パプアニューギニア・スタディ・プログラム

第2回勉強会(環境・持続可能な開発)

第2回渡航前勉強会:環境・持続可能な開発

1.勉強会概要

PSPの研究グループの一つである「環境・持続可能な開発班」より、調査内容の報告及び仮説の提示、参加者によるディスカッションが行われた。

2.環境・持続可能な開発に関する勉強内容

2-1.持続可能な開発と環境

「持続可能な開発」とは「将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発」(ブルントラント報告, 1987)と定義されており、持続可能な開発のためには、「環境」は大前提であると考えられている。環境と開発が共存しうるためには、開発は環境保全を念頭に節度を伴う必要がある。SDGs “Wedding Cake” を例に、環境レイヤーを基礎として、その上に経済・社会レイヤーが存在していることが紹介された。

2-2.PNGにおける環境問題とその要因

「海洋・陸域・気候・産業(資源)」を環境を捉える切り口とした。それぞれの環境問題が引き起こされる要因は、ⅰ.政府自身で行う環境対策が不十分、ⅱ.政府の腐敗による、企業への抑制不足、ⅲ.政府と企業が結託した資源開発の推進、ⅳ.住民由来の環境破壊、これら4つに分類されると考えた。

ⅰ.のパターンは、憲法で規定しているパプアニューギニア(以下PNG)のゴールの一つに「自然資源および環境は国民と将来の世代のために保全・利用する」とあるものの、政府の保護区管理の甘さにより、今後生物多様性を維持できなくなる可能性があるという状況に当てはまる。政府機関と地域住民の連携や政府機関の能力・資金の不足がこのような事態を引き起こしている。

ⅱ.のパターンでは、特別農業・事業リース(SABL)法が原因にあげられる。その内容は、土地所有者がいったん国に土地をリースし、今度は土地所有者がリースすることに同意した個人や企業に、国が再びリースすることで個人・企業が慣習地を使用することができるようになるというもの。結果として、国土の12%にあたる550万haが外国企業にリースされ、住民への事前説明はなく、森林伐採の大半が憲法を含む国内諸法に違反したものとなっている。さらに、原因は法律だけではなく、公的部局の腐敗が深刻であり関係諸法の施行能力の欠如によるところも大きい。

ⅲ.のパターンは、政府主導で経済発展を優先する開発をしたために開発現場の周辺地域の環境破壊が進行しているというものである。直近では、2017年の税制改革と鉱山法の改訂により、ブーゲンビル自治地区による鉱山開発の一時停止措置が解除された。今もなお、経済を優先する傾向が存在している。

ⅳ.のパターンとしては、人口増加に従って自給用農地が増加しており、その農地は焼畑農業の場合があり、住民が起点の環境破壊事例も確認されている。実際に、森林破壊の主要な原因の1つが焼畑農業による森林消失・劣化である。これは、伝統的焼畑農業の持続性が脅かされる速さでの農地拡大を意味している。

3.   ディスカッション

これらをもとに、環境・持続可能な開発班から提示されたディスカッションテーマは次のものであった。

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VISION2050で資源の開発が重要視されていること、また、私たちが実際にPNGの政府機関・企業の両方に訪問する予定であることから、特に、iii. 政府と企業が結託して資源開発を進めることによって生じた環境破壊の現状に注目する。このような状況に対し、政府が取っていくべき ”sound” な policy, legal framework, institutional framework(VISION2050)とは具体的にどのようなものか?
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参加者はオンライン、東京会場で合計5つに分かれ、「政府のガバナンス・管理能力不足」への指摘や、「環境と開発を、観光に結び付けることで両立させる」、「ESG投資等、企業側のポリシーで環境配慮を強化」というように、政府だけではない様々なアクターへの意見があり、活発な議論が行われた。アドバイザーからは、資源立国のうち鉱物輸出国はことごとく失敗しており、付加価値性の高い観光などを経済政策に組み込んでいく必要がある。観光事業はインバウンドで外貨獲得手段となるので成功可能性が高いとの説明がされた。そのためには、Result-Based Approach(結果をまず設定し、逆算して短期・中期・長期の to do を段階的に実行していく)が有効で、ブランディングを通じて人々の認知が深まることが重要という、ディスカッションからは出ていなかった新しい切り口が共有された。

最後に、プレゼンターからは環境と開発の両立が実行されていない理由として、「外貨不足が顕著で、資源を輸出することに躍起になっており、環境に配慮した制度や政策が取れないのではないか」、「技術・ノウハウ不足で、環境破壊の進行自体が管理しきれていないのではないか」などの仮説があげられ、その対応策としては、「ⅰ.他国との貿易のバランスを取りながら、法人税や関税の税制改革を行い、環境負荷の高い開発を減らしつつ外貨収入を維持する」、「ⅱ.外部(国際社会)から技術移譲&人材育成(→少なくとも環境保全のための国際協力)」が全体に共有された。

4.参加者所感

今を生きる人々にとって、目先の利益と生活の向上以外のことを考えることの難しさを、実例から学ぶことができた。先進国には環境を配慮した開発をすることで、持続可能な開発とすることができるという共通の認識が醸成されつつある。しかしPNGのような途上国において、この考えを政府だけでなく国民に広く伝え、持続可能な開発の機運を高めることは容易ではない。まずは政府の考えを少しずつ持続可能となる考えに切り替えていくことがPNGだけではなく世界規模の環境問題を考える上でも大切であることを感じた。