第4回 伴場 賢一さん
元FAOカンボジア事務所
略歴: ばんば けんいち 日本の大学卒業(社会科学)後、銀行に6年間勤務。医療系NGOにて、Program Officerとして1年間本部勤務後、カンボジア・ザンビア等で事業統括兼駐在代表を歴任(2000-2004)。2004年10月より2005年7月までFAO(国連食糧農業機関)カンボジア事務所にてFood Security & Poverty ReductionのConsultantとして勤務。現在は、JICA海外長期研修生として、イギリスLSE(London School of Economics)にてSocial Policy学部、NGO Management修士課程に在籍中。(写真左:伴場さん)
以前、NGOに勤めている際に、自分なりにNGOの活動というものを省みて、「自分達の活動のゴールが一体何処になるのだろう?」という疑問を抱き、当時WHOで勤務されていた方に唐突に「NGOと国連の仕事の違いは何でしょうか?」と言う質問をしたことがありました。つまりは、「所謂、草の根と呼ばれるNGOの活動は慈善的のみならず独善的に陥る可能性があるのではないか?」「それをさけるための方法は何であるか?」「また、日本の多くのNGOがそうであるようにService Provider[i]としてのNGOの活動には限界があるのではないか?」という疑問から発したわけですが、その方からは、「国家政策を扱っている事」と言う答えをいただきました。私の国連における仕事はまさにこの言葉を実感するものでありました。
私はFAOカンボジア事務所のFood Security and Poverty Reduction,Special Programme for Food SecurityのConsultantとして、2004年10月より昨年の7月まで約9ヶ月勤務していました。
担当事業は、日本政府拠出の国連人間の安全保障基金およびFAOの自己資金でまかなわれ、FAOとカンボジア政府・農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)が行っているSpecial Programme for Food Security[ii]でした。
事業内容については、農業水産省の管轄の下、
1)対象地域の住民を対象に参加型による、Field Farmers School(FFS)[iii]の受講者選定
2)FFSの実施
3)FFSの受講者を対象にマイクロ・ファイナンスを実施
4)対象地域全住民でのVillage Planning[iv]
のワン・サイクルを、約9ヶ月の期間に72村、3年間の間に合計4回行うプロジェクトでした。
仕事としては、公務員(National・Provincial及びDistrict Level)の人材育成及び受益者の能力向上、その中でもニーズ・アセスメントからトレーナーの確保、トレーニングの実施が主な役割だったのですが、事業全体の予算の見直しから、事業の戦略・方針への助言、関連NGOとの連携作りなどに関わりました。
国連とNGOの双方で働いてみて、特に私はいずれも現場で事業を管理する種の仕事をしていたので、どんな事が問題か、そしてその優先順位のつけ方、解決方法などに対しての考え方などについては特に変わりはないと感じました。逆に違いを感じたのはシステムの違いです。私はどうも机に座っていることが苦手でどちらかというと現場に出たい気持ちが強いのですが、既に事業全体の予算がほぼ決まっている上に、私が勤務地(Duty Station)であるプノンペンから離れるに伴い、運転手の出張手当(DSA)の予算も消費する事になり、私が外に出る回数はほぼ決められていたことから、NGOに比べ、よい言葉であれば計画がしっかりしており、また逆に言えば動きにくいと感じたことも確かであります。
また、国連で働くと言うことは縦横の両方に対してバランスを取ることが必要であり、専門的知識は勿論、高度な交渉力と管理能力が必要な職場だと強く感じました。自分の関わった仕事に大きな責任感を感じると同時に、仕事が上手くいった時は表現しがたいほどの達成感を味わうことが出来ました。
冒頭に記述した「国家政策を扱う」、これは国連が国連であるが故に現地の政府と、当事国の目標のために事業を進めていくことであり、場合によっては国民全体が受益者となると言い換えることが出来ると思います。つまり、NGOのように本部と現場、そして受益者という縦に並んだ図式ではなく、FAOの場合であればローマにある本部更にニューヨークの国連本部、担当省庁は関連する複数の省庁、そして国家政策の中では当然MDGs・PRSPに関わりを持ち、事業自体の裨益効果、そして受益者も牌が増えることにより複雑さを帯びるということです。それに加えて、NGOも国連も同じく事業を行っていることについては何の代わりもありませんが、国連の事業の場合には常にLesson and Learnが行われ、また事業活動自体が直接現場の経験となり、受益者側の声やニーズが直接政策に反映されやすいという絶対的な利点があると思われました。
