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「平和構築の包括的なアプローチ」

 

ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン事務局長
東京外国語大学大学院平和構築・紛争予防講座客員教授

塚本 俊也(つかもととしや)さん

略歴:京都府出身、タイ国立マヒドン大学大学院健康社会科学修士課程修了、医療人類学、HIV/AIDSの行動科学を専攻。タイ北部でHIV/AIDSの予防教育、ベトナム北部で麻薬中毒対策を経験する。インドネシア国立インドネシア大学社会学部大学院博士課程紛争解決学を学ぶ。前ADRAジャパン支部長。阪神大震災兵庫区ボランティア対策委員長、その後サハリン、トルコ、ホンジュラス・ニカラグア・ハリケーン、PNG津波、インド西部地震の緊急救援を経験し、また、ルワンダ、コソボ、東ティモール、アフガニスタンなどの紛争後の復興にも携わる。(財)国際開発センター主任研究員を経て、ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパンの事務局長に就任。東京外国語大学大学院平和構築・紛争予防講座客員教授、国士舘大学21世紀アジア学非常勤講師、日本紛争予防センター理事


1.背景
2.問題点・分析
3.提言


1.背景:フィールドでの経験から
 今年で国際協力に携わり20年目を迎えることになる。振り返れば、NGOとして現場でいろいろなことを経験してくることができた。はじめは、マレーシアのボルネオ島やネパールに高校生・大学生をボランティアとして派遣しながら、井戸掘りや学校建設、家庭菜園などの小さな開発支援などにもかかわることであった。ネパールでは、3年間ほどUSAIDの母子保健事業にかかわることができた。その後、公衆衛生を専攻しようと思ったのもその経験が大きかった。現場でのその経験は、私にとって、とても新鮮で、機能的な国際開発の仕組みについて学ばせていただいた。ハーバード大学の長年の研究からきた成果をマニュアル化し、ローカルの人材でプログラムを動かせることができるシステムが構築されていた。それを、USAIDが支援し、NGOが実施するという役割分担も明確であった。
 この連携は、NGOの成長を促し、ローカルの人材の育成に大変貢献していた。今の日本を振り返ってみてもここまでの協力はできていないのが現実である。政府ができることと民間ができること、その両者が協力していけるシステムがあることによって、なしえないことが可能になっていくのである。

ネパール・ハンセン氏病患者コロニーにて


 その後、阪神淡路大震災の被災者支援の経験によってもそのことを教えられた。我々の最初の壁は、行政にいかに理解をしてもらうことであった。最近は、阪神大震災から12年もたっているので、ほとんどの自治体では、電話帳ほどの防災対策マニュアルが作成されている。しかし、ほとんどが行政主導のマニュアルである。その自治体自身も被災するというなかで、その何%が機能していくのか疑問である。私は、2,3割が機能すればいいほうであると思う。そして、その機能できない部分を他県やNGO/NPOがサポートするシステムを構築させることが重要であるが、その場合、マニュアル作成の時点からNGO/NPOや他県なども入れて協議していく必要があると思う。中越、能登の地震後の対応をみても行政主導型の災害救援体制がとられている。
 阪神大震災時にこんなことがあった。ある老人クラブの方からSOSが届いた。それは、水が来ていないということであった。神戸市に連絡し尋ねてみると、毎朝8時にはその地域に給水タンクを送っているとのことであった。次の朝、確認してみると確かに8時には給水タンク車は届いている。しかし、停電している現状の中でお年寄りの方々がいかに重たい水を彼らのマンションに運ぶことができるかということである。確かに行政は役割を果たしているが、問題はその後である。その水を運ぶことまでは行政にはマニュアルはない。田舎であれば、住民の横のつながりがあり、助け合いの精神が残っているようですが、都市での災害の場合、コミュニティの協力やNGO/NPOなどの支援がなければ、なかなか機能しないのが現実である。この連携が、横のネットワークの強化で構築していくことができないものであろうか。
 この縦社会の官僚的なシステムに横穴を開けて連携を取ることが後で論じる平和構築の包括的なアプローチに重要な指針を与えてくれる。今回のこの提言では、あまりまとまりがないかもしれないが、現場における平和構築支援のあり方を中心に思うままに最近考えていることを述べたいと思う。また、できたら同じようなことを考えていおる方々がおられたら、その輪を広げていきたいと願っている。


