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「脆弱国家における人道支援と開発援助 ―国連と世界銀行で勤務した経験から―」
第122回 国連フォーラム勉強会

日時:2018年3月24日(土)15時00分〜16時30分
場所:コロンビア大学国際公共政策大学院 国際棟405
スピーカー:黒田和秀(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科 客員教授)


■1■ はじめに
■2■ 脆弱国家と国際公務員の気質
■3■ 1990−2015の主要な紛争と国際連合での出来事の概観
■4■ 国際連合と世界銀行の違い −脆弱国家に対するアプローチ等を例に−
■5■ 質疑応答
■6■ さらに深く知りたい方へ

黒田和秀(くろだ・かずひで)
開発コンサルタント・同志社大学院客員教員
ウォータールー大学科学部(カナダ)卒業。デルフト工科大(オランダ)、パリIV大学(フランス)留学を経て、マッギル大学(カナダ)で経営学修士号(MBA)取得。カナダ在住中に国民軍を経験。国連競争試験(経済・IT各分野)に合格し、旧災害救援調整官事務所(現人道問題調整事務所: OCHA)勤務。アルメニア大地震支援調整、第一次湾岸戦争避難民救援、1994年にはルワンダ紛争人道支援、北朝鮮人道支援調整等に関わる。1998年に世界銀行入行。社会開発局紛争予防復興ユニット、業務政策・国別システム局脆弱国家ユニット、アフリカ局エチオピア・スーダン・サマリアユニット、環境・天然資源グローバルプラクティスで上級社会開発・業務専門家として勤務。カンボジア、アフガニスタン、東ティモール、イラク、リベリア、北カフカス紛争後地域、スーダン・南スーダン等の復興支援等に関わる。また、世銀紛争・開発協力業務政策作成、人材養成、国連、世銀連携強化に尽くす。2015年に退官し、現職。

■1■ はじめに

今回は、国際連合(国連)及び世界銀行において、それぞれ15年を超えるキャリアを重ね、現在は同志社大学客員教授として教鞭を取られている黒田和秀氏をお迎えして「脆弱国家における人道支援と開発援助 ―国連と世界銀行で勤務した経験から―」と題する勉強会を開催しました。

黒田氏からは、国連と世界銀行の双方で勤務したご経験を踏まえ、両機関の制度的な違いを概説いただくとともに、人道問題や紛争解決への国際機関の対応について分かりやすくご説明いただきました。

はじめに、両機関の制度的な相違点について、例えば、国連では全ての加盟国が総会で平等に一票を有する一方、世界銀行においては出資比率によって保有票数が異なり、また権限の多くも理事会が有しているといった実例を踏まえてご説明いただきました。また、国連は各国の外務省が第一義的な主管省庁として対応する一方で、世界銀行については財務省が対応すること等、基本的な事実関係から丁寧にお話いただいたことで、参加者も明確に両機関の違いをイメージすることができました。

次に、国際機関による紛争への対応については、紛争が生じる要因(例:資源の存在)、紛争のタイプが多様化(国家対決から主に内戦、それにテログループに対しての戦闘等)、紛争当事国の指導者の考え方(例:「脆弱国家」と呼ばれることを嫌がること)といった諸点について、具体例を交えながらご解説いただきました。

質疑応答では、国連職員・世界銀行職員として現場では具体的にどのような仕事に携わるか、紛争回避や予防といった「成果」と国連の対応に相関関係があることをどのように説明するかといったことなど、多くの質問が挙がりました。

なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。

■2■ 脆弱国家と国際公務員の気質

国家としてのガバナンスが不安定な状態を表現する際に、以前は脆弱国家(fragile state)という言葉を用いていたが、国内でも地域によって状況が異なっていることを鑑み、現在はfragile situationという表現が用いられている。脆弱国家では、職務をする上で、物事の捉え方が重要である。旧知の仲にあった国連職員がバクダッド(イラク)で発生した爆弾テロ事件に巻き込まれた際に、大怪我を負ってもなお「自分には委任された権限や責務があり、国連職員としての責務を果たさなければならない」とメールに記した例から、困難な状況下にあっても、物事を楽観的に見ながら国際機関での意義を感じて職務に取り組むことが求められると感じた。そして、複雑な事象に直面した時こそ、一歩引いて俯瞰的に物事を見ることが非常に重要である。

