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「私の提言」イノベーティブな開発支援(BOPビジネス)シリーズ執筆者パネルディスカッション


槌屋詩野
JRI Europe, Ltd. /BOPイノベーションラボ運営者

白木夏子
エシカルジュエリーHASUNA代表

功能聡子
ARUN代表

中村俊裕
Kopernik共同創設者

遠藤謙
MIT D-lab インストラクター/MIT Media lab博士候補生

モデレーター:西郡俊哉
国連開発計画(UNDP)東京事務所広報・市民社会担当官

2010年3月25日(木)開催

於:ISL (東京紀尾井町)
国連フォーラム/BOPイノベーションラボ/Knotwork Café主催
ISL共催


■1■ パネリスト活動紹介
■2■ パネルディスカッション
■3■ 質疑応答

■1■ パネリスト活動紹介

 

パネリストの皆さま

<槌屋詩野さん>
株式会社日本総合研究所ヨーロッパ研究員として、2009年よりヨーロッパ(ロンドン)にてBOP市場におけるビジネスや新興国市場の調査を行っている。ビジネスと途上国との理想的な関係を求めて、日本企業の意識改革と企業内の社内起業家間のつながりの場としてBOPイノベーションラボ(http://boplabjp.ning.com/)を立ち上げた。また、BOPビジネスについて国際開発ジャーナル2009年5月号から連載している他、『世界を変えるデザインーものづくりには夢がある』(2009年10月)を監訳した。「私の提言」では第24回執筆。

<白木夏子さん>
2009年から4月にエシカル・ジュエリービジネスを展開する株式会社HASUNA(http://www.hasuna.co.jp/blog )を設立し、現在同代表取締役。ジュエリーに関わる全ての人が笑顔で輝く社会を作ることが企業理念である。会社を設立したきっかけは、ジュエリーの原材料が途上国から来ていて、その裏には児童労働や強制労働が存在することを知り、生産者も身につける人も、ジュエリーに関わる全ての人が幸せになれるようなジュエリーを販売したいという思いからである。取り組みとしては、フェアトレード素材やリサイクル素材を使用したジュエリー販売。現在はフェアトレード素材の取引量を増やし、現地パートナーと協力し、ルワンダの路上生活者やストリートチルドレンを雇用し技術支援を行いながら、商品を生産している。また、単に商品を販売するのではなく、素材が来た国の文化や、そこで生きる人々の姿もジュエリーを通じて伝えている。

<功能聡子さん>
1995年より10年間カンボジアに在住し、NGO、JICA、世界銀行などの業務を通して、カンボジアの復興・開発に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャルファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信しARUN(http:http://www.arunllc.com/)を設立する。寄付でなく、従来の投資でもない、社会的投資により、途上国の人々のエンパワーメントと持続的な発展につながる新しい開発協力のスキームを構築することを目指している。 

<中村俊裕さん>
東ティモール、インドネシア、シエラレオネ、ニューヨーク、ジュネーブを拠点とし、国連開発計画で働く。主にガバナンス改革、平和構築、自然災害後の復興、援助の効率性、国連改革などに従事する。インドネシアでは日本企業のBOPビジネスへの参入を促し支援するプロジェクトを開始した。その経験から伝統的開発援助のギャップを補完するために、国連を休職してKopernik(http://www.thekopernik.org/)を立ち上げた。私の提言第3回執筆。

<遠藤謙さん>
マサチューセッツ工科大学メディアラボ、バイオメカトロニクスグループにて博士候補。研究室ではロボット義足や歩行補助の研究に従事する。また、2008年より同大学内のD-lab(http://d-lab.mit.edu/)にて講師を勤め、その中の授業の一つであるDeveloping World Prosthetics(DWP)を担当している。DWPでは、Stanford UniversityやNorthwestern Universityなどの大学やインドのJaipurfootと協力し、途上国向けの義肢装具技術の開発を行い、毎年夏にNew DelhiやJaipurのクリニックでインターンし、技術の普及に勤める。義肢装具研究のきっかけは、親友の病気による大腿部切断であった。その後、社会の中でエンジニアやデザイナーが果たすべき本来の姿を追い求めている。

