ウガンダ・スタディ・プログラム

第4章 フィールドスタディ(OBF)前:仮説構築のためのINPUT 2 ウガンダの現状ーSDGsの観点からー

4.2 ウガンダの現状ーSDGsの観点からー
4.2.1 SDGsの達成状況

(1)SDGsの概要

持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。(外務省, 出版年不明)第二次世界大戦後の「平和・開発・人権」という体系と、急速なグローバル化による 「環境・持続可能性」という体系が統合されたのがSDGsであり、ゴール達成のために、それぞれの項目は関連しあっている。図1はストックホルム・レジリエンス・センター所長のヨハン・ロックストロームが考案した「SDGsウェディングケーキモデル」と呼ばれるものである。この図が示すように、SDGsのゴールは地球環境を基盤とし、その上に人間社会、そして更に上層に経済活動が成立し、それらが連関性を保ちつつ存在していることを表している。

図1 SDGsウェディングケーキモデル
(図はThink the Earth『
未来を変える目標SDGsアイデアブック』p.135より
環境、社会、経済のそれぞれのゴールが相互に影響し合っている


(2)SDGsが目指す世界のキーワード、勉強会全体の構成

USPでは、SDGsが目指す世界のキーワードとして「No one left behind」「In larger freedom」「Well-being」を選定し、それぞれをテーマの軸に置いた勉強会を開催した。また、勉強会全体のテーマは、USPのテーマでもある「ウガンダから考える持続可能な社会のあり方」とし、参加者がSDGsの各指標の相関を正しく理解し、ウガンダの開発において特に重要と思われる点、すなわち「レバレッジポイント」を考察できることを目的として設定した。各勉強会のテーマは以下の通りである。

・第3回勉強会:No one will be left behindの実現ー北部地域コミュニティの視点から、ウガンダで暮らす全ての人を包摂していくためにー
・第4回勉強会:In larger freedomの実現ーウガンダの未来を担う将来世代の自由・可能性を広げる開発を考えるー
・第5回勉強会:Well-being(よりよく生きる)の実現ーSDGs時代の経済・産業の望ましい成長のあり方を考えるー

(3)ウガンダにおけるSDGs達成状況

ウガンダは17のゴールの内、ほとんどのゴールにおいて2030年までに達成を目指すことが難しいとされており、達成度をスコア化した際の順位は162ヶ国中142位(Sachs et al., 2020, p. 27)とされている。しかしながら、アフリカ内でのランキングを見ると52ヶ国中19位(SDG Center for Africa and SDSN, 2020, p. 40)とされており、アフリカ諸国の中ではSDGs達成に向け前進中の国ということができる。

17のゴールを1つ1つ見ていくと、ほとんどの目標、具体的にはゴール 1, 2, 3, 5, 6, 7, 9, 10, 11, 15, 16, 17で“Major Challenges remain”(4段階評価中もっとも達成度が低い)と評価されており、特にゴール 4, 11の「質の高い教育をみんなに」「住み続けられるまちづくりを」は“Descending”(後退気味)という評価(Sachs et al., 2020, p. 45)であり、今後一層の注力が必要とされている。

ウガンダは17のゴールのうち、ゴール13の「気候変動に具体的な対策を」のみ非常に高い確率で2030年までの達成が見込まれる。ゴール13では、気候関連災害や自然災害に対する強靭性と適応能力を強化するため、関連する政策・戦略を国家レベルでの計画に盛り込むこと、また教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善することが求められている。ウガンダはこの目標に対して「アフリカの真珠」と言われる所以である豊かな自然を守るためのアクションを起こしていると言える。ただ、他のサブサハラアフリカ諸国を見てみると、図2に見られるように多くの国がこのゴールに対しては達成が見込まれており、ウガンダだけが特別優秀とは言えない。

図2 サブサハラアフリカ諸国のSDGs目標の達成度
(Sachs et al. 『
The Sustainable Development Report 2020』p. 45より)
多くのサブサハラアフリカ諸国でゴール13「気候変動に具体的な対策を」は達成が見込まれるが、
他の目標の達成度は低い