2.問題点・分析:連携とネットワークが必要な平和構築の現場
(1) 平和構築のアプローチの方法(誰がコーディネートするのか?)
 平和構築とは、ただの理論ではなく、実際に紛争後の時間軸の中で、ある一定の期間に取り組まなければならないアプローチであると考えている。だから、平和構築という事業があるのではなく、すべての事業の中に平和構築のアプローチを入れた取り組みがされていなければならない。
 そんなに多く見てきたわけではないが、紛争後の地域における復興支援のなかで、復興開発支援というのは急がれて行われているが、平和構築のアプローチがどこまでされてきたかは、あまり見えていなかった。
 東ティモールの復興にも6年近く取り組ませてもらったが、復興支援のアプローチは、確かに日々見える形で進んでいたように思えるが、人々の心の問題や歴史的な問題をいかに考えていくかは質的なデータを分析する必要があるので、二の次になっていなかっただろうか。真実和解委員会の取り組みが日本の支援で積極的に取り組まれてきたが、それだけでは不十分である。また、この様な取り組みは、1,2年で成果ができようなものではないのはあきらかである。また、個々の事業は大変良い働きがされているのにもかかわらず、ファンドがなくなると現地政府など他の団体にハンドオーバーされているのだと思うが、どこまでそれがつながっているか疑問である。いわば、点の活動がそのままで、消えていく。それが、なかなか線になり、面にならない。それが、繰り返されてきたとしても成果が見えることができないのが現状だと思う。
 私の今の関心事は、いかに平和構築の現場において安全ゾーン(Zone of Peace)を構築させていくことができるかということである。これには、それぞれに連携することで、可能な事業をつなげ、コミュニティをいかにつなげていくか。また、分裂のある中をつなげていくかという作業である。このような連携を誰がコーディネートできるのだろうか?難しいように思えるが、私が経験した地域には、伝統的な仲裁するルールや伝統的な慣習のようなものを持っている地域が多かった。コーディネータは、その伝統的な社会的システムを理解し、住民にそれを思い出させていくように促していく役割がある。外部から何かを与えることだけでは平和を定着させることは難しく、むしろ当事者たちは、どうしたら平和が構築できるかという方法を知っている場合がある。そういう意味では、紛争後の復興支援や平和構築支援で、外部の者が何かを与えていくということだけでは完成されず、ローカルのキャパシティを発掘し、引き出していくという作業が求められるのかもしれない。
 そして、同じタイプの仕事のグループだけではなく、包括的な様々な活動の連携を促進させていく中で、今までつながりがなかったものが、少しずつつながっていくことによって、安全地域が確保されていくのである。
 平和構築の場合、プログラム実施だけでなく、危機安全管理とのかかわりが重要であり、私の過去の経験から図1のようなコンセプトを考えたことがあった。平和構築(左図)と安全確保(右図)は、表裏一体の関係で、それぞれの発展的な状況が中心部のピースゾーン、安全確保地域を広げていくことができるとうものである。それぞれの円が、中心に向かっていくことによって安全ゾーンや安全確保地域が広がっていく。この中で、その成果と状況を時間軸で評価する指標が考えられるのではないかと思う。


図1:包括的な平和構築のアプローチ


 この表は、紛争地全体でも考えられるが、事業実施地域におけるアプローチとしても考えられる。また、平和構築の指標を考え、危機安全管理という面における分析指標とも合わせて分析していく必要があると思われる。


(2) 情報分析の方法
 そこで、重要になってくるのは、紛争後の地域で活動していく場合の紛争分析の方法である。基本的なステークホルダー分析やマッピングは基本であるが、それらの地域でどのような活動や事業が展開されているかを分析する必要がある。それを第3者が分析して、平和構築という目で見た場合、問題がないかを評価する指標が必要である。それが、あまりにも復興支援にフォーカスされてしまうと、目に見える範囲での分析、平面状の分析に特化されてしまう。上記の図1のコンセプトもまだ平面状のもので、平和構築の実際的な情報を分析するには不十分である。
 現在、私の研究課題は世界中の紛争地で用いられている紛争分析の手法を研究し、その用途と成果についてまとめているが、それぞれの組織が、それぞれの活動にあった形で分析手法が研究されており、それぞれに利点・欠点があるが、マルチに使える分析手法の開発もまた難しいと思われる。それぞれの用途に合った手法が考えられているので、どの場面でどの手法が有効かがわかれば、様々な手法を用いて分析が可能になり有効である。
 そこで、私自身が最近考え始めていることは、以前大阪大学の星野先生もフォーラムでおっしゃっていた立方的なアプローチである。平和構築は平面的な分析だけでは表せない部分が多すぎるような気がする。つまり、平和構築は、上からその現象をみて分析するだけでは見えない部分が多すぎるのである。相手は紛争という人間の心の中の問題を扱っており、そこには様々なステークホルダーがかかわっている。それらの質的なデータをどのように分析の中に含めることができるかということが課題である。その場合、なかなか集められないのが、現地の住民の声である。現地政府の声と、現場の住民の声が違う場合が多いことも加味していかなければならない。

