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第12回 2005年11月11日開催
於・国連代表部会議室

国連フォーラム設立1周年記念シリーズ勉強会 第四弾
国連邦人職員会/国連日本政府代表部/国連フォーラム 合同勉強会

「国連人権機構とNGOの活動」
大谷 美紀子 弁護士 
第60回国連総会日本政府代表団代表代理


(勉強会当日、国連日本政府代表部会議室にて。写真左が大谷美紀子弁護士)

 

■1■ 国際人権法と国連
■2■ 国連の人権機構
■3■ アナン事務総長による国連改革推進(1997−)の下での変化・発展
■4■ 国連の人権機構におけるNGOの活動と役割
■5■ 日本の人権NGOの活動
■6■ 人権NGOの活動の今後の課題と展望
 質疑応答


■  国際人権法と国連

国際人権法の本格的な生成・発展は、国連の創設(1945年)から始まった。人権問題は、国家が主権領域内で個人をどう扱うかという問題である。よって、伝統的な国際法の下では、人権問題は国内管轄事項として、これに他国が干渉することは内政干渉にあたり、国際法の規律対象ではなかった。しかしながら、第二次世界大戦後、国連憲章に国連の目的の1つに人権が明確に掲げられ、人権問題(国家の個人に対する扱い)は国際社会の正当な関心事として国際法・国際政治のテーマとなった。人権の国際的保障のためには、人権基準〔規範〕の設定と、これを実施するための制度が必要であり、国際的な人権規範・制度は、全ての国を対象とする普遍的なものと特定の地域(ヨーロッパ、米州、アフリカなど)を対象とするものの2層レベルで発展してきたが、アジア太平洋地域には地域的人権規範・機構がないため、日本を含むアジア・太平洋地域における人権保障にとって普遍的人権規範・機構の持つ意味は大きい。

国連は創設以後、普遍的人権規範を設定してきたフォーラムであるが、国連で設定されてきた国際的人権文書は、法的拘束力を有する条約のみならず、宣言、原則、規則等、多様な名称で多数存在する。さらに、国連以外のフォーラムで起草・採択された国際人道法やハーグ条約等は国際人権法との交錯や密接な関連を有する。

■ 国連の人権機構

主として国連で設定された普遍的人権規範を実施するための制度として、国連憲章に基づく機関と条約に基づく機関の2つのメカニズムが発展してきた。国連憲章に基づく機関(Charter-based Bodies)とは、憲章68条に基づき設置された経済社会理事会の下部機関(機能委員会)である人権委員会(メンバーは53の国家)、その人権委員会が設置した人権小委員会、さらに、人権委員会が設置した特別報告者や人権小委員会の作業部会などの総称である(なお、人権委員会が設置した特別報告者、事務総長特別代表、専門委員会を総称して「特別手続」(Special Procedures)と呼ぶ)。条約に基づく機関(Treaty bodies)は、7つの国際人権条約(社会権規約、自由権規約、人種差別、女性、拷問、子ども、移民−いずれも略称)の監視機関であり、各条約の締約国による国内的実施状況を報告書制度により(条約によっては、個人通報制度、調査制度が設けられているものもある)監視し、問題があれば締約国に対し勧告を行い国内的実施を促すための機関(なお、社会権規約委員会の設置は条約で定められておらず、経済社会理事会の決議に基づくが、社会権規約委員会も条約の監視機関として条約機関(条約体)に含められる)。

ウィーン世界人権会議(1993年)以降の国連人権メカニズムの発展として、国連の人権活動について主要な責任を有し、調整する人権高等弁務官の設置、ジェンダーの主流化の推進(女性差別撤廃委員会が個人通報制度・調査制度の権限を持つようになったこと、女性に対する暴力に関する特別報告者の設置など)、経済的社会的権利の分野の強化(教育の権利に関する特別報告者、食糧の権利に関する特別報告者、健康の権利に関する特別報告者の設置など)、人権機構間の調整の強化等が指摘できる。なお、特別手続には、特定国の人権状況を扱う国別のものと、全ての国を対象に特定の問題を扱うテーマ別のものとがあり、重要な役割を果たしている。現在、国別とテーマ別とを合わせて41の特別手続が設置され活動している。

人権機構間の調整の一環として、条約機関議長会議の開催(1995年以降、毎年開催)、条約機関間会議(2002年以降開催)、特別手続(特別報告者)の会議(1994年以降開催)、条約機関議長と特別手続の会議(1999年以降開催)が行われている。