4.2.2 脆弱な立場に置かれた人々の存在ー平和構築・ガバナンスー

(1)第3回勉強会について 

8月23日(日)に第3回勉強会が行われた。テーマは「No one will be left behindの実現ー北部地域コミュニティの視点から、ウガンダで暮らす全ての人を包摂していくためにー」であった。北部地域コミュニティに関する知識のベースラインを作り、その現状について課題を発見すること、また仮説を検証するためのインプットを得ることなどを目的とした。

(2)SDGsのキーワード「No one will be left behind」 

SDGsの重要な概念である「No one will be left behind(誰一人取り残さない)」の概念を実現するうえで、ウガンダにおいては北部地域コミュニティとその中に住む脆弱性の高い人々を包摂することが必須であると考える。第3回勉強会では、北部と中・南部の社会・経済的格差の実態を踏まえつつ、現地で脆弱な立場に置かれやすく、取り残されやすい存在の現状について、いくつかの仮説をもって検証した。また、ウガンダにおける包摂的な開発におけるレバレッジポイントについて議論を行った。

(3)ウガンダにおいて”取り残された”人々―北部地域の事例から―

ウガンダの北部地域は、土地や民族の違いといった構造的要因に加え、1980年代後半から続く内戦の長期化、隣国の情勢悪化が影響し、国内避難民(IDP)の発生や難民の流入を招いたことが引き金となり、ウガンダのなかでも経済・インフラ等の発展が後れを取る地域である。

構造的要因に大きく影響するのは民族優遇政策である。植民地時代、宗主国イギリスが南部民族優遇政策を実施し、アチョリ人等と呼ばれる北部民族の差別が構造化した。独立以降もその構造は引き継がれ、大統領の出身民族を優遇した人選や、開発政策が実施されてきた。

次に、北部内戦の発生とその長期化、そして隣国の情勢について見ていく。1986~2007年にかけて、アチョリの人々が結成した反政府組織「神の抵抗軍(Lord’s Resistance Army:LRA)」とムセヴェニ政権との武力紛争をきっかけに、LRAによる住民の襲撃や殺害が始まった。この結果、IDPが発生したのである。政府は「住民の安全を守る」という名目で住民を強制的にキャンプに移送したにもかかわらず、IDPキャンプに十分な保護を提供することはなかった(杉木, 2006, p. 14-19)。ただ、紛争終結からかなり時間が経過しており、ウガンダ北部においてはIDPと地域住民の区別がつかず正確な統計情報の把握が困難である。また、国内にとどまるため、ウガンダ政府の政策に大きく左右され、国際社会の関与が難しいことも課題として挙げられる。

続いて難民は、避難先の国において法的保護や教育・医療といった基礎的サービスへのアクセスに制限があり、必然的に援助に依存してしまう。ウガンダ政府は難民に対して“Open Door Refugee Policy”を実践し、積極的に受け入れてはいるが(African Renewal, 2019)、難民の急増や支援の不足、帰還の見通しが立たないことによる制約が彼らの選択肢を狭めている。

またウガンダにとって難民は支援を呼び込む存在とだとされることも多く、人口増加は経済成長の機会となる。その反面、学校や病院など社会インフラの許容量に対して不安の声も多く見受けられる。たびたび起こる難民とホストコミュニティの衝突などから、先述した政策を続ける政府やその対象となる難民への物理的、精神的ストレスも課題である(JICA, 2015, p)。

IDP・難民・ホストコミュニティそれぞれに共通する脆弱性は、女性や子どもが抱える課題によってさらに高まることがある。北部地域においては伝統的な家父長制が残っており、ジェンダーギャップ指数が世界65位(World Economic Forum, 2019, p. 9)であるのと裏腹に、女性が意思決定の場に関与できないことが多い。

また難民居住区の61%は子どもと言われており、うち約36,000人(5%)の子どもが保護者の同伴がない。さらにLRAに徴用された当時の子ども兵が「汚れた存在」として扱われ、コミュニティ側が帰還後も受け入れに難色を示し、社会統合に大きな障壁があることも課題だといえる。この他にも可視化されない脆弱性が存在する可能性は少なくない。国際社会による元子ども兵の社会復帰支援を行うことは、ホストコミュニティ側からすると当時の紛争記憶がタブー化されているともとれる(川口, 2017, p42)。また海外からの送金を受け取らず、援助へ依存している姿勢も見られる(World Bank, 2018, p34)。以上のことから、構造的要因や歴史的背景を基に、北部地域の人々はIDP・難民・ホストコミュニティそれぞれの立場に加えて、女性や子ども、障がいなど、別の要因が重なることによって、より一層脆弱な立場に置かれているのではないかと推察する。

