「『Gゼロ』―リーダーなき世界と地政学リスク―どうする日本?」
第111回 国連フォーラム勉強会
日時:2017年3月22日(水)19時00分〜21時00分
場所:ユーラシア・グループ会議室
スピーカー:渡邊裕子氏(ユーラシア・グループ、日本顧客担当部門ディレクター)
■1■ はじめに
■2■ ユーラシア・グループと日本とのつながり
■3■ 地政学リスクと日本
■4■ トランプ政権が日本に意味するもの
■5■ ユーラシア・グループの人材について
■6■ 質疑応答
■7■ さらに深く知りたい方へ
渡邊さんからは、まずユーラシア・グループの「地政学リスク分析」という独自のビジネスと、その日本とのかかわりについてお話をいただきました。創業者イアン・ブレマー氏がその著作で創り出した「Gゼロ」「Every nation for itself」等の概念が、国際社会の動きとどう関連していたのか、トランプ当選や英国EU脱退、そしてフランス大統領選等、様々な事例に触れつつお話を伺いました。
その過程で、米国と比較して日本企業の関心はどう違うか、なぜ「Gゼロ」の概念が日本で理解されたのか、また、前例重視の日本社会でどうユーラシア・グループがブランド確立に成功したのか、渡邊さんご自身の体験を交えた興味深いお話がありました。
参加者からは、トランプ政権の政策と将来、オランダ総選挙、フランスでのル・ペン氏の躍進、日本のポピュリズム等、昨今の時事問題に関する質問・意見が述べられたほか、ユーラシア・グループは国連等の国際機関をどう見ているか、「Gゼロ」状況を生み出した原動力は何か、また地政学リスクを客観化・定量化するアプローチの詳細を問う質問など、様々な発言があり、大変活発な勉強会となりました。
後半では、もともとスタンフォード大学の国際政治学教授だったイアン・ブレマー氏が1人で設立(1998年)したユーラシア・グループが、「地政学リスク分析」という独自のビジネスをどう発展させ、どのような人材が関わってきたのか、そしてどういう文化を持つ職場なのか、渡邊さんご自身のキャリアも踏まえご説明いただきました。こちらも、NYに滞在する参加者にとって大変刺激的で、質問が続出する有意義な会となりました。
以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨を、ご了承ください。
講師経歴:渡邊裕子(わたなべ ゆうこ)氏。 |
ユーラシア・グループでは、国同士の関係に関わらず、国内のリスクも含め、広い意味での政治リスクを分析している。私が入社した2006年頃は新興国が注目を浴びていたので、我々のカバレッジももっぱら新興国リスクを中心としていた。中東、ロシア、中央アジア、中国、中南米など。欧州の中でも、西欧ではなく、中東欧を中心とする新興ヨーロッパが分析の対象だった。それが2008年を境目に大きく変わった。世界金融危機がきっかけでアメリカ、西ヨーロッパなどの先進国のリスクが重視されるようになり、例えば去年と今年の10大リスクには先進国がトップのほうにきている。
日本でのビジネスは2003年ごろから開始。創業者であるイアン・ブレマーがJETROと経産省(METI)のサポートを得、自ら日本を訪れてマーケットを開拓した。最初はエネルギー・重工業の顧客が主だったが、金融系(銀行、保険、証券会社など)が加わり、さらに製造業(車、インフラ、車の部品、技術セクター)の企業とも関係を持つようになった。最近は消費者に近いセクターの顧客、製薬業、不動産なども取り扱うようになり、地政学の影響を認識する企業が増えていることを示している。
