第85回 甲斐 陽子(かい ようこ)さん
英サセックス大学Science, Policy, Research Unit 持続可能な開発学修了
インターン先: 国連児童基金(UNICEF)東京事務所 公的資金調達
インターン期間: 2019年11月~2020年3月
ユニセフハウス展示スペースにある、長谷部誠・日本ユニセフ協会大使コーナーにて
■インターンシップの応募と獲得まで■
◆情報収集
UNICEFのインターンシップ募集の情報は、国連フォーラムのメールマガジンから入手しました。兼ねてから国際機関への就職に興味があり、その為には国際機関でのインターンシップ経験が有用と認識していたことから、大学院の1年間が終了に近づく7月頃から募集情報にアンテナを張りました。
◆ 応募書類準備
CVやカバーレターのテンプレートに一定沿いつつ、なぜ自分が①UNICEFの②東京事務所の③公的資金調達インターンにふさわしい候補者かを明確にするよう意識して書類を作成しました。反省点は、より時間に余裕を持って準備できていれば、書類をより洗練させられたと感じることです。私の場合は卒業論文の調査や、他のポジション応募も平行して行っていたため、タイトな時間の中での準備、締切間際での応募となってしまいました。
◆ 選考プロセスとオファー
応募締め切りから早い段階でエクセルやワードを使った筆記試験への案内を受け取りました。試験対策として、国際機関のインターン筆記試験の情報収集を試みたものの、内容は機関やポジションによって異なるようでした。よって日頃から機関の文献に慣れておくことや、基本的なエクセルの操作をおさらいする以上の対策は困難と感じたのが本音です。
筆記試験の結果を受けて面接への招待を頂き、東京事務所のホームページや他のリソースから、UNICEF東京事務所や面接官の考え方等を知る努力をしました。面接内容は転職の際と大きく変わらないと感じたため、今後面接に臨まれる方は、自分の経歴・志望動機・具体的に働くことをイメージして何を聞くべきか等を整理して準備されると良いと考えます。面接から数日後にオファーの連絡を頂き、全体的にスピーディーに選考プロセスを進めて下さったことは大変有り難かったです。
私が採用頂けた理由は、応募要項にあり実際にインターンで担当した業務と類似する経験を、これまでの職歴の中で十分に積んでいることを、書類上や面接で上手くアピールできたからではないかと推察します。具体的には事業報告書の作成やレビュー、定量的な情報分析や日・英語での資料作成を経営コンサルティングの仕事の中で重点的に行ってきたことが評価されたと感じました。
■インターンシップの内容■
まずUNICEF東京事務所の役割について触れたあとで、実際に行った業務内容三つについて、概要とインターンの役割・学びをご紹介します。ただし業務内容は時期によって業務サイクルが異なるため、下記内容はあくまで一例であることをご理解ください。
◆UNICEF東京事務所の役割
東京事務所は、ニューヨーク本部公的パートナーシップ局の一部として、重要なドナーである日本政府との政策対話を通じ、資金協力の働きかけおよび調整を行っています。また、国会議員、JICA、NGO等の様々なパートナーを通じて、子どもの権利やUNICEFの活動への理解と協力を促進しています。私が従事したインターンシップは東京事務所の中でも公的資金調達に関わる業務でした。(民間企業や個人からの寄付を募る役割は国内委員会である日本ユニセフ協会が担っているため、民間の経験しかない私が公的資金調達の業務に関わる機会を頂けたことは幸運でした。)
◆業務1:報告書やプロポーザルのレビュー
◇業務概要
インターン中、①プロジェクト報告書と②補正予算を資金源とするプロジェクトのプロポーザルの2種類のレビューに携わりました。
①日本政府から活動資金を得て事業を実施している、世界各国のUNICEF事務所が展開するプログラムに関して、定期的に国事務所から報告書が提出されます。東京事務所はこれらの報告書について提出前にレビューを行うことで報告書の品質を担保しています。具体的には、報告内容がプロジェクト開始当初のプロポーザルや直近の報告書に照らして不整合や不明瞭な点がないか、特に受益者数やプロジェクト予算等の数値情報に注意を払ってレビューを実施しました。
加えて、インターン期間中に令和元年度の外務省の補正予算が閣議決定されたことを受け、② 補正予算から拠出を受けることになったプロジェクトの提案書(プロポーザル)のレビュー業務を行ないました。一か月ほどの期間の中で30余のプロポーザルのレビューに携わったので、分量としてはこちらがメインであったと言えます。この業務の趣旨は、世界各国のUNICEF事務所から大使館経由で日本政府に提出されるプロジェクトの提案書について、東京事務所が提出前に内容をレビューして改善を手助けすることで、質を担保することです。提案書のレビューは最終化するまでに複数回行いますが、私が関与したのは実際に国事務所が拠出予定の予算の中で、プロジェクトをどう実施するかの最終提案書を政府に提出する前のレビューでした。
◇インターンの役割と学び