(4)”取り残された”人々に対する政府・国際機関の取り組み

ウガンダ政府は2007年10月から北部ウガンダ平和復興開発計画(PRDP: Peace, Recovery and Development Plan for Northern Uganda)を実行している。これは、LRAとの和平調停を推進し、内戦で開発が遅れた北部と中・南部地域の格差を縮小するための平和構築、開発政策のことだ。(Government of Uganda, 2007, p. 18)現在はPRDP3(2015年6月~2021年6月)を実行中である。勉強会では、PRDP1と2の成果と課題について説明した上で、PRDP3における目標を説明した。まずPRDP1と2の成果として、LRA元兵士への社会復帰支援もあり、北部地域のコミュニティの安全面が改善が挙げられる。またインフラ建設も進行し、2808の学校、342の保健センター病棟が建設された。(Government of Uganda, 2015, p. 13)

しかし、教育や医療の質の低さ、若者の失業や雇用機会の欠如といった課題も残った。教育においては、教員の欠勤率が高いことや、平和教育の実施がないことが指摘されている。さらに医療機関が機能していないなど、建設されたインフラが有効活用されていないという現状があった。またLRA元兵士を受け入れる地域住民からは、元兵士と同じく脆弱な立場であるにもかかわらず、十分な支援が受けられないため、PRDPへの非難の声もあった。(Government of Uganda, 2015, p.14) これらの課題を克服するために、PRDP3では平和の定着、経済の発展、脆弱な立場に置かれた人々を支援する(特に女性、子ども、若者、障がい者、元兵士、高齢者)ということを新たに目標に加えた。(Government of Uganda, 2015, p.18)

勉強会ではウガンダ北部地域でも特に脆弱な立場に置かれていると考えられる、IDP、難民、ホストコミュニティへの支援に着目した。IDPに対しては、出身地近くにキャンプを新たに設置し、帰還と再定住(出身地とは別の場所に定住すること)の手続きを促進。また、水や保健サービス、食料品や家具などを提供することで、生活環境の改善を図った。難民に対しては、移動の自由、労働・教育・医療へのアクセスを保証した。さらに難民の子どもはウガンダ人同等の初等教育を受ける権利を保証するなど、「難民のエンパワーメント」を重視し、ウガンダ市民としての基本的人権を保障、経済的自立を促した。ホストコミュニティには学校、病院の建設、職員の賃金管理、精神疾患の予防と管理といった支援が行われた。(Government of Uganda, 2015, p. 2-3)

しかしながら、上記の施策には課題が残っている。まず、PRDPの認知度が低く、効果を実感できているウガンダ人が少ない。(PeacebuildingData.org)さらに支援のための資金が不足しており、特に平和構築、紛争解決への投資が限られている。また難民への支援に関しては、難民数の急増により、食料が十分に届いていない。教育現場においては現地語を話せる教員が少なく、授業内容が理解できていないという課題が残る。ホストコミュニティについては、若者の失業と雇用機会の欠如が続いており、就職難は若者の不満増大に繋がっている。これは結果として紛争リスクを根絶できていない状態ともいえる。(Ahimbisibwe Frank, 2019)

国際機関の取り組みとして、勉強会では国際連合開発計画(UNDP)と国際協力機構(JICA)の難民支援活動を説明した。UNDPは難民と難民受け入れ地域の住民に対し、支援対象者が考えた公共事業を通し、主体的な行動と自立を促進している。(UNDP, 2019) JICAは、開発の当事者であるウガンダ政府の貧困削減戦略を推進するため、貧困層が多く社会的に不安定なウガンダ北部地域を重視した支援を実施している。具体的には、人々の生計向上及び職業スキルの向上や、コミュニティのレジリエンスを強化するため、地方政府の能力開発及びインフラ開発といった政策だ。しかしながら国際機関の取り組みにも課題があり、資金不足の解決や、財政援助を減らす必要がある。自立を掲げた支援であっても、自立支援プログラムに参加者が募れず、お金を払って参加してもらうことや、配給される食事目当ての参加者も多い。自立支援プログラムには矛盾が生じているという現状がある。(吉本, 2012)

(5)議論と考察

第1部

第1部の議論では、ウガンダ北部におけるIDP・難民・ホストコミュニティの3つのチームに分け、各チームは各々が担当するカテゴリーの人々の立場から、以下の三項目について議論行った。その際、特に女性、子ども、障がいを抱える人々が脆弱な立場に置かれていることを念頭に話し合いを進めた。

(1) 各チームに割り当てられたカテゴリーの人々の課題は何か?