■ アナン事務総長による国連改革推進(1997−)の下での変化・発展

国連改革報告書(1997年 A/51/950)では、国連の各部門、基金、プログラムを、?平和及び安全保障、?経済社会問題、?人道問題、ならびに、?開発の4つの部門別分野にまとめ、その全てに人権を統合(integrate)することが打ち出された。また、人権センターが人権高等弁務官事務所に改組された。第2次国連改革報告書(2002年 A/58/387)では、国家レベルでの活動を強化(アクション2)、条約機関に対する報告制度の合理化(統一化・単一報告書)、特別手続の改善・強化、人権高等弁務官事務所のマネジメントの強化が提案された。ハイレベル委員会報告書(2004年 A/59/565)では、人権委員会の改革、人権高等弁務官による世界の人権状況に関する年次報告書の作成、人権高等弁務官による安全保障理事会及び平和構築委員会に対する報告、人権高等弁務官事務所の強化、人権委員会を将来的に人権理事会に格上げすることが提案された。これを受けて発表された国連改革に関する事務総長報告書「より大きな自由を求めて」(2005年 A/59/2005)では、人権高等弁務官事務所の強化、条約機関の統合に向けた報告に向けた報告のガイドラインの統一化、人権理事会の設置が提案された。その後、人権高等弁務官事務所の改革に関する行動計画 (2005 A/59/2005/Add.3)では、国家レベルでの関与の拡大、条約機関の統合・常設機関化("a unified standing body")、年次報告書の作成が提案された。世界サミット成果文書 (2005年 A/RES/60/1)では、人権高等弁務官事務所の強化(5年間で予算を倍増)、条約機関の効率性の改善、人権理事会の設置等が合意された。

■ 国連の人権機構におけるNGOの活動と役割

経済社会理事会とNGOとの関係についての取決めを定める国連憲章71条が国連におけるNGOの立場に関する根拠規定であり、同情に基づき、経済社会理事会がNGOの協議資格について決議で定めている。人権NGOは、専門性、現場での活動実績、当事者性を生かして国連における人権規範の設定及び実施の過程において重要な貢献をしてきた。経済社会理事会との協議資格を有するNGOは経済社会理事会及びその下部機関である人権委員会、人権小委員会にオブザーバーとして参加し、議題の提案や書面または口頭による発言を行うことができる。特に人権小委員会は26名の個人の専門家から構成され、NGOがアクセスしやすいフォーラムとなっている。そこでは、NGOも国家もオブザーバーとして参加する。1503手続は大規模で重大な人権侵害が組織的に行われている場合についての通報制度であり、NGOも通報を行うことができる。また、条約機関の活動、特に報告制度において、NGOは政府報告書とは別に独自の情報を条約機関の委員に提供し、あるいは政府報告書の作成過程に関与し、報告書の審査を傍聴・ロビイング活動を行い、最終所見を国内に伝達するなど重要な役割を果たしている。NGOが報告制度に関与する根拠は、子どもの権利条約を除き条約に定められているのではなく、各条約の手続規則によっており、経済社会理事会との協議資格とは無関係である。

なお、ウィーン世界人権会議以後、同会議で採択された宣言採択された計画において、国際人権法の国内的実施における役割の重要性が確認され、各国において設置及び強化が奨励された国内人権機関(日本では、政府から独立した国内人権機関はまだ設置されていない)が、NGOとは別のアクターとして報告制度における役割を増してきている。条約機関が、政府報告書の作成に国内人権機関が積極的に関わること、さらには審査に出席することを奨励する傾向にある。

