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2010年8月1日
Club JPO・ワシントンDC開発フォーラム・国連フォーラム
3フォーラム合同・夏のオフ会in東京
「『国際協力』×『BOP』×『キャリア・パス』について考える」パネルディスカッション

<パネリスト>
*陸翔:ハーバード大学ケネディースクール(モデレーター)
*山田哲也:JICA
*新井元行:東京大学
*金平直人:Soket/マッキンゼー/世界銀行YPP
*白木夏子:HASUNA

■1■ パネリストによる発表(キャリア・活動紹介・メッセージ)
■2■ パネルディスカッション
■3■ 質疑応答

■パネリストによる発表(キャリア・活動紹介・メッセージ)■

<山田哲也(やまだてつや)さん>
国際協力機構(JICA)民間連携室連携推進課長 兼 海外投融資課企画役。海外経済協力基金(OECF)入社後、国際協力銀行(JBIC: OECFと日本輸出入銀行が統合)からウズベキスタン大使館(外務省)出向等を経て、現職。これまでのキャリアでは主に、中央アジア・コーカサス地方の旧ソ連諸国の案件や、民間セクターを通じた投融資を担当。現職では、途上国の開発や貧困削減を、民間企業やNGO/NPO等多様なステークホルダーとの連携によって推進し、より高い開発効果と持続性を持たせる官民連携のアプローチを追求している。
発表要旨: 発表資料 (PDF)
・キャリア: 公的機関(JICA)を内側から変えようと努力。
・活動紹介:世界人口の約72%を占める40億人のBOP層は、貧しいがゆえの(利子やインフラへのアクセス面の)不利益<BOPペナルティ>を受け、消費者としての市場参加を阻まれている。これに対してJICAでは、BOPビジネス促進調査や海外投融資の再開を進めている。
・メッセージ: BOPペナルティ解消のために、インフラ整備等の伝統的な手法とBOPビジネスを含むイノベーティブなアプローチを連動させていこう。

<新井元行(あらいもとゆき)さん>
東京大学工学系研究科 技術経営戦略学専攻 博士課程。前職はベリングポイント(現プライスウォーターハウスクーパース)で主に企業の技術戦略策定・R&Dマネジメント改善のコンサルティングに従事。退職後の世界旅行をきっかけに、技術と市場原理による途上国の社会問題解決の研究・活動に注力。現在は日本の技術力を途上国開発に役立てる諸政策・実現方法の研究を進める一方、各大学における適正技術・事業化教育の導入(UTB Japan)、途上国の社会問題を解決する製品開発・事業化コンテスト(See-Dコンテスト)の企画・運営等の活動を進めている。
発表要旨: 発表資料 (PDF)
・キャリア:「技術が世界を変える力を持っているが、うまく活かされていない。どうすれば成果を活かされるのか?」と、企業と大学を行き来しながら 適正技術の効果的な普及のための理論と実践方法を模索。
・活動紹介:長期的・教育の視点からUTB Japan(日本版D-lab)を立ち上げつつ、短期的・起業の視点をバックアップすべくSee-Dコンテストの実施にも携わっている。
・メッセージ:現地の視点に立ち、色々な専門分野を連携させながら、ネットワークを構築していこう。そして、「まず、動くこと」が大切。

<金平直人(かねひらなおと)さん>
NPO法人ソケット代表。1977年富山県生まれ。慶應湘南藤沢キャンパスにて村井純教授らの下で研究・起業を通じインターネット時代の暁を体感。2000年マッキンゼー入社、主に通信・電機・自動車の新規事業構築に従事。MITスローン経営大学院にて経営学修士、ハーバード大学ケネディ・スクールにて行政学修士。MITメディアラボでの研究活動($100 Laptop等)、マケドニアでのUNDP GSB(貧困削減に寄与するビジネス育成イニシアチブ)、コソボ独立直後のICO/EUSR(国際文民事務所/欧州連合特別代表部)での建国支援などを通じ、変わり行く世界と多国籍企業の役割を考察。帰国後マッキンゼー復職、業務の傍ら、志を持つプロフェッショナルが勤務先の境界を越えて世界の課題解決と日本の閉塞感の打破に取り組むイノベーションプラットフォームとしてソケットを設立。2010年、YPPにて世界銀行入行予定。
発表要旨: 発表資料 (PDF)
・キャリア:学生時代を含め、本業と副業を並行して持つことが多かった。
・活動紹介: 9月に法人登録するソケット(社会と市場をつなぐベンチャー;法律的にはNPO)を立ち上げた。従来の手法では解決できなかった問題に新しい手法でアプローチする、プロフェッショナルの集まり。
・メッセージ:解決が難しくなっている課題に対して、「貧しい人々のために良いことをしている」という自己満足だけではなく、自分たち自身の問題として開発に取り組もう。終身雇用やジョブホッピングをする単線のキャリア・パスを求めるのではなく、キャリアの複線化をしよう。