 

図2:立方的な平和構築支援の分析



 東ティモールで感じたことは、実に現場の住民の声が十分に中央に届いていないということだ。つまり、中央部だけで住民の声を代表するものとはならないのは明白である。復興開発が進むにつれて、住民の不満は大きくなる場合がある。東ティモールは確かに目で見る限り、ある程度の復興は果たされてきていた。しかし、住民とのつながりの中で、住民の心の中の問題にどこまでかかわってくることができたかは、疑問である。実際、東ティモールでは、ローカルの新聞で「我々は、独立して本当によかったのか」という記事も一昨年ぐらいから見られるようになってきた。最近の朝日新聞にも「自由になったが、インドネシア時代の方が経済的に楽であった」という住民の声が紹介されている。このような声は、もっと前からあったが、その声に誰が耳を傾けてきていただろうか。
 さて、この立方的なアプローチの分析の手法に関しては、現在研究中であり、時間がなく、今後、開発経済などの専門家の方々にも相談してひとつのモデルを考えてみたいと考えている。よいご意見がありましたらお知らせください。


(3) 現場での実際的な取り組み:トップダウンとボトムアップの取り組み
 平和構築に取り組む場合、まず覚えておかなければならないことは、私たち日本人がその国の平和を構築するのではないということ。復興開発に取り組んでいるとこの部分を忘れてしまいがちである。基本的には、当事国の人々が中心となって構築していくプロセスをサポートする役割が支援国には与えられている。これは、当事国の人々も誰かやってくれると思っているところもあるように思える。
 3年ほど前、夏休みを利用して、日本から数名の大学生が東ティモールに来て、ごみ問題に関するボランティア活動を東ティモールで行った。20名もの東ティモール大学の学生とディリ市内の公営マーケットで商人に対しての啓蒙活動と実際にマーケットの清掃をして、ごみをまとめて捨てるという模範を行った。驚いたのは、東ティモールの学生は溝掃除をしたことがなく、日本人の大学生ボランティアが率先して溝の中に入り、清掃を始めたとき、東ティモールの大学生たちは、「何でこんなことまでするのか?」とでも思うような顔で見ていた。しかし、日がたつにつれて、その清掃作業に加わってくる学生は、増えてきた。ある学生は、「最初、日本人がわざわざ東ティモールにまでやってきてくれ、かなり汚れた溝の中に入り清掃を始めたとき大変驚いた。しかし、同時に自分たちの国のために来てくれ、溝掃除までしてくれている日本人をみて何もしてこなかった自分が恥ずかしくなった。」とその感想を述べた。2週目から現地の大学生たちの姿勢は変えられ、積極的になり、マーケット委員会などにも出席し、意見を述べるようになったのはいうまでもない。経験することにより、大きなインパクトが与えられたのだと思う。このように、当事国の人々をいかにやる気にさせるかが課題である。

 

  

東ティモール・コモロ市場においてゴミ問題を訴える青年たち


 私は、昨年からハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン(Habitat for Humanity Japan)という貧困地域や災害後の住宅支援を通して地域開発支援を行っている国際NGOで働いている。最近は、地震や津波などの災害支援が多く、昨年は24分に1軒の割合で住宅支援を行ってきた。    
 私がこのHFHに関心を持ったのは、北アイルランドや南アフリカ、またミンダナオなどの紛争地において、住宅支援を通した和解を構築した住宅事業を展開しているからである。実にミンダナオでは、EUの支援を受けクリスチャンとモスレムが村の住宅再建委員会を構成し、協力して住宅建設を行っている。HFHでは、住宅支援をコミュニティの人々が協力し合って建設しあうという精神を促している。実際に今まで争っていた当事者たちが、共に汗をかきお互いの住宅を建設しあうことを通して同じ地域に住むものたちとしての絆を構築することができ、共に平和の定着を願うものとなることができたのである。HFHでは、住宅は、人間が生きていくうえの礎であると考えている。そして、住宅を通して、人々の教育、衛生、環境、経済、人権、平和などが定着させることができるのである。貧困や災害後の住民は、その住宅を得ることのよって、生活を安定させることができ、貧困や災害からの立ち直っていくのである。EUはこの住宅支援を通して、機敏なコミュニティ開発を支援してくれている。
 昨年の8月にミンダナオを訪問し、支援が進んでいるある村の住宅再建委員会を訪問した。紛争の原因を尋ねると、土地争いだったことを教えてくれた。そして、元モロイスラム戦線のコマンダーだった元兵士は、自分たちは貧困で心が廃れていたとも話してくれた。フィールドにおけるこのような取り組みと中央部とのコミュニケーションがつながるときに紛争地が平和に向けて歩み始めるのではないかと思われる。ミンダナオでは、まだボトムアップとトップダウンとの取り組みがつながっているとは思えないので、いつまた紛争が起こるかわからない状態であると思われる。開発支援は、このように現地住民のやる気を起こさせていく方法によって、強いコミュニティを構築していく方法が必要ではないだろうか。
 平和構築のアプローチが包括的であるという意味は、横の連携だけでなく、ボトムアップとトップダウンの取り組みがつながるような仲介者が必要であると感じている。世界的にキリスト教とイスラム教との紛争は拡大しつつあるが、その中で日本人は中立的な立場で仲介者の役割が果たせるのではないかと期待している。

