第11回 成田 詠子さん
UNDP フィジー・マルチカントリー事務所 常駐調整官アナリスト
略歴: なりた えいこ 東京都生まれ、埼玉県育ち。コーネル大学都市計画部卒業。ハーバード大学大学院都市計画修士修了。千葉大学自然科学研究科博士課程修了。マサチューセッツ州政府都市開発コンサルタント、ニーダム市都市計画部都市プランナー、国連地域開発防災計画研究員、UNDP東京事務所プログラムアシスタントを経て、2004年度JPO試験に合格し2006年より現職。
<UNDPフィジー事務所での職務>
私は、2006年3月初旬に国連開発計画(UNDP)フィジー・マルチカントリー事務所(Multi
Country Office)にJPOとして赴任しました。ここでは、現在、常駐調整官アナリスト(Resident Coordinator
Analyst) として働いています。
ご存知のように、多くのUNDPカントリーオフィスでは、UNDP常駐代表(Resident Representative:RR)が常駐国における国連システム全体の開発活動の常駐調整官(Resident
Coordinator:RC)を兼務しています。これは、国連事務総長が1997年に国連改革の一つとして提言した結果で、主に、各国における国連機関間の活動の重複を避け、援助国の主要開発問題に効果的に取り組むため、各国で国連機関の間の調整を行なう目的のもと設置されたものです。私はそのようなRCの仕事をサポートする仕事をしています。そうした中にあって、UNDPのみならず、RCシステムをサポートする立場にいるものとしては、UNDPを「特別扱い」することは避け、フィジーにある国連全体の仕事をサポートする体制を常に心がけています。
もちろん、UNDPはこれまでRCシステムを率先してリードしてきた立場にあり、多くの国においてRRがRCを兼務している以上、RCとUNDPとの関わりは自然と他の国連機関よりも多くなるかと思います。これについては、国際レベルで国連改革の一環として活発に議論されており、最近でも、一貫性パネル(High Level Panel on Systems Coherence)によって報告書がだされています。ですが、この報告書でもRR とRCシステムの立場的な矛盾は解決されず、引き続き本部レベルで議論を行うことになっています。このジレンマに対しては、RRとRCシステムの棲み分けをめぐる問題が本部レベルで解決されるまで、現地レベルではなるべく最もフェア、かつ開発に効果的な活動を推進する努力を続けることのみだと思っています。
そのような中、フィールドレベルでRCオフィスの仕事をすることは大変良い経験になっており、開発の仕事を新たな視点で見られるようになったと思います。特に、国連改革がここ数年、大きな波となって国際社会を覆っている現実を、自分が直接に、しかもフィールドレベルで、体験しているという実感をもてることに大変満足しています。
<開発援助調整とRCオフィスの役割>
国連改革の一環として挙げられている援助調整の仕事を推進するということが、フィールドレベルで具体的にどのような仕事になるのかということを一言で説明することは非常に困難です。漠然とした説明になりますが、一つは、本部レベルから発信される援助調整の様々な宣言や助言などを現地で実現する仲介役をRCオフィスが担っているということです。また、上にも書かせていただきましたが、ここ数年、国連は全体的に効果的な開発を推進するために様々な開発マネージメント改革を宣言しています。特に、開発における援助調整の調和化とアラインメント(Harmonization and Alignment)は、効果的な開発援助の要素とされています。これは、2005年のパリ・ハイレベルフォーラムでパリ援助効果宣言(通称、パリ宣言)としても採択されています。これらを実行する上で、RCは国連の援助調整官として現地の開発に取り組んでおり、私の仕事は上記のような開発援助理念と現地の援助状況を一致させる仕組みを実現するお手伝いをすることだと思っています。
<国連開発援助枠組み(UNDAF):国連カントリーチーム(UNCT)フィジーとサモア>