<白木夏子(しらきなつこ)さん>
1981年生まれ。内向的な小中高時代、ファッションデザイナーの母の影響を受け自宅でアクセサリー作りに没頭。美大を志すものの親の猛反対を受けて断念し、大学受験にも失敗。しかし、進学した南山短期大学で国際貢献の概念に触れ、発展途上国の開発を更に学ぼうと2002年から英ロンドン大学キングスカレッジに留学。卒業後、国連人口基金ベトナム・ハノイ事務所とアジア開発銀行研究所にてインターンを経験し、投資ファンド事業会社勤務を経て2009年4月にエシカル・ジュエリービジネスを展開する株式会社HASUNAを設立。現在、同社代表取締役。 私の提言第27回の執筆者。
発表要旨: 発表資料 (PDF)
・キャリア:投資ファンドを本業としてビジネスを一から学びつつ、副業としてジュエリービジネスを始めた。その後、HASUNAで一本立ち。
・活動紹介:様々な国(途上国はルワンダ・ミクロネシア・ベリーズ・コロンビア)から調達したフェアトレード素材でブライダルジュエリーとカジュアルなアクセサリーをつくっている。それぞれ現地のパートナーや青年海外協力隊員と連携。
・メッセージ:キャリア構築は、「究極の自己実現の形」の追求。

■2■ パネルディスカッション
1. 切り拓いていくことの難しさ

(陸さん)BOPビジネスでは、ブラックボックス化した流通経路や人的ネットワークを切り拓いていくことが必要不可欠。皆さんはその他に、どのような開拓の難しさに直面してついてきたか?

(金平さん)本業をやるにしても副業にしても、苦労が伴う。一日24時間しかない。副業をサステイナブルにすることは間違いなく課題。また、本業として、大きな組織の中で既存の枠組みを飛び出したことをするには、利害相反がないように、取り組みを潰されないように、創意工夫が必要。

(陸さん)白木さんは特に、会社を辞める決心をした時、不安とどう戦ったのか?

(白木さん)会社を辞めればもちろん給与が自動的に入らなくなるので不安。周囲の反対にもあった。しかし、以前勤めていた会社が潰れるという噂を聞き、「どのみちやりたいことをやらないと精神的に不安定だ」と決断。「今やらなければ一生できない」「色々な偶然が重なって、今ここにいる」と、自分を信じることが大切。

(新井さん)縦割り社会の最たるものといわれる大学において、D-Labの売り込みをしてきたが、巻き込まなければいけない人をいかに説得するかが課題だった。「この人を動かさないと、ここを攻略しないと工学教育が進まない」と、懸命にコンセプトを説明する。もともと同じような考えを共有していない人に対しても、その人自身にどのようなメリットがあるのかを、手を変え、品を変え、粘り強く説得してきた。今後は、D-labやSee-Dコンテストが、自分なしでもうまく回るようにすることが課題。自分自身のキャリアをどうするのかという課題もあるが、その時々の人脈や啓示で考えていこうと思う。

(山田さん)自分は転職もしてなければ、起業もしていないが、ひとつの所にとどまる苦労は経験してきたと思う。「やりたいことをやらなければ精神的に不安定」と白木さんが話されていたが、正にそれとの戦い。新しい取り組みが生まれる中、既存の枠組みも変えていかなければ、世界は変わらない。途上国のための機関であるJICAも、少しでもBOPビジネス等に貢献していけるように、変わっていかなければならない。変わりにくい公的機関を変えていく苦労を誰かがやらなければいけない。自分は職員として、それをやっていく。

2.モチベーションとやりがい
(陸さん)皆さんのお話を聞いていると、心の底から湧きあげるモチベーションを感じる。皆さんを支えるものは何か?

(山田さん)「おかしいな」と感じる世界の在り方を、自分自身が関わることによって変えていると感じられることが唯一のリターン。

(新井さん)明確に何かが進んだ、という実感。例えば、巻き込むべき人の説得に成功して、「さて、どうやったらできるか」と一緒に考える時。

(金平さん)仲間。ソケットで出会う新しい仲間は一緒にいて楽しいし、一人でやるよりうまくできると教えてくれる。留学先で出会って現在世界各地で活躍している古い仲間は、プレッシャーを与えてくれる。大切な友人が、自分の父親が殺された時のことや村で毎年何人が被害にあっている様子等を話してくれた時、机上の問題が現実の自分のものとなった。大学院を卒業後マッキンゼーに戻る時に、彼らに、多国籍企業から世界を変えると説明したが、“We are losing you”と言われ、説得できなかった。今、彼らとの約束を守るため、ビジネスを通じて開発や平和構築など地球規模の問題に関わっていきたという想いを胸に、転職する。