この経験からこれからの課題であると思ったことが、「援助協調」についてです。援助協調の捉え方はいくつかありますが、資金の効果的な運用という側面以外にも、経験・情報の共有という効果が期待されるべきものと思います。カンボジア国内の援助協調は、各分野に分かれて作業部会が発足し、盛んに議論もなされ、その活動も多岐に渡るものではあると思います。しかしSPFSの事業の大元であるFFS自体は、収穫量増加又は収入向上の事業に類似するものであり、農村開発の事業は多くの政府系援助機関・NGOで、過去数年にわたり行われてきたものであります。同じ類似する農村開発系の事業をいくつもの団体が関わってきたとはいえ、未だ上層部の話し合いに留まっている感があり、その効果が現場のレベルまで降りてきていないというのが実感でした。
例えば、SPFS事業の一環であったマイクロ・ファイナンスの事業について、私の同僚であった農林水産省の職員にとっては、全く畑違いであることから、現地で経験の長いNGOとコンサルタント契約を結び、職員に対してのトレーニング、クレジット発生時の必要書類のフォーマット・評価システム作りなどを依頼していたのですが、このような形の協力関係を更に進めていくべきではないかと思います。つまり、実施しているNGO・国連・JICAなどの政府系援助機関のスタッフ、現地の公務員のレベルで、経験・情報を共有することにより、事業自体の質を向上させる余地が十分にあると思います。
言い換えれば、援助業界全体がMDGs・PRSPという共通の目的に向かっている今こそ、既にカンボジアでは試行されている保健セクターでのContract Project[v]のような、草の根レベルの活動から政策作成レベルに至るまで一貫したシステムを、そしてそれぞれの横のレベルでの連携を強化することの必要性が問われているのではないかと。現在は遠いカンボジアの透き通った空を思い出しながら、ロンドンの曇天の寒空の下その必要性をどうすれば実行段階に移せるかを考えています。
<注>
[i] NGOのタイプは、「Service Provider」「Advocacy」「Innovation & Monitoring」「Policy Entrepreneurs」の4つと分類される。(Najam
2002)
[ii] 参照
FAO日本事務所:http://www.fao.or.jp/Japan/mofa.html
FAO本部:http://www.fao.org/spfs/index_en.asp
[iii] 緑の革命の教訓から編み出された、農業技術の向上を柱とする事業。カンボジアでは、週一回朝8時から12時の間に各村々でDistrictレベルの職員が、現代農法(有機農業を含む)における、稲作や養鶏の方法などを実地訓練を伴いながら講義する。2004年は、稲作においては従来農法に比べ1.2倍から2倍近い収穫量の増加があった。また農業技術以外にも、ジェンダー・保健・子育てなどの講義もあわせて行われる。
参照
FAO本部: http://www.fao.org/documents/show_cdr.asp?url_file=/docrep/005/ac834e/ac834e04.htm
[iv] 農村開発事業における住民参加型の代表的な手法。SPFSでは、対象の村において30〜40名の参加者を募り、ワークショップを行う。手順は、グループに別れ地図を作成し、資源の発掘を行い、その後村単位での問題を話し合い、それに対しての優先順位をつける。その後、優先順位の高いものから解決方法を模索し、プロポーザルを事業宛に提出し、事業の承諾を得て資金を得て、村落内での個別の事業を行う。その多くは、米銀行・豚銀行など直接収入向上に繋がる事
業が多く出された。なおこの手順の中には、人材育成トレーニング的な要素も含まれている。
[v] カンボジア保健省がADB(アジア開発銀行)とローン契約を行い、その資金を元に保健行政区においての管理業務をNGOがカンボジア政府に変わって行う。NGOは入札により、カンボジア政府とコントラクトを結び、行政区における公共保健サービスの向上に努めると共に、期間内に一定の保健に関わる数値の向上、スタッフの能力向上、システムの向上などの役割をもつ。1999年から2003年まで試行的に行われ、2004年よりフェーズ1の事業が開始された。
担当:粒良