■3■ 1990−2015の主要な紛争と国際連合での出来事の概観

1990年から2015年までに起きた主要な紛争を例に、それに対する国際社会の対応について概観する。例えば、1990年ソマリア紛争に米軍が軍事介入したものの、作戦通りにいかず、墜落した米兵が現地の人に引きずられる映像が流れたことによる米国内における世論の後押しもあって、米軍は撤退した。同時に「他国に介入しすぎて自国の犠牲を生んだ」という風潮が流れた。その教訓から、1994年にルワンダで民族間の紛争勃発直後、国連は情勢収集に焦点、当事者一同に停戦を要求し、「虐殺」の定義に時間を取られ介入遅れが生じた多くの命が失われた。この出来事から、教訓は活かさなければならないが、活かす例を検討することも重要である。

この時期の国連での大きな出来事として、1992年の気候変動に関する会議が挙げられる。また、1990年代におきたバルカン半島の紛争を受け、1997年に米シンクタンク、ニューヨーク・カーネギー財団による報告書(米国科学アカデミーのトップであったデービット・ハンブルグ氏と元国務長官サイラス・バース氏の共著)の中で、紛争予防の新しい枠組みである構造的予防と業務的予防の二種類を提唱した。これにより従前の政治的な枠組みのみでなく、開発援助機関も紛争予防に長期的に貢献することができるという見方がされるようになった。その後、世界銀行はこの枠組みを使って脆弱国家にも介入するようになった。続いて、2000年にミレニアム会議、2015年に持続可能な開発目標(SDGs)の会議が開かれた。

■4■ 国際連合と世界銀行の違い −脆弱国家に対するアプローチ等を例に−

両機関の制度的な相違点について、国連は、世界の安全保障に焦点を置いている一方で、世界銀行は開発に焦点を置いている。世界銀行は第二次世界大戦後の復興支援が命題で、無償の援助ではなく有償資金協力・投資である点が国連との大きな違いである。

世界銀行では、貧困撲滅だけでなく、経済発展を目指している。地球上の人口72.6億人のうち約10億人が脆弱国家に属するとされ、そこでは主に貧困撲滅を目指し、その他の国々・中所得国では共栄(Shared Prosperity)を目的としている。また、理事会の政治原理を除けば、政治的側面からではなく、経済的側面から取り組みを行うのが原則である。世界銀行の理事会は、国連の一国一票制と異なり、25名の理事で構成されている。国連総会では193か国を合意に導くことが難しい一方で、理事の数が限られた世界銀行の理事会では、物事の決定過程が迅速に行われるという利点がある。一方で、最大の出資国であるアメリカの影響を受けやすいという特徴もある。世界銀行の業務は、資金調達と実行業務に大きく分けることができる。資金調達は、格付がAAAであり金利が良い世界銀行債の発行を通じて行う。そのため、国連と比較して世界銀行の資金調達は安定している。実行業務は、研究を通じて提言を行う、政策に反映させる、各プロジェクトを実施する、という三点が主なものである。

国連の平和構築への取り組みは、1992年ブトロス・ガリ事務総長時代に体系化された。現在でも、例えば国連平和維持活動(PKO)の見直しあたっては、この枠組みが利用されている。その後、2005年に安全保障理事会(安保理)が紛争に介入し、紛争が落ち着いた状態を継続させさらに復興に導くために、平和構築委員会が設立された。しかし、刻々と変化する治安状況に対し、常任理事国5か国(P5)が強い権限を持つ安全保障理事会と平和構築委員会では後者の役割を判断する難しさがある。

国連の人道危機への対応としては、1991年に人道支援に対する決議が国連総会で採択され、国際連合人道問題調整事務所(元Department of Humanitarian Affairs・現OCHA)が設立された。また2005年国連ハイレベル世界会議にて保護する責任(R2P)の概念が提唱され、人道支援の試みがなされてきたが、今般のシリアの例を見ても、実行に移すには難しい点が多いと言える。