・モデレーター活動紹介
<西郡俊哉さん>
国連開発計画(UNDP)東京事務所広報・市民社会担当官。03年UNDPモンゴル事務所に移り、民間産業振興官として零細・中小企業支援、ICT、マイクロファイナンスなどを担当。06年モンゴル通商産業省国際アドバイザー。07年国際労働機関(ILO)アジア太平洋地域事務所にて、地域経済振興専門家。同年9月より現職。広報のほか、途上国における日本企業、市民社会との連携を担当。

■2■ パネルディスカッション

 

西郡さんが名モデレーションで終始会場の笑いを誘う

 

1. 開発とBOPビジネスとの関係とは?

(中村さん)国連や国際機関による開発とBOP向けのビジネスの関係を理解するためには国連や国際機関の「強み」と「弱み」を考えてみるとよい。

国連という組織は、政府が集まって構成されている国際機関であるため、中立性が担保され、被支援国家における信頼性が高い。その結果、国家開発政策作り、選挙支援、省庁改革など途上国政府の最重要事項やセンシティブな問題に直接取り組むことができる。国内紛争や専制政治により民主国家の枠組みが成立していない国の発展状況を考えれば分かるように、このような支援は非常に重要で、今後も国連がさらに活発な役割を果たしていくべきだ。

一方、政府だけを支援・改革しても、被支援国の一般市民の生活が即時に改善されにくいというのは明らかである。先進国でも同じで、政府がすべての問題を解決出来ると期待するのは非現実的である。よって政府が更に大きな役割を果たすことを期待しつつも、社会の他のアクターの役割を促進する必要性がある。また、国連という組織は官僚的である故、既存のアプローチに固執する傾向があり、結果的に革新的な新しいアイディアは生まれにくいという文化が存在する。このことにより、貧困という長い歴史を持つ問題に対して、より革新的な対向策が生まれにくくなっているのも事実だろう。

BOPビジネスは、実際に貧困層に位置する人々の生活に直接影響を与えるような製品やサービスを提供するという意味において、また、今まで開発援助に関わってこなかったリソースを活用するという意味においても、伝統的な国連や国際機関の支援を補完する関係にある。閉ざされた援助の世界に、新しいアクターを取り込むことにより、より革新的なアイディアをスパークさせ、より効率的な援助の方法を生み出すことができれば、途上国の貧困問題も加速度的に解決されるはずだ。

(功能さん)これまでの援助は、政府に対し過剰な期待をかけすぎてきたのではないか。途上国の貧困を大きく改善するためには、政策や制度設計、行政官のキャパシティビルディングなど従来二国間援助で得意としてきた分野の他に、草の根の人々自身の手で生活を改善する試みが不可欠である。また、このような試みを外からの支援に依存しないで持続的に行うことが大切だ。草の根の人々の生活に深く関わるビジネスは、自立した経済活動を生み出す大きな可能性がある。

(白木さん)援助業界では既存のアプローチから抜け出せずに、同じ業界の人達の中で、同じことが繰り返されているように感じた。

2. パートナーシップと対話の重要性

(槌屋さん)パートナーシップの問題点は、「パートナーシップ」という言葉の意味が曖昧なことが多いことである。NGOと企業が連携する際に、自分の立場から見た提案ばかりして相手側の考えを理解していなかったり、プロジェクト自体の目的が不明確であったりすることが多い。このような問題点を克服するためには「対話」が重要である。パートナーシップにおける「対話」とは、相手側の考えや状況を理解することを第一に優先し、それを基盤に自分たちの提案を相手側とすり合わせていこうという努力であり、そこから得られる刺激が収益性とは異なる副次的な効果をもたらす。目線を変え、立場を変え、違うものの見方をすることで、その組織内にはなかったアイディアが醸成され、イノベーティブな発想が生まれる。

