関西報告会
1. 概要
場所:関西学院大学 大阪梅田キャンパス
日時:2019年2月17日 13:00~16:00
PSP第3回報告会は「教育」「環境」というテーマに焦点を当てて行われた。PSP渡航メンバーによるプレゼンに加え、様々な背景を持つ豪華ゲストによるパネルディスカッション、PSP渡航者・パネリスト・参加者による全体ディスカッションと充実した内容であった。会場全体で意見交換が活発に行われ、それぞれが国際協力についての学びを深めることができた。また今回は、次期スタディ・プログラムの概要発表も行われた。
2. PSP個人発表
①「PNGにおける環境と開発」 樋口尚子
渡航前の勉強会や調査によって、PNGは生物多様性に富み、豊かな自然が現存する国であると分かった。その一方で、経済的利益追求による環境破壊が現在進んでいる。そこでPNGの人々は環境問題を重視していないのではないかという仮説を設定した。渡航した結果、PNGの人々は環境に対する危機意識がないと感じた。環境問題に対する取り組みは、コミュニティレベルまで浸透していない。PNGにおける環境問題の本質は、教育問題・人材不足・脆弱なガバナンス・資金不足であると考える。環境と開発を両立させるため、1.「ガバナンスと教育の見直しを行う」、 2.「援助により人々のモチベーション改革を行い、認識から行動に移せる人材を育成する」、 3.「開発において経済面と社会面を両立させる」ことが重要であると考える。
②「PNGにおける教育」 奥田智帆
PNGの教育状況は、南太平洋州諸国と比較し、教育のアクセス、質の両面において劣っている。近年、教育の無償化政策が開始され、初等教育における生徒の就学率は向上しているがまだ、南太平洋州諸国の中では下位に位置する。就学率が低い原因は、雇用が少なく教育を受けることが必ずしも就職に繋がるとは限らないこと、 ワントク内で生きていけるため人々は教育の必要性を感じていないことに起因するという仮説を設定した。現地で検証した結果、就学率が低い原因は、1.「雇用が少ないことに加え、職に就かなくてもワントク内で生活できる環境があること」、2.「教育の必要性は感じているが限られた収入でワントク内の人々を養う必要があり、教育への投資が難しいこと」であると考察した。それに対して政治腐敗や脆弱なガバナンスの改善、教育に対する意義や概念の改革、社会福祉制度の充実が必要であると考える。
3. パネルディスカッション
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コーディネーター:吉村美紀氏(国連WFP)
登壇者:
本田龍輔氏(Globisコンサルタント、元青年海外協力隊員(PNG))
Javen Evera氏(京都大学大学院生、Papua New Guinea Forest Authority職員)
久木田純氏(関西学院大学教授、国連フォーラム共同代表、元UNICEFカザフスタン事務所代表)
日比野佳奈氏(PSP参加者、助産師)
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Q:ⅰ.PNGにおいて環境教育や人々の環境に対する考え方はどうなっているのか。
ⅱ.ワントクは教育の妨げになっているのでは。
Javen Evera氏
PNGの人々は環境を守ることよりも経済発展を優先しており、環境については十分に考慮できていない。林業においても同じことが言え、土地所有者がそのライセンスを中国やマレーシアに売っている。伐採を行うことで環境汚染が生じる反面、土地所有者は利益を得ており、持続可能な林業を進められない現状である。環境管理について、PNG全土において政府がモニタリングすべきだが現状ではできてない。また、前半で指摘があったように、教育問題とワントクシステムは結び付いている。養われる側である親の子供は学校に行くという選択自体ない場合が多い。学教教育における心理的サポートも現在ない状況である。これは途上国によくある状況で、たとえ学校に行ったとしても家の仕事を手伝うと宿題ができず、良い成績がとれない。するとモチベーションが徐々に下がってしまい、ドロップアウトに繋がってしまう。親に対する教育も必要である。
Q:実際現地に渡航したことや発表者の考察を聞いたことを通しての気づきや意見は何か?
