第2回渡航前勉強会:教育・ジェンダー
1.勉強会概要
PSPの研究グループの一つである、「教育・ジェンダー班」より調査内容の報告及び仮説の提示、また、それらに基づき参加者によるディスカッションが行われた。
2.教育に関する勉強内容
2-1.PNGの教育改革
全ての人に基礎教育を提供することを世界共通の目標とすることが合意された「万人のための教育世界会議」(1990年開催)を受け、パプアニューギニアにおいても1993年に教育改革が行われ、また「基礎教育完全普及計画2010-2019」が策定された。教育システムが見直され、従来の「6-4-2制」から「3-6-4制」への移行、8学年までの義務教育化及び教育無償化等が実施された。
2-2.教育改革後も残る課題
教育制度改革の結果、中等教育への門戸が開かれたかのように思われたが、依然として修了率は低く、また教育開始年齢のばらつきによる純就学率の低さが課題であった。これらの基礎教育の普及の差は、地方において顕著であり、国内における格差の是正も課題の一つであることが明らかとなった。
2-3.基礎教育の普及のために必要なこと
このように教育政策が浸透しない理由として、教育・ジェンダー班からは2つの点が指摘された。1点目は正規雇用率の低さである。就学しても就職できるとは限らないことにより、教育を受けるインセンティブがないことが理由として挙げられる。2点目はパプアニューギニア固有の社会システムである、「ワントクシステム」の存在が挙げられる。いわゆる相互扶助の仕組みであり、仕事がなくても衣食住に困らず一定水準の生活を送ることができる。この仕組みは都市部よりも地方において強固であり、地域間での格差の要因となっている可能性がある。
正規雇用率が低い中であっても「ワントクシステム」により生活することが可能なパプアニューギニアにおいて、教育を受けるインセンティブは低い。また、これらを実体験として実感している親世代に教育の重要性の認識を高めることが、教育政策を浸透させるために重要であるといえる。
2-4.ディスカッション
これらの仮説をもとに、教育・ジェンダー班から「教育の重要性について誰に対してどのように働き掛けるか?」というディスカッションテーマが提示された。
参加者は5つのグループに分かれ議論し、「教員の養成やカリキュラムの整備による実社会に役立つ学びの提供」、「ワントクの外の世界にも目を向けることができる価値観を取り入れた教え方の重要性」等が指摘された。
一方、アドバイザーからは、教育の重要性が経済的効果にのみ焦点を当てた議論となっていることに指摘がなされ、ワントクは物質的な裕福さを求めていないのではないかといった意見が挙げられた。また教育の普及について国連機関では教師への投資が重要視されていることが共有された。
3.ジェンダーに関する勉強内容
3-1.PNGのジェンダーの現状
早婚や魔女狩りといった、慣習や宗教に起因する課題や、女性軽視の社会規範による女性に対する暴力及び虐待が横行していることが説明された。ジェンダー格差は教育においても顕著であり、中等教育及び高等教育においては、就学率、中退率のいずれも女性の方が低い数値となっている。また、平均就学年数も女性の方が低い。初等教育ではほぼ男女差がみられない一方で、中等教育以上になると差が現れる要因として、女子生徒への性的嫌がらせ及び暴行、早婚といった伝統的慣習が挙げられる。
また、1人当たりGNIやフォーマルセクターにおける所得においても男女差は顕著であり、教育における男女差がその後の生活にも影響を及ぼしていることが伺える。
3-2.ジェンダーにおける課題
教育格差が社会格差となり経済的な男性への依存を強め、ひいては男性優位の社会規範を醸成していることが指摘された。これらの状況を打破するために政府はジェンダー関連の法整備を進めているものの、具体的な政策の実行につながっていない。背景として、政策を推進する場においても男女差があり、女性が少ないことが挙げられる。
3-3.ディスカッション
「ジェンダーの悪循環を断ち切るには、誰に対してどのような働きかけが必要か?」というテーマについて議論がなされた。「外界との接点としてのメディアの有効性」、「男性だけでなく女性への働きかけの重要性」等が指摘された。アドバイザーからは、短中長期的なあらゆる取り組みがなされることも重要だが、何より優先すべきは、「被害者の保護」であることが共有された。また取り組みが実施される中で、「ペナルティ、インセンティブ、教育」が重要であることが、日本の喫煙率低下の成功例とともに説明された。
4.参加者所感
教育は全ての人々の生活に密接に関わるものであり、その可能性は非常に大きく、様々な開発課題と切っても切り離せない関係にある。渡航前の準備を進めるなかで、教育について議論できたことは非常に有意義であったといえる。また、ジェンダーについて、男性・女性はもちろん、学生・社会人といった多様性に富んだグループで議論することで、参加者全員が多角的な視点を持つことにつながったと感じる。