■ 日本の人権NGOの活動

日本の人権NGOの国際人権活動は、日本が主要な国際人権条約を批准した1980年代後半頃から始まった。その1つの形態は、裁判所において国際人権法を援用した主張を行うことであり、初期においては、指紋押捺に関する裁判等、在日コリアン、在日外国人が当事者である事件において国際人権条約が援用されることが多かった。しかし、裁判官が国際人権法を理解していないことにより、国際人権条約を根拠とした裁判は負け続けた。次に、次第に国際人権法、国際人権システムの知識の普及や国際的な人権NGOとの連携により、日本の人権問題を国際人権機構に持ち出し勧告を得て問題の改善を図ろうという運動がある。精神障害者の人権問題などにおいてこのような手法が用いられ、法律の改正につながった。また、1993年における自由権規約の第3回政府報告者審査の際にいくつかのNGOが報告書を提出し審査を傍聴、ロビイングを行ったが、この頃から、自由権規約だけでなく他の条約機関を有する条約における報告制度を活用して、日本における人権状況の問題を訴え改善を求める活動が活発化する(個人通報制度を受け入れていない日本のNGO、人権侵害の被害者個人にとって、日本における人権問題を国際人権機構に訴える制度として報告制度の持つ意味はとりわけ大きい)。1990年代後半になると、女性差別撤廃条約に個人通報制度・調査制度を導入する選択議定書の起草作業、国際刑事裁判所条約(ローマ規程)の起草作業、最近では障害者の条約など、新たな国際人権規範の策定やその実施のためのメカニズムの設置・強化についても、日本のNGOは関心を持ち、関与してきている。日本のNGOは、専ら日本の人権問題の解決のために国際人権法・メカニズムを活用することに関心を持ってきたし、その必要性はなくならないが、併せて、今後は、国際人権法を世界中で実施することについての関与ということも1つの課題となっていくと考えられる。

経済社会理事会決議1996/31による協議資格の見直しの背景として、1990年代に次々と行われた世界会議及びそこで採択された成果文書のフォローアップへのNGOの参加の実行を指摘することができる。世界会議へのNGOの参加資格は必ずしも経済社会理事会との協議資格を要件とせず、1992年のリオ地球サミットや1995年の北京女性会議に参加を認められた協議資格を有しないNGOは、その後、経済社会理事会の下部機関であり、本来、協議資格を有するNGOでないと参加ができないはずの持続可能な開発委員会や女性の地位委員会の会合に引き続き参加が認められた。協議資格制度とこのような実行との乖離が一つの引き金となって1996年に協議資格の見直しがなされたが、その際、それまでは、2カ国以上に拠点かつメンバーを有する国際的NGOにしか協議資格が認められなかったのが、国内的NGOにも協議資格が付与されることとなった。例えば、日本弁護士連合会なども、いわゆる国内的NGOであるが、この1996年の協議資格制度改正により協議資格の取得が可能となり1999年に協議資格(Special)を付与された。協議資格を取得する日本のNGOは1996年以降に増大しており、国連広報センターのウエブサイトによれば、現在、協議資格を有する日本のNGOの数は36である。

世界会議は、日本のNGOにとって、地域準備会合への参加、NGOフォーラムへの参加を通して、国際的なNGOや自国の他のNGOと出会い、自国の政府や国家間会合へのロビイングのあり方を学び、エンパワーされるという貴重な経験をもたらした。そして、そこでの経験が、その後の条約機関に対する報告制度の際のNGO間のネットワーク、連携、共同行動の拡大にもつながっていったと考えられる。

■ 人権NGOの活動の今後の課題と展望

現在、国連の人権機構改革議論の中で、規範の設定からより効果的な実施へということが言われている。日本の人権NGOにとっても、最近まで、日本の人権状況の改善のために条約機関からの勧告(最終所見)を得ることが目的になっていたが、国連の人権機構における活動を通じて結局のところ国内でどう実施するかが課題として意識されている。他方、国連の人権機構そのものが今大きく改革されようとしているが、今後、改革がどのような方向で進んでいくのか、本当に人権活動にとって意味のある改革になるのか、NGOにとっての影響はどのようなものか、など課題が多く、NGOは改革に関する議論を注視し、意見を反映させていく努力が必要である。しかしながら、日本の人権NGOは、日本に拠点を置いて活動する国内的なNGOが多く、また、言葉の面でも、改革に関する議論の進捗状況を的確に情報収集し、効果的に意見を述べていくことは容易ではない。

国連の人権機構へのNGOの参加については、ボトムラインとして、人権委員会におけるのと同程度の参加の資格・機会が人権理事会との関係において正式に確保されなければならないが、その他、今回の国連改革の議論の中で、国連と市民社会の関係に関するパネルの報告書が出され、提案がなされたにも関わらず、世界サミットの成果文書では合意がなされなかった、国連総会(人権問題については、第3委員会)へのNGOの参加の問題も今後の課題として残っている。

最後に、国連活動に関与する非政府アクターの多様化について指摘しておきたい。国連は、NGOだけでなく、企業とのパートナーシップも推進しているし、最近では、国連文書の中でもNGOより広い市民社会(シビルソサエティー)の概念が用いられている。人権の分野では、国家機関でありながら政府から独立した存在である国内人権機関も重要なアクターとして活動している。国連の人権機構におけるアクターが、専ら、国家とNGOという単純な図式から複雑化してきている。

 

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