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第18回 香坂 玲さん
UNEP生物多様性条約事務局(カナダ・モントリオール) 
ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(農業・森林・持続可能な利用の分野を担当)

こうさかりょう 東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター(REC)勤務を経て、英国イーストアングリア大学開発学大学院で修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学大学院、中央大学研究開発機構の研究員を経て、現在は国連環境計画(UNEP)生物多様性条約事務局にJPOとして勤務。カナダ・モントリオール在住。


 現在、カナダのモントリオールに事務所がある、国連環境計画(UNEP)生物多様性条約事務局(SCBD)でJPOとして派遣されております。先進国での勤務ということもあり、本コラムの他のご専門家によるフィールドからの発信とは大分異なりますが、環境条約の交渉の現場においても南北問題は大きなトピックにもなっています。


1. 条約事務局の活動

 業務の概要としては、条約の目的に関する各国の実施状況を把握し、何か困難や問題がある場合にはその原因の特定に当たります。原因が特定された場合、締約国会議などに報告を行い、締約国が能力開発などの解決に関して合意に至ったならば、その実施に向けて協力します。条約事務局自体は技術協力等の「実施機関」ではなく、あくまで調整役に徹しています。
 条約は1992年のブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議、いわゆる地球サミットで採択され、1993年に発効しました。我が国も加盟しており、2007年7月、現在ECを含めて190の国と行政体が条約の締約国となっています。具体的には、以下の条約の三目的に沿って活動しています。

(1) 地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること
(2) 生物資源を持続可能であるように利用すること
(3) 遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること

 
 保全や持続可能な利用については、比較的分かりやすいのですが、三番目の利益の配分を巡っては、南北が対立してきた経緯があります。自国の生物資源が収奪的に利用されることを恐れ、生物資源利用の対価を求める発展途上国と、経済・貿易・特許制度への障害となることを嫌う先進国が対立してきました。例えば、米国も三番目の目的が無制限な技術移転につながる恐れがあるとして、条約に加盟していません。具体的な国際的制度については、2010年を目処に交渉が続けられています。

 上記の三目的を実施していくうえで、その達成状況をモニタリングしていくためにも、期限をつけた目標を掲げています。通称2010年目標とよばれ、「2010年までに、生物多様性の現在の損失速度を顕著に減少させる。」という内容です。さらに2010年を国連は「生物多様性の年」とすることに定めています。2010年という年が節目の年に当たることがお分かりになるかと思います。
 開発との関係では、環境保全はミレニアム開発目標(MDG)の7番目のゴールでもあることからも、世界的な持続可能な発展に欠かせない要素となっています。条約は2010年、MDGでは2015年という期限の違いはありますが、今後は条約実施の達成状況とMDGの相乗効果やシナジーを発揮していけるかどうかが、目標達成に向けてのカギとなってきます。


2. 日常の業務

 条約の事務局では、他の皆さんのフィールドに相当するのが、専門家の部会や締約国の会議など会議場になります。その会議のロジから議事進行、会議後のフォローアップなど裏方の仕事がメインになります。
会議場以外の日々の業務としては、締約国の政府とのやり取り、パートナー(FAO、NGOなど)との連携、報告書の作成があります。分野は、森林、農業を中心に、生物多様性の持続可能な利用や保全に関する各国の政策の進捗状況を把握し、その結果を専門家会議や締約国会議で報告します。
 以上、概要だけを述べると、デスクワークを中心に整然とし、ある意味では乾いた仕事のように聞こえるかもしれません。ただし、実際には、かなり人間臭い作業も多いです。まず、会議運営では「とにかくサービス精神をもって接する」ということがモットーです。会議の進行途中で不明な点などについて文書の説明から、ロジではビザの手配のための手紙、ホテル、最新の情報に更新した文書のコピーなど様々な要望があがってくるので、適宜対処します。
 日々の業務では、連絡手段としてはメール、ファックスよりも電話が重要になります。パートナーや政府の方とは、事前に電話で確認をとってから、メールや書簡を交換したほうがスムーズになるケースがほとんどだからです。事務所内の年長の方にコツとして教わりましたが、統計的にも学術書や専門書の情報よりも行政官は同僚やパートナー組織への電話に依存する確率が高いようです。普段からパートナーの国際機関や窓口の専門官と良好な関係を築いておくことが、文書作成や共同作業に向けての円滑なステップとなります。


3. 日本の皆様との関係

 2010年という生物多様性条約にとって、節目の年に当たると申し上げました。実は、この節目の年に開催される締約国会議を、日本国政府が誘致することを2007年の1月に閣議決定しました。
 今後、条約や会議を通じて、世界の国々が生物多様性の保全や持続可能な利用に向けて、どのような活動を行っているのか、どのような事柄が議論となっているのか、特に南北の対立点となっている課題などにご興味をもっていただけることを祈念しています。
最後に、前コフィー・アナン事務局長が、インタビューで語った「サッカーのワールドカップがちょっと羨ましい理由」を引用し、結びとさせていただきたいと思います。

 @ 世界の人々が熱狂的に支持し、興奮して話題になる。貧困、環境、エイズの問題はなかなか、そうはいかない。
 A FIFAのメンバーは207に対して、国連は192  (ちなみに生物多様性条約は190です)
 B ゴールが決まる 

 MDGのゴールや2010年目標も、サッカーのように鮮やかに決めていくようにしたいものですね。

 

外務省国際人事センター JPO 体験記
http://www.mofa-irc.go.jp/boshu/Jpo_kousaka.html

フィールドに関する体験談的な書籍:私もエッセイを書いています 
「躍動するフィールドワーク ― 研究と実践をつなぐ」 世界思想社
http://sekaishisosha.co.jp/cgi-bin/search.cgi?mode=display&style=full&code=1205

 


(2007年8月8日掲載 担当:井筒)



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