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第24回 小川 真吾 さん

(特活)テラ・ルネッサンス
ウガンダ駐在代表


おがわしんご 和歌山県出身、1975年生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてハンガリーに派遣、旧ユーゴ諸国とのスポーツを通した平和親善活動などに取り組む。帰国後、カナダ留学を経て国内のNGOでパキスタンでの緊急支援、アフガニスタンの復興支援活動などに従事。2005年より現職、ウガンダ事業、DRコンゴ事業を担当。主な著書「僕は13歳、職業、兵士」(合同出版2005年)。

 

1.はじめに

(特活)テラ・ルネッサンスは「すべての生命が安心して生活できる社会の実現」を目的に2001年に設立され、地雷、小型武器、子ども兵の3つの課題に取り組んでいます。これらの密接に関連し、また重なっている部分もある課題に対して、現場での国際協力と同時に国内での啓発・提言活動を行うことによって問題の解決に向けて活動しています。

これまでカンボジアでの除隊兵士の社会復帰支援や女性技師装具士育成支援、国内での講演活動(年間約150回)、武器取引規制の為のキャンペーンなどに取り組んできました。私の駐在するウガンダでは2005年からウガンダ北部の元子ども兵の社会復帰支援、不法小型武器問題の啓発活動などに取り組んでいます。

本稿では当会のウガンダでの取り組みについてご紹介しながら当地での元子ども兵支援の課題や草の根レベルの活動から見えてくる国連とNGOの連携・役割などについて書いてみたいと思います。

2.ウガンダ北部の現状 〜プロジェクト実施の背景〜

ウガンダは他のアフリカ諸国と比べれば経済成長が著しく、1990年代から貧困削減の為のPEAP(貧困撲滅行動計画)が進み、基本的ニーズにアクセスできない人口が56%(1992年)から2006年には31%にまで減少するなど開発が順調に進み、2017年までに中所得国になることを目指しています。しかし、一方で、ウガンダ北部と南部の格差は非常に大きく、北部地域では20年以上続く紛争の影響で基本的ニーズを満たせない貧困層の住民は72%(1992年)からほとんど減少していません。

国内避難民帰還サイトでのニーズ調査の様子

私が事前調査に訪れた2004年には反政府軍(LRA:Lord Resistance Army)の襲撃によって約200人が一度に虐殺されるなど政府軍と反政府軍の戦闘が激しく続いており、現在、駐在しているグル県でもLRAによる子どもの誘拐や村の襲撃が頻繁に起こっていました。夕刻になると数千人もの子どもたちがLRAの誘拐を恐れ一斉に村々から町の教会やNGOの施設などに夜間のみ避難するという状況で、その年に紛争の影響で亡くなった人の数は約1万2千人に上ります。また、1986年以降、北部地域全体では約180万人が国内避難民(IDPs)となり、グル県では人口の約87%がIDPキャンプでの生活を強いられ(2005年)、これまで、この紛争の影響で10万人の人々が命を失ったといわれています。

一方、一昨年の政府軍とLRAの停戦合意以降は、治安が回復に向かい、現在はグル県でも国内避難民の帰還が進められ、政府が北部地域での包括的な開発の枠組みとしてPRDP(Peace, Recovery and Development Plan for Northern Uganda)を進める中、各援助機関も復興・開発フェーズに向けて活動を行っています。また、この紛争を続けてきたLRAの戦力の大半は17歳以下の子どもたちで、これまで6万人の子どもがLRAに誘拐されたと言われていますが、現在は、その多くがLRAからの拘束を逃れて村々に帰還しています。

LRAに拘束されている期間、少年は危険な前線に送られる一方、少女は大人兵士からの性的虐待、強制結婚などを強いられるなどしており、LRAから帰還後も子どもたちは身体的、精神的な傷を負っていることが多く、また、元子ども兵は地元の村々での襲撃や新たな子どもの誘拐、ひどい場合は本人の肉親を殺害するなどの残虐行為にも加担させられてきており、帰還後、地域住民から加害者とみなされ憎しみの対象になることもあります。

このような状況の元子ども兵が社会復帰するためには再教育や経済的な自立を支援することと共に、心理社会支援、地域住民との融和・和解を促進するなど多角的な支援が必要とされていますが、特に、LRAの兵士との間にできた子どもを連れて帰還した元少女兵(チャイルドマザー)は、経済的に自立が困難な上に地域社会からの差別や偏見、女性に対しての暴力、HIVエイズなど様々な問題を抱え社会復帰が最も困難な状況にあります。

3.テラ・ルネッサンスの元子ども兵支援の概要

LRAに誘拐された子どもたちは、見張り番や水汲みの隙に自ら逃げ帰る子もいますが、多くは政府軍とLRAの戦闘の際に政府軍に保護されて帰還し、まず、軍が管轄するCPU(Child Protection Unit)に一旦収容され、そこで衣服の支給や事情聴取を受けます。その後、レセプションセンターに送られ数週間のリハビリを経てコミュニュティーへ帰還するのが一般的ですが、衣食住が満たされカウンセラーなどに手厚くケアーされているセンターを出た後、経済的な問題や地域住民との関係など新たな問題に直面することが多く、センターを出た後の元子ども兵に対してどのような支援をしていくかが課題とされています。

