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小林 徳光さん
国連開発計画(UNDP)南部スーダン事務所
調達供給管理専門官

 

小林徳光(こばやし・とくみつ):長野県出身。東北大学大学院国際文化研究科にて修士号取得。1996年より(財)日本国際協力システム(JICS)にて主に紛争・災害後の国を対象とするプロジェクト管理・公共調達管理に携わる。外務省、JICAへの出向後、2004年〜2005年JICSアフガニスタン事務所次長。2007年より現職。

Q. 国連で勤務することになった理由ときっかけを教えてください。 

大学では工学部エネルギー資源工学科というところにいて、濃度の薄いガスを燃やす機械の開発などをしていました。大学院では国際文化研究科に進んだのですが、日本と東アジアの鋳造産業を比較する、というテーマで研究していたので、あまり国連や開発という分野とは関わりのない世界にいました。ただ育ったところに青年海外協力隊の研修所があって、小学校の社会科見学で研修所に行ったことがあったんです。就職を考えるようになったとき小学校のころ見た協力隊を思い出し、普段ではあまり行けないようなところに行って、現地の人と仕事をできるのかなと、それだけのイメージで日本国際協力システム(JICS)に入りました。

JICSのキーワードは「調達」ですので、そこで初めて現在の仕事につながる分野に入っていきました。JICSは基本的に日本のODA、それも二国間援助の支援を目的とした団体で、そこで相手国との契約をもとに、物やサービスを調達する仕事をしていました。JICSには11年3か月勤務しましたが、2004年〜2005年にアフガニスタンに駐在した以外は、東京を拠点に出張でいろいろなところに行く、という形態をとっていました。2002年以降はアフガニスタン及びイラクの復興支援、パキスタンの地震後の復興支援など新しい分野の仕事もするようになり、非常に貴重な経験になったと思います。

そのほかに外務省本省とJICA本部に出向する機会もあったので、JICSにいる時とは違った側面を見ることもできました。それまで二国間援助という枠と調達というテーマで仕事をしてきたのが多国間援助にも関心が出てきましたし、調達ではない部分にももっと広げられないかな、という思いがあって、それでだんだん国連も含め違うところで挑戦したいと考えるようになりました。

その時にはJPOに応募できない年齢だったので、国連に勤務された方にアドバイスを頂いたり、ホームページを見たりして一般公募に出たポストに応募し、今のポストに採用されました。国際機関でインターンをしたことも留学したこともなくJPOで採用されたわけでもないという点では、多くの方が国連に入るルートとは若干違ったかもしれません。

Q. 現在携わっておられる仕事について教えてください。

私がいる部署は「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)(注1)」のプロジェクトを実施していて、私はその中で調達を担当しています。主に四つの担当業務があって、一つは、医薬品、医療機材、それからコンピューターや車など、常に各事業で必要とされる物資を国際競争入札を経てジュバの倉庫まで持ってくる調達手続です。

二つ目は供給網管理(supply chain anagement)です。物資は各州にあるプロジェクト実施地域に納入するのですが、医薬品の場合は使用期限があるため、一度にまとめて納入することができません。医薬品が期限切れにならないよう、また継ぎ目なく届くようジュバで在庫を管理し、現場から報告をもらってまた発注をかける。それが一つのサイクルになるように管理しています。

三つ目は、この世界基金のプロジェクトを現地で実施するNGOを選定することです。これはサービスの調達というカテゴリーに入ります。四つ目は、プロジェクト実施に欠かせない専門的な技術を持った、個人コンサルタントの選定です。これもサービスの調達の一環です。実際には税関まで走っていったりとか、空港に行って荷物を降ろしたりとか、そういう仕事もたくさんありますけどね(笑)。

Q. 日本の組織から国連に移られて、国連ゆえの魅力というのは何か感じていらっしゃいますか?

特にこの事務所は国際職員が多いのですが、世界中から来たいろいろな国籍の職員が勤務しているというのが魅力ですね。「文化が違うな」と思うところがある一方で、「あ、結局一緒じゃん」と思うことも結構多いので面白いです。

Q. 国連で働き始めて、どのようなことがたいへんですか? 

もともと私のポストは前任者がいなかったんです。プログラムの滞りを改善するために新しくできたポストで、まだ始まったばかりなので、やることが日々、山のようにあります。

たいへんなのは、やはり何事も円滑に動かない(笑)。一つひとつフォローしなければいけないし、仕事の量も全体的に多いです。調達も物流も、ここ南部スーダンは他の国に比べて難しいところがあるので、たとえば書類が整うのにも時間がかかりますが、では書類が整えば物資が円滑に流れるかというとそうでもないし、手がかかります。