(2) 彼らにとって、No one will be left behindの状態とはどのような状態か?

(3) 彼らにとって、ウガンダ政府と国際社会はどのようにしてNo one will be left behindの状態をつくるべきか?

・IDP担当チーム 課題はIDPの可視化であり、現状を把握されていないことが大きな障壁となっていると意見があった。「誰も取り残されていない」とは現地の人々自身がが実感することが重要であるとし、まずは政府やNGOが協力して現状把握に努め、教育を支援することにより脆弱性のサイクルも断ち切ることが重要なのではないかと考察している。

・難民担当チーム 難民の自立に関して具体的な案が立っておらず、政策に難民当事者の意識を反映させることが課題だと意見があがった。さらに難民の中でも障がいを抱える人々の統計が取れないことから、彼らが最も取り残されているのではないかと想定し、自立すること、母国に帰ることの選択肢があることが重要だと考えている。そこからさらに、政府はデータとして彼らの声を政策に反映させることが求められるのではないかと議論が進んだ。

・ホストコミュニティ担当チーム 難民に視線が集中することにより、ホストコミュニティ側の現状について政府が把握されていないことが課題とされ、情報が政府に行き届くこと、また政府側がホストコミュニティ側に情報開示をするという双方のやり取りの透明性が確保されることが誰も取り残されない状態なのではないかと議論が盛り上がった。また女性や子ども、障がいなどの認識はコミュニティ内でも誤認があるとし、そういった意味においても「正しい情報」の共有がこれからのウガンダ社会に求められるのではないかという意見があった。

第2部

第2部の議論では、ウガンダ政府がそれぞれの立場の人々の課題を解決するために優先事項としてやるべきこと(レバレッジポイント)について各カテゴリーごとに議論を行った。

・IDP担当チーム 住民が求める支援を知り、それに応じた支援を行うこと、また支援を提供するのではなくエンパワーメントを図ること、社会の一員として役に立っているという制度作り、と言ったことがあげられた。

・難民担当チーム 生存に関する教育、医療の充実に加え、難民が自分の課題を認識できるような教育をすること、などがあがった。

・ホストコミュニティ担当チーム 内部の情報を把握すること、自立に結びつけるために、続けられる仕事に就ける教育などが挙げられた。このように議論の中には、どのチームにも人々の「自立」という目的が背景にあると感じられた。

第3部

第3部の議論では、ウガンダ政府が2030年に目指すべきNo one will be left behindの開発・支援はどのようなものが考えられるかについて議論を行った。その際に、国際社会とどう協力したらいいのか、またウガンダの人々にとってのNo one will be left behindとはどのような状態かという点も含めて話し合いを進めた。議論の中では

・北部地域の人々にとって自身の目の前にある壁やそれに対して必要な支援を自ら把握できるような教育を実施する。

・北部地域の人々の求める支援をを政府が把握する。また、政府がニーズを反映した政策を実行する。

などの意見が出た。支援を受ける側の人々に本当に求められていることは何か、それらをどのようにして政策に組み込めばいいのか、現場の意見を反映させることの難しさと重要性を改めて感じさせられた議論だった。

4.2.3 自由が制約されている状況とその要因ー保健/医療・教育ー

(1)第4回勉強会について

9月27日(日)に第4回勉強会を行った。テーマは「In larger freedomの実現-教育・医療分野を中心としてウガンダの未来を担う世代の自由・可能性を広げる開発を考える-」であった。本勉強会とは別に、事前にプレ勉強会、事後に振り返り勉強会も実施した。