レビューはチーム全体で実施しますが、インターンの役割はまず最初にレビューを行って基本的な情報の整合確認や気づいた点を注記し、以降のチームメンバーのレビューがスムーズに行えるようにすることです。レビューの視点は前述した受益者や予算等の数値情報の正確さや全体的な整合性の担保に加え、当該プロジェクト中での日本政府や日本の NGO とのパートナーシップなどの重要情報が分かりやすく書かれているかなど、多岐にわたりました。
こうした日本の補正予算をめぐる国際機関の関わり方や、その主要なプレイヤーの動き方について、私は当業務を通じて初めて知った事が多く、大きな学びとなりました。また、限られた時間の中で多くの提案書を緻密にレビューしていくことに関してはコンサルティングの経験が役に立ったと感じた一方で、自分が持てない視点を会計のエキスパートや現場の経験が豊富なチームメンバーのコメントを通じて学ぶことも多ったです。現在の自分の知識や経験の限界を知りながら、先輩方の豊富な知識の一端を垣間見る貴重な機会であったと感じます。
◆業務2:UNICEFへの拠出傾向の分析
◇業務概要
経年の補正予算のトレンドを分析する業務を行いました。経年で蓄積されたデータを元に、地域/国/プロジェクト分野など様々な情報軸で分析し、今後の東京事務所の活動に生かしていくことが目的です。
◇インターンの役割と学び
インターン業務は、本年度のデータを過去データと統合してエクセルで分析し、最終的にはパワーポイント資料にまとめて内部で共有することでした。基本的にインターンがリーダーシップを発揮して分析と発表を行うことが求められました。
当業務を通じて、日本政府の予算をめぐる国際機関の活動の一部をリアリティを持って理解できたとともに、私の分析結果への事務所やチームのメンバーの関心も高く、重要な仕事の一端を担っている責任と喜びを感じました。
◆その他業務: 資料作成や、ミーティング/セミナーへの参加
◇業務概要
上記1、2に加え、職員の方のリクエストがあった際に、日本語や英語での対内外に向けたパワーポイント資料作成や、エクセルを使ったデータ整理などを行いました。また、外務省で行われた国際機関・ NGO・企業の参加するマルチステークホルダーミーティングや、UNICEF内では公的資金調達チームのNY本部との情報交換会議などにも出席しました。日本ユニセフ協会にて行われたセミナーへも積極参加が奨励されており、職員の方と共に参加することができました。
◇インターンの役割と学び
比較的地道な作業ではあるものの、作成した資料を大きな修正なく使って頂けたり、データ整理では他のインターンとも協力して積極的に作業をこなしたことで、チームの役に立てたと感じられました。コンサルティングで培ったパワーポイントやエクセルの技術に助けられたことも多かったです。
ミーティングやセミナーへの参加では、日本における国際協力のプレイヤーやUNICEFの活動についてより深く知ることができました。特にNY本部との連携会議では、JPO として本部で勤務されている先輩の業務の様子を知る機会ともなり、今後の進路を具体的に考える上での一助となりました。
■経験の感想■
インターンの経験を通じて得られた主な成果として、①「国連の仕事」の解像度の向上、②キャリアにおける既定進路の変更、③他機関も含めたインターン生との交流による学びの活性化を挙げます。
◇「国連の仕事」の解像度の向上
他のインターン経験者の体験談にもある通り、国連の「中の人」として業務に当たったことで、これまで漠然としていた「国連の仕事」の理解の解像度が飛躍的に向上しました。
以前はキャリアセミナーへの参加や情報収集を行っても、それぞれの国際機関の組織や職種について具体的には想像が及ばないのが本音でした。インターン中にUNICEF内外での経験が豊富な職員の方や、様々な機関の方との交流を通して、組織毎や組織内でも異なる役割や文化について知ることができました。その上で、UNICEFとは・東京事務所の役割とは・現場と本部の違いとは、といった組織の基本的な骨格について理解できたように思います。
インターネット上で収集可能な情報かもしれませんが、自分の経験に照らして腹落ちできたことは、今後の進路を考える上でも大きな収穫です。その中でも特に印象に残っているのは、職員の方々が口々に「現場は楽しい」「国連組織の仕事の醍醐味は現場にあるのではないか」と、現場の楽しさについて教えてくださったことです。個人的にこれまで会社組織の中でも本部系の経験が主であり、現場という場所への想像がわかなかった私にとって新鮮であり、非常に興味を掻き立てられました。
ユニセフ東京事務所職員とインターンの全体集合写真(2019年12月)
◇キャリアにおける既定進路の変更
インターン実施前は、インターン期間中に外務省の2020年度JPO試験が実施されることもあり、JPOへの応募と平行して他の進路を検討しようかと考えていました。しかし、職員の方々とキャリアについて話し合う中で、現場に近づくことや国外での職務経験を得ることの重要性を再認識し、想定していなかったポジションも含め検討することにしました。
結果として本年度はJPO 試験には応募しないこととなりましたが、インターン期間中に学びを得て「自分は何がしたいか」「今後どうキャリアを積みたいか」を立ち止まって改めて考え、行動に移せたことは重要な成長の機会であったと感じます。
◇他機関も含めたインターン生との交流による学びの活性化