また、以前は南部スーダンにプロジェクトの物流拠点がなかったので、物資を届けるのがすごくたいへんでした。物資をまず、例えばケニアに送る。そのための手続をすべてやって、それからその物資をケニアからスーダンに送るために、同じような手続をもう一度一生懸命やるという、二重の手続きが必要でした。私たちの拠点が最初からここにあれば、ケニアは通過点に過ぎないのでもう少し楽だったと思います。物が止まってしまった場合、一度止まった物をまた物流に乗せるのも、ものすごくたいへんでお金もかかります。何か月もモンバサ(注2)で物が止まってしまったとか、苦い経験もありますね。

Q. 今後どのような分野でキャリアを目指される予定ですか?

国連にはプログラム(専門分野毎のチーム)とオペレーション(人事、財務、調達、ITなど)という分類があります。日本の組織で言う業務部と総務部に置き換えて考えると分かりやすいと思います。JICSでは組織の目的が調達なので、自分で案件を担当していた時は、国連でいうプログラムに近いようなことをやっていました。ところがUNDPでは、調達は完全にオペレーションの一部なので、自分でプロジェクトを管理するというよりは、プロジェクトの特定の部分だけに特化して仕事をする感じになります。「仕事の幅を広げたい」といって転職してきたのですが、国連でポストを取っていくには、「自分はこういうことができます」と言えなければいけませんし、「調達という経歴があります」というだけでは限られた分野でしかアピールできなくなってしまう。調達だけに留まらず将来的にどう広げていくか、考えているところです。

Q. 現在取り組んでおられる分野で、日本ができる貢献についてどうお考えでしょうか?

日本の組織であれどこであれ、国際調達についての基本的な考え方というのはそれほど変わりません。むしろ日本の方がプロジェクトはきめ細かいので、日本でそのような経験や知識を持っている人が国連などに入れば、絶対に貢献できる、よい仕事ができると思います。あとは組織ごとにルールやガイドラインがありますから、いろいろやってみて経験値を上げていくしかないんだと思います。

Q. 小林さんは、南部スーダンやアフガニスタンなど、仕事面でも生活面でも厳しい環境で仕事をされてきていますが、そのことについてどう思われますか?

しんどいときもありますが、その国にとっての貴重な時期を肌で体験させてもらっているというのもあります。それを新聞などで見るのではなくて、自分の目で間近に見られるということは、すごく楽しいですし、やりがいを感じますね。

Q. そのような環境でやりがいをもって仕事を続けていくのに必要な資質とは何でしょうか?

あまり細かいことでくよくよしないことかな。あとは健康で、明るいこと。環境への順応性があるとか、どんな人ともコミュニケーションをとれることも重要だと思います。

Q. 物事が動かなかったりして、ストレスが溜まることもあるのではないかと思いますが、小林さんのストレス解消法は?

仲の良い人たちとお酒を飲みながら、わいわいやって気を晴らすことですね。ここでは特に、それしかやることもないですから(笑)。あまり閉じこもらないで外に出てストレスを発散させるようにしています。

Q. 最後に、グローバルイシューに取り組むことを考えている人たちへ贈る言葉をお願いします。

やはり自分がどういう分野で仕事をしたいかが大事だと思うんです。たとえば、国連で働くことが目標になってしまうのではなくて、どういう仕事をしたいのか。また若いうちは、「僕はこれしかやりません」と狭めすぎてしまうのはもったいないと思っています。「あまり関係ない仕事だな」と思うことが目の前に来るときもあると思いますが、これも何かの縁だと思って一生懸命やっておくと、将来どこかで役に立つことがあると思います。引き出しがいっぱいある方が魅力的ですよね。

それから国連というのは、新人教育とか、将来を考えた人事異動という考え方は少ないと感じているので、一定期間の社会人経験は非常に役に立つと思います。

もう一つは語学です。私は1か月ほど海外の語学学校に行ったことがあるくらいなので、非常に苦労しています。自分の言いたいことは単語を並べていれば何とかなりますが、説得力のある議論や文章作成が弱いので、それは本当に早いうちからやれれば良かったと思っています。ですからこれから世界を舞台に活躍することを目指す人は、早い段階から語学をしっかりやって、言語を二つ、あるいはそれ以上習得すれば、選択肢も広がると思います。 


(注1)開発途上国における三大感染症(エイズ、結核、マラリア)の予防、治療、ケア等の対策を資金支援する目的で2002年1月に設立された基金。本部ジュネーブ。これまで世界の140か国に対し149億ドルの資金の供与をコミットしている。

(注2)ケニア南東部の港。

(2009年2月8日、ジュバにて収録。聞き手:清水和彦、国連難民高等弁務官(UNHCR)ジュバ事務所渉外官、広島平和構築人材育成センター研修員、幹事会で広報担当。写真:阿阪奈美、UNHCRジュバ事務所保護担当官補佐。ウェブ掲載:田辺陽子)


2009年4月18日掲載

 


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