ミッション後Anne-Marie Goetz と
第46回 五百蔵綾子(いおろい・あやこ)さん
ツイートオークランド大学大学院 開発センター 修士修了
インターン先:UN Womenカンボジア事務所
期間 2012年7月−2013年1月(6ヶ月間)
■はじめに■
現在、UN Womenカンボジア事務所でインターン中の五百蔵綾子と申します。11月17日から25日まで行なわれる国連フォーラムのカンボジア・スタディ・プログラム2012にも参加いたします。このプログラムを盛り上げ、またインターンを希望されている方のご参考になればと思い、カンボジアでのインターン生活をご紹介します。
■インターンシップ期間と場所■
7月上旬より2013年1月上旬まで6ヶ月間のインターンプログラムで、場所はカンボジアの首都プノンペンにあるUN Womenのカンボジア事務所です。
■インターンシップへの応募から獲得まで■
私は日本で商社を退社後、南アフリカ、モザンビーク、インド、イギリス及びニュージーランドでのNGO活動 を経て、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに関心を持ち、ニュージーランドのオークランド大学大学院で開発学を専攻しました。修士論文の研究テーマとして東ティモールの女性に対する暴力(Violence Against Women: VAW)問題の現地調査をしている間に、UN Women東ティモール事務所のプログラムの一つであるベースライン調査にボランティアとして関わったことなどを通じ、国連全体としてのジェンダー平等と女性に対する暴力撤廃 (Ending Violence Against Women: EVAW)の取り組みに関心が高まり、インターンを希望するようになりました。今年5月に、インターネットのキーワード検索でUN Womenカンボジア事務所でのインターン募集を見つけ、応募しました。幸いにも研究テーマとインターンの仕事内容が一致していたため、応募書類とスカイプ面接ではその点を強調することができました。5月下旬に採用が決まり7月上旬よりインターンを開始しました。
■インターンシップ前半3ヶ月の内容■
UN Women
UN Womenの正式名称は「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関」ですが、通常UN Women または国連女性機関と呼ばれています。ジェンダー関係の国連4機関(国連婦人開発基金(UNIFEM)、ジェンダー問題事務総長特別顧問室(OSAGI)、女性の地位向上部(DAW)、国際婦人調査訓練研修所(INSTRAW)が統合され、2011年1月より正式に活動を開始しました。UN Womenは女性と女児に対する差別を撤廃し、女性のエンパワーメントを促進し、ジェンダー平等社会を実現することをを目的としています。主な役割は、各国におけるジェンダー問題に対する施策や法整備の促進のための協力、政府間交渉による政策や規範策定の支援、国連システム全体のジェンダーに関する取り組みの主導と調整です。カンボジア事務所の優先活動分野は(1)女性のリーダーシップと参画の拡大、(2)女性の経済的エンパワーメントの強化、(3)女性に対する暴力撤廃、(4)ジェンダー平等のための政策の強化(5)女性・平和・安全に関するアジェンダの履行強化、(6) HIV/AIDS対策です。私が主に担当しているは、上記のうち(3)と(5)で、業務内容は下記の通りです。
女性に対する暴力撤廃 (Ending Violence Against Women: EVAW)
UN Women カンボジア事務所のEVAWプログラムは大幅に拡大しており、インターンもスタッフ同様に即戦力として多岐にわたる業務を任されています。UN WomenはカンボジアにおけるEVAW分野で主導的役割を果たし、政府機関や女性団体、他の多国間援助機関及び二国間援助機関など多様な機関の調整業務を行っています。具体的な支援は、@法的枠組強化とEVAWに関する国家行動計画策定、Aデータ収集と調査、B個人や市民社会組織に対しEVAW問題に取り組み、行動を起こす事を奨励するキャンペーン活動、CEVAW対策に取り組む女性団体などへのサポート、D国連女性に対する暴力撤廃信託基金によるプロジェクトへの助成です。
私は現在、2012年11月から始まる「ジェンダーに基づく暴力反対のために行動する16日間」キャンペーンを担当し、他の国連機関との調整、提案書選定、計画協定作成、及びキャンペーンに関わる一連の技術的サポート業務を全面的に任されています。また、UN Women EVAWチームの一員として、VAWに関する新しい国家行動計画や、オーストラリア国際開発庁が資金援助しているEVAWプログラムの計画策定など、今後のカンボジアのEVAWの方向性を決める重要な政策過程に携わっています。このような貴重な機会を通じ、政策策定と施行における国連機関の役割を学んでいます。
VAW国家行動計画策定のためのRBMワークショップ
女性・平和・安全 (Women, Peace and Security:WPS)
