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「民間資金の復興開発ファンドをつくろう」

UNDPシエラ・レオネ事務所 駐在代表補佐
中村 俊裕 さん

略歴:中村 俊裕(なかむら としひろ) 大阪府出身。京都大学法学部卒業後、ロンドン大学政治経済学院(LSE)政治学修士を取得。マッキンゼー東京事務所などを経て、UNDP東ティモールで省庁・議会・司法を含めた国家機関のキャパシティービルディングやDDRなどに携わる。スマトラ沖地震後、アチェのガバナンス部門への被害額算定、復興プランの作成にも関わった。UNDPインドネシアで計画策定、パフォーマンス評価、ナレッジ・マネジメントに従事。2007年4月より現職。


1.背景
2.問題点
3.分析
4.提言


1.背景:自然災害・紛争後の資金の調整

大規模の自然災害や紛争後の人道支援・復興には多額の資金が必要とされる。これらの状況はマスコミやドナーの関心を惹きつけることも多いため、フラッシュ・アピールなどのメカニズムを通じて大規模の資金が一気に入ってくることが多い。そしてこの多額の資金を有効に使うため、国際社会はマルチドナーのファンドをつくる試みがさまざまなケースで始まっている。たとえば、最近では東ティモールの東ティモール復興基金(TFET)、イラクので国際復興基金(IRFFI)、アフガニスタンの復興信託基金(ARTF)、インドネシアでのアチェ・ニアス・マルチドナー基金(MDFANS)の例がある。

マルチドナーファンドとは、簡潔に言えば、複数のドナーがある特定国の復興資金をプールし、一定の基準のもと、ステアリングコミッティーを通じた意思決定などプロセスを経て優先プロジェクトに資金が流れるようになっている。またプロジェクトのレポーティングも標準化され、全体的にいくらの資金がどこに流れ、どのような進展があるのかがモニターしやすくなっている。UNDPでもマルチドナーオフィスが資金・戦略的パートナーシップ局の下に設置され、世銀国連開発グループ(UNDG)などを中心としたパートナーと共同でこの問題に取り組んでいる。

2.問題点:民間からの資金をどう管理できるのか?

このマルチドナーファンドの最近の進展はローマ宣言パリ宣言などでも再三強調されているエイド・エフェクティブネスを向上させるためにも非常に意義が大きい。しかし、復興資金の全体的管理という観点から見るとこのマルチドナー基金はまだ課題が多い。よく指摘されるのが、資金の集まるタイミングで、ことが起こってからドナー会議を開いて資金を集めるという今までのプロセスでは、少し時間がかかりすぎるということ*1。また、基金が管理する額にしても、全体の資金のほんの一部でしかない。イラクの例をとれば、復興に必要とされ、ドナーが約束した3兆5,000億円*2のうち、1,700億円のみ、すなわち全体の5%のみが共同管理されることになっている。インドネシアスマトラ沖地震後も合計7,000億円近くにも上る大規模の資金が流れてくることになったがマルチドナーファンドで管理されるのは700億円程度でカバレッジが10%以下になっている*3

この理由としては、まず第一にドナー側の方針だろう。このようなファンドはプロジェクトベースの支援と違い、フォーラムでの議論でもあったように*4、ドナー側の意向が反映しにくい。よって、ファンドを経由せずに直接プロジェクトを支援するという現象が起こる。第二に復興は通常、国家の自前の資金とドナーの資金でまかなわれるが、ドナーファンドはその名のとおり、ドナーの資金をマネージするもので、受け入れ政府の資金の流れは別となる*5

第三に、これはインドネシアの例で顕著だが、民間・個人からの資金が入っていないからだ。以前フィールドエッセイでも言及したが、アチェに2005-2010年の5年間の内に流れる資金のうち、40%近くにあたる2-3,000億円が民間・もしくは個人からの寄付だという試算結果がでた。バイ・マルチの政府開発援助(ODA)を合計を合計してもこれを少し上回る程度で、この結果、政府ODA頼みの国連機関よりも、個人・企業からの支持が高い国際NGOなどが国連機関よりも大きな資金を集めるという現象が起こった。UNDPとBRR(アチェにある特別津波復興調整政府機関)の間でも民間からアチェへの資金の流れをどのように管理できるかを議論したが、現在までのところ、データベース(RAN)を通じた事後的把握のみによる。この民間の資金をマクロレベルで管理する仕組みはいまだできてはいない。