(遠藤さん)できあがったものをただ現地の人に見せても、いくら優れたものであったとしてもなかなか受け入れてもらえることは少ない。ものを開発する過程で、ものを作る前や作る段階では、現地の人たちと直接対話をすることが非常に重要である。なぜなら、対話から現地の人々の意識が「作ってもらっている」という意識から「一緒に作っている」という意識を持つようになり、現地の人々との信頼関係を構築することができる。また、適正技術とは現地のニーズから生まれるべきもので、対話なき技術は結局役に立たないことが多い。

(西郡さん)貧困層を対象としたビジネスというと「何かを与える、してあげる」と思われることが多いが、民間産業振興官としてフィールドにいたときの経験からいうと、本当に現地で必要なもの、役立つものは現地の人々が知っていて、私たちに何ができるのかを教えてくれた。そこで必要なのは大切なのは現地の人々の話を聞ける対話力と、それを具体策にできる企画力、そして現場で感じた思いを力に変えていく共感力だと思う。

(白木さん)自社のフェアトレード商品を日本で販売するために、ルワンダの現地にいる海外協力隊の方やBOPビジネスに興味を持っている方に積極的に連絡を取っていた。素材調達や生産は多くの人との繋がりによって成り立っている。さらに、パートナーシップにおいて重要なことは「楽しむこと」である。BOPビジネスにおいては、自分自身が「楽しむこと」、そして現地の人々と楽しく働けることが大切である。「楽しさ」がビジネスに関わる全ての人の高いモチベーションとなり、BOPビジネスの訴求力となる。

3. 眠っているリソース(大学とのパートナーシップの重要性)

(遠藤さん) 現在、世界にはまだまだ「眠っているリソース」がたくさんある。たとえば、様々な分野を深く研究している大学または大学院に所属する人材と技術である。大学では、従来の学問の応用であるという固定概念があり、非常に高度な研究をしていても、それが社会で十分に活用されていないことが非常に多い。これは論文の数や参照数を研究者の評価基準とするシステムの負の影響である。社会に起こっているたくさんの問題と科学技術開発が切り離されてしまっているのだ。この現状を変える手段の1つとして、MITのD-labのような国際開発と適正技術を組み合わせたカリキュラムを日本の大学でもはじめるべきだ。D-labではものづくりの過程をまなぶだけでなく、フィールドトリップを通して、自分が作った技術がどれだけ途上国の人々の生活を変えることができるかということを経験できる。これは座学中心のカリキュラムでは学ぶことのできないことである。途上国で自分たちが作ったものを利用してみるとはじめて自分たちの研究の意味が理解でき、新たなアイディアも生まれる。こうした教育カリキュラムの変更によって、研究者がもっとフィールドを意識して研究ができるようになれば、「眠っているリソース」を今以上に活用できるようになる。さらには、国際的な社会問題に取り組む人材育成にもつながる。

(中村さん)また、現地では必ずしも高度な技術しか活用されないというわけではなく、ローテクでも直接現地の人々の生活に影響を与えることができる。そのために、ローテクでもダイレクトに現地の人々の生活に影響を与える商品作りが重要である。大学での研究によって作成した製品が研究に終わらず、それを伝播するアクセスがあればもっと眠ったリソースを生かすことができるだろう。

4. 途上国を市場としたBOPビジネスについて

(功能さん)カンボジアでは、起業する人が少なく中小企業も少ないと言われている。しかし、最近、BOP起業家によるビジネスの萌芽があちこちに見られている。例えば、現地の農民組合とNGOが中心となり、農村開発プロジェクトから始めて、生産性の向上、マーケットの開拓、さらに村の経済活動を活性化していこうという事業がある。現地NGOならではのネットワークを生かして、全国規模にリーチを広げている。多国籍企業から見たらNGOの事業規模は小さいかもしれないが、現地のネットワークを活用することで新しいビジネスのチャンスがある。そして、そのようなビジネスと日本の中小企業や技術を持った大学との連携の可能性も十分あると思う。

