労していた私たちには随分励みになりました。

■4■現在の活動状況

・現在、195の参加企業からボランティアを募り、14の分科会を持って勉強会を行っています。分科会は人権デューデリジェンス、環境経営、ISO26000、レポーティング研究、グローバル・コンパクト社内浸透、腐敗防止、防災(災害発生時にコミュニティを助けられる体制作りが自社のサプライチェーンや製造拠点をも守る)、サプライチェーンマネジメントなどについてです。また、3・11東日本大地震・津波・原発事故の後は参加企業のコレクティブアクションとして、ボランティアを募って、現地に入って支援活動をしてきており、今年で4年目になります。分科会の中にはサプライチェーン分科会のように、1年を通して勉強した事柄をまとめて小冊子を作って公開し、参加していない企業にも参考にしてもらうところも出てきました。英訳もし国内企業だけでなくアジアの他の国々でも参考にしてもらえるようにもしています。私たちが当初から課題にしていたのが対外発信ということだったのですが、その第一弾となる活動を行うことができました。

・また、AKKという活動を行っています。AKKとは「明日の経営を考える会」の略で、今年で7年目になりました。企業トップになってからCSRを説くのでは手遅れであり、経営に携わっており、今後の経営を担う人に(経営執行役員クラスの人々)より早い段階でCSRについて理解してもらえるよう、社長の推薦で毎年15人程度を集め、色々なテーマで講師を招き一年間勉強してもらいます。世界の環境問題や資源問題、ダイバーシティの問題、人権問題などについて話してもらうのですが、今まで自分の企業の利潤のことしか考えてこなかった参加者が、世界の環境問題や、MDGs、ポスト2015といった課題に触れ、意識が変わります。1年間のプログラムの最後に合宿を行い、学んだことを議論し、3つぐらいのチームに分けてそれぞれにこの学びを今後にどう活かしていくか目標設定をして貰います。AKKのOBはすでに約100人になっています。その中にも企業のトップになる方々が出始めています。例えば、今度三菱ケミカルホールディングスのトップになる方はAKK第2期生です。女性参加者も増えており、現在の7期生は15人のうち7人が女性で、企業の経営陣に女性を、という時代の要請を反映しています。

■5■アジアでの連携

・グローバル・コンパクトは世界で2万もの参加者があり、そのうち7000以上が企業なのですが、東アジアでは日本だけではなく中国、韓国もローカルネットワークを作って活動しており、7年前から日中韓で一年に一度、集まって日中韓ラウンドテーブルという活動を継続しています。2014年は日本がホストとなって第六回の会合を開き、企業代表の発表や討論だけでなく、学者・研究者同士の会合、さらにそれぞれの国から15人ずつ大学生・大学院生を集って「ユースフォーラム」と呼ぶ学生同士の議論も行っています。若者がこれからの企業に期待することやCSRのあり方等をチームで議論し全体会議で報告して頂きます。今年は8月に韓国で第7回の会合が開かれます。

・時間の関係上は詳細には触れられませんが、詳しくはGC-JNのウェブサイトにアクセスしてください。

■6■課題と成果

・課題としては、GC-JNの活動内容をもっと発信し、存在感を高めることです。日本企業は大変真面目でグローバル・コンパクトの活動にも真剣に取り組んでくれますが、これまでどちらかというとルールは欧米主導で作り、日本企業はできたルールを忠実に守っていくという形でしたが。そうではなく、これからはルール作りそのものにもっと関わっていくことが重要だと、ここ数年はルール作りの会議や国連が呼びかける国際会議への参加も活発になっています。

・いま世界に100余りあるグローバル・コンパクトのローカルネットワークの中で、国連本部グローバル・コンパクト事務局や他のローカルネットワークからも日本は最も活発なネットワークとして認められています。昨年も3年連続で4度目の優秀なネットワークとして表彰されたことを最後に付け加えさせて頂きます。

■7■Q&A

Q1:企業が国連グローバル・コンパクトに参画するインセンティブはどこにあるのでしょうか。

・何が直接的な利益になるかについての答えは必ずしもありません。しかし、CSRの定義、CSRとは何かということへの考え方が、この10年ですっかり変わりました。最初はCSRというとコンプライアンスという狭い定義で捉えていました。日本では、例えば人権というと部落差別の問題といった形で理解されがちだったのですが、いまはすべての人々の人権といってもよい理解に広がっていて、生産物が消費者の健康に悪影響を及ぼさないということであったり、サプライチェーンのなか生産に携わる現地の労働者の人権、さらにはアフリカの鉱物発掘の際の環境破壊で被害を受ける現地住民であったり、極めて多様な広がりを見せています。

・現在企業はあらゆる要素において説明責任を負っています。限りなくCSRの要素が広がってしまったのではないでしょうか。良き企業市民たれという言葉に表れていますが、企業自体が社会の良き市民であるような存在であることが求められ、経営者から一人一人の従業員、さらには子会社や関連企業までがそれを目指すことを期待される時代に入りつつある。ここまでやれば良いというものが見えづらい状況にあります。その中でグローバル・コンパクトは10原則という指標を示しており、それらを守っていくことで企業のブランド力・信用力を高めることにつながります。具体的な事例として、欧州の企業と取引しようとした日本企業が、相手からグローバル・コンパクトに入っているかどうかを確認されるなどの事例も出てきました。参加企業であることが信用につながるわけです。

Q2:国連と企業の連携としてどのようなものが考えられるのでしょうか。

・アフリカでマラリアが蔓延している状況下、住友化学がオリセットネットという薬をしみ込ませた蚊帳を開発しました。非常に安価なものをつくり、 ユニセフやWHOが買い取り、それがマラリア対策に大きく貢献しています。その関係で、同社はナイジェリアと中国に工場をつくり、現地で雇用を創出し、現地にも貢献しています。グローバル・コンパクト活動に中小企業を巻き込むことが課題となるのですが、札幌に本社のある富士メガネは難民キャンプでの活動でUNHCRから高く評価されています。同社の会長の金井氏(グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークの理事の一人)は30年以上前から社員からボランティアを募って途上国の難民キャンプに足を運び、目の悪い子どもたちの目を検眼し、それぞれに合う中古のメガネを提供しています。目が悪くて勉強が進まない子供たちには救いで、既に確か10万個以上を無償で提供しています。それにより富士メガネのブランド力は高く、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップであるグテーレス氏が日本に来る際は金井氏には必ず会っており、同社は毎年のように表彰を受けています。コマツのように対人地雷の除去に技術面で貢献している例もあります。

・企業側からは直接国連との連携が見えにくいですが、国際社会とのつながりを企業が意識すれば、その中で国連が浮かび上がるということは十分にあることかと思います。

2015年5月5日掲載