ボトルネックとしては、民間からの寄付の個々の規模がODAと比べて非常に小さいため、国連が企業ごとに交渉するメリットもあまりない。かといって、企業を束ねた資金を受け入れる仕組みも、免税処理の問題もあり確立されてはいない。グローバルで見ても、個人・企業の献金はほとんどがNGOに流れているようだ*6。最近の日本の例をとると、インド洋沖地震・津波の後多くの日本企業も支援を申し出たが、上記のように国連は受け皿体制が整っておらず、結局大部分が経団連経由で赤十字に流れたようだ*7。以下で、第三の民間資金のより効果的な活用方法の方向性について考えてみる。


3.分析:国際機関が民間資金を活用する環境は整いつつある

戦後多くの政府、国際機関、NGOなどによって、実践されてきた開発援助は2000年あたりから、効率性の議論が活発化し、多くの月日を経てマルチドナーファンドのような、復興期にODAを統括管理できるような体制が序々に形成されてきた。

一方、民間企業と開発援助の関係は、最近漸く議論が始まったばかりで、まだまだ胚芽的状況だ。とはいえ、近年拡大している民間企業の開発に対する貢献を有効に生かす枠組みを作る環境は整いつつある。たとえばグローバルコンパクトの参加企業数を見てみる。グローバルコンパクトとは、基本的には企業に対して、人権、労働基準、環境などの分野でのコンプライアンスを要求するものだ。これは積極的に企業が社会貢献をするとまではいかないが、重要な一歩を示すものだろう。この日本でのトレンドを見ても、2001年には加盟会社が1企業だったが、2003年には12、2005年には49に達するまでになった。

コンプライアンスに関心が高い企業は、企業社会責任(CSR)の一環でもさまざまな社会貢献事業を行っていることが多い。下のグラフは経団連が統括する、"1%クラブ"のCSR関係に使われた資金のトレンドだ。2001年からは増加の一途をたどり、2004年には1,500億円を超えるまでになっている。これは同年の日本のODA約9,000億円のうちマルチ機関に流れた約1,400億円を上回っている。これは企業の社会貢献活動に対する大きな関心と、その増加を表しているといえるだろう。


さらに、UNDPが経団連と共同で2006年10月に東京で行ったワークショップでは、日本を代表する70社が集まり、Pro-Poorビジネスについて話あった。Pro-Poorビジネスとは、ミシガン大学ビジネススクールプラハラト教授の提唱する新しいビジネスのモデルで、世界の人口の70%近くを占める貧困層をビジネスの潜在的顧客とみなし、貧困削減とビジネスを融合させるものだ*8。実際UNDPも、ヨーロッパ系の企業と多くの成功例がある。多くの企業がCSRとコア・ビジネスの関係性を強化させることに興味を示しており、民間の資金力、スキルを開発に生かすかなりのポテンシャルがあると見込まれる*9

4.提言:民間資金の復興開発ファンドをつくろう!

少し回り道をしたが、いかに紛争・自然災害後、民間からの資金の流れを統括し、開発援助の効率を高めることができるだろうか? 提言として、国連を中心とした援助機関が受け皿となり '市場原理'をさらに活用する民間資金での復興開発ファンドを設立できるのではないかと考えている。さらに民間の比較優位を生かし、特に途上国のプロ・プアビジネスを目指す起業家支援などを中心に支援できる。

民間の復興ファンドとは、基本的にODAをまとめるマルチ・ドナーファンドと同じ発想だ。ODAがまとめられるなら民間の資金の流れもまとめられないことはない。そして、ファンドを作ることにより、標準化されたプロセスと厳しい選定基準をもって、ステアリングコミッティーが共同で意思決定をし、結果を同じフォーマットで報告する。かつ、可能であればヴェンチャー・キャピタルのようにリターンを目指す。

