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第2回 長谷川 祐弘さん
国連事務総長特別代表(東ティモール担当)
略歴:はせがわ・すけひろ ミシガン大学卒業、国際基督教大学大学院修士課程修了、ワシントン大学で国際関係開発学博士号取得。1969年より現在に至るまで国連職員として開発援助、国連平和維持活動に従事。93年国連ボランティア(UNV)選挙監視団統括責任者(カンボジア)、94年ソマリア国連平和維持活動(UNOSOM)政策企画担当部長、95年ルワンダ国連常駐人道調整官及び国連開発計画(UNDP)常駐代表、96年UNDP駐日代表、2002年4月UNDP紛争予防・復興担当特別顧問などを経て、同年7月東ティモール国連事務総長特別副代表・国連開発担当調整官・UNDP常駐代表。04年5月より国連事務総長特別代表。
聞き手:清水 和彦 / ニューヨーク国連フォーラム幹事。在アメリカ合衆国日本大使館外交官補(コロンビア大学大学院にて研修中)。2005年7〜8月、UNDP東ティモール事務所にてインターンを行う。
Q. 長谷川さんは、国連事務総長特別代表、国連開発担当調整官、UNDP常駐代表という3つの役職を兼ねておられますが、これらはどのようなお仕事なのでしょうか?
A. 正確には、私は現在4つの役職を兼ねています。一つ目は国連事務総長特別代表(Special Representative of the Secretary-General)で、事務総長個人の代表として、東ティモールにおいて事務総長に代わって国全体の活動の総括をし、政治的に仕切っていく役目です。日本の特命全権大使に近い、国連全権特命代表という役割です。
二つ目は国連東ティモール事務所(UNOTIL)の最高責任者(Head of UNOTIL)であり、これは国連事務総長特別代表とは本質的に別の役目で、UNOTILの運営に携わっております。
三つ目は国連の開発活動を行っている専門機関(WHO、ILOなど)、国連の開発活動に携わっている諸機関(UNDP、WFPなど)、そして開発を行うに当たっての基金(UNFPA、UNCDなど)、これら全機関の調整を行う役目で、法律的には世銀も調整の対象に含まれます。これは1987年の国連総会決議に基づいて決められたもので、国連開発担当調整官(Resident Coordinator for the United Nations System's Operational Activities for Development)と呼ばれています。東ティモールには初め2年間は人道調整官(Humanitarian Coordinator)という役職もありましたが、これは今はなくなりました。
四つ目はUNDPの常駐代表(Resident Representative)で、UNDPの代表として開発援助活動の最高責任者としての役割を与えられております。私の下にUNDPカントリーディレクターと呼ばれる人がおり、毎日の活動を指示しております。
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Q. 典型的な一日の様子を教えてください。
A. たとえば、今日のスケジュールを例にとってみましょう。8時半から10時半まで、司法制度改善のために最高裁長官、検察庁長官、法務大臣、そして米国・英国・ポルトガルその他の国々の大使や外交団、並びにUNDP、UNICEF、世銀等の国際機関、司法関係NGOとの合同会議に出席し、UNDP主導の下に今後3年間の司法整備のための3年間で1千万ドルの国際支援計画について検討しました。
10時半から、UNOTIL人事部長と、UNOTILの人事、運営についての協議を行いました。いかにして行政顧問23名を一日も早くリクルートするかの課題でした。
10時45分から、監査局長のアドバイザーと、国連が東ティモール政府に譲渡した500台以上の車両についての協議を行いました。
11時から11時半まで、南アフリカ政府から来た国連外部監査官と会見しました。
また、今日はUNOTIL官房長に代わりに行ってもらいましたが、11時半から12時半までグスマオ大統領の帰国にあたっての空港で迎えが予定されていました。今日は11時半から12時まで、補佐官と国連安全保障理事会出席のためのワシントン・ニューヨーク・東京訪問の日程の打合せを行いました。
12時半から午後2時まで、米国・英国・オーストラリア・ニュージーランドの大使を招待し、私の自宅で昼食会を行います。
3時からは、UNOTIL政治部、法律顧問、人権擁護局幹部とのウィークリー・ミーティングが予定されています。
4時から5時まで、官房長、人事部長と(UNOTILの)要員の採用状況について検討します。
5時から、メルパティ航空会社の運航の安全性の問題について、インドネシア大使と協議します。
6時から7時まで、東ティモール海底油田開発公社主催レセプションに参加します。
最後に、9時から10時まで、国連本部との電話連絡をします。
…一日中ほとんど打合せで埋まっていますね。