(白木さん)自分のやりたいことしかやりたくないという“ワガママ”でやってきた。HASUNAの仕事を一緒にしている仲間や調達先の人たちとつながっていく毎日は、新しい出会いと発見の連続。正直なところ、あまり苦労した気がしていない。青年海外協力隊員さんが立ち上げたルワンダの工房から、牛の角が磨かれて送られてくる。頑張った感は感じられるものの質が満たされない製品は、容赦なく突き返している。最近では一つ一つに職人魂が感じられるようになった。あと何年かしたら立派な職人になるだろう、と思うと嬉しくて、モチベーションになっている。

3.不安との戦い
(陸さん)BOPビジネスは、ビジネス業界からは社会貢献に、開発業界からはビジネスに傾いていると、中途半端に扱われがちで、キャリア構築でも不安が伴う。この不安からどう抜け出していけばよいのか?

(白木さん)周囲の人は自分の経験に基づいて好きなことを言ってくる。周り人の言うことは無視してでも自分の好きを追求することが、最終的に自分も周りも輝かせると思う。

(金平さん)不安から抜け出さなくてもいいのでないか。世の中、答えがないものが多い。個人のキャリアだけでなく正しいアプローチの仕方など色々と難しい問題は尽きないが、自分一人で抱えこまずにみんなで共有して悩んでいくべき。そしてその不安を原動力に変えていく。

(新井さん)これをやればうまくいく、というのは絶対に分からない。結局、やってみないと分からない。悩む時間がもったいないと、とにかく行動してみる。

(山田さん)今日のこのパネルディスカッションにも、これだけの人が集まってきていることを考えると、同じ想いを持つ人がいかに多いかが分かる。そして、私たちが抱える不安よりももっと深刻な日々の生活の不安と闘っている人びとが世界にどれだけいることか。40億人の人たちが私たちを必要といる。BOPビジネスは過渡的なもので、BOP層のニーズはまだベーシックヒューマンニーズに限られているが、これから生活水準が上がって行くにつれ彼らのニーズも多様化されていく。最初の過渡期はビジネスとしてやりにくいかもしれないが、これから公正な形で途上国の人々がビジネスに参画できる土台ができていけば、皆がやり易くなる。その土台を作るのが公的機関のJICAだと自分は認識している。BOPビジネスの参入を目指す機関や人々の不安を少しでも解消していきたい。

(白木さん)いかに不安と闘っていくかは、BOPビジネスのキャリアに限らず、人生における最大の課題。結局、自分が楽しいと思うことを追求するのがいいと思う。

■3■ 質疑応答


■玉川雅之・アジア開発銀行予算人事経営システム局長からのコメント■
日本経済があと何十年ともたないであろうと言われている今、アジアや他の国と関わることの重要性が高まってきており、日本の若い人たちにはどんどん途上国で活躍してほしいと願っている。コンサルティング会社や商社の人たち等が開発関連の仕事をするチャンスもどんどん広がりをみせている。日本は、経済活動の80%が企業で残り20%が政府関連という、プライベートセクターが主役の経済。従ってパブリックセクターは、ビジネスが利益を追求するからといって切り離すのではなく、むしろ連携し、“Market friendly government”を構築するべき。日本人が途上国でビジネスを興すことをどんどん助けていけば、現地にも雇用が生まれる。IMFにいた頃、モンゴルで銀行をマイクロファイナンス機関にした人がいるのを見て、日本人もこんな風に銀行業をやればいいのにと思っていたら、日本の旅行会社がその機関を買って、コミュニティに水を届ける事業を始めた。このように、よいパートナーと組み、クリエイティブなアイデアを実践することで、既存の考え方やモデル、制度の壁を打ち破っていくことのできる人が求められている。途上国を転々として働いてもいいし、企業内でやってもいいと思うが、まずは途上国で何かやってみるとよい。どのみち、単線的なキャリアでよいという考え方では、難しくなっている。アジア開発銀行でも積極的に採用を行っているが、給料のレベルや雇用の安定を求めて来る人は採っていない。パッションを持ったミッドキャリアの人、特に、これまで色々と経験を積んできて辿り着いた、という人が多い。

