第83回 柴田莉沙さん

 第83回 柴田 莉沙 (しばた りさ)さん
     インターン先:ユネスコバンコク事務所 (UNESCO Bangkok) アジア太平洋地域教育支局
インターン期間:2018年10月-2019年2月(5か月)コロンビア大学国際公共政策大学院、東京大学公共政策大学院 ダブルマスターディグリーコース修了

■はじめに■

ユネスコバンコク事務所のインターン応募に至った背景

コロンビア大学大学院在学中、ニューヨークの国際連合日本政府代表部(社会部)で半年間インターンシップを行いました。インターン中、国連総会第3委員会 、国連安全保障理事会 、 女性の地位委員会 (United Nations Commission on the Status of Women)等、女性、児童、難民、人権・人道問題関係の会議に同席させていただき、国連本部での意思決定のプロセスについて、日本政府の目線から学びました。国連本部では様々な事案を見聞きする機会に恵まれましたが、自分自身で直接フィールドワークに携わりたいという思いが強くなり、国連の地域事務所の業務に興味を持ちました。そこで、私の研究分野である教育政策に携われる、ユネスコバンコク事務所(以下、ユネスコ)を志望し、コロンビア大学卒業後にインターンをする機会を得ることができました。

■インターンシップの内容■

ユネスコではInclusive Quality Education(IQE)ユニットに配属され、5か月間のフルタイムインターンとして働きました。IQEでは母語教育・幼児教育、保健と教育、持続的な開発とグローバル市民教育、そして教育の質向上の4チームの教育分野で構成されており、その内母語教育・幼児教育チーム、及び教育の質向上のチームのインターンとしてプログラムオフィサーの上司が担当する案件に取り組みました。また、タイのみならず近隣のベトナム、ラオスやフィジーなど、アジア太平洋地域における様々な国の幼児教育無償化率、母語教育普及率等の実態について学ぶことができました。

リサーチ業務

主なリサーチ業務は、レポートとして発表されるデータの調査・取集及び国際会議のためのプレゼンテーション資料の作成でした。特に母語教育・幼児教育分野は今まで大学院で研究してきた分野ではなかったため、最初は苦戦しましたが、 リサーチを進めて行く上で上司にヒントをいただきながら、業務を遂行しました。また、資料の多くは母国語のみで公開され、英語の資料がなく、先方政府に直接問い合わすケースもありました。一見単純な作業でも、証拠となる資料・データを見つけるのに苦労しましたが、ユネスコが元となるデータを作成しているため、時間をかけてでも正確な情報が必要だということをこの業務を通して理解することができました。

例えばデータ収集の一つのタスクとして、幼児教育無償化データ収集を行いました。「そもそも東南アジア、大洋州では幼児教育制度が政策として構築されているのか」、「子どもたちが自由に幼児教育を受けられるような環境はあるのか」等、幼児教育プロジェクトチームのブレインストーミングミーティングに参加させていただき、様々な疑問を元に幼児教育の重要性が過小評価されている根拠となるデータ収集を行いました。このデータ収集を元に上司が 政策提言レポートを作成します。そのレポートが先日無事完成し、 “Regional guidelines on innovative financing mechanisms and partnerships for early childhood care and education (ECCE)”として発表されました。(レポートはこちらです:https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000371189)この完成したレポートに自分の名前を見つけた時には、なんとも言えない達成感を味わうことができました。

 また、SDG4 のプロファイルレポート(注1) 作成にも携わらせていただき、国連本部、ユネスコ本部、ユネスコの他地域事務所、そしてバンコク事務所内の他部署とのミーティングを重ね、事務所の現場目線からどのように国際機関の政策レポートが形成されていくのか改めて組織の全体像の理解が深まりました。

(注1:SDGが発表されてから達成目標年である2030年までの中間地点にあたる2020年に合わせて発表予定のSDG4(教育の質向上)中間レポート)

会議企画・運営

インターン中、2019 Global Education Monitoring Report Regional Launch、及びThe Network on Education Quality Monitoring in the Asia-Pacific (NEQMAP) 6th Annual Meetingの二つの会議が開催されました。2019 Global Education Monitoring Report Regional Launchは、年に一回出版されるユネスコのレポート出版記念イベントで、アジア太平洋地域の教育大臣も多く出席され、メディアにも注目される大イベントです。このイベントでは主にロジ面や会議でのメモ作成、事後レポート作成を担当し、地域のメディアの関心なども考慮しながら準備が行われていたのが印象的でした。