先ほど述べたように、カーネギー財団の報告書以降、世界銀行も紛争に関与することができるという考えが広まった。それまでの世界銀行のアプローチは、紛争か開発か(Conflict or Development)というもので、世界銀行の現地事務所周辺で発砲事件があれば引き上げを余儀なくされていた。国連職員が紛争入りした飛行機で世界銀行職員が帰る、という皮肉な状況が見られた。しかし、オックスフォード大学のポール・コリアー教授により、紛争の発生リスクは紛争後の国が非常に高い、若者の失業率が高い、石油などの天然資源の存在などが引き金となるといった論文が発表され、開発援助機関においても紛争に対し、取り組むべきことがあるとの見方がされるようになった。世界銀行では、2000年に業務政策が見直され、紛争と開発(Conflict and Development Cooperation)という概念に舵を切った。また、信託基金を設けたことも大きな変化だった。

こうした変化に基づき、世界銀行の人事でも変化が起きた。世界銀行でのキャリアとして、結果を残しやすいやりがいのある地域であるという認識があった一方で、情勢が不安定な国への赴任を避ける傾向にあった。世界銀行の最大の役割は最貧国・脆弱国家にあるという考えのもと、金銭面と人事面でのインセンティブ制が導入された。例として、次のポストに移る際、脆弱国家で活動した実績が人事に反映されるようになったことが挙げられる。世界銀行で勤務した十数年間において、世界銀行という組織は官僚組織としては変化が早く、理事会に改革案が上がってきた際に、実行に移されやすいということを実感した。

このように世界銀行は、意思決定過程が迅速である一方、開発機関としての限界もあり、国連との連携が非常に重要となる。2000年代に世界銀行と国連の連携を強化するための合意書を纏めるにあたって双方が弁護士会合で長時間が費やされた。また、人道支援に対して前向きでNGO設立経験があり、韓国にルーツを持つジム・ヨン・キム世界銀行総裁と、潘基文前国連事務総長の関係が非常にうまくいき、初めてアフリカでの合同フィールド・ミッションが実現したことは大きな出来事である。

世界銀行は世界開発報告書を毎年発行しているが、2011年版は「紛争、安全保障、開発」をテーマとして取り上げた。今年は国連と世界銀行が協力してPathways for Peaceという報告書を発行するほど強固な協力関係が構築されている。報告書の結論としては、「国連と世界銀行の連携が重要である」、「紛争予防に力を入れるべきである」など、従前と大差ない内容になってしまう側面はあったものの、非常に重要なステップであった。

国連と世界銀行の両機関で長年働く中で、ジレンマも経験した。例えば直近では、コンゴ民主共和国で人道危機が発生したことを受け、来月ジュネーブで会議を開こうとしているが、当事者であるコンゴ政府は参加しない旨を表明した、という事例がある。コンゴ民主共和国の首相は、会議に参加すれば人道危機が起きているという事実を広めることになり、自国のイメージが悪化するのを回避したかったためと言われている。その背景には、コンゴ民主共和国がリチウムバッテリーで使用するコバルトの産地であり、各国からの投資を呼び込みたいという意図があった。こうした事例に接し、国連や世界銀行で働く職員は、自分達が何のために業務に取り組んでいるのか、というジレンマを感じることもある。

国連と世界銀行を端的に表す言葉として、国連は商店街を歩いて、必要なものを個々のお店に入って買う一方で、世界銀行は百貨店のように一括で案件を引き受けてくれる、という違いがある。また、国連は、各国の外務省が第一義的な主管省庁として対応する一方で、世界銀行については財務省が対応をしているといった違いもある。

最後に、国際機関で働く上で、意識せずに偏見が出てきてしまうことがありえるため、自分自身がどのようなものの見方を持っているかを知ることが非常に重要である。冒頭で触れた国連職員の友人は、19名の国連職員が亡くなった2003年のバクダッドのカナルホテル爆破事件で生き残り、大怪我を負いながらも、その後自分には責務がある、といって国連で働くことへの誇りを語ってくれた。彼女のように楽観主義でありながら、客観的にものごとを見ることは非常に重要である。彼女は、その後ハイチに赴任、大地震が起き、国連ビルも崩壊し多くの職員が亡くなった際にも生き残って、最前線で業務を全うしている。

■5■ 質疑応答

質問:国連や世界銀行が紛争の構造的な予防について努力すればするほど、逆にそれらの機関の存在意義が見えづらくなるのではないか。加盟国に対し、紛争予防などのインパクトを説明し納得してもらっているか。
回答:その段階まで、たどり着いていない。紛争予防によって、紛争の発生を防いだとしても、その因果関係を証明することは困難である。