日本チームの役割・責任は、新規開拓と既存顧客のサポート管理。同僚やアナリストたちに日本の顧客のニーズを伝えることも日々の重要な業務の一つ。それら営業の業務に加え、この10年間、私は日本の新聞やテレビとの取材アレンジ、出版の仕事も受けもってきた。日本の出版社は、日本での出版経験のない著者の翻訳は、よっぽどの有名人が書いた本か、売れて話題になった本でない限り取り扱わない場合が多く、多くは門前払いであった。それでも粘り強く活動を続け、『自由市場の終焉―国家資本主義とどう闘うか』を日本経済新聞に出版してもらった(イアン・ブレマーの著書の初の日本語版・日本での出版)。一度出版の前例ができると、そのあとはとんとん拍子で、2012年には『「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか』、2015年には『スーパーパワー : Gゼロ時代のアメリカの選択』が出版された。
日本の場合、国際情勢を扱うメディアの数が限られている(例:日経新聞、NHK)し、国民の大多数が同じものを読み、見ているので、ブランディングを強化するためどのメディアを通して広報活動をすればいいのかがわかりやすい。たとえばNHKの朝か夜のプライムタイムのニュースに出ると抜群に日本での知名度が上がるし、一度日経新聞からインタビューを受けると他のメディアからも次々に引きが来る、というようなことである。他方、アメリカはテレビひとつとっても種類が多く、見る人のバックグラウンドも多様なので、特定のメディアに露出したからといって知名度が急激に上がるということはあまりない。また、アメリカでは国際情勢についての情報や分析を提供する会社が増えてきているため競争が激しくなってきているが、日本では(日本にもシンクタンク的なものはあるにせよ)我々とまったく同じことをしている競合他社が少ないという事情もある。とはいえ、国際情勢について面白いことを言える人は必ずしもイアンだけではないので、なぜ日本でイアンの知名度がここまで高くなったのか疑問に思うこともある。一つには、たぶん日本の特殊なメディアの構造のため、また英語で原典にあたってタイムリーなリサーチをしているマスコミが少ないためであろう。
地政学リスクとか「Gゼロ」という概念は、特に日本で、比較的幅広く受け入れられていると感じる。これにはいくつかの理由があるだろう。一つには、日本は資源を海外に頼っており、資源商社等が昔から地政学リスクに敏感だったこと(これはユーラシア・グループの顧客獲得の歴史とも整合する)。そして、日本がまさに地理的にアメリカと中国の狭間におり、感覚としてアメリカの衰退や中国の台頭を最も敏感に理解しやすい立場にあるという点もある。
日本は今、アメリカの国際的リーダーシップの低下と、中国の脅威の真ん中にいる。アメリカのリーダーシップが低下することは、日本にとっていいことではない。ただし、トランプ政権下ではあきらかにその方向に動いている。今までの世界は、「グローバリゼーション=アメリカナイゼーション(社会がアメリカ化する現象)」であったが、その流れは、この先そうではなくなるかもしれない。
トランプ政権について日本が気にしていることがいくつかある。人事的には必要な人員がまだ全員決まっていないこと。現在任命されている長官レベルの人員は、当初の懸念よりは意外とまとも、という印象。特に防衛面のポストは内外から尊敬されている重鎮で、路線的にはジョージ・W・ブッシュの時代に戻った感じだが、その一方で、通商面ではトップが対中強硬派でありつつも、その下の人員が決まっていないので最終的にどの方向にいくかがわからない。その他税制改革やインフラ投資についてまだ具体案が出されていないことや、貿易についていえば、アメリカが抜けた後のTPPの運命、NAFTAの交渉がどう進むかが読みにくいことがある。さらに通貨の問題(どれくらいドルが強くなるのか?)や北朝鮮問題などもよく顧客から聞かれる質問である。
貿易に関しては、北アメリカ以外に話題に上がるのがアメリカと中国・ドイツ・日本との関係。日本はアメリカの各地で大きな投資をしている(いまだに各州で統計を取ると、大半の州において対内投資額が一番高いのは日本。つまり外国企業の中で各州の雇用に最も貢献しているのは日本企業である。)ためバッシング(不当な攻撃)はおそらく受けないだろう。安倍首相も、欧州首脳と違って、トランプ大統領と積極的に人間関係を作ろうとしているので、マクロレベルでの友好関係は保てるのではないか。