NEQMAP 6th Annual Meetingでは 教育政策関係者を対象とした能力強化のワークショップが開催され、会議に必要な関連資料のプレゼン作成準備、データ収集、レポート作成、及びアイスブレイクセッションを担当しました。参加者の年齢層が経験豊富な40代後半から50代前半ということもあり、一人でアイスブレイクの司会進行を行うのは非常に緊張しましたが、大変良い経験になりました。

NEQMAP 6th Annual Meetingにてアイスブレイクセッションを担当

広報活動

ユネスコでは広報活動に非常に力をいれており、バンコク事務所には元新聞記者のアメリカ人が在籍されています。異業種からも国際機関に働くキャリアパスがあることに興味深く感じました。毎月様々な部署からユネスコのホームページに記事が執筆され、時には地元の英字新聞社にも執筆されます。 インターン期間中、国連が定めた国際母語デー (International Mother Language Day) の記事を担当し、タイでの母語教育の実態、ユネスコの母語教育プロジェクト活動についての記事を書かせていただきました。広報記事を作成するのは初めてで不安もありましたが、広報部の同僚、及び部署のアドバイザーのサポートの元、無事完成することができ、地元英字新聞のThe Nationに掲載されました。記事を書くにあたって現場の状況について詳しい専門家、教授へのインタビューも行い、より現場目線からユネスコの活動を知れる素晴らしい経験になりました。(記事はこちらです:http://www.nationmultimedia.com/detail/opinion/30364482

■資金確保、生活、準備など■

バンコクに滞在中は、文部科学省及び民間企業による官民協働の海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」から奨学金をいただいておりました。私は社会人経験がなかったため貯蓄もなく、そのため 家賃、生活費は全て奨学金で賄っておりました。幸いにもバンコクは、食べ物が非常に美味しくて安く調達できたので、充実したインターン生活を過ごすことができました。ユネスコでのインターンシップは多くの国際機関同様、無給だったため、「トビタテ!留学JAPAN」には大変感謝しております。

■その他感想・アドバイスなど■

職場の雰囲気 ユネスコでは、インターンが他部署含め総勢10人以上いたため、インターンの横のつながりが強く毎日のように食事にいき、週末にはハウスパーティーを企画し、バンコク市外に旅行へ行くこともありました。イギリス、ドイツ、オーストラリア、中国、韓国、タイ、日本等世界中から集まったインターン生と業務についてはもちろんのこと、お互いの悩み、キャリア等を相談できる大切な仲間ができ今でも連絡を取り合っています。

3か月に1度行われる部署のボーリングパーティー

部署の同僚、上司も大変接しやすく、相談事にも親身に乗っていただきました。興味のあるセミナー・ミーティングにも積極的に参加させていただき、国際機関での経験を最大限に活かせたと思います。また、IQEユニットのチームリーダーは多忙にも関わらずチームで昼食をとる機会を頻繁に儲け、部署の職員の誕生日も毎回お祝いして下さりました。 そのような心遣いがアットホームな職場づくりにつながっており、輝く女性のリーダー像としても魅力的で非常に勉強になりました。

インターン仲間との誕生日会

■全体の考察■

ユネスコでのインターンを通して地域事務所の役割について把握でき、また国連本部では関わりのなかった専門家目線からも案件を知ることによってより現場目線に立つことができました。本部でのインターンと比較すると、より東南アジア地域の教育実態に知ることができ、背景を知った上で政策提言レポート作業を進めていくのは非常に勉強になりました。また、会議の対象者も地域レベルの専門家や各国の教育政策関係者だったため、各国の教育の現状について詳細まで議論されていました。実際にインターン生としてユネスコの中に入り、業務を経験できたからこそ感じることができた部分が多く大変充実したインターン生活を送ることができました。

■現在のキャリアへのつながり■

ユネスコでは専門性、知識、経験の3つを兼ね備えた職員であふれていました。大学院での研究を通して専門性を身に着けることができたものの、自分には現場での経験がまだまだ足りないことをインターンを通して痛感しました。今後は持っている専門性をうまく現場で活用していけるような経験を積み重ねていきながら開発途上国の発展に向けて微力ながらも貢献していきたいです。