(2)SDGsのキーワード「In larger freedom」

SDGsの前文冒頭に次のような文章がある。

”This Agenda is a plan of action for people, planet and prosperity. It also seeks to strengthen universal peace in larger freedom.We recognize that eradicating poverty in all its forms and dimensions, including extreme poverty, is the greatest global challenge and an indispensable requirement for sustainable development.”(United Nations, 2015, 外務省, p. 1)

日本語の訳文では、

「このアジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画である。これはまた、より大きな自由における普遍的な平和の強化を追求するものでもある。我々は、極端な貧困を含む、あらゆる形態と側面の貧困を撲滅することが最大の地球規模の課題であり、持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると認識する。」

とされている。(外務省, 2021)

USPでは、SDGs冒頭にある「より大きな自由 」というキーワードについて、開発の文脈で展開されてきた「自由」の思想を理解し、ウガンダで目指すべき「自由」とは何かについて議論した。

プレ勉強会の講義では、経済学者アマルティア・センの潜在能力(ケイパビリティ)アプローチについて学んだ。これは、人間が実現可能な生き方の幅(選択肢)の最大化を目指す考え方である。(セン, 1992)個人に機会や権利が与えられたとしても、それを行使できる能力がないと生き方の幅は拡大しない。ケイパビリティアプローチでは、個人の人生において能力を活用してできることが増えた状態のことを自由と表現し、ひいては個人の生き方の幅、すなわち自由を増大させることが開発の1つの目的であると論じている。

議論パートでは、「自由=選択肢が増えることによって人は本当により幸福になるのか?」「良い伝統を捨てる自由、悪い伝統を継続する自由に対して国際社会はどう向き合うべきか?」など、「自由」について議論を行った。議論の中では、「自由と幸せは別の概念として考えた方が良いのではないか?」「当事者の意思なので、伝統が失われるとしても仕方ないのではないか。介入しようとするのは外部者のエゴではないか?」などの意見が出た。

このように、プレ勉強会では望ましい「自由」について批判的な視点を含めて議論を行った。これを踏まえて、本勉強会では、センの言う「自由」が望ましいという前提で議論を進めた。また、実際のウガンダ人の人生に沿って、将来の自由・可能性を制約する要因について議論した。その中で、現地の人々がどんな人生を送るかを想像し、その人たちの視点に立って考えた。

(3)ウガンダにおいて制約されている自由―保健/医療・教育の事例から―

ウガンダでは19歳以下人口の比率が非常に高くなっている。(Population Pyramid.net, 2021)そのような状況において、子どもの将来の「自由」を制約する要因は多く存在する。本勉強会においては、子どもの将来の「自由」を制約する要因として、特に「健康・水/衛生・栄養」「教育」について議論を行った。

「健康・水/衛生・栄養」の分野では、「健康が保障されていなければ、子どもたちの将来は拓けないのではないか」という仮説のもと、ウガンダでの問題点とその原因について確認し、「生きられる自由」と「健康でいられる自由」がどのように奪われ、将来の様々な選択肢が制限されているかを学んだ。最終的には、今を生きるための緊急的な支援と、将来への投資となるプライマリーヘルスケア分野への注力が必要であることが分かった。

次に議論した「教育」の分野では、「教育」とはそもそも何かという概念を踏まえつつ具体的なウガンダの学校教育の実態を深掘りしていった。ウガンダでは初等教育に入学はできるが、中退も多く、入学者のうちおよそ半数しか卒業できておらず(World Bank, 2021)、卒業しても学力は十分に身についていない現状がある。その背景には、教育のハード面(教育施設や教材・教具などの物的側面)・ソフト面(親の経済力・理解/教師の質)での課題があることを学んだ。それにより教育の成果は思うように国民に広くは行き届いておらず、個人の将来的な収入や政治参加、福祉サービスを利用する能力等の実生活における活動に制限が起きている現状が分かった。

(4)ウガンダにおいて自由が制約されている要因・背景

特に自由が制限されている人々として女性・LGBT・障がい者・元子ども兵士の実態についても学んだ。今回の勉強会では、自由を制限されている対象として特に子どもに焦点を当てたが、そこにさらにジェンダーや障がいの有無など他の要素がかけ合わさると、さらに重い障壁が生まれる。二重、三重の危険性が生まれている実態の中で、「自由」を考える上で、特に「自由」が制約されるグループを作らないように考慮する重要性を学んだ。