日本で2015年に出版されたイアン・ブレマーの『スーパーパワー : Gゼロ時代のアメリカの選択』は、3つの違う見解のあいだで繰り広げられるディベートという形式をとっている。1つ目は、アメリカが「他の国ではとって代わることのできない特別な国」という見方。2つ目は、ヒラリー的な発想で、アメリカは、すべての問題に頭を突っ込むのではなく、目的を絞って得意なところだけをやるべきという思想。3つ目は、国外での介入主義をやめて、国内問題に専念するという「我が道を行くアメリカ」。3つ目の選択肢は、トランプ氏が主張する「アメリカファースト(アメリカ第一主義)」と一見似ている。が、微妙に違うのは、「我が道を行くアメリカ」は国内問題に専念するものの、民主主義等の価値観を捨てず、長期的には世界の模範となる希望につなげている点。対してトランプの「アメリカファースト」は、国際的な影響力には全く関心を持っていない。第二次大戦後オバマ大統領までの歴代大統領のビジョンには、細部の違いこそあれ、「アメリカを、他から憧れられる国にしたい」という理想があった。それに対して、トランプ氏は、自分たちだけがよければいいと考えているところが決定的に違う。イアンは、これを「パックスアメリカーナ(アメリカが率いる平和)の終わり」と呼んでいる。これから、世界は、先が読めない「Gゼロ」の時代に突入するであろう。
トランプ政権に纏わるリスク以外には、フランスの選挙が注目される。当社ではブレグジットやトランプ氏の当選を予期できなかった過去の反省に基づいてル・ペン氏の勝率を40%と、やや高めに分析している。また、今回は今までつかめていなかったソーシャルメディアの情報なども分析に導入。フランスでの投票結果によってはヨーロッパ連合(EU)の持続にも影響する可能性があるので細かく状況を追跡している。
国際的に事業を展開しているのにも関わらず、なぜ会社の名前が「ユーラシア・グループ」なのか。それは、イアン・ブレマーの専門が旧ソ連圏、ユーラシアであったからだ。事業展開の過程で名前を変えようという話もあったが、すでにある程度メディアで名前が知られてきていたので変えないことにした。
イアン・ブレマーは、24歳でスタンフォード大学の政治学博士課程を終えた秀才。本人は大学教授にはなる希望はなかった(もっとビジネス等実務に関わりたかった)らしいが、指導教授からのたっての依頼で(最後はイアンの母親に電話して説得)、2年間、政治学教授をやることになった。イアンの専門は、もともと旧ソビエト連邦で、政治がビジネスにもたらす影響に関心があった。27歳で教職を辞め、ニューヨークに引っ越し、大手金融機関に就職活動したがどこも採用してくれなかった。銀行側としては、政治学の博士を持っている人など採用したこともないし、第一政治学を使う仕事なんてない、というのが理由だった。ただ、採用がかなわなくても、イアンは就職活動中に知り合った銀行の重役とランチを積み重ねた(相手側としては単にイアンの話が面白かったのだろうが)。相変わらず就職の機会はもらえなかったが、「私が何かビジネスを始めたら、顧客になってくれますか?」という問いかけをしたら、何人もから「イエス」の返事が帰ってきた。これをきっかけに、国際情勢についての自分の見解を有料のニュースレターにまとめ、クライアント(当初は数名)に対して発信するというビジネスを一人ではじめたのがユーラシア・グループの原点。1998年のことである。このとき、資本は自分の貯金と親戚からのお金を合わせたたったの2万5千ドル。投資家からお金を集めず、徐々に人を雇い始めた。イアンの経営理念として、「受付からIT担当者にいたるまで、社員全員が国際政治に興味も持っている人材である必要がある」というものがある。また、「失敗することよりも、それを恐れて何もしないのが一番悪い」という考えを基本として、社員に失敗を恐れない習慣を身に着けさせるため、イアン自身が「自分が一番失敗するが、トライし続けることが一番大事。」というモットーも伝えている。
