パプアニューギニア・スタディ・プログラム

長崎報告会

長崎報告会報告書

1.概要
場所:長崎大学文教キャンパス
日時:2018年12月2日 13:00~16:00

PSP第1回報告会として、SPとしては初めて長崎で報告会を行った。PSP渡航メンバー9名も長崎に集結し、現地の留学生もゲストとして登壇。学生から社会人、また還暦を迎える方の参加もあり、PNGの開発やジェンダーについて、活発な議論が行われた。

2.発表内容
①「PNGにとっての開発の形とは」倉嶋麻里

首都のポートモレスビーと地方のラバウルを比較して、渡航を通して実感した開発の形について考察を共有した。インフラが整っているが昔からの人とのつながりが希薄となっている首都ポートモレスビー。近年ではホームレスの増加や金銭をめぐる強盗も大きな問題となっている。一方、インフラは整っていないが人とのつながりが強く、助け合いの精神が強い地方都市ラバウル。Basic Human Needsという視点からPNGにとってどのような開発が必要とされているのか、PNGで実際に訪れたセトルメントの現状等も通して、人とのつながりの大切さについて考えた。

②「PNGのジェンダー課題」日比野佳奈

日本でも深刻なジェンダー課題。渡航前の事前学習では、PNGの女性に対する地位が低く、約1/3が男性から暴力を受けた経験があることや、教育を受けている人が少ないこと、魔女狩りがいまだに行われていることなどがわかった。実際に渡航してみると、活躍する女性も多くいることを体感した。一方で女性への支援の取り組みは多くなされているものの、暴力を受けていたり本当に困っている女性へのアクセスは難しいという問題意識が挙げられた。その解決策として、困っている女性にアクセスするためのしくみ作りや法の整備、教育等について考えた。

3.質疑応答

1)なぜ多くの島があるパプアニューギニアで、ラバウルを選んだのか。(還暦を迎える方より。戦争経験者の大人が多く周りにいて、ラバウルからの戦争帰還兵もいたとのこと)
――ラバウルが比較的安全であること、青年海外協力隊で活動している日本人が多くいること、歴史背景から戦争記念碑があること等が理由として挙げられる。

2)魔女狩りとはどのようなものか
――誰かが亡くなったり、病気になった時に犯人探しをし、勝手にとある女性のせいにして、その女性に対して公開処刑や傷つけるような行為をするもの。

3)支援の届かない女性の声を、国は拾おうとしているのか。
――政策としてはあがっており、問題意識はある。しかし他の政策が優先され、予算や人材がつかないのが現状。

4)PNGの治安や衛生面はどのように情報収集したのか
――インターネットの統計情報、そのほかに現地に暮らしている日本人の生の情報がとても役にたった。

5)食糧問題、衛生面の現状はどうだったか
――首都と地方では大きく状況が異なる。基本的には土地が多くあり海もあるため、芋や魚を食べる文化がある。しかし、首都に人口が多く流れ貨幣経済が発達してくると、首都ではお金を出さないと食べ物が買えないという現状がある。また、植民地時代にオーストラリアによる政策で、オーストラリアからの輸入品を買わせるために国民に作物を作らせないという政策がとられたそうで、土地はあっても作物を作る技術が普及していないというところが多い。そのため、訪問したOISCAというNGOでは農業支援の取り組みを行っている。

――衛生面では、地方では、中級層の家には大きな雨水のタンクがあり、それを生活用水として使っている。トイレも水洗ではないが、バケツで水を流すものだった。

5.パネルディスカッション

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テーマ「PNGのジェンダーについて」
ファシリテーター:田瀬和夫
パネリスト:
 Naomi Pank(PNGからの留学生:長崎大学大学院熱帯医学グローバルヘルス研究科)
 福島紘平(長崎大学大学院グローバルヘルス研究科)
 倉嶋麻里、日比野佳奈、松原廣幸(PSP参加者)
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NaomiさんよりPNGのジェンダーギャップの現状について伺った。首都と地方では教育や文化、生活様式の違いが大きい。また、農村部の人は人権があるということを知らない、女性に権利があるということさえ知らないということがいえる。

PNGを実際に訪れた参加者の所感では、首都では国際機関や政府機関で活躍する女性も多かったが、一方で地方では女性がよく働き男性は何もしないという様子を見た。

PNGの男尊女卑の文化の歴史についてNaomiさんに伺った。ラバウルには女系の部族がある。一方でハイランド地方では男性優位な文化が昔からあるが、現在首都に地方から人が流入しており、自分の地方の文化をそのまま持ってきていることで、文化面での衝突等、様々な問題が起こっている。

日本でもジェンダーギャップは大きいが、なぜ日本にもジェンダーギャップが生じているのかという問いに対し、BPW(女性団体)に所属する参加者より、以下のような意見が出た。「300年前の江戸時代の儒教政策の影響が強いと考える。男性が家長であり、女性は自分を表に出さないのが理想であるという状況が続いてきた。戦後にようやく、女性が復権しがんばろうという時代がきた。しかし、韓国で戦争が起こった影響で特需景気になり、大量生産が必要になり、男性が働く、女性は家事や子育てをするという社会になった。それが今もなお色濃く残っている。また、政治的に性的役割分担が女性がコントロールされていった歴史から抜け出せておらず、今でも一度出産等で仕事をやめると復職できない女性が多くいる。」