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■2■ 東ティモールの現状
Q. 東ティモールの独立を問う住民投票から6年、国連の暫定統治を経て、独立から3年が経ちました。現在の東ティモールの状況をどのように分析されていますか。
A. 国連東ティモール・ミッション(UNAMET)が国民投票の管理を行い、国民投票後、1999年9月に多国籍軍INTERFETが展開されました。セルジオ・デ・メロ氏が国連事務総長特別代表を務めた1999年11月から2002年5月の約2年半の間に、1)治安の回復、2)健全な統治能力を持った政府づくり、3)議会、裁判所、大統領府の土台づくりが行われ、多くのアドバイザーが活躍しました。この時期は国連東ティモール暫定統治機構(UNTAET)が行政責任をすべて受け持っていました。その間、憲法の採択を行い、大統領選挙(2002年4月)、制憲議会選挙(2001年10月)が行われました。UNTAETが基盤を作ったわけです。
2002年5月、正確には独立の「復帰」(Restoration of Independence)と言います。これは、1975年にポルトガルより独立を宣言したものの、3か月後にインドネシアが侵入してきたためです。独立の復帰と共に、国連東ティモール支援ミッション(UNMISET)ができました。私は2002年7月に東ティモールに来ました。初めの2年間は、治安・行政制度を確立するための100人の専門家(Stability Advisor)が、UNDPの200人の開発支援のアドバイザーと共に、この国の基本的な行政を行いつつ、4つの国家機関(議会、裁判所、大統領府、政府)が機能できるような技術支援、訓練を行ってきました。2年間それが実って、それなりに基盤が整えられたと思います。
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■3■ 東ティモールの課題
予期して対策が講じられなかった課題の第一は、司法制度です。政府の行政能力はそれなりに育ってきましたが、司法制度がまだ十分育ち上がっていません。一つには、裁判官、検察、弁護士は数年のアカデミック・トレーニングが必要です。もう一つは、公平な裁判を外部からの介入を防いで行うことは、それなりの公正を重んじる社会制度ができなければいけません。それにはまだ数年かかります。それをどのようにして国際社会が支援していくことができるかです。
第二の課題は、憲法、4権の分権体制といった民主主義社会のフレームワークはつくりましたが、これが十分機能していくためには、民主主義のカルチャーを国民とその指導者が受け入れていく必要があります。たとえば、裁判に対する政府の介入をなくすことなどです。
第三の課題は、透明性と説明責任のある政治体制の構築です。そして公正な政治が行われるためには、汚職をなくすことが必要です。たとえば、国家公務員は(与党)フレティリンのメンバーが優先され、メリトクラシー(能力主義)がありません。統一試験はありませんし、公用語であるポルトガル語ができる人しか入れません。
また、貧富の差が出てきました。頭が良くて外国から入ってくるお金のある人、そういう人は給料がもらえますが、教育を受けていなくて、(インドネシアに支配されていた)24年間外に出なかった人が苦労しています。つまり、外に出ていた人たち(Diaspora)が新しい社会の恩恵を受けています。貧富の差のない社会づくりのためには、ミレニアム開発目標(MDGs)達成のために支援していくことが第一です。
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■4■ 東ティモール支援における国際社会の役割
Q. 東ティモールの今後において、国際社会、特に国連と日本の役割は何だとお考えでしょうか。
A. 国連の支援は、この国の行政能力に重点を置いてきました。今後は、1)政府機関のみならず、他の国家機関(議会、裁判所、大統領府)の能力、また、2)市民社会の団体(Civil Society Organisations; CSOs)の潜在能力を高めることが必要です。また、3)民間部門の生産能力を高めていくこと、特に農業の開発が非常に大事です。日本は、農業開発、インフラ整備などの面で貢献できると思います。道路、通信の復旧は、地域間の差を縮めます。また、教育・医療面においての開発、整備も必要であり、日本はこういった面で支援していけると思います。国連としては、政治的に2007年の大統領選挙・議会選挙が大事で、いかに自由で公正な選挙が行われるかということの支援をしていきたいと思います。
本日は大変お忙しいところ、インタビューに応じていただき、ありがとうございました。
なお、本インタビューに関しましては、以下のウェブサイトも御参照ください。
UNOTIL:
http://www.unotil.org/
東ティモールにおける国連諸機関:
http://www.unagencies.east-timor.org/
UNDP東ティモール事務所:
http://www.undp.east-timor.org/
担当:清水