(5)議論と考察

本勉強会の最後は、あるウガンダ人の事例をもとに、「彼ら彼女らの自由を制約する要因は何か」、「その要因の因果関係はどうなっているのか」「どこに解決の糸口があるのか」という観点で議論した。議論後は、「様々な要因がループとなり負のサイクルを作っている」「同じ事例を扱っていても考え方によりループが違ってくる」など多くの発見があった。

本勉強会を終えて出てきた疑問には、「教育・医療に関してはこれまでの多くの支援が行われてきたにもかかわらず、なぜ未だに大きな問題となっているのか」「課題ばかりが指摘されたが、優れている点は何があるのか」などがあった。

振り返り勉強会では、本勉強会で最後に行った議論を再度行いつつ、ウガンダへの開発支援の歴史やウガンダ政府が行ってきた政策について学んだ。医療面では、実はエイズ対策の成功国として有名であったり、教育面では、「質の改善が必要」と長年言われているが、最近だとむしろ後退していることが分かった。(吉田, 2005)

4.2.4 Well-beingの達成に向けた課題ー経済開発・環境

(1)第5回勉強会について

Well-being(よりよく生きる)の実現ーSDGs時代の経済・産業の望ましい成長のあり方を考えるー」というテーマで、10月30日に第5回プレ勉強会、11月8日に第5回本勉強会を行った。プレ勉強会では、SDGs達成のために重要な要素であるWell-beingの概念を学び、個々人にとってのWell-beingについて考察した。本勉強会では、ウガンダにおける経済政策、COVID-19による経済への影響について学んだ後、個々人のWell-beingを実現するための国の発展について議論をした。Well-beingを取り巻く概要及びウガンダの経済産業の現状を理解したうえで、ウガンダにおける経済・産業の望ましい発展のあり方と、Well-beingを実現するためのレバレッジポイントを考え、仮説を持つことを目的とした。

(2)SDGsのキーワード「Well-being」

Well-being」とは、人の豊かさや在り方を表す包括的な概念であり、同義・類似の意味合いを持つ「Happiness」、「Wellness」、「Welfare」のいずれの要素も含んだより広い概念を持つ。Well-beingという概念の起源は、第二次世界大戦後、病気を患っていない以上のより高次、かつ前向きな心身の状態のことである「健康」(日本WHO協会, 2021; 安田, 2010, p. 197)から派生した。1980年代以降、個人の生活の質や社会保障を重視する戦後の時流の中で、貧困削減及び不平等の是正によってWell-beingが実現されるべきという観点から途上国開発に適用されるようになった。2010年代以降の現代においては、各個人の幸福に対する考えが文化・属性・地域によって異なることから、Well-beingの概念も多様な価値観を包摂し、Well-beingを測るための指標も多様化している。(小野, 2010, p. 180, 193)

多様化するWell-beingを測る指標を知るために、これまでの開発指標で測ることができない「個人の自由の拡大」という視点を取り入れた「人間開発指数(HDI)」や、個人レベルでの生活の質の決定要因を測る「Better Life Index」等の指標があること、それぞれの指標の概観や特徴を理解した。

(3)ウガンダにおけるWell-being

プレ勉強会では、これらのWell-beingの定義を踏まえた上で「自分自身のWell-beingとは何か」について考え、そこから「ウガンダにおけるWell-being」について議論を行った。ここでは、各チームで自由に地域や性別、職業、収入レベル、属性などのモデルを設定し、そのウガンダ人になりきって、「どのような項目がWell-beingに影響しているか」を考えた。今回は、特に収入や教育といった生活における根源的な領域におけるニーズに重点が置かれているのではないか、との議論が多くなされた。現にウガンダのHDIは2020年度で世界159位であり、客観的に見ても低い位置にとどまっている。(UNDP, 2021)したがってそういったニーズが未だ高いのでは、という指摘は的を射ているだろう。他には、経済発展期の日本に顕著に見られたような物質的金銭的豊かさが幸せなのではないかとの意見や、働きがいや生きがいなどの精神的豊かさもウガンダのWell-beingではないか、との意見もあった。加えて、日本よりもコミュニティ内での人との繋がりが強いと考えられるウガンダ社会では、日本人目線を伴った経済や教育における指標といったマクロデータからは見て取れない、よりミクロかつ有機的な感覚も存在すると考えられる。このように自身のWell-beingからウガンダのWell-beingを考えることで、捉え難いWell-beingという概念について改めて主観的に捉え直すことができた。

