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第52回
江本佳菜子さん
インターン先:
UNODC・条約局


第51回
吉田祐樹さん
インターン先:
UNDP・ニューヨーク本部


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鶴岡秀幸さん
インターン先:
ユニセフ・デリー事務所


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インターン先:
ユネスコ・バンコク事務所(UNESCO Bangkok)


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五百蔵綾子さん
インターン先:
UN Women Cambodia


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第53回 橋本 仁(はしもと じん)さん
コロンビア大学 教育学大学院 臨床心理学・カウンセリング心理学研究科
インターン先:国連大学国際グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)
インターン期間:2014年7月〜2014年8月 (2ヶ月)
アメリカ心理学会国連部門(APA at the United Nations)
期間:2014年9月〜2015年5月(9か月予定)

 

■はじめに■

私は、2014年の大学院夏季休暇中の2か月間、マレーシア・クアラルンプールにある国連大学国際グローバルヘルス研究所(United Nations University International Institute for Global Health: UNU-IIGH)にてインターンをしました。また、その後ニューヨークに戻り、同年秋以降から、アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)からの派遣で、国際社会におけるメンタルヘルスや心理学のメインストリーミングを促進するために、ニューヨークの国連本部にて勤務しています。

■インターンシップ派遣までのプロセス■

ニューヨークに来る前から国際機関でインターンをしたいと考えていましたが、その中でもいわば「国際関係と心理学の交差点」というのが、私の中での一つのキーワードでした。現在大学院で学んでいる心理学の知見を、現実の国際関係においていかに活かすことができるのか、またメンタルヘルスの問題が公衆衛生の分野や国際社会の中でどのように位置づけられているのか、より深く具体的に理解したいと考えていました。国連でのインターンとしては少し珍しい分野かもしれませんが、とにかく「こころ」に焦点を当てたインターンをしたいという希望がありました。

インターンの機会は、ネットワークを利用して得ることができました。国連でのインターン全般に言えることかと思いますが、国連で勤務している方との人脈作りは非常に大切だと思います。私の場合、ニューヨークに来てから国連フォーラムに携わっていたので、様々な方をご紹介していただくことができました。また、コロンビア大学公衆衛生大学院の「災害・紛争等緊急時における精神保健・心理社会的支援」に関する専門家の教授に、個別に相談させていただいたりもしました。最終的には、国連フォーラムの方から「国際社会における精神保健の専門家の方がUNU-IIGHに勤務している」とご紹介いただき、CVと共に連絡をしたことがきっかけで、インターンとして採用していただけることになりました。

一方で、APAから派遣されて現在行っている国連本部でのインターンは、ホームページ上の公募から直接応募し、CV・志望動機・推薦状などの書類選考(一次選考)、面接(二次選考)を経て、採用となりました。二次選考の面接では、APAの第52部門(国際応用心理学)の元代表など、4名の面接官と話をしました。国連に限らずあらゆる面接に当てはまることかと思いますが、志望動機を明確に伝えることと、相手の興味関心や募集要項(TOR)に合わせたアピールをすることは大切だと思います。私は、国際社会におけるメンタルヘルスの主流化に興味があるということ、そして国際関係という現実の世界で精神保健がどう扱われているのか理解を深めたいということを、様々な表現で伝えるようにしました。また、「国際関係論の修士号を持っているが現在は心理学の修士課程にいる」ということは、強みになったように思います。後で知ったのですが、面接官の一人がインドの元国連大使の娘だったということもあり、「国際関係と心理学の両方に強い関心をもっている」というのは、面接官の関心を惹く上でも有利に働いたと思います。

■インターンシップの内容■

UNU-IIGHでのインターンでは、メンタルヘルスに関する様々なことに関与させていただきました。例えば、会議のコンセプトノートの作成やメンタルヘルスについてのプロジェクト策定に携わらせていただきました。経験豊富な上司に指導を受けながら効果的なプロジェクトをどのように組み立てていくのかを考える仕事は、大変勉強になりました。また、メンタルヘルスについての国連決議の調査・分析に携わったり、グローバルイシューとしてのメンタルヘルスをテーマに上司と共に記事を書かせていただいたりしました(UNUのホームページに掲載済:http://ourworld.unu.edu/en/fundamental-power-in-life-mental-health-and-well-being-as-a-global-priority)。


川上先生の視察で
また、「オフィスの中で勤務するだけではなく、様々な人と交流をしましょう」という上司の温かいご配慮から、多くの人と意見交換する機会に同伴させていただけたことは、私のインターン生活の中で最も貴重なことでした。障がいの問題に熱心に携わっているマレーシアの上院議員の先生との意見交換、ユニセフ・マレーシア事務所の主催する障がいを持つ子どもに関する会議への参加、マレーシアの精神科病棟を視察(特に、かつて使われていたという薬物依存の患者を収容していた部屋などは、インパクトがありました)、更には精神保健の第一人者でいらっしゃる東京大学の川上教授と意見交換する機会に恵まれたりと、2か月余りのインターン生活で本当に沢山の魅力的な方とお会いすることができました。

