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第53回
平和構築人材育成事業の新たな展望
中込 正志さん(外務省総合外交政策局国際平和協力室長)

第52回
国連と世銀の危機管理対策での
パートナーシップ:進展と課題
黒田 和秀さん 
世界銀行脆弱・紛争影響国ユニット
上級社会開発専門家
第51回
国連の限界、国連の未来
The Politics of International Solidarity
ジャン=マルク・クワコウさん 
国連大学ニューヨークオフィス
ディレクター
第50回
緊急医療援助の現場における最近の課題
及び国際社会における女性NGOの視点

黒普@伸子さん 
第63回国連総会日本政府代表団顧問
日本BPW連合会会長
国境なき医師団外科医
第49回
TICAD IV後の展望
石井 香織さん 
UNDPアフリカ局
TICADプログラム調整官兼部長代行
第48回
平和構築における
人材育成の課題と展望

篠田 英朗さん 
広島大学平和科学研究センター准教授
広島平和構築人材育成センター事務局長
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HOME勉強会 > 第54回

「国連の前線から日本の国内に何を伝えるのか
〜日本が国連にできること、国連が日本にできること〜」

紀谷 昌彦さん
外務省総合外交政策局国連企画調整課長

玉内 みちるさん
ユニセフ本部人事部

松下 佳世さん
朝日新聞社 ニューヨーク特派員

司会: 田瀬和夫さん
国連人道問題調整部 人間の安全保障ユニット課長

2008年12月12日開催
於:ニューヨーク国連日本政府代表部会議室
国連邦人職員会(Japan Staff Association)/国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会

 はじめに
■1■ 紀谷さん 問題提起
■2■ 玉内さん 問題提起
■3■ 松下さん 問題提起
■4■ 意見交換、質疑応答
 さいごに

■ はじめに

「国連の前線から日本の国内に何を伝えるのか〜日本が国連にできること、国連が日本にできること〜」と題して、国連に対する日本国内の理解と支持を拡大するための方策や、国連における新しいリーダーシップ像、これらの情報を日本に発信するメディアの取組み等を中心に、この会場にいる皆さまとともに議論したいと思う。
今回は、日本政府職員の視点から外務省の紀谷さん、国連職員の視点からユニセフの玉内さん、メディアの視点から朝日新聞の松下さんの三名の方に、それぞれ個人の資格で問題提起をしていただき、その後会場の出席者全員でブレーンストーミングや意見交換を行いたい。

■1■ 紀谷さん(外務省) 問題提起

日本の内向きな視点が懸念される昨今、グローバル・イシューに日本が貢献していくために、ニューヨークの前線から、何が大事なのかを明確に伝えていただきたい、それによって日本の貢献がより大きなものとなるのではないかという思いがある。

1. 国連からの視点はなぜ大事か。

世界には、紛争や平和構築、金融危機や気候変動などさまざまな問題があり、日本はその世界の中で生きている。日本国内にいると、その実感が薄いことが多いが、こうした世界の問題に対する当事者意識と切迫感を持つ必要があるのではないか。国連からの視点は、世界の常識や相場観から「世界の中の日本」を客観的に認識するために重要なものである。

2. 国連から「世界の中の日本」はどう見えるか

日本は世界の主要国であり、世界の運営に責任をもつ平和で豊かな国だ。しかし、日本が内向きになると、世界中に深刻な問題がある中で、「見て見ぬふり」または「ただ乗り」となってしまうのではないだろうか。世界から日本への期待、また日本としての責任や自己実現という観点からも、日本の強みを世界に活かすリーダーシップが大事であり、それを国連で実践・蓄積することが必要だ。

3. 日本が国連にできることは何か

そもそも日本は国連を通じて世界に何を実現したいのか。平和・安全保障の面では、唯一の被爆国として軍縮や核不拡散、平和国家として紛争後地域の平和の定着や国づくりなど、日本ならではの視点から世界に貢献することができる。また、経済・開発・環境面では、ODAを重要なツールとして、インフラや公害対策・省エネ、科学技術や人間の安全保障などで貢献できる。人権・民主主義・法の支配の面では、普遍性の尊重と多様性への配慮、法継受の経験を活かすことができる。また、国連の機能強化という面では、安保理改革などでの実効性と正統性の実現や、実績のある行財政、そして人的貢献で寄与することができると考える。

4. 国連が日本にできることは何か

日本が国連に貢献することによって、相互に依存する世界中の国々との信頼関係が構築され、国連からの情報や人脈も紡がれる。また、ルール・メーキングに携わることで、日本の価値観と利益を反映させることができるようになる。更に、国連は日本が情報と影響力のハブをとる機会を提供してくれる。

5. 日本国内にどう伝えるか

世界や国を作るのは人であり、国連や国の関係は、個々人の関係で築かれる。日本人一人ひとりが国連を、世界を感じることが大切であり、そのために、様々なメディアやチャネルを活用して、国連内の動きを日本人一人ひとりに積極的に伝えていくことが必要だ。特に2009年から2年間は、日本が国連の安保理非常任理事国となり、これからの国連と日本の関係強化に非常に重要な時期である。日本人の国連やグローバル・イシューに対する関心を醸成し、メッセージを発信する好機であると考える。この機会に、国連に関わる幅広い方々の協力を得て、国連広報キャンペーンを始めたい。