(4)ウガンダにおけるマクロの経済政策

本勉強会では、第5回勉強会のもう一つの軸である経済産業を主題とし、経済産業とWell‐beingとの関係を考えていくにあたり必要となる、ウガンダにおけるマクロの経済政策についての学習を深めた。

まず、ウガンダ経済の概要として、経済成長が著しいが政府支出も増加していることから債務リスクが高まっていたり、若年層が多いながらもその失業率が高く、高付加価値産業への従事が求められたりするなどの課題がある一方で、スタートアップが盛んであるといった強みがある(ウガンダ日本国大使館, 2017, p. 4; 外務省, 2021)。

その上で、今後ウガンダがどのような経済発展を目指すのかという指針として、国の経済政策である「国家開発計画(NDP」を取り上げ、その中の各産業の取り扱いについて見ていった。様々な産業の中でも、本勉強会では、特に政府の推進する主要な産業であり、メンバーからの関心も高く、産業多角化の観点からも可能性のある農業、製造業、観光業の3つの産業に焦点を当てた。

NDPⅢ(Government of Uganda, 2020)の中では、まず、人口の約7割が従事する農業について、現状では自給自足農業の割合が高く、今後商業化と高付加価値化を目指す方針が示されている。次に低付加価値商品の製造に留まる課題のある製造業では、国内製造の強化と輸出強化の方針が示され、ポテンシャルが高く観光資源も多いながらも活かしきれていない課題のある観光業では、商品開発、インフラ強化、人材育成といった方針が示されている。また、NDPⅢでは「ウガンダ人の世帯収入の増加と生活の質の向上」を目標として掲げており、国としてもマクロの経済政策を通じてWell-beingの実現を目指す姿勢が読み取れることも分かった。

(5)議論と考察

本勉強会では、2つのテーマで議論を行った。まず1つ目は「あるウガンダ人にとっての経済産業とWell-being」である。農業、製造業、観光業の三つの産業に従事するウガンダ人のモデルをそれぞれ設定し、経済が発展していくうえで彼らのWell-beingはどのように変化するのか、についてチームごとに議論した。どのチームも、プレ勉強会で学んだWell-beingの知識と、本勉強会で学んだ経済産業の知識をうまく繋ぎ合わせ、また、コロナ禍での影響も踏まえた意見が見られた。

また、2つ目のテーマは、今までの勉強会の総括の意味も込めて「ウガンダが持続可能な発展を実現するための政策」とし、ウガンダの持続可能な発展のための政策について議論を行った。各チーム、これまでの学びを最大限に活用して、非常に白熱した議論が展開された。その中でも、あるチームの発表で提示された「ムセベニクス三本の矢」は、(1)インフラ設備(道路・水・電気・ネット環境・雇用の創出)、(2)セーフティネットの整備による希望職種との並走(やりがいがあり、自己肯定感のある仕事に就けていて、持続可能な経営が実現できている)、(3)資格や提供するサービスに基準を設け、品質向上とともに、個人の目標設定や達成後の満足度の向上、という3つの政策方針をまとめている。これらはWell-beingを実現するために必要な要素を洗い出した上で、基礎的なインフラから自己実現まで幅広い内容をキャッチーにまとめており、印象に残るものであった。

第5回勉強会では、Well-beingと経済産業という2つの大きなテーマを取り扱った。しかし、実際考えていく中で、Well-beingという概念をどう捉えるのか、また、経済産業というマクロのテーマを個々人のWell-beingにどう落とし込んでいくのか、などこれら2つを同時に扱う難しさを感じる挑戦的なテーマとなった。そのテーマを扱っていく中で、あるアドバイザーの方からいただいた、「経済発展こそがWell-beingに必ずしも繋がらない」というコメントは、自分自身が無意識にそのような思考が前提になっていたことに気づく良いきっかけとなった。そして自身の思考の前提を疑ってみることで、新たな資本主義の可能性について想像し、未来に考えを巡らせる機会となった。

参照・引用文献

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