現在のAPA/UNでのインターンでは、UNU-IIGHで学んだことを精一杯活かしながら、メンタルヘルスについての理解を国際社会においてどのように促進するべきなのか、考えています。例えば、今年2015年の春に国連本部で「心理学の日(Psychology Day)」というイベントがあるのですが、それに関連して加盟国への参加・協力要請をしたり、各国の人権状況の調査をしたりしています。また、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)に関する会議に出席しメモ取りをしたり、更にグローバル・メンタルヘルスについて発表する機会を与えていただいたりもしています。特に、ポスト2015年開発アジェンダは、今の国際社会における最大の関心事とも言えるかと思いますが、その中にしっかりメンタルヘルスを組み込んでいくということは、全ての上司の問題意識の中に強く存在しています。


ユニセフ主催の障がいを持った子どもについてのフォーラム

■資金確保、生活、準備等■

国連でのインターン全般に共通することですが、移動費や滞在費などは全て自己負担になります。マレーシアの物価がニューヨークなどと比べて安いとはいえ、やはり航空券や宿泊費は相応の額になりました。その意味で、金銭的なコミットメントは求められますし、事前・事後の節約は肝心だと思います。一方で、オフィスのすぐ近くの食堂ではリーズナブルに食事ができたのと、上司が何回も自宅に招待をしてくださって、奥様の美味しい手料理をご馳走になるなど、様々にご配慮頂いたことは大変ありがたかったです。


同僚に招待していただき、ハリラヤをお祝い
マレーシアでの生活面で特徴的だったことは、私が渡航したときはラマダーン(断食月)の真最中だったということです。マレー系の人が経営するお店はレストランを初め軒並み休業状態で、当初は少し驚きました。一方で、ラマダーン明けの休日であるハリラヤ・プアサから一カ月間は、雰囲気は一転し、お祭りムードになります。私もUNU-IIGHの同僚に招待していただいて、マレーシア人の家族に囲まれながら伝統的なお祝いを共にすることができました。ラマダーンにハリラヤと、イスラム教を肌で体感することのできた貴重な経験でした。

■様々な形で国連に関わるということ■

マレーシアからNYに帰国すると同時に、APAから国連本部に派遣される形でのインターンが始まりました。このインターンは、「国連」でのインターンとはいっても、あくまでAPAという「NGO」の立場から国連に関わっていることになります。

一言に「国連でインターン」と言っても、様々な関わり方があると思います。事務局や諸計画・基金といった国連システムの中でのインターンだけではなく、NGOの立場から国連でインターンをすることもできますし、さらに私の周りには加盟国(国連代表部)の立場でインターンをしている人もいます。勿論国連システムの中でインターンをすることは魅力的ですが、これからインターンすることを考えていらっしゃる方には、是非色々な選択肢を柔軟に検討していただけたら良いのではないかと思います。

また、それぞれの立場や国連との関係性によって、かなり雰囲気やカラーが異なると感じています。UNU-IIGHでインターンをしたときは、様々な関係者と意見交換をし、具体的・現実的に何ができるのか調整をしていくという上司の仕事ぶりから多くを学びました。一方で、APAは、「メンタルヘルスの重要性を周知する」という極めて明確な目標の下、どんどんアドボカシーに力を入れていくというスタンスです。同じ国連を舞台として、同じ「国際社会における精神保健」に関わっていても、政治的な動きや様々な利害関係者のことを考慮しながら現実的な観点を大切にしたアプローチの仕方と、少しでも自分の主張が浸透するように積極性を最大限重視していくアプローチの仕方を経験し、それぞれの異なるアプローチから大変多くのことを学ぶことができました。

今後も、「精神保健は重要なのだ!」という熱意をもって、一方で国際関係や外交政策を考える上で大切な「現実的な視点」を忘れずに、メンタルヘルスや公衆衛生・保健分野に幅広い視野で関われたらと考えています。

■おわりに■

私がインターンを通じて一番強く感じたのは、人との繋がりの大切さです。インターン先を探していたときには国連フォーラムの方々に大変お世話になりましたし、またマレーシアで知り合うことのできた方とはUNU-IIGHでの上司を初めとして、ニューヨークに戻っても様々な形で連絡を取りご指導いただいています。

実は、国際社会におけるメンタルヘルスの重要性は様々なところで叫ばれているのですが、果たして本当に国連でそのような分野に関わることができるのだろうかと、初めは不安でした。どうしても、例えば「安全保障」や「開発援助」といった分野に比べると、まだ目立ちにくい分野であると感じていました。私が晴れて希望していた分野でインターンをして経験を積むことができたのは、周囲の温かいサポートがあったお陰でした。今後国連でのインターンを考えていらっしゃる方の中には、もしかしたら少し珍しい分野を希望している人もいるかもしれませんが、是非諦めずに人との関わりを大切にしながら様々な可能性を探っていただければと思います。

最後になりますが、障がい・災害・開発・安全保障・公衆衛生・人権・平和構築など、国連をはじめ国際社会が重視しているグローバルイシューの多くにメンタルヘルスは関係しています。人間が感情的な生き物である以上、これからますますメンタルヘルスの重要性は高まってくるのではないかと思います。もしこの記事が、今後国連でインターンをすることを検討している方々の参考になると同時に、国際社会における人々の「こころ」の幸せに興味を持っていただくきっかけになるとすれば、望外の喜びです。


リニューアルされた国連総会議場にて

2015年5月24日掲載
ウェブ掲載:藤田綾
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