当社で働くアナリストには、各自地域や産業別の専門分野がある。担当する国の言語ができることと現地にネットワークがあることが必要。アナリストの多くは、普段はニューヨーク、ワシントンD.C.、ロンドンにいるため、必要となれば電話一本で情報を取るための情報源・人脈を有していなくてはいけない。情報源となる現地ソースの人々のバックグラウンドとしては、元官僚、弁護士、研究者、ジャーナリスト、エコノミストなどが多い。
アメリカの会社なので、離職率は高い。与えられた目標を達し、数字で結果を出さなくてはいけないので、やめる人とやめさせられる人が両方いる。製造業のように形があるものを売る仕事ではないので、採用も評価も難しい。形がないもの(例:リスク分析)をどう売るか、というのは本人のセンスによるところが大きいので、そこが問われる。
■6■ 質疑応答(質問は講義の中で随時出て来たものですが、編集しました。)
質問:トランプ氏の弾劾や将来政権交代などの分析は開始しているか?回答:現在いろいろなシナリオを考えている。前例がない規模の、ビジネスとの繋がりを持ったままの人が大統領になってしまったことで、複雑な利益相反状況が生じている。また、経験不足に伴う能力の低さや、どう失敗から回復するかなど状況対応力の疑問もある。各シナリオの確率はまだ計算できていない。
質問:いつアメリカ国民はトランプ氏に見切りを付けるのか?弾劾に進むタイミングは?
回答:トランプ氏への失望が広まるにつれて弾劾の機運が高まるのは確かだが、弾劾は基本的には司法手続であり、違法な行為があるか、それをどこまで追及するのかが問題。違法な行為がない限り、過激な発言をするからという理由だけで辞めさせることはできない。
質問:Gゼロの世界での国連の役割について。大国の後退で国際機関の存在感が増すのか、あるいはその役割は限られてくるのか?
回答:当社の認識は後者。そもそも、従来の国際機関は、米と欧州が主導してきたものが多いので、米国の指導力が低下すれば、それらの力も低下する。国際機関が地政学リスクの解決において大きな役割を果たすとは考えていない。イアンやアナリスト達のレポートでも、国連など国際機関での議論に直接言及することはあまりない。(北朝鮮やイランなどの例外はあるが)
質問:SNSの分析について。使わなければどう統計が変わるのか?
回答:SNSの情報を取り入れて出したル・ペン氏の当選確率40%は、一般感覚からすると高めだと思う。フランス大統領選第2ラウンドでマクロン氏が残った場合、彼のほうがフィヨン氏よりもル・ペン氏の対抗馬としては強力。但し彼は経験が少ないうえ、無党派のためどれくらい彼に票が入るかわからない。そのためル・ペン氏に40%の確率が当てられている。ル・ペン氏が率いる国民戦線党が、共産党が支持するような課題も最近取り扱い始め、極右でありながら極左の支持も得られるようになっていることも考慮して計算している。
質問:オランダの選挙について。もし極右が勝っていたらル・ペン氏への追い風になっていたと言われるが、正しいか?その根拠は?
回答:トランプ氏の当選もル・ペン氏に有利になったと思う。但し直接の繋がりというよりは、精神的な影響に留まるであろう。例えばオランダの結果を見て、ル・ペン氏の支持者の熱気が高まるという因果関係は考えられる。また他方、失望して諦めてしまう穏健派の人も増えるかもしれない。ちなみにドイツの連邦議会選挙について語ると、仮にメルケル首相の党が負けても情勢にあまり変化はないと見ている。また、最近現首相の勝率を当社は60%程に下げた。競争相手の演説その他の能力が意外に高いことと、メルケル首相の任期が長引き、有権者の「飽き」につながっていることが主な理由。
質問:政府機関やシンクタンクに比べてユーラシア・グループが出すレポートの質は違うか?定量的な分析は行われているのか?