国連大学ビル内の複数機関のインターンによる LINE グループで呼びかけられるランチ会の参加等を通して、色々な機関のインターン生から得た学びも多くありました。具体的には、他機関の仕事内容や組織について教えてもらえたり、仏語を勉強しているインターン生に触発されて私も仏語講座を受講し始めたりと、話すたびに学びに繋がる情報がありました。
特に私にとっては、交流の中で在外公館の派遣員や草の根職員の勤務経験があるインターン生/若手職員の方のお話を伺えたことが、その後の進路を考える上でも重要なきっかけとなりました。インターン同士に限らず全体を通じて言えることですが、自分の知らない世界を知っている人に出会ったら積極的に話を聞き、個人的にも会話する機会を作っていくことで、情報交換に留まらない学びの機会になると感じました。
■その後と将来の展望■
インターン期間中に応募した外務省の経済協力調整員のポストへのオファーを頂けたので、今後は在ミャンマー日本国大使館にて日本とミャンマー間の経済協調に従事する予定です。
前項で述べた、途上国で現場に近づきたいという想いを実現させつつも、これまでの経験を最も活かせると感じて当ポジションに応募しました。インターンを通じて外務省や国際機関の仕事への理解が深まったことは、選考の中でプラスに働いたのではないかと思います。
経済協力調整員を経た後のキャリアはJPOや国際機関のポストへの応募を含め、国際協力の中で幅広く考えていきたいです。
■これからインターンを希望する方へのメッセージ■
今後インターンを希望される方へお伝えしたいのは、「①ダメ元でも応募してみることの大切さ」と「②インターンの機会に恵まれたら、シャイにならずに様々な人に関わるべき」という大きく二点です。
◇ダメ元でも応募してみることの大切さ
私は応募する前は書類選考すら通過しないのではと思っており、かつ卒業論文のプレッシャーに圧されながらのギリギリの応募でした。結果、幸運にもインターンの機会を頂き、その後の進路を考える上でも重要な経験となったため、今ではダメ元でも応募した自分に感謝しています。
以前はオンラインのリソースで国際協力関係者の経歴を見ると、自分とは縁遠く感じていましたが、候補者の状況によっては自分にチャンスが巡ってくることもあると信じて応募することが、(当たり前ですが)第一歩だと学びました。職員の方に「情報収集をしていると自分の経験不足に不安を感じる」と共有したところ、「オンラインで収集できる情報は数多いる国連関係者のごく一部の人の経験や意見にすぎないので、真に受けすぎずに冷静に行動すべき」とアドバイスを受けたことも印象的でした。
補足事項として、イギリスの大学院生は春のモジュールの課題論文が終わり僅か2ヶ月強後に卒論の提出期限が迫る中で、進路の検討やポジションへの応募が一気に重なるのは精神的に大きな負担になると思います。私も卒論とインターン応募のどちらを優先すべきか迷いながらの応募でしたが、結果としては選考プロセスが終了しないことには卒論が中々捗りませんでした。苦渋の選択ですが、卒業後の秋からインターンを予定する場合は、選考を終えて卒論に集中することを想定してスケジュールを引くべきと考えます。
◇インターン参加の機会に恵まれたら、シャイにならずに自ら様々な人に関わってみるべき
インターンの恩恵として、国連の仕事に携われることは勿論大きいですが、多様な職員の方やインターン生と関わること自体も同じく貴重であったと感じます。
私は事務所の職員の方とも可能な限り個別にランチに行く機会を持つようにお声がけしたほか、他機関の職員の方やインターン生とも関わり合いを増やせるよう心がけました。結果として点と点が線で繋がるような知識の形成ができ、今後の進路を考える上でも不可欠な学びとなりました。(仕事外で周囲とコミュニケーションを取ることはコンサルタント時代にも重要だったため、一定習慣づいていたと言えますが、誰にでも実行可能なことなのでぜひ推奨したいと思います。)
インターンという立場でなかなか踏み出せなかったり、シャイになってしまう部分はあると思いますが、学校と違って誰も学びの機会をお膳立てしてはくれない中で、如何に自ら動いて学びを最大化するかはクリティカルな要素です。幸い私がお声がけしたどの方も、忙しい中でもコミュニケーションの時間を重要視し、大変親切に様々なことを教えて下さりました。インターンのリクエストに応えてご自身の経験や知識を共有することも仕事の一部と捉えて、真摯に接してくださっていたように感じました。(この場を借りて皆様に改めてお礼申し上げます。)
その中で学んだことは私にとってこの上なく貴重だったので、是非今後のインターンの皆さんもシャイにならずに、多くの方から積極的に話しを聞くことをお薦めしたいです。
■筆者バックグラウンド■
米国で学士号を取得。製薬企業に勤務した後、デロイトトーマツコンサルティング社にて社会課題解決型の戦略立案等に従事。(これらコンサルティングプロジェクトの成果については日本経済新聞出版社より「SDGsが問いかける経営の未来」として共著にて上梓。Amazon Services International,Inc.による詳細はこちら。)
その後、英国サセックス大学にて持続可能な開発学の修士号を履修し、在学中に応募した当体験記のインターンシップに参加。