第1回 小西 洋子さん
UNDPベトナム事務所
略歴:こにし・ようこ 大学卒業(国際関係/国際法)後、日本およびカンボジアでボランティア活動に従事した後、イギリスにて社会開発の修士。JICE研究員としてJICA調査研究課にて各種国別・分野別援助研究会の事務局およびタスク(1998-2000年)、在フィリピン日本大使館経済班専門調査員として草の根無償を中心としたNGO支援および連携の促進、ODA広報等(2001-03年)。外務省、JICA、JBICで短期の仕事を経て、2004年9月よりUNDPカンボジア事務所のGovernance ClusterでGovernance Specialistとして勤務。(写真:手前左が小西さん)
カンボジアに着任して10ヶ月が経とうとしています。今エッセイを書いてみて、随分滞在しているのに最近来たばかりのような気がまだしています。
もともとは地方分権関連をやるはずだったのですが、ナショナルオフィサーのリクルートメントと重なったりして、現在、援助協調関連、情報アクセスと市民参加の促進、公務員制度改革(Public Administration Reform)、ICTと開発、マイクロファイナンスといったところを担当しています(担当分野は事務所のニーズやタイミングによって流動的です)。
来た当初はあまり仕事がなく、事務所で関連ペーパーを読み、マイクロファイナンス・イベントの調整を通じて事務所でのラインや仕事の仕方を学ぶという感じでした。11月にNY本部で短期研修を受け、その前後から、援助協調関連の引き継ぎを受け、ちょうど大きく動いていた調和化の流れになんとかついていく一方、UNDPが政府の援助調整機関(カンボジア開発評議会)に対して行っている支援プログラム[i]の年度評価の実施、2005年の活動計画づくりを政府機関に派遣されているアドバイザーと喧々諤々と行いました。私自身はこれまで調査やfundingする事業の審査・モニタリングを中心と仕事をしていたので、このように技術協力を実際に動かすのは新鮮かつ大変であり、まさにOn-the-job Trainingという感じでした。
2月にはローカルNGOが実施するICTを活用した障害者の雇用創出モデルの拡大支援[ii]の引継ぎを突然受け、同事業のスタディを精査・完成させるとともに、(同事業は本部が管轄する予算のため)NYとの予算の繰越のやりくりを行い、NGOに対しては事業終了の仕方を伝え、3月には事務所が外部委託する会計監査に突入(しかし、自分もよく分かっていないので、一生懸命UNDPの規則・手続きを勉強する)。その一方、よりガバナンス面を重視した「情報アクセスと市民参加の強化[iii]」という新規事業の立ち上げで、予算計画を立て、関係NGOと協議し、コンサルの公募を行い、同分野を勉強するとともにUNDP-APDIP[iv]が支援するIT政策にコメントし、公務員制度改革では、政府とドナー共同のテクニカルワーキンググループに参加して公務員制度問題について勉強するとともに、支援のための他ドナーとのコストシェアリングを検討するといった業務を行っています。
私はUNDPがマクロとミクロをつなげるところ、政策支援やアドバイスをしつつ、草の根で革新的なパイロットを実施しているのを魅力と感じて入ったのですが、こういったことをまとめるプログラム担当[v]についてみて、うまく頭の切り替えと時間の活用をすること、UNDPのモダリティ[vi]と手続きをよく理解し早く慣れること、またよく明示されていない事務所内の仕事の流れの把握とオペレーション担当とのコミュニケーションが重要だと感じています。幸か不幸か私はほぼ全ての異なるモダリティに携わり、調和化の流れでカンボジア政府のオペレーションガイドラインづくりに関わっているので、手続き面について実施と理論の両面から勉強させてもらっています。他方、透明性の確保の点から細かくオペレーション担当(調達・出納・契約等)が分かれており、担当者の役割や仕事の流れと必要手続き・書類を把握するのには、うちの事務所が交差点をはさんで4つの建物に分かれていることもあってなかなか大変でした。また、私が扱う事業のいくつかはハイレベルなイシューを含むため、バランスを保ちつつ事務所上司とアドバイザー両者を補佐・提言することが重要で、そのために情報収集・調整・専門分野の知識を深めるなど自己研鑽することが必要だと感じています。
他方、事務所運営で日本の組織と違って面白いと思うのは、office retreatとlearning sessionです。Office retreatは組織の運営見直しを行う機会を指し、数日、スタッフ全員が職場を離れてホテルで缶詰になって事務所業務の効率性向上やコミュニケーション改善のために組織の強みや弱みをいろんな側面から検討し、提言や行動計画をつくります。UNDPのように現地事務所にかなり権限が委譲されていて、事務所レベルで事業の形成・実施・フォロー・政策提言などを行っている場合、オフィサーの能力強化や組織内の迅速な実施体制が重要であるため、こうした現地組織の強化の機会が重視されているわけですが、それに加えて国際機関というマルチカルチャーで人事異動が多い環境での意思疎通の強化、カンボジアのように過去の経緯からナショナルスタッフがまだ十分育っていない中では、office retreatは事業実施の時間をとるけれども意義は高いと感じます。また、UNDPではマネジメントのサポートと見直しをするため、職員有志によるChange Management Task Forceづくりが奨励されており、私も参加して昼食の時間にretreatのデザイン等をしました。
また、learning sessionは現在の代表のアイディアなのですが、毎週金曜午後に90分、現地を訪れている短期アドバイザーに専門分野やプログラムの説明をしてもらったり、各プログラム担当が研修結果を発表したり、新規分野・案件の発表とブレーンストーミングなどをしたりします。普段はお互い何をやっているのかよく分かっていませんが、こうした機会に他の担当のプログラムについて学んで議論したり、自分の分野や成果をまとめ発表するいい練習の機会になっていると思います。
<注>
[i] UNDP Support Program for Aid Coordination and Partnerships (2001-05)。実施主体はthe Cambodian Rehabilitation and Development Board at the Council for Development of Cambodia (CRDB/CDC)。
[ii] Using ICT in small scale business to create employment opportunities for disadvantaged groups in rural Cambodia。資金はThematic Trust Fund for ICT for Development(日本支援)による。スタディはon-line toolkitとしてウェブに掲載。http://www.un.org.kh/undp/ict4dToolkit/default.htm
[iii] Strengthening Access to Information and Civic Engagement through Community Information Centers (CICs)。資金はDemocratic Governance Thematic Trust Fund(NZ支援)による。
[iv] APDIP (The Asia-Pacific Development & Information Programme)はUNDPのITを専門とした地域プログラムでバンコクに事務局がある。
[v] UNDPでは事業担当をprogramと呼び、総務・契約・調達などを行う人々をoperationと呼んでいる。
[vi] ここで言うモダリティは日本ODAのような無償・有償・技術協力ではなく、実施主体によるもので政府機関主体(National execution: NEX)・NGO主体(NGO execution)・事務所直接実施(Direct Execution: DEX)の違いを指す。NEX・NGO実施の場合、プロジェクトマネジャーおよび実施は政府/NGO職員あるいは採用された調整担当になり、プログラム担当はプロジェクトのモニタリングを行う立場となるが、DEXの場合はプログラム担当自身がプロジェクト・マネジャーとなる。その他に、プログラム担当は事務所やknowledge networkでの担当分野の知識・経験の共有・提言、新規案件の開拓、他ドナーとのパートナーシップづくりとresource mobilizationが期待されている。
担当:粒良