第82回 黒川鞠奈(くろかわ まりな)さん
インターン先:World Intellectual Property Organization (WIPO) (世界知的所有権機関)日本事務所
インターン期間:2016年12月~2017年6月(7ヵ月)
■経緯
WIPOは世界銀行(World Bank)や世界保健機関(WHO)などと並ぶ国際機関ですが、特許・商標などの知的財産/Intellectual Property自体がとても専門的な分野なので、一般にはあまり知られていないと思います。かなり特殊な国際機関で、何をやっているかといえば、複数の国で特許などを申請する際に、WIPOのシステムを使うと手数料や翻訳といった手続きが簡単になるというサービスを提供しています。国連機関なので、この手続き自体がWIPO特許協力条約(PCT)、マドリッド条約、ハーグ条約などになっており、多くの国が加盟しています。また、加盟国からの寄付ではなく出願手数料で運営しています。日本は出願数が多い大口の顧客といった位置づけで、日本事務所もカスタマーセンターのような機能が主となっています。
私自身はアメリカの修士課程時代の友達がジュネーヴ本部でインターンをしていたのでWIPO自体は知っており、国連機関としては珍しく日本語ができることがプラスになること、また有給のインターンであるとあったので応募した覚えがあります。今回のポストは上記を忘れた頃にJICAのPartnerでたまたま見つけました。CVだけでよかったのですぐに応募し、翌日に面接が決まり、簡単な筆記試験(英語のメールのやりとり)を経て決まりました。過去には、応募したものの、卒業してから2年以内というインターン資格が当てはまらなかった人がよくいたそうです。それから本部の人事を通して手続きを完了し、健康診断の結果を提出して、1ヵ月後に開始しました。
■インターン中のこと
仕事内容については、わりと自由でした。前任のインターンはおらず、決まった仕事もなかったので、同僚の動きを見てほかの人の手が回らないことを積極的にやっていたところ、周りや本部から仕事を頼まれるようになりました。主に担当したのは、広報と翻訳です。ポスターや出版物など、公に見えるものを作り、全国に発送できたのは達成感がありました。さらに、毎年WIPOの設立日である4月26日を世界知的所有権の日(World IP Day)として世界中でイベントを開催しており、ジュネーヴ本部と連絡を取りながらその年の日本でのアクティビティをひとりで企画から進め、日本のノーベル賞受賞者と、”発明キッズ”の記事を掲載してもらったこともあります。WIPO元日本事務所長にインタビューをしたり、WIPO事務局長が日本に来たりと執筆の機会に恵まれましたし、翻訳のために自分で調べているうちに、WIPOのサービスなどに詳しくなっていました。専門家ではないからこそ一般向けの広報で役に立ったり、国からの出向者が多い中、バックグラウンドや年代が違うからこそ新しいアイディアを出せたりと貢献できたと思っています。
WIPOは加盟国からの寄付ではなく出願手数料で運営している機関で、インターンの採用数が少ないこともあって生活費はしっかり出ました。もらえる額は学位によって2つのタイプに分かれますが、私は修士号を持っているので多くいただくことができました。また、事務所のある霞ヶ関・虎ノ門・西新橋あたりはランチの場所が山ほどあったので、楽しみにしていました。
■その後
WIPOでのインターン後は大学院に戻ることを考えていて、同時にYPPの書類も通ったのでしばらく勉強しました。その後、学校ではなく職歴、となり、コンサルの卵をしながら日本で就職活動をした結果、”先進的な都市政策を作る側にまわりたい”という初志貫徹である自治体の職員をしています。 国連のクライアントは各国政府なので、なんであれ現在の経験が活きるだろうということで選んだ面もあります。インターンをしたいと思ったのもという目的でした。
国連を目指すとなると、どうやって職歴を作るかが難だと思います。とにかく専門性が大事と言われますが、私は未だに自分のやりたいことがはっきりわかりません。やっていくうちに自分の好きなことや向いていること、どんな仕事や環境がいいかがわかってきて、少しずつ進むしかないものではないかと思います。
■みなさんに伝えたいこと
私はアメリカの大学院時代からいくつも国連インターンに応募しましたが、面接まで行けたのはWIPO以前に1つだけ。そのポストは当時のアメリカのシンクタンクでのインターンと内容がかなり近いものだったので面接にたどり着けたのだと思っています。無給で生活費が高いニューヨークでのインターンといえど、公用語が2ヵ国語以上できる友達は簡単に獲得しており、圧倒的に有利な印象を受けました(職員に関しては、文書が作れる人が有利だそうです)。この国連フォーラムのインタビュー掲載者も日本国内での経験者が多いですよね。
また、WIPOでの”何も仕事がない状態から自分の仕事を生み出す”経験は、その後のコンサルでも、現在もとても役に立っています。私はWIPO以前にもインターンをしていて、履歴書上では”職歴”にはならないかもしれませんが、実際には、就職活動や実際に働いている中で海外でのインターンだからこそ得た経験が有利になっていることを感じ、無駄にならなかったと安心しました。バックグラウンドや専門、価値観などが違う人がいるからこそ、組織が良くなるんだ、というのを覚えておいてほしいと思います。