効果的な援助開発を忠実に実現するために、国連カントリーチーム(United Nations Country Team:UNCT)フィジーは、UNCTサモアと合同で国連開発援助枠組み(United Nations Development Assistance Framework :UNDAF)を作成することになりました。UNCTとは、ご存知のように、RCと各国連機関の代表で構成されており、UNCTが主となりその国の開発のための指針、手段などの計画策定をし、実践を推し進めることになっています。
UNDAF とは、相互補完的かつ整合性のある国連機関の援助プログラムの形成のため、国別共通アセスメント(Common Country
Assessment:CCA)をもとに、資源的枠組み、モニタリングと評価の枠組みなどを共通の目的そして時間枠で設定するプランです。UNDAFは、UNCTの方針により作成されるわけですが、現在、私の仕事の約8割はこのUNDAFに費やされています。それというのも、UNDAFは、最終的にRCオフィスが国連開発グループ事務所(UNDGO)に報告することになっているからです。
今回のように、UNCTフィジーがUNCTサモアとUNDAF
を作成することは異例のことだと思います。通常、1つのUNCTが自らの担当する国のUNDAFのみを作成するわけですが、今回、私たちが推進しているUNDAFは特に複雑な方法で作成されており、2つのUNCT(フィジーとサモア)で計14カ国を対象にしたUNDAFを作成することになりました。
なぜこのような複雑な手法を選択したかというと、以上に説明しました開発援助調整における調和化とアラインメントの理念に基づいた決断でした。もちろん、RCオフィスの立場としては、フィジー、サモアのUNCT が合同でUNDAFを作成することは非常に複雑で、時間がかかるプロセスなのですが、国連改革を忠実にフィールドレベルで反映しようという気持ちがこのような行動となって現れたのだと思います。もちろん、この手法にはリスクが伴いますので、常にリスクとメリットの双方を考えながら仕事を進めています。
<他国文化が通常の世界「国連」で働くこと>
現在、自分の仕事を通して様々なことを学んでいると感じています。仕事内容はもちろん、他国籍の人々と仕事をする難しさや喜びも常に感じています。私の場合、幼いころからいろいろな国籍の人と共に学び、大学卒業後も海外で働いていたこともあり、日本以外で働くことに対する違和感は、正直あまり感じていません。ですが、フィジーに来て再度確信したことは、どんなに小さい国でも、その国独自の文化や人種があり、それらを把握して仕事をしていくことの重要性です。そして、開発は、どんなに小さい国でも複雑な課題であり、持続可能な開発は国連の力だけでは成し遂げられることではなく、その国と他の様々なパートナーと共に推進することが不可欠だということです。
以上のように、国連で働くということは、すなわち人種や国籍を超えた範囲で働くこととなります。その中で、自分が常に心がけていることは以下の5つです。
1. 人とのかかわりを大切にすること、なるべく人との対立を避けるように努力する。小さい事をあまり気にしないこと。
2. 自己主張する前に、相手の話をよく聞くこと。
3. なるべく上司との関係をよくするよう努力すること、お互いに信頼できれば仕事がスムーズに進む。
4. 状況が苦しくなったときにこそ「笑い」を大切にすること。辛い時に一緒に笑える友達を現地で見つけることも重要だと思います。
5. 肩の力を抜いて仕事をすること。
特に、最後のポイント5番は、フィジーに来る前にUNDP東京事務所で働いていたのですが、勤務初日に弓削昭子前常駐代表から教えていただいたことで、いまだにそのアドバイスが非常に役にたっています。
最後に、国連で働くということはプレッシャーが多いことだと感じていますが、一方で、最終的には自分が根本的にハッピーかどうかということが重要だと思っています。今の上司から学んだことは、ハッピーでいるということは、自分が大切にする価値観、人、私の場合、特に家族と仕事のバランスをうまく保つことだということです。そういった意味では、今の上司のもとで仕事をすることにより、自分の価値観、友達、家族の重要性を改めて確認することができ、仕事の満足感だけではなく、それ以上に幸福感を感じさせてくれる仕事内容で、そのことに非常に感謝しています。
(2006年12月27日掲載 担当:井筒)
▲