回答:そもそも対象となる読者のニーズが弊社と政府機関やシンクタンクとの間で違う。弊社は主に顧客のビジネスに沿って、将来の政治情勢の予想と分析をしている。リスク評価で出される確率は回帰分析などを使って計算している。こういった分析は、弊社では元ゴールドマン・サックス等で働いていた経験のある定量分析の専門家が担当している。「グローバル・ポリティカル・リスク・インデックス」は、そもそもはユーラシア・グループの政治アナリストとドイツ銀行の経済アナリストなどが、15年くらい前に専門知識を寄せ合い、編み出した、ウォール街で初めての政治リスク定量化の一つの試み。こういった定量的分析を金融マーケットで使えるようなものにしたいというのは、イアンの長年の希望でもある。
質問:ビッグデータ・予測分析について。業界の中でトランプ当選を当てた会社はあるのか?
回答:ソーシャルメディアのトラフィックを分析してトランプ当選とブレグジットの結果を予測した会社はある。弊社もソーシャルメディアに留意し始めたが、このようにSNSの分析に長けている専門業者がいるので、社内でSNSの分析はせず、社外に委託している。
質問:新興国のリスク評価の需要は?
回答:日本は、相変わらず鉱物資源・石油に関してのリスク分析のニーズが多い。一方、アメリカの会社はたとえばアフリカや中南米などでも、市場参入を目的に、中産階級や消費者セクターへの興味が上昇してきている。そこは違いがあると思う。
質問:なぜユーラシア・グループに就職したのか?
回答:ハーバード大学大学院在学中にインターンしたのが最初の縁。それまで当社のビジネスに関する知識も関心もなかったが、3ヶ月間仕事をしていたら案外おもしろかった。在学中それほど熱心に就職活動をしていなかったこともあり、その後オファーをもらったとき、すでに雰囲気がわかっているこの会社に就職することに決めた。一回インターンで適性をテストしてから本採用を決めるのはいい方針だと思う。自分と相手両方の適性を確認できるため。
質問:短期間にユーラシア・グループが成長できた理由について。メディア戦略がよかったのか?もしくは組織の期待値が高いのがよかったのか?
回答:日本においては前述のとおり、メディア業界の特殊な面があり、ここをうまく突破できたことが追い風になった面はある。また、イアンは特にサウンドバイト(テレビやSNS向きの短い言葉で国際情勢を簡潔に語ること)がうまく、国際政治学者というと難解・退屈なイメージが多い中、日本人に受け入れやすかったのではないのか。さらに、タイミングもあると思う。地政学リスクが拡大していく世の中の動き、時の流れにうまく乗ったのがよかった。
質問:ユーラシア・グループに競合他社があるか?彼らの分析はどのようなものか?似たような考えを持つのか、もしくは別々なのか?
回答:トランプ当選に関しては、みんなと同じように外すことになってしまったが、ユーラシア・グループのような会社は、カウンターコンセンサス(世論に反対する見解)を持つ傾向があると思う。ただ、アナリストの人材供給源は競合他社もほぼ同じで、同じような人材が業界内で動き回っている印象もある。この約20年、ユーラシア・グループを作り、率いてきたイアンに変わる人材はなかなかいない。今後後継者も必要になってくるが、見つけるのは難しいと思う。
質問:北朝鮮に関して。今後どうような外交が期待されるのか?
回答:トランプ政権の「すべての選択肢を検討」という姿勢はいいと思う。オバマ前大統領の「戦略的忍耐」で結果的にここまで事態が悪化してしまった。アメリカは、中国との関係を考える上で、北朝鮮もひとつのカードとして使うつもりなのでは。ただし中国の有効な対応が期待できない。
質問:日本でのポピュリズムの傾向は?