日比野佳奈氏
開発モニタリング省に行ったとき、スタッフは今はあまりワントクに縛られていないという考えがあると言っていた。しかし首都と地方の認識の違いは大きく、国で認識の統一をするのは難しい印象であった。
Q:都会に住む人々と、ワントクシステムの中で生きる地方の人々には大きなギャップがあると考えられる。実際、地方で活動するなかで得た経験や発表者の考察について感じることは何か?
本田龍輔氏
2010年~2012年の間青年海外協力隊員としてPNGに派遣されており、環境教育に関わる活動を行っていた。地方・農村部では衛生的なトイレがなく、若い先生が赴任を拒否することもしばしばであった。子どもたちが学ぶ環境を作るには先生、PNGに合った教科書等色々な要素が教育には必要だと思う。これまでの話を受け、開発と環境への配慮のバランスが重要であると考える。両方重視しなければならないが、ここではESG投資が重要になってくると考えられる。森林伐採について、確かに以前からPNGに中国とマレーシア系の会社が参入している。だが90年代までは、総伐採量の6ー7割が日本に輸入されていた。日本も森林伐採問題に無関係ではない。
Q:地球規模の問題を自分事、主体的にとらえて行動に移すことが進んでいないように感じる。今までの発表を聞き、PNGに対してどのような思いを抱いたか。もしUNICEF PNG所長に就任すればどこに力を入れるか。
久木田純氏
SDGsはグローバルスタンダードになりつつある。現在、世界中で様々な社会的変化が起こる中で、原理主義がはびこっており、非常に不安定な社会になってきている。このまま我々は22世紀を迎えられるのか。社会の大きな流れの中で我々は教育について考えていかねばならない。環境問題・貧富格差の問題に対処し、地球に優しい共生社会を実現しなければ地球の未来はない。国連では多様性の大切さが唱えられており、PNGにおいても嗜好性や言語・文化の多様性を尊重する必要がある。社会はパラダイムシフト期にあり、利益中心から持続可能性中心に転換しつつある。自給自足のスローライフを送るように、働かなくても生きられる社会という選択肢を残すことが必要ではないか。
PNGでの活動は想像を超えるものである。母語教育は言語習得において重要であるが、800以上の多言語に対応することは難しい。ユニセフの所長は通常3ー4年で変わるが、PNGでは10年単位で続けていかないと難しいと考える。
<質疑応答>
ワントクに関する質問からエスニックアイデンティティとナショナルアイデンティティの議論に発展し、活発な意見交換が行われた。
4. 全体ディスカッション
コーディネーター:田瀬和夫氏(国連フォーラム共同代表、SDGsパートナーズ代表取締役CEO)
教育と環境問題についてパネリストを含めた会場全体で多角的な視点からの熱い議論がなされた。エンパワメントとインセンティブに関連したボトムアップ型で持続可能性がある取り組みを中心に、議論がなされた。PNGの現状にとどまらず、国際協力における援助のあり方についての活発な意見交換があった。また、国際的な分断社会化と高度な先進技術がもたらす社会についても言及された。
5. 次期スタディ・プログラム概要説明
次期スタディ・プログラム実行委員長でPSP参加者の瀬戸万里奈氏より、ヨルダン・スタディ・プログラム(JSP)についての説明があった。テーマは「激動する中東の中心で紛争と共存、世界の平和を考える〜持続可能な社会を目指す新しい難民政策のあり方とは〜」である。
6.参加者所感
PNGの教育・環境問題を中心テーマとした報告会全体を通して、1人1人がそれらに対する考えを深めることができた。またパネルディスカッションや全体ディスカッションを通して、様々な問題に対する多角的な視野を養うことができた。PNG一国の問題にとどまらず世界規模の課題や最新技術について考察する機会となり、それらを自分事として捉えて行動する事の必要性を感じた。