 

  

ミンダナオ島のハビタット平和構築事業(左)、村の住宅再建委員会(右)


(4) 機敏なコミュニティへの発展 
 現場における平和構築の取り組みのポイントは、情報と調整の統合システムの構築である。健全で機敏なコミュニティを発達させ、維持していくためには、コミュニティの住民の間での情報がどの程度調整された行動につながるかによって左右される。効果的なコミュニケーションは、コミュニティへの情報の伝達だけでなく、市民から政府へのボトムアップのコミュニケーションを可能にし、市町村の民主化やコミュニティ対話を促進させることができる。復興開発支援の現場になくてはならない要素のひとつでもある。
 アチェにおいて情報と調整のシステムを開発・復興するために基本的に必要とされていた物は、コミュニティ内のコミュニケーション手段であった。基本的には携帯電話、または持ち運び可能な無線、小規模なラジオ局の整備などであった。
 ラジオは、安価で持ち運びが可能。遠隔地において、大量のコミュニケーション手段を提供できる。公共ラジオ放送へのアクセスは、中央部からの情報を提供することができ、公衆衛生や治安に関する重要な情報を伝えたりすることができる。アチェには、9つの民間ラジオ局があり、人々のコミュニケーションの手段となっている。このように情報と調整の統合システムは、安全と保護、緊急救援のための対応、参加型コミュニティ開発などを効果的に維持するために必要なシステムである。
 説明責任というコミュニティの信頼を維持させるために重要なことは、汚職が防止されるシステムが市民社会組織を通した監視機能によって構築されることである。政府やその他の官民の団体の透明性や正直さを公表し、コミュニティに信頼される事業を展開する必要がある。
 紛争後や災害後のトラウマを負ったコミュニティの復興は、参加型の地域開発手法を通して効果的に実施することができる。インドネシアでは、和解への促進が成功した村でローカルNGOが、モスレムとクリスチャンとの和解の絆としてお互いの子供たちを通わせる学校を一緒に参加しながら再構築することでコミュニティの強化を図っていた。外部のものによって建設された学校より、子供たちやコミュニティの大人たちがレンガを積んだり、製材することによって建設された学校の方が、オーナーシップを感じて、より親しみを持って、学校を維持し、学校が和解の象徴として機能していく方法が取られていた。また、学校で宗教の違う子供たちが集うことによって、紛争が起こった理由やなぜ喧嘩が起こるのかなど今後の子供たちの将来の世界で紛争のない世界を願った取り組みがされている。また、学校農園を通して、自然界との交わり、地球環境問題に取り組み、自然を大切にするという心を育てる教育が始められている。実に平和を構築するためには、制度や政府の体制の変化だけでは不十分であり、住民間における人道的なアプローチが大切である。