■Q■ 大学に行っている立場から、大学とBOPビジネスの関係に興味がある。ビジネスの成功と学術的な成果を出すことを両立させるためにはどうしたらいいのか?
■A■
(新井さん)学術的な成果を出すのが大学だが、BOP層のニーズをきちんと理解し適正技術を提供しなければ、収益を上げることができずビジネスとして成り立たない。そのかけ橋となる手法のひとつがUTB Japan。
(会場の参加者)私が所属する(独)科学技術振興機構は、大学等の研究機関に研究費を配分しており、JICAとも組んで、日本と開発途上国の科学者が、環境・エネルギーや感染症等の地球規模課題に対応するための研究を支援している。そしてこれら大学等での研究の成果は、単なる学術的成果で終わらず、NGOや現地の政府、企業(BOPビジネス)等と協力して何らかの形で社会に還元できる道筋を作ってもらうよう言っている。このように、大学と開発とビジネスを繋ぐ機会も少しずつ増えてきている。

■Q■ 自分も小さな会社を経営している立場なので、白木さんに質問。フェアトレードで仕入れた場合、プレミアムがいくらほど高くなるのか、マーケティングでいくらプレミアムがつくのか?
■A■
(白木さん)仕入れでゴールドは、20%ほど高くなる。貝殻は5−10円のところを200円以上で仕入れているものもある。現地パートナーが現地の人の賃金を決めている。プレミアムがつかないのでは、そう想定しないと難しい。婚約・結婚指輪は市場価格。結婚指輪は20万円前後。原価が高いので、お店と手数料を交渉したり、直接販売等したりして工夫している。

■Q■ 開発・国際協力に関わったきっかけは何か。
■A■
(山田さん)91年にソ連邦が崩壊し世界のレジームが変わっていく様を目の当たりにして、世界を変えて行きたいという想いを抱いた。
(新井さん)会社を退職後、世界中を旅して、「このままだと人類は滅びてしまう、みんなの総力を挙げて問題を解決しなければ」と感じた。
(金平さん)色々なものが積み重なった結果が今に繋がっている。結局、きっかけは人。これからこの分野に携わっていきたいと思っている人へのアドバイスは、きっかけ探しをするよりどんどん外に出て、色々なものを見て、様々な人と会ってほしいということ。
(白木さん)留学時代に、インド各地の最貧困層の村を2ヶ月間かけて訪問し、貧困層の現状やカースト制度を目の当たりにしてから、「地球上のほとんどの人々がビジネスによって突き動かされているのだから、お金を汚いものとして考えるのではなく、お金が回っていく仕組みの中でいいまわし方をしたい」と、ビジネスを通じた貧困の解決を模索し始めた。

■Q■BOPビジネスは、開発とビジネス双方の理解・キャリア経験が必要か?
■A■
(山田さん)確かにBOPビジネスを成功させるためには両方の要素が不可欠。開発の視点が入っていないとBOPビジネスは駄目だし、単に途上国にモノを売ればいいという訳でもない。しかし、一人で両方の要素を持たなければいけないのではなく、誰かと一緒にやればいいのだと思う。
(新井さん)開発とビジネスの区分けをする必要はあまりない。自分がやらなければならない、と思うことをいくつか並行してやっていけばいいのではないか。
(金平さん)どのみち一人の人が全てをすることは出来ない。自分の好きなこと、得意なことをやりつつ、自分と違う見方をする人とチームを組むこと。
(白木さん)一人が必ずしも両方を持つ必要はない。何をやっても極めることは難しい。ビジネスに3年間携わってもビジネスをマスターできるとは限らないし、開発分野でインターンをしたり短期間働いたりしてもなかなか責任の大きな仕事は任せてもらえない。借り物競走のように、自分に足りないものを色々な人から借りながらやっていく、つまり、ネットワークを作ることが大事。

■Q■(陸さん)最後に会場の皆さまへメッセージをお願いします。

■A■ 
(山田さん)待ったなしの問題解決のために、皆さんも一緒に何かをやりましょう。
(新井さん)自分のなすべきことと、それに対するアプローチをいくつか考え、まずはやってみることが大切。
(金平さん)「早く行きたいなら一人で行け。遠くまで行きたいならみんなで行け。」私たちは速く遠くに行かなくてはいけないので、様々なスキルやアプローチを互いに持ち寄って、一緒にやっていきましょう。
(白木さん)何より自分が楽しいと思うことを!

(陸さん)国連フォーラム私の提言を始めた中村俊裕さんも、ネットワークを広げ個人の様々な意見をシェアできる場をつくり、革新的な技術・製品を発展途上国に提供できるようにと、Kopernikを立ち上げました。今日のディスカッションでも、皆さまが個々の国際協力への想いとスキルを持ち寄り、お互いの繋がりを深め、何らかのアクションにつなげていけるきっかけになれば嬉しいです。

議事録担当:菅野文美&小谷瑠以
ウェブ掲載:柴土真季