当会の運営する社会復帰支援センター。正面の建物は外務省からの日本NGO支援無償資金協力により建てられた

当会ではグル県の現地NGO(GUSCO)が運営するレセプションセンターと連携し、GUSCOでリハビリを受けコミュニュティーに帰還した元子ども兵を対象に、3年以内に自立することを目標にプロジェクト開始から1年半(前半期)はフルタイムで職業訓練などを行いながら、その間の本人とその家族の食費や医療費などベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)支援を行っています。

プロジェクトの後半期はパートタイムでの訓練を実施しながら、BHN支援からマイクロクレジットに切り替え、外部からの依存を減らし受益者の収入向上活動を促進しています。フルタイムの訓練期間は、職業訓練に加え、基礎教育、平和教育、プライマリーヘルスケアー、小規模ビジネスの指導など元子ども兵の社会復帰に必要な科目をカリキュラムに組み入れ、プロジェクトの目標達成の為に下記の4つの活動を通して包括的にサポートしています。

また、元子ども兵と近隣住民の和解促進、関係改善の為に貧困層の近隣住民も受益者として受け入れ、元子ども兵の受益者と共に平和教育や和解促進の為のワークショップ、小規模ビジネスの指導、マイクロクレジットの支給を行い、現在、91名の元子ども兵士(19名の元少年兵、72名のチャイルドマザー)と50名の貧困層住民を対象に活動を行っています。

@BHN支援活動
プロジェクト前半のフルタイム訓練期間中、受益者とその家族の状況に応じて毎月の食費と医療費をクーポンで配布しています。そのクーポン券は受益者各自の近くの食料品店、ローカルクリニックでのみ使えるよう当会と契約しており、ローカルクリニックでケアできない病気や怪我は総合病院やHIVエイズ専門の機関で診療できるよう調整しています。また受益者の状況に応じて、(チャイルドマザーの)子どもの学費、家賃などの支援も行い、訓練期間中、受益者が訓練に集中できるよう本人とその家族の生活をサポートしています。

A能力向上支援活動
受益者が収入向上活動を始める為に必要な職業技術、識字能力、計算能力などの能力向上の為の訓練をしています。現在、洋裁、手工芸、服飾デザイン、木工大工の4つの職業訓練科目と基礎教育(識字、算数、英語)やプライマリーヘルスケアーのクラスを開講し、カリキュラムの約半分は職業訓練科目で構成されています。

B心理社会支援活動
受益者個別に悩みやトラウマやその程度も様々なので個別カウンセリングとグループのクラスを開講し、クラス活動では音楽や伝統ダンスなどを行っています。また、週に一回、元子ども兵とその近隣住民を対象に平和教育の授業を開講しアチョリ民族の伝統的な和解方法などについて共に学ぶ機会を提供すると共に、受益者の状況に応じて伝統的儀式を通して精神的な安定を図る取り組みも行っています。

Cマイクロクレジット支援活動
小規模ビジネスのクラスを週一回開講し、貯蓄の重要性、ビジネスの基礎的な知識などマイクロクレジットを使って収入向上活動していくために必要な事項を訓練しています。この活動では元子ども兵の受益者に加え、各自の近隣の貧困層の住民をパートナーとして受け入れ共に訓練を受けてもらっています。支援開始から1年半を目処にマイクロクレジットを元子ども兵と地域住民のパートナーへ供与し、収入向上活動を促進し、その間は定期的にビジネスコンサルタントを行っています。

4.今後の課題 〜紛争予防の文化の定着に向けて〜

これまで上記のプロジェクトを実施してきた中で、元子ども兵士たちは訓練や収入向上活動などの過程において一般の住民(貧困層)よりも、些細なことでも挫折したり、あきらめたり、集中力を欠く傾向があり、また、「自分は役立たずでお荷物な存在なんだ」と決め込んでコミュニュティーの中でも自分の存在意義を感じられずにいる受益者も多くいました。このような状況で子どもたちに「小さな成功体験」を積ませていくこと、そして些細なことでも各自が「自分の役割や居場所」を感じられるよう工夫することが大切だと感じてきました。また、長年外部の支援に依存して生きてきた国内避難民の住民もそうですが、元子ども兵たちは特に外部からの援助に依存しがちな傾向があります。ですので、今後、人道・緊急援助から復興・開発援助へ移行していく中で、元子ども兵が自立し、自己の存在価値を見出していくために、どのようにエンパワーメントしていくかがこれからの課題の一つです。