インドネシアの住民参加型で建設されている小学校


3.提言:実際的な平和構築のアプローチへの提言
 上記のような現場における問題点を踏まえて、平和構築のアプローチへの提言をさせていただきたい。
 (1) 平和構築支援のアプローチ手法と事業評価分析手法の開発
 「平和構築」という言葉が優先し、現場の復興開発支援がそれにすり変わっていることがないだろうか。普段の開発支援に「平和構築」という言葉がつけられていることによって、平和構築支援が行われていると錯覚を起こしていることはないだろうか?それは、日本としての紛争後の分析手法とアプローチの方法がないからではないだろうか。事業実施においてのチェックポイント的な項目を上げて、ローカルスタッフへの心の問題や紛争解決ワークショップへの参加、対象とする地域の住民への配慮と心のケアへの取り組みなどは、紛争後の地域で開発に取り組むときにすべての事業において、取り組まなければならないアプローチである。
 平和構築事業評価分析手法は、あくまでも平和構築という分野での手法であって、それぞれの事業評価ではない。それぞれの事業がその地域の平和構築にどのように寄与しているか。これは、ODAだけでなく、民間資金においても同様である。
 (2) フィールドにおける平和構築サポート委員会の設置
 これは、上記の評価分析を行い、アプローチがどのように取り組まれているかを評価する組織である。これは、平和構築のために横の関係がもてるような活動や事業の連携なども分析し、地域ごとやセクターごとに奨励する。目的は、平和の定着につなげるべく地域の安全ゾーンをどのように構築するかである。文化的、社会的な事業が修了されるまでに他の団体との連携ができれば、その成果が継続され、活かされていく。セクター別の連携も重要になるので、包括的な情報収集と分析を行い、地方の住民からの情報や声も収集して中央部に伝える役割を持つ。
 この委員会は、中立的な立場で、政府・国連・NGOなど体制の違う組織の壁を越えた組織体制で情報の分析を行う。国連の平和構築委員会がどのような機能を持っているのかはわからないが、中立な立場で人材を構成できるのであれば、国連のリーダーシップか、またはどこかの現存する組織がリードしていく必要があるかもしれない。
 (3) 平和構築支援のためのコーディネーション機能
 包括的な平和構築支援を実施していくためには、トップダウン(行政)だけのアプローチだけでは完成しないことがわかる。ボトムアップのアプローチは、最重点課題である。また、これは、紛争当事国の問題だけでなく、支援する側の取り組みにおいても政府とNGO、また研究機関などとの連携が重要である。これは上下関係ではなく、対等の立場で役割の違う組織が連携するというものである。
 複雑で変化の激しい現代社会の中で、日本の指揮命令手続きによって運営される垂直的な官僚システム、業務的な制約、内部志向の文化などによる行政システムだけで、どこまで早い時代の流れに対応できるか?紛争後の状況は様々な面で移り変わりが激しい。その流れに対応できる体制が必要である。
 現在、米国では、連邦政府の多くの取り組で、「ネットワーク・ガバナンス」(Governing by Network)というモデルが導入されつつある。オーストラリアは、福祉への取り組みの中で、個人を依存状態から自立に導くために、何百もの民間・非営利組織に依存してきている。カナダでは、緊急事態への準備を行う省庁を、ネットワーク型組織モデルが計画されている。
 平和構築の包括的なアプローチを完成させるためには、現地の体制も必要であるが、日本の支援体制の仕組みを考え直す必要がないだろうか。違った体制の組織が連携して対応するシステムが導入できないであろうか。USAIDFEMAなど、緊急な対応が必要な場合は、特に、この政府や民間の横の壁を越えたネットワーキング的な取り組みが始まっている。
 ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、ある種NGO、政府、企業のネットワーキングに似たものであり、緊急な出来事に対応していることは評価できると思う。しかし、日本のNGOの役割がODAの1%にも満たないのは寂しいものである。
 私が20年ほど前に、ネパールで経験した仕組みのような、日本政府または民間のファンドで、大学研究機関が平和構築の手法を研究し、日本のNGOがローカルNGOと連携し、サポートするというシステムが構築されるのはいつのことになるであろうか。現時点で、政府内の省庁間のネットワーキングが難しい現実を見る中で、日本は、実際的な取り組みが難しいような気もするが、日本の国内災害という緊急性を要する出来事にも今後対応していくためには、早急に、このネットワーク・ガバナンス・システムを導入するための研究がされる必要がある。
 平和構築のために、日本として何ができるのかの実際的な研究がされる必要があると感じている。他のドナー国では、想像以上に長期的な視野で、現場に根ざしたアプローチを民間と現場のキャパシティと連携して実施している。1,2年の事業で平和を構築することは不可能である。長期的な視野で、民間、政府、大学・研究機関が協力して、その垣根を取り払い連携していくことが必要である。また、下からのアプローチ(ボトムアップ)と上からのアプローチ(トップダウン)が連携できる環境を整えていくことが平和を構築するうえで必要である。
 この東ティモールの子供たちの上に本当の平和が来るのはいつのことだろうか。
一日も早く世界に平和が構築されることを期待する。

東ティモールのタイス売り場の女の子

 

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2007年5月28日掲載
担当:中村、菅野、宮口、迫田、藤澤

 



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