■2■ 玉内さん(UNICEF) 問題提起

1.国連環境で活きる日本人の持ち味と強みとは何か

国連という国際組織で人事を担うにあたり、これまでは日本人の弱みに目が向けられることが多かったが、これからは日本人ならではの強みにもっと目を向けて、西洋的なものさしとは違った観点で評価していくべきだという流れを国連の中につくるべきではないか。元来、西洋式のアウトプットをもとにした評価方法(Competency Assessment)で人材を評価してきたが、この方法で必ずしもよい人材が集まるとは限らないのではない。均一性の高い日本社会(High Context Culture)は、多様性のあるアメリカ社会(Low Context Culture)に比べ、言語伝達能力をそれほど必要としない。そのため、西洋的なスピーチ重視の能力の測り方では、競争力が低くなってしまう。しかしその一方で、日本人には西洋的ものさしでは計りがたい、以下のような強みがあると言える。

1) 高度な専門性と流れを読む力。
2) 勤勉。着実性。的確なメッセージ。
3) パートナーシップ構築の上手さ。仕事に誠実に取り組むため、活動資金を出す各国政府やパートナーと信頼関係をつくるのが上手く、幅広い人脈でいい情報を集める。責任の範囲を越えても、仕事の成果を大切にし遂行する。 
4) 顧客志向。現場主義。
5) 高度な情報共有力。上司や関連部署へ意見や助力を求め、人を巻き込みながら仕事をするスタイル。
6) 日本人の仕事の進め方。 
7) 中身、社交性、誠意。おもいやり、忍耐、勤勉。

2.日本人の貢献度・評判を戦略的に内外にアピールする必要性

上記のような強みを持つ日本人を、「ブランディング」する必要性を感じている。確かに日本人は、概ね言語の表現能力の面では弱いかもしれないが、中身を見ると、実際にすばらしい成果をあげてきたということがよくある。黙っていてもコツコツと成果をあげる日本人を、もっとアピールしたい。これからも人事として、以下のような点に焦点をあてながら、言葉の表層だけではなく、その人の貢献度を文化を超えて総合的に評価できるような体系を作っていければと考える。

1) パッケージ(語学、インタビュースキル)も重要だが中身(Substance)のある貢献がより評価されるべき。
2) TQM(*)。改善のコンセプトを取り入れる日本人の特性を生かし、アピールしていく。
(*)TQM:Total Quality Management。組織全体としての品質改善を行い、組織体質を強化する取り組み。
3) Leadershipの定義を拡大し、協調性と着実性で結果・成果を出していくリーダー像を確立してゆく。ブランド化。 
3.日本国内にどう伝えるか

これから日本人に、ますます国連で活躍してもらうためには、日本の技術と価値観を反映させるべく、国連の人材評価基準の土俵を変えるとともに、国連や国際社会で働くことの意義を、高校生のように若い世代を対象に意識を高める活動が大切だと考えている。早くからキャリアオプションに触れることによって、より能動的で建設的なキャリアデベロップメントができる。

■3■ 松下さん(朝日新聞社) 問題提起

国連において、日本政府は実績を残しており、また日本人職員には優秀な人も多い。でもその活躍が内外ともに伝わりきらないのはなぜか、考えてみたい。

1.メディア側の課題

国連の活動を伝える環境をみると、日本は非常に恵まれており、主要メディアは全社揃っているという潤沢な状況にある。それでも国連ニュースが十分に伝わっていないと言われるのは、マスコミの関心が移り気で、ニュースのライフスパンが短いことが一因となっている。人間の安全保障や人権、開発といった時間のかかるテーマには苦手意識もある。地味なテーマを中長期的に伝えていく努力が必要だ。

2.メディアの受け手側の課題

1) 政府の発信力の弱さ
外務省を始め日本の公的機関は、過去の苦い経験から、情報は出さなければ出さないほどメディアに批判的な報道をされにくいだろうと考える傾向がある。このため、毎日のようにプレス・リリースを送ってくる欧米各国に比べて発信力が弱い。

2) メディアの積極的な活用を
日本人は謙虚さやてらいから、メディアに出たがらない傾向が強い。でも、「人の顔」があってはじめて関心が生まれるニュースも多い。国連職員も、活動を日本に伝えたいなら、積極的にメディアに働きかけてほしい。記者との日常的人間関係の構築は大切で、記者の知識が増えることにより、国連ニュースが質量ともに増えることにもつながる。普及率が高い日本のメディアを、うまく発信手段として活用してほしい。

3) 日本の動向にも敏感に

日本の人がどんなことに関心を持っているかを知り、発想をつなげていくことによって、世界の出来事でも日本人が身近に感じられるニュースにすることができる。伝えたいテーマがあれば、記者とともに知恵を出し合うことで、興味を持ってもらえる形に仕上げることも可能だ。

一足飛びには日本人の国連に対する意識も高まらないし、ニュースもすぐには増えない。ただ、一歩を踏み出さなければ何も変わらない。政府、邦人職員、メディアが協力して、日本の活動をもっと伝えられるようにしていく必要がある。


■4■ 意見交換、質疑応答

質疑応答へ

 

 さいごに

最後になるが、「リーダーシップ」は、各人が各ポジションでそれぞれに発揮できると信じている。今日ここにいるみなさんに、リーダーシップを発揮していただきたいと思う。


質疑応答へ

 

議事録担当:鈴木(三)
ウェブ掲載:菅野



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