回答:存在していると思う。これはタイムリーな話題なので、イアンも、複数の課題の中から次の本のトピックをポピュリズムに設定したほど。アメリカの大統領選挙中、トランプ氏が発言していた内容は、個人的には石原慎太郎氏にそっくりな部分が多いと思った(日本ではそういう発想はなかったかもしれないけれど)。ポピュリズムは低成長と格差という二つの要因が同時に存在する状況下で起こりうるので、状況としては似通っている。
質問:ビジネスと地政学との関係をもっと詳しく説明してほしい。
回答:求められる内容は分野によって違うが、基本的には例えば企業の海外投資プロジェクトをイメージしてほしい。顧客の投資先国について、顧客の問題意識に沿ったレポートを作る。大きなプロジェクトの場合は半永久的にリスクをモニターする。入社した当時と今の違いは、インターネットで誰でも情報を取れるようになったこと。ただし使えない情報や、信憑性の低いものも多い。ノイズ(雑音)とシグナル(信号)とを見極めることが必要。それが顧客から求められている。
質問:イアン氏はどのようなリーダーシップスタイルを持っているのか?
回答:イアンは、どんなに地位が高い人に対しても「Hey!」という口調で語りかけることのできる、非常にインフォーマルな(形式ばらない)スタイルの人柄。また、組織をなるべくフラットにしておきたいという希望を持っている。比較的若い会社なので、同好の士が集まるクラブ活動的な雰囲気がある(最近は会社が大きくなって多少は変化もあるが)。NYオフィスにはイアンの個室があるが、彼は個室に留まらず、担当者が働いている場所に座るのを好む。「周囲のアナリストなどの会話を盗み聞きすることで自分も成長できる」という信条があり、それを今でも守っているらしい。
質問:日本でアナリストを採用する予定は?
回答:長期的にはしたいと考えている。東京での需要によると思う。ロンドン支店を立ち上げた時はセールス(顧客獲得)拠点としての機能を重視していたが、今はアナリストとセールスの担当者が半々。状況としてはシンガポールオフィスも同様。ただし、日本企業に対する日本語対応が求められる日本と違って、シンガポールは既存の顧客(欧米企業)の拠点があるので、今の人材のままでサポートがしやすい面はある。
質問:アメリカ連邦予算案へのリスクについて。先週イアン氏がアメリカへの長期的なリスクに関して批判的な発言をした。アメリカをあらゆる面で支えてきた色々な機関をなくしてしまうリスクは?
回答:大きな面でアメリカのソフトパワーの停滞に繋がると思う。但し、平均的な米国民に聞いたら、今回の予算案でカットされたものは彼らの日常生活には関係ないというはず。彼らはそれよりも、自分の懐に直接インパクトのある雇用創出などに関する政策のほうが重要だとみているだろうから。
このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照ください。国連フォーラムの担当幹事が、勉強会の内容をもとに下記のリンク先を選定しました。
● ユーラシア・グループ:日本クライアント向けサービス
http://www.eurasiagroup.net/services/japan
● 渡邊さん英文略歴(ユーラシア・グループ)
http://www.eurasiagroup.net/people/YWatanabe
● TOEFLマガジン留学経験者インタビュー:渡邊裕子さん
http://www.cieej.or.jp/toefl/webmagazine/interview-experience/1602/
http://www.cieej.or.jp/toefl/webmagazine/interview-experience/1603/
● 米国大学院学生会ニュースレター 連載: 行き当たりバッタリのアメリカ生活23年(渡邊 裕子・ユーラシア・グループ)
http://gakuiryugaku.net/newsletter_content/2016-11.pdf
http://gakuiryugaku.net/newsletter_content/2017-02.pdf
● 日豪プレス(2016年12月1日)トランプ当選後のアメリカ:アメリカの何かが死んだ日
https://issuu.com/nichigopress/docs/nat1612/30
2017年7月11日掲載
企画リーダー:西村祥平
企画運営:原口正彦、洪美月、三浦弘孝
議事録担当:三浦弘孝
ウェブ掲載:中村理香