日本は宗教の影響を大きく受けているという見解もあるが、PNGはどうだろうか。Naomiさんによれば、PNGの宗教はほとんどがキリスト教であるという話であった。しかし、地方によって宗教に対する考え方はばらばらであり、そのため首都へ人々が流入することで、考え方の衝突が引き起こされている可能性もあるということであった。そのような中で、Naomiさんは教育がとても重要であると考えを述べた。

最後にパネリストが日本、PNGのジェンダーギャップを埋めるために必要だと思うこととして、人権を意識してもらうことや自分の興味のあることを身近な人に伝えていくこと、ロールモデルを作ること等が上げられた。

5.グループディスカッション:人と人との有機的なつながりを活かした開発の形とは?

1グループ目:開発という言葉のとらえ方が様々だと感じる。現地の人が本当に支援が必要だと思っているのだろうか。PNGの人に自分たちの未来を考えさせるための場が必要だと考えた。そこでは、ほかの国の人たちのことや、自国の現状を知るための情報提供をしていく。

2グループ目:現地の人にとっての幸せとはということを考えた。外部から見た幸せと現地の人が感じる幸せは異なるのではないか。現地の人々の幸せを尊重した開発が大切。ワントクというコミュニティが強すぎても弱すぎても大変なので、バランスが大切。これらから、ワントク同士での留学・交流ができたらいいと考えた。

3グループ目:ワントクの闘争が起こっているという問題もあるので、自治に対する教育が大切だと考えた。外からの改革として、政府の教育政策の充実が大切。内からの改革として、家庭教育や学校教育が必要。しかし、学校教育では教える先生が十分ではない。そのため、教師教育も重要である。その時に大切になるのが倫理教育も忘れてはならない。伝統についての見直しも教育によって変えていけたら良いと考える。

4グループ目:人とのつながりという部分で、都会と地方で分けて考えた。日本では、都会は人が集まるので発達していくのがわかるが、地方は放っておくと衰退してしまうと考えた。そのため、このディスカッションテーマを考えたときに、日本の地方のような地域の開発について重要であると考えた。このキーワードとして「教育」があがった。地方で教育をしていくにあっては、先生のための教育が重要だという話があがった。

5グループ目:日本でも都会では人の関係の希薄化が進んでおり共通の課題がある。このテーマにある「開発」という言葉が上から目線に感じた。現地の人々のニーズに合わせることが大切だと考えた。PNGでは、セトルメントに住む人々も幸せそうであり、開発などと外部から変えていく必要はないのではないか。ワントクという人とのつながりが強いものがあるからこそ、ニーズを把握しやすいと感じる。ニーズを知ったうえで、必要な情報や知識を提供することが重要であると考える。

6.赤星委員長より講評

テーマが難しかったと思う。多くのグループで出てきたのは「教育の重要性」。国際協力で教育が大切だという話は常に出てくる課題である。その際に、何を誰にどのように教育するのかということを考えていただきたい。日本の教育も、以前は知識を詰め込むという教育が中心だったが、考えさせる教育にシフトしてきた。教育の場や対象について考えていくことが非常に重要だと思う。

また、現地の人は幸せそうに見えたという意見もあった。現地で見てきてものは一部であるということ、なぜ幸せそうに見えたのかということも考えていきたい。現地の人々は外部のことを知らなかったり、選択肢がないことが多い。魔女狩りについても、そこの人々にとっては当たり前に行われているかもしれないが、女性の人権や生命を脅かすものであり、そのままにしてはおけないことである。

国際協力について考えるにあたって、日本についても考えてほしい。人とのつながりも、日本では地方のコミュニティが強く、それに対する感じ方も人それぞれ。会社、友人、様々なコミュニティがある。日本のみなさんにも、人と人とのつながりを活かした、みなさんの幸せを達成するために何をする必要があるのか考えていただければ良い。

7.参加者所感

報告会参加者は学生の他、ジェンダーについて活動している人や大学教員、社会人等、いろいろな年代や背景の人がおり、ディスカッションも様々な視点から考えることができ、非常に有意義な時間となった。

PNGからの留学生からの生の声が聞けたことで、PSPの学びをより深めることができた。ジェンダー課題は日本にも共通することは多く、今後も考え続けていく必要のある課題だと再認識した。

また、グループディスカッションでは、教育についての話題が多くあがったことが興味深い。現地のニーズではあってもなくても、外部からの意見を押し付けるだけでは状況は変わらない。現地の人と支援者との信頼関係、人とのつながりが大切だと感じる。

日本は教育は多くの人が平等に受けることができている一方で、人とのつながりについては希薄しているのではと感じる。赤星委員長の講評にもあったように、国際協力について考えていくにあたり、自分の人とのつながりや幸せについても考えていくことも、重要なのだと感じた。