第31回 近藤 篤史(こんどう あつし)さん
ニューサウスウェールズ大学大学院(オーストラリア)
法学部国際法国際関係学科
インターン先: 国連事務局ニューヨーク本部 フィールド支援局
■インターンシップの応募と獲得まで■
私は、2009年度春期(1月〜3月)に、ニューヨークの国連本部でインターンシップを行いました。
インターンシップへの応募は、通常の公にされている国連のホームページ上から行いました。国連内部に知人がいたわけでも、大学の教授等の後押しがあったわけでもなく、あくまで個人的に応募して採用を獲得しました。
今までの国際機関におけるインターンシップ経験者の話を本フォーラム上で確認してみると、知人のサポートを得てポストを獲得している方が多いようですが、私の場合は、誰の支援も受けずただネット上から応募しただけです。ただし、これはインターンシップ開始後に分かったことですが、私のようなケースは稀な例かも分かりません。国際機関では、根回しや口利き、誰かの紹介というのは非常に重要な採用への要素のようです。
どれだけ自分のネットワークを構築し、それを有効的に活用しているかが、採用や昇進に影響するようです。もちろん、自分自身がそのポストの基準に適合しているかどうかは、最低条件ですが、数ある同じような経歴を持った応募者の中から選考するというのは、選ばれるのもまた選ぶのも難しいというのが現状だと思います。私はたまたま運良く選ばれましたが、この現実を応募前から知っていたら、インターンシップ獲得までのアプローチ方法は変わっていたと思います。誰か知り合いはいないか、または過去にした人はいないか、調べていたと思います。
次に、応募の時期についてですが、締め切りが9月20日のところを、私の場合は6月30日に提出しました。これが早いのか遅いのか、そして早く応募した方がいいのか、詳しいことはよくわかりませんが、採用の通知は、11月の上旬までには来ていたように思います。しかし、これは後ほど他のインターンと話をしてみて分かったことですが、返答の通知時期については、かなりの違いがあるようです。
インターンシップ開始直前の2週間前に合格通知を受け取った者や、開始されたあとに、追加のような形で採用された者もいたようです。基本的には、1月10日から3月13日の約2ヶ月という期間で採用されるのですが、それよりも1ヶ月も早くまたは遅くに開始する方がいました。本人の希望(個人で交渉の上)という場合もあるのですが、配属部署の要請という場合もあるようです。
そして、採用に当たって、電話面接を要求された者、私のように追加の審査等なくただ採用通知が来た者がいます。電話面接の内容については、部署ごとの専門的な質問から、多国籍な環境で働くことについての一般的な質問まで幅広く行われるようです。一般的な内容については、実際に面接をした人の感想を聞いてみると、外務省国際機関人事センターが提供している参考資料が非常に参考になると思いました。
インターンシップ中大変お世話になった伊藤美保子氏による撮影
■インターンシップの内容■
インターンシップ2ヶ月間の職務内容を説明する前に、簡単に配属先の説明を行います。
私の配属先は、DFS (Department of Field Support:フィールド支援局)のLSD (Logistics Support Division:後方支援課)でした。この部署は、1年ほど前にDPKO (Department of Peace Keeping Operation : 平和維持活動局) から派生した新しい部署です。基本的な部署としての役割は、国連平和維持活動における各ミッションの後方支援全般をサポートすることです。
DPKOが平和維持活動の政治的な活動を支援し、DFSが後方を担うという役割分担になっています。もともとは、一つであった局なのでお互い密接に仕事を共有しています。昨今の情勢から、PKO活動が多様化そして複雑化し局そのものの規模が大きくなってきたことに、局分割の根拠があるようです。
実は、配属先の決定は大学院の専攻によるものではなく、前職の勤務経験によるものです。私は、元海上自衛官でSH-60Jという哨戒ヘリコプターのパイロットでした。そのため、大学院の専攻であった国際法や国際関係学よりも、軍事・後方・航空関係の知識に長けておりました。
もちろん、これらには国際法やPKOにおける国際政治の知識は付加価値としてプラスになりましたが、勤務経験に重きを置く国際機関では、国際法や国際政治の専門家として勤務するよりも、過去の職歴を基盤とした職域に携わろうと思っていました。そのため、希望配属先は、DPKOやDFSを考えていたため、希望通りの配属となりました。しかし、希望していた部署であっても、仕事はかなり多様で、本当の希望であったPKOにおける航空や運輸を担当する課ではありませんでした。西アフリカの後方全般を見る課に配属され、航空のみならず、人員、食料、燃料全てを総合的に見る場所でした。
国連は、専門家集団です。たとえ同じ階の同じ部署で勤務していたとしても、携わっている業務は全く異なり、お互いの職務はよく分からないというのが往々にしてあります。私のように、自衛隊で7年の勤務経験があったとしても、たった2ヶ月で部署が関与しているプロジェクトの内容を把握し、それに対して建設的な貢献をするというのは、ほぼ不可能に近いのが現状です。