このように、民間の資金をプールして、開発援助に生かしている例はすでに存在する。アメリカに本部をおくアキュメン・ファンドは、特に紛争後・自然災害後の復興を対象にしているわけではないが、グーグルビル・メリンダゲイツ財団シスコなどの民間からの資金を集め、厳しい評価基準でプロジェクトを選別し、インパクトの評価をしっかりおこなっている。

さらに、資金源は民間と公的資金の混合だが、市場原理をフル活用しており、かつ復興開発ファンドという観点からは、アフガン・リニューアル・ファンド、現在設立準備中のアチェ・ベンチャーファンドがあげられる。これらのファンドは、伝統的ドナーからのファンドをその名のとおりヴェンチャー・キャピタル(VC)の論理での運営をめざし、投資に対して、財政的リターンを得ようというものだ。さらに、投資に対するリターンも民間のVCより大分低めに設定し、デュー・デリジェンスをも徹底し、選考をはかる。一方、一度選ばれたプロジェクトには市場分析、戦略作成支援、トレーニングなど十分の支援をし、成功の確率を増加させる。また、先に述べたUNDPと経団連のワークショップでも、途上国の中小企業を支援するための民間資金のファンドのアイデアが議論された。

さて、では民間資金での復興ファンドを作るためには何がなされるべきか。

まず、短期的には、このアイデア自体の意義、制度上の限界などについて十分な議論がなされるべきだろう。その後、民間を使った実在のファンドについてのケーススタディーを行い、成功の鍵を洗い出す。特に、アキュメンファンドやアフガン・ベンチャーファンドなどを調査すればよいだろう。同時にUNとすでにパートナーシップを築いている企業と交渉を始め、パイロットに参加してもらう段取りをつける。中期的にはある一国の復興開発ファンドをパイロットテストをする。これが成功した場合、グローバルのファンドを作る。最終的にOCHAのCERF (中央緊急対応基金)などとの統合も考えられる。

最後に、このアイデアは、自然災害後はいいが、紛争後には難しいかも知れない。紛争国の場合、平和合意ができた後も、国の治安が安定しにくい場合が多々あり、投資の対象にはなりにくいことも考えられる。さらに、ODAと同様に、企業のインタレストを考え、Visibilityの課題に向きあう必要があるだろう。ドナーのように、使途限定の資金割り当てを要求されるかもしれない。また、公的機関がどのようにリターンの見込まれる事業に参画できるか(できないかもしれない)、その場合独立機関を設立する、リターンを見込まないファンドに変更するなど他の選択肢を考えなければならないだろう。

皆さんどうお考えですか?


*1 先日のハイレベル・パネルのレポートでもCentral Emergency Response Fundの関連でこのタイミングの重要性が再確認された。
*2 軍事支援を除くグラントとローンの合計。
*3 他の課題としては、基金の管理体制、内部ルールの標準化などがある
*4 国連人間の安全保障基金課、田瀬和夫氏による好評の"おカネと国連"シリーズ
*5 Direct Budget Supportやオン・オフ・バジェットの議論はまた別の機会に議論したいが、興味のある方はここを参照。
*6 ユニセフなどは民間・個人の資金をうまく活用しているが、一機関の活動にとどまっている。人道分野ではジャパンプラットフォームも1%クラブなどと提携している。国連機関全体としてのかかわりはまだ小さい。
*7 経団連による
*8 詳細はC. K. Prahalad, The Fortune at the Bottom of the Pyramid: Eradicating Poverty Through Profits 2004を参照。さらに、UNDPのGrowing Sustainable Businessのホームページ、Christopher P. Beshouri, A Grassroots Approach to Emerging-Market Consumers, McKinsey Quarterly 4th 2006などでも他のケースが紹介されている。
*9 新たな展開を迎える日本企業の国際貢献−国際機関、NGOとの連携が新展開の起爆剤に−、国際開発ジャーナル2006年12月号でも注目を浴びている


中村 俊裕 氏のインタビュー、勉強会議事録、およびフィールドエッセイはこちら ⇒ <インタビュー> <勉強会> <フィールドエッセイ>

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2007年4月6日掲載
担当:中村、菅野、宮口、迫田、藤澤

 



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