(遠藤さん)これまで生み出してきた技術をみた方々に、起業を持ちかけられることがよくあったが、しなかった。その理由は、人を救う技術を生み出すことが自身の目的であって、ビジネスに全く興味がないからだ。その一方で、技術を広めるためにビジネスの力が必要となることも理解しており、Kopernikのような信頼できるパートナーと協力し、新しい普及方法を提案している。

(白木さん)途上国の人たちとパートナーとして、「現地の人たちと一緒に何かをしていく」という気持ちが大切。BOPビジネスに限らず対等なパートナーシップこそが最も重要である。

■3■ 質疑応答

 

活発な質疑応答

■Q■ 国連が行っている投資の定量的な評価基準を具体的に教えてください。

■A■(中村さん)国連の支援プロジェクトの評価は、かつてはいくらお金を獲得したか(input)が評価の大きな基準となっていたことは否めない。しかし現在では、「結果重視のマネジメント」の導入が進み、プロジェクトの成果(output/results)や援助の効率性に重点が変化してきた。とはいえ、国連などの活動が実際に人々の生活にどの程度の影響を与えているのかを科学的に実証することは未だ難しく、今後もさらなる努力が必要だ。

■Q■ ソーシャルビジネスとBOPビジネスとの違いは?

■A■(槌屋さん)ソーシャルビジネスとBOPビジネスについて様々な定義が置かれているが、両者を区別する明確な線引きはなく、ソーシャルビジネスのBOPビジネスが含まれることが多い。中でもソーシャルビジネスには「Doing goodビジネス」という定義と、ムハンマド・ユヌス氏が説くような「得た収益から次の社会的事業へ再投資する仕組み」という定義の二つがあり、特に後者はキャッシュフローを生まなければ意味がない。したがって、BOPビジネスではキャッシュが回ることを中心に考えなければならない。ソーシャルビジネスやBOPビジネスが一体何を志向するビジネスかと考えると、本来、会社が果たすべき社会の中での役割を考えなければならない。社会の一部が富を蓄積するのでもなく、一部の問題だけが飛躍的に解決するのでもなく、「全体解」を求める資本主義であると思う。そして、全体の解としての社会が循環し、キャッシュフローを生み出るということが重要である。

■Q■ BOPビジネスは、日本を出て、途上国の課題に挑戦することだと思う。日本から世界を変えていくなかで、政府に何を求めているか?

■A■(遠藤さん)現在、大学内に新しいことを始めるための金銭的、人材的リソースがない。その中でも熱意をもって、教育的、社会的にも意味のあるようなことを始めようとしている人もいる。この活動に対して政府からの公的資金援助があると活動の幅が大きく広がると思う。

(中村さん)イノベーションファンドを設立し、新しい開発援助にチャレンジする人への支援を始めることを提案したことがある。挑戦したいけれどなかなか一歩を踏み出せない人の後押しや、リスクを取って行動をする人を支援するような仕組みをつくることは、重要なことだと思う。

■Q■  BOPビジネスは金もうけのビジネスに代わってしまうのか?

■A■(功能さん)金もうけが悪いのではなく、お金が循環するようなサイクルを作り出せたらいいと思う。お金を使うということは未来を作ることだからである。

(白木さん)お金を富があるところから富のないところに流していくことが重要である。また、一番重要なのは、お金ではないということを、HASUNAのビジネスを通じて実感している。一番大事なのは「共感力」だ。例えば、もの作りをアフリカのパートナーたちとしていて、良いものができたときに一緒に喜ぶことであり、百貨店で販売していて、お客様たちがHASUNAのジュエリーを手に取り、話を聞いて感動してくださることである。こうした共感の連鎖が人を呼び寄せていく。この「共感力」が、BOPはじめソーシャルビジネスの成功の鍵だと思う。

議事録担当:中本優太

ウェブ掲載:斉藤亮

 



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