そのため、最初の2週間は、事務所に並んでいるファイルや共有ドライブ上に存在する資料等をひたすら読み、なんとか理解するというのが仕事でした。その後、各ミッションのまとめられた資料が存在しないということで、ONUCI (国連コートジボワールミッション)、UNOWA(国連西アフリカ事務所)やMONUC(国連コンゴ民主共和国ミッション)等合計9つのミッション綴りを作ることが私の初めての仕事になりました。
それぞれのミッションの歴史、背景を調べ、関連する安保理決議や事務総長のレポート等を印刷して、まとめていきました。既に存在する資料を項目毎にまとめあげ、ファイルにするという事務的な仕事でしたが、これによりPKO全体の流れそして現時点での方向性を学ぶことができました。そしてその後、ソマリアを担当しているデスク・オフィサーのサポートをするということになりました。大まかな流れ等を把握したあとだったため、たとえ事務的な補助であったとしても、それなりに貢献できたように思います。
インターンシップ中に知り合った事務局本部へのボランティア原誠氏による撮影
■経験の感想■
まず、第一にインターンシップに対する考え方が変わりました。それは、私がイメージしていたことを良い意味で裏切ってくれたのです。
そもそも、私は、国連本部のインターンシップを、実のところあまり重要視しておりませんでした。なぜなら、インターンシップ終了後6ヶ月間は正規ポストに就けないという採用規約が存在するからです。
応募者に対して約1割の採用という狭き門で獲得したインターンシップであったとしても、その後の雇用には繋がらないのでは、と思っていました。しかし、これは自分次第であることが結果的に判明しました。ただ事務所にいて、言われた仕事をやっているだけでは、よほどの幸運に恵まれない限り、将来の仕事に繋がらないように思います。自分自身で、国連の採用システムというのはどういうものか、どのようなアプローチをしていかないといけないのか、調査して実行していけば、インターンシップは大きなチャンスになると確信しました。
インターンシップ最終日における後方支援課での送別会
■ その後と将来の展望■
私は、国連事務局のPKO職員としてフィールドで勤務することを望んでいます。自分自身の専門性を活かせる航空業務の管理官や安全補佐官のポストに応募しています。
国際機関の採用プロセスには時間がかかりますが、もともとインターンシップをすれば、6ヶ月間は雇用されないという就業規則がありますので、自分で出来る限りの準備をしながら機会を待っていようと思います。
以前は、6ヶ月を超えないとポストへの応募さえできないものだと誤解をしていました。しかし、人事担当職員との話によると、6ヶ月間は採用されないが、採用プロセスは進ませることができるということを知りました。また、空席ポストの応募に制限があるわけではないようで、いつ応募しても良いようです。
現在は、日本に帰国しており、以前スポーツで怪我をした場所を治療しています。インターンシップ終了から6ヶ月後にあたる9月中旬になれば、すぐにでも現地に行けるよう身体の準備をしています。また、6月下旬からは、フランスへ渡り、1年半ほど前から始めたフランス語を3ヶ月ほど勉強する予定にしています。これも、フィールド勤務がフランス語圏になった時のための準備です。
過去の職歴や資格を活かせば日本国内で就職口を見つけることは出来ます。しかし、私の第一希望は国際機関での勤務であり、それを目指してインターンシップをやったわけですから、可能な限りそれに向かって努力を続けていきたいと思います。また、国連本部の担当者と時々連絡を取り、せっかく築いた人脈を絶やさないように努めていこうと思っています。
しかしながら、国際機関での勤務は、私にとっての最終目的地ではありません。まだはっきりとは分かりませんが、国際機関で働くことによって、自分の身を国際社会に置くというところから始めたいと思っています。今までの国家公務員としての国益を追求する仕事から、日本以外の国家も含んだ国際社会での人類全体の利益のために勤務したいと思っています。
インターンシップ中に知り合った友人達と国連のカフェテリアにて
■これからインターンを希望する方へのメッセージ■
インターンシップは、国際機関の地域事務所もしくは私のように本部へ一定の期間、無給で勤務します。交通費や生活費等を自費で賄わなければならないのがほとんどだと思いますが、まずはそこに、自分自身の強い目的意識がないといけないと思います。
なぜインターンシップをするのか。企業や官庁から派遣されていないのであれば、そこには次の仕事に繋がる何かを見つけるのが目的であると思います。研究者にとっても、データ集めだけをするのではなく、研究結果が出たあとのクライアントの獲得等現実的な目標設定をする必要があると思います。趣味や思い出作りのためにインターンシップをするのでは、お金も時間ももったいないと思います。
そして、その目的を達成させるための情報収集能力も大切です。日本人は基本的に、マジメで仕事に対する忠誠心が高い人種だと思います。しかし、これが「一生懸命やれば誰かが見ていてくれる」というような発想に陥り、就職の機会を得にインターンになったにもかかわらず、人事担当者等にアプローチをかけないで2ヶ月や3ヶ月が終了してしまったという話を多く聞きました。
何をすべきなのか、どう動けば良いのか、いろんな人と話をして情報を獲得していかなければなりません。2ヶ月や3ヶ月はあっという間に過ぎてしまいます。ただし、これは延長して6ヶ月になれば単純に解決できるというものでもありません。期間が物事を左右するのではなく、自分自身のものを見る力が左右するのだと思います。
(2009年7月31日掲載 担当:清野、大地田 ウェブ掲載:秋山)