第5章 フィールドスタディ(OBF):仮説とその検証結果
5.2 社会
5.2.1 勉強会での学び
第4回勉強会では、「in larger freedomの実現ー教育・医療分野を中心として、ウガンダの未来を担う将来世代の自由・可能性を広げる開発を考えるー」をテーマとし、開発における「自由」の思想を理解しながら、ウガンダ人の将来の自由・可能性を制約する要因を考える中でSDGsの”in larger freedom”を実現させるためのレバレッジポイントを考察した。勉強会の中では、特定のウガンダの子供/家族の視点に立ったストーリーに沿って、その人たちが将来の自由・可能性を広げる(潜在能力の実現)ために必要なことを考えた。まず、可能性の拡大としての自由を重視したアマルティア・センの潜在能力アプローチを知り、それがSDGsの根幹を成す「人間の安全保障」「人間開発」といった概念にどう繋がっているかを理解した。その後、ウガンダにおいて制約されている自由(=基本的機能)及びその要因は何かを、大きく「教育」「医療」の観点から学んだ。加えて、特に自由が制約されている属性(女性、元子ども兵士、障害者、LGBT)については、グループ特有の文脈を理解した。最後にそこまでの学びから、実在するウガンダの子供/家族の視点に立ったライフストーリーに沿って、その子が将来の自由を達成するためにはどうすれば良いか議論を行った。
5.2.2 その中で抱いた仮説
勉強会を通し、医療パートでは「健康が保障されていなければ、子どものたちの未来は拓けないのではないか」、教育パートでは「教育のインプットやプロセス内に課題が多いためアウトプットも未だ制限されており、個人の将来の自由も十分に拡大できていないのではないか」と考えた。振り返り会では、「ウガンダ人は自己肯定感が高いので、自殺は簡単にしないのではないか」、「コミュニティに受け入れられているかどうかがメンタルヘルスに大きく影響するのではないか」、「ウガンダではトラウマに起因する精神障害が多いのではないか」、「LRAの兵士であったこと、自身のコミュニティにおいて殺害やレイプなどの罪を犯したことは、その後も長い間差別される要因になるのではないか」など様々な仮説があげられた。また、自由を実現するために、子どもの数が少なくなれば貧困の連鎖から脱却し正のループが回る可能性があることから「人口の抑制」が必要と捉え、電化率が子供を産むか産まないかに関係する(電化率が低く夜の娯楽がないと性交渉がすすむ)ため「電気の普及」がレバレッジポイントになるのではないかとの仮説を抱いた。
5.2.3 オンラインブリーフィングでの質問内容と回答サマリ
社会分野では、PLAS、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)、あしながウガンダ、テラ・ルネッサンスとのオンラインブリーフィング(OBF)を実施した。以下、各OBFの質疑応答より抜粋した質問内容及び回答をまとめる。
PLAS
質問:ウガンダにおけるエイズ/エイズ孤児に対する認識とはどのようなものか。また、認識を変えるためにどのようなことが重要か。
回答:PLASの活動は、周囲の偏見をなくす広報よりも、HIV陽性者のスティグマと向き合うこと=「自分とどう向き合うか。」を重視する。正しいHIV/AIDS知識を身に着け、HIV陽性者コミュニティの中でロールモデルをみつけてもらうことで、「自分と向き合う」ことを支援している。
PWJ
質問:他の難民支援に携わるNGOと比べてのPWJの強みや特徴は何か。
回答:「必要な人々に必要な支援を」をコンセプトとし、難民に限定せず、受入コミュニティに対しても支援を実施し、コミュニティ全体としてのレジリエンスを強化することで、難民とホストコミュニティ間の衝突リスクを軽減している。
あしながウガンダ
質問:2014年からアフリカ大陸の遺児へ事業を拡大した際に、なぜウガンダを事業の中心地域に選んだのか。
回答:ウガンダでの拠点設置は2003年。1990年代のHIV/AIDS禍の中心地は、ウガンダと言って過言ではない。必然的にHIV/AIDSによって親を亡くした遺児たちが多いと思われたことから、ウガンダを活動対象として選択した。
テラ・ルネッサンス
質問:元子ども兵士の子供たちそれぞれの個性や夢を大切にしているというお話があったが、一度希望を失い、心に傷を負った子供に、自尊心を取り戻してもらうために工夫していることはあるか。
回答:小さな「成功体験」を積み上げていってもらうことと、地域住民との互酬的関係性(相互扶助)ができる環境を作るように工夫している。後の調査で、自尊心が高まった対象者たちに共通している点は、「家族や親族を含め他者に対して何かしらの貢献を行っている」という点であることが分かってからは、特にこの点は意識して行っている。
5.2.4 回答によって得られた仮説検証結果、考察
「差別」への対応として、各支援機関は、その人が差別に負けないような「レジリエント」な人になるような支援を行っている。その一つが職業訓練であり、ただお金を稼ぐだけでなく、やりがい、生きがい、喜びなど自分の軸・強みになる精神的な効果も期待している。ただ、差別を抜本的になくす取り組みはあるのかどうか、疑問に思った。上記の支援についてはそのルートに乗ればうまくいくが、どこかからドロップアップしてしまった人たちはどうなるのだろうか。その人たちを救い上げる仕組みはあるのか。支援をどんなに広げてもこぼれ落ちてしまう人はいる。そうなったときに、人々にとって「生きやすい社会」にしていく必要がある。では「生きやすい社会」とはどんな社会であるのか、考えなければならない。支援機関の援助はある一定期間で終わってしまうが、コミュニティで地方自治を育て、現地の人々の自立を応援する関係性であることがひとつ大切なことであるように感じる。