質問:黒田氏が国連から世界銀行に移る際の当時の心情や、移る前に想定されていたことと、実際に移ってからのギャップなどはあったか。
回答:世界銀行は開発のトレンドを分析し、そのとき必要とされている専門家を雇用する傾向がある。私が転籍した当時は、紛争が重点課題であり、国連で関連業務に取り組んでいた背景があったことで、転籍することができた。世界銀行はネットワークで雇用を決める側面があり、転籍した当時は、国連時代に知り合った世界銀行の関係者に誘われた経緯がある。翌月末までに契約コンサルタントの採用について結論を出すよう求められ、非常に大きな決断だったが、妻が国連職員で共働きだったことも一助となり、決断に至った。いずれにせよ、常に新しいものを求め、また行動を取れるように準備をしておくことは重要である。

質問:脆弱国家と呼ばれる国々を実際に訪れていた際に、現地ではどのような任務に就かれていたか。また、人道支援の学術的な知識などはその時点で有していたか。
回答:自然災害の場合、国連人道問題調整事務所(OCHA)は国連機関の人を集めて情報を調整する。また、例として国際連合世界食糧計画 (WFP)は食料を用意し、現地の視察を行う。第一次湾岸戦争の際は、ヨルダンに赴任しており、ヨルダン政府内務省に毎日足を運んで情報を集め、国連の各専門機関と調整を行った。国連の競争試験後はどこに配属されるかわからず、当初人道支援に関する学術的な背景は有していなかった。国連はジェネラリストを育てるという側面があり、学術的な背景が無くとも職場で学び、業務に支障はなかった。

質問:コンゴ民主共和国政府が、投資を呼び込みたいがために、自国の評判を気にして国連主導の人道支援会議に参加しないという意思を表明したという事例の紹介があった。国家が発展して開発途上国を卒業すると、被援助国は今まで受けていた援助を受けることができなくなる。そこで、国家が発展してもそうは見せないように、あるいは実際に発展するインセンティブが削がれるというモラルハザードが発生するとの見方もある。一方で、国家が発展すれば信用格付が上がり、海外直接投資(FDI)を呼び込みやすくなるというデータもある。援助を受けることと、投資を受けること、被援助国にとってどちらのインセンティブが高いのか。
回答:国家は自国が脆弱国家と呼ばれることを気にする。また、低所得国は中所得国に、中所得国は高所得国になりたいと所望しており、援助額が減るから発展しないということは考えられない。他方で、国家にとって、どのように最大の資金を集めるかということは政治的にも重要であるが、集まった資金を効果的に使うことができないという課題もある。世界銀行の最大課題の一つは、調達で遅れが出ることで、プロジェクトが中止に追い込まれることもあるという点である。また、世界銀行は経済原理で動いているので、結果が重視される。したがって、世界銀行としては結果が出る国に多くを供給したいと考える。しかしながら、最貧国に関しては、支援が必要な局面もある。例えば、南スーダン独立の際に資金調達を行って支援をしたが、その後の混乱でその資金での結果ははっきりできない。とはいえ、今後もそういった国には支援せざるを得ない。国を引っ張るリーダー層がどのように指揮を執るかが、脆弱国家の将来を左右する。

(注1)国民の安全や生計を保証するという、国家に不可欠な役割を果たしうる能力および意欲が欠如している国々を指し、政府の行政施策やサービスが全国に到達せず、国家に対する社会の信頼が欠如した国を指すことが多い
(詳細はhttp://open_jicareport.jica.go.jp/360/360/360_000_249615.html)。

■6■ さらに深く知りたい方へ

このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照ください。国連フォーラムの担当幹事が、勉強会の内容をもとに下記のリンク先を選定しました。

●「世銀スタッフの横顔(世界銀行ウェブサイト内)」
http://www.worldbank.or.jp/Results/interview/kazuhide_kuroda.html#.WtQDl6Yh2O4

●独立行政法人国際協力機構国際協力総合研修所「脆弱国家における中長期的な国づくり :国のリスク対応能力の向上にむけて」
https://www.jica.go.jp/jica-ri/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jica/field/pdf/200803_gov_00.pdf



2018年7月1日掲載
企画リーダー:燒リ超
企画運営:小林聖、洪美月、藤井有希、志村洋子、橋本仁、河田桃子、柴田莉沙
議事録担当:藤井有希、志村洋子
ウェブ掲載:三浦舟樹