HIVエイズを抱えながらも訓練を修了し、初めてのお客への服(製品)を完成させたチャイルドマザー

また、当会では第2期生を受け入れた時に訓練指導員や給食調理スタッフなども含めて全スタッフに、「受益者がどんな些細な成功(自分の名前を書くことができたとか)や役割(施設のトイレ掃除を担当したとか)」にできる限り敏感に気づき、評価してあげて受益者本人に必ず伝えるよう指示したところ、以前より受益者の状況がポジティブに改善されました。子ども兵に対しての取り組みには様々なセクターが関与していますので、上述したような小さな成功例でもセクター間で共有・情報交換していくことが大切だと思います。その為にも、各援助機関がそれぞれの強みや専門性を活かしながらも、子ども兵の状況やニーズ、全体のバランスを見極めたうえでどれだけ柔軟に対応し、相互に連携していけるかということがもう一つの課題だと思っています。ウガンダでは3年前からクラスター・アプローチが導入され、同地でも、それぞれ教育クラスター(UNICEF)、保健・栄養クラスター(WHO)、早期復興・開発クラスター(UNDP)、帰還・再統合クラスター(UNHCR)、食糧安全保障クラスター(FAO)など、それぞれのセクターを国連機関がリードし、多様な団体が元子ども兵への支援にも関わっていますが、それぞれの団体がセクターの枠を超えて包括的に取り組んでいくことが元子ども兵への支援では不可欠です。セクター(専門分野)だけでなく、ミッションも考え方もプロジェクトの予算も期間も様々な団体が協調・連携していくことは容易ではありませんが、相互の良さを尊重しあい、共通の目標を確認しあいながらセクター間の連携を進めていくことが元子ども兵支援にとっても大切な課題だと思っています。

最後に、今後、国内避難民キャンプや市内に滞在していた元子ども兵が他の住民と共に地元の村々へ帰還し生活再建していく際に、これまで以上に住民とのコミュニュケーションや相互扶助の機会が重要になってくるため、コミュニュティーレベルでの和解促進や紛争予防能力の強化、また、紛争予防に配慮した援助機関の活動が重要になってきます。例えば、子どもが徴兵される大きな要因になっている不法小型武器の回収や法整備、管理能力の強化など共に、ミクロレベルで住民が不法小型武器の違法性やコミュニュティーへの悪影響などについての意識を向上させていくことや、住民同士が家族、村レベルなどで対立や不一致に対処できるよう伝統的和解メカニズムについての理解を深めていくことなど、マクロ、ミクロレベル双方で紛争の再発を予防していくことが重要な課題となってきます。今後、各ドナー・援助機関からもさらに多くの投入が行われることが予想されますが、その投入は現地での貧富の格差を拡大するなど紛争再発の要因にならないよう最大限配慮していかなければなりません。

5.国連とNGOの連携・役割 〜根本的な解決に向けて〜

私たちがプロジェクト開始前にニーズ調査やベースライン調査を行った際に、最も有用だったのが国連機関の持つ情報です。関連する機関で必要なデータや人のつながり(各国連機関のパートナーNGOなど)の情報を提供してもらうことで、現地の状況や援助動向などの全体像を把握する助けになりましたし、過去の国連機関の子ども兵への取り組みに関する資料などもプロジェクト立案に参考になりました。また、支援開始当初は県内の53の国内避難民キャンプのうち37のキャンプへは政府軍の護衛が必要とされていたのですが、UNICEFやWFPなど国連機関が護衛をつけてキャンプへ行く際に私たちも同行させてもらい、安全を確保して調査や活動することができ、国連機関が収集する治安情報も私たちが活動する上で非常に重要なものでした。現場での活動において組織力と情報収集能力を持つ国連機関には「森(マクロ的な目)」の役割があり、私たちのように草の根で活動するNGOには「木(ミクロ的な目)」の役割があると思います。健全な森を保つ為に森全体を見て間伐など手入れする必要があるように、国連機関は各セクターまた対象地域の全体像を見て、草の根レベルに必要な情報を伝えていくなどの役割があり、また、木に病気が発生しているなどミクロレベルで草の根から見えてくる情報などをマクロレベルにフィードバックしていくなどの役割が草の根のNGOにはあると思います。

国連小型武器履行再検討会議にて配布した冊子。写真の女性は武器の被害により社会復帰が困難な当会の受益者の一人。

また、子ども兵問題の根本的な解決を考えた時、どうしても現場での取り組みだけでは不十分で、マクロレベルでの政策協議に働きかけていく必要があります。例えば、子ども兵の一因となっている小型武器の大半は米国をはじめ先進国で生産され不法に流入してきたものですし、根本的に需要側(被害国)での取り組みと同時に供給側に対しての取り組みがなされなければいけません。

左の冊子(写真)は市民社会(IANSA)が協力し被害者の声を集め2006年の国連小型武器履行再検討会議で各国政府代表団などに配布したもので、表紙の写真の女性は当会の受益者で武器被害により最も社会復帰が困難な元子ども兵の一人です。このような形で草の根で活動しているNGOは当事者の声を国連会議の場に届けたり、市民への啓発・世論形成を通して自国の政策決定に影響を与えていく役割を担うことができますし、国連がそのパイプ役としてNGOと連携することも可能だと思います。また、国連会議などマクロレベルで合意された事項を、いかに実施していくかにおいても双方が連携し草の根レベルでの実施を促進していくことができると思います。

(特活)テラ・ルネッサンス www.terra-r.jp
ウガンダ駐在代表 小川真吾 shingo@civie.net

                        

(2008年10月5日掲載 担当:井筒)

 


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