WPSプログラムは、和平交渉、平和構築、復興および紛争予防においてあらゆる側面で女性の役割を拡大をすることを目的としています。カンボジアのWPS関連業務は、現在は私が一人で担当しており、主にジェンダーを考慮した移行期の正義の推進及びWPSプログラムの戦略的計画の立案に取り組んでいます。
移行期の正義に関しては、国連女性に対する暴力撤廃信託基金が助成している「ジェンダー平等推進とクメール・ルージュ政権下での性暴力女性サバイバーの司法へのアクセス向上」プロジェクトの技術的支援をしています。クメール・ルージュ裁判特別法廷(ECCC) においてジェンダー配慮は不十分であると言われており、このプロジェクトはECCCの被害者支援部が NGOと協力関係を築き、強制結婚を含む性暴力サバイバーに対して司法及び精神・社会的ケアサービスへのアクセスを拡大することを目的としています。2012年10月に開催された「紛争下のジェンダーに基づく暴力に関するアジア太平洋地域会合」(Asia-Pacific Regional Women's Hearing on Gender-Based Violence in Conflict)はその取り組みのひとつです。私は他のカンボジア在住の専門家と共に、当会合の準備委員会の顧問として支援しました。具体的には、UN Womenアジア太平洋地域事務所と連携して、海外から専門家やASEAN政府間人権委員会(AICHR)メンバー、及びアジア太平洋地域のサバイバーや援助団体を会合に招待する際に調整役を担いました。この地域会合に合せた日程でUN Womenの 平和と安全保障のチーフアドバイザーであるDr. Anne-Marie Goetzのカンボジアミッションを遂行することができました。このことは特に、性暴力への対応に関してカンボジアの移行期正義が抱えている課題と地域や国際レベルでのWPSアジェンダ履行強化への動きと繋ぐ一歩になったのではないかと感じています。
紛争下のジェンダーに基づく暴力に関するアジア太平洋地域会合にて
ミッションの目的の一つに、WPSプログラムの戦略的計画立案に対する技術的なサポートがありました。立案に必要な助言を得るため、上記の会合以外にもジェンダーと移行期正義専門家、AICHR 、ECCC高官、国連機関との会談を行いました。他に、リーダーを目指す女性や人権、平和及びジェンダー関連の団体、さらに政府高官に対してWPSに関する国連安全保障理事会決議についてのワークショップを開催しました。これはカンボジアではまれな政府高官と非政府団体とが政治的に慎重を期して平和と安全保障テーマについて対話する貴重な機会となりました。またUN WomenはWPS プログラムとして、今後土地紛争や国境紛争などの防止、解決及び復興過程における女性の参加を促進することを掲げています。そのため、今回のミッションのプログラムに、強制立ち退きに伴い不適切な再定住地区に追いやられたコミュニティーを視察する予定を組み込みました。このようにミッションを構成した結果、私の作成したコンセプトノートの内容について有益な専門的助言を得ることができました。
強制立ち退き後の再定住地区を視察
■資金確保、生活、準備等■
費用は、現地までの航空券、ビザ、海外旅行保険を除いて、月々にかかる総額は約5万円です。内訳は家賃、光熱費、インターネット料金を合わせ2万円、食費と交通費で2万円、雑費1万円です。住居は、予めインターネットで条件に合う物件を簡単に探していたので、カンボジアに到着後すぐに現在のフラットに入居できました。
これまでの途上国での生活に比べ、プノンペンでの生活は外国人在住者が多く、不自由はなく快適です。例えば、無料のWi-Fiがあるレストランやカフェが多く、会議などにもよく利用します。また、カンボジア料理は安くておいしく、気軽に利用できる屋台は特に重宝しています。プノンペンでは、仕事の合間にクメール語のレッスンや合気道の稽古など様々な趣味を楽しめる環境も整っています。
ただ、ラッシュ時の渋滞に巻き込まれたり、治安面で夜間の一人歩きやトゥクトゥク(3輪タクシー)の利用が制限されたりといった問題もありますが、自転車を使用すれば日常生活に支障をきたすほどではありません。
JICAシニア海外ボランティアから派遣された先生が指導する合気道稽古にて
■最後に■
カンボジアにおけるEVAW分野のUN Womenの存在感は拡大しており、主導的役割を果たしてきたカントリーダイレクターの指導の下で、国家行動計画や二国間援助計画策定などの重要な過程に携われることにを大変幸運なことだと感じています。またWPSの分野では、政治的に慎重な対応が必要とされる平和と安全保障問題においてWPSのアジェンダ履行強化に関する業務を任せていただいたことは大変光栄です。グローバルWPSアジェンダを主導している方々からのご助言やご共有いただいた貴重なお話により、個人的にも仕事の上でも触発され更に強い使命感を抱いております。最後に、インターンを希望する方へのアドバイスや今後の展望については、インターン終了後改めて共有させていただきます。
(2012年11月15日掲載 担当:桐谷 ウェブ掲載:斉藤)