第3回渡航前勉強会:Basic Human Needs
1.Basic Human Needs(BHN)、Human Development(HD)とは
BHNとは Basic Human Needs の略で、マクロな開発に対する疑義を発端として提唱された。①衣食住などの個人消費の最低限を保障し、②基礎的な社会サービス(インフラ)を整備し、③仕事への十分な報償を保障することが主な定義。
1960年代まで、国連はマクロに特化して開発を進めていた(トリクルダウン仮説)が、その妥当性に疑義が唱えられるようになる中で、1970年後半からBHN分野への支援重視の考え方が提起された。しかし、主体となるべき途上国政府が ①BHNの優先開発は全般的な経済援助削減策に繋がる、②BHN戦略は先進国独自の優先順位を勝手に持ち込む内政干渉である、との理由で批判的であったことから、BHN戦略は一時後退し、経済成長を優先した構造調整プログラムが主流となり、再びマクロ視点での経済開発の舵が切られた。
一方でHDとは Human development の略であり、1990年代にUNDPによって提唱された。「貧困とは基礎的な潜在能力がはく奪されている状態であり、開発とは潜在能力を充分に発展させることである」とする考え方。
BHNとHDは国連の政策において、国家の経済成長(マクロ)から個々人の権利(ミクロ)に視点が移る中で提唱された考え方であり、それらの問題点を改善しながら現在のSDGs政策につながっていく。
図1: BHN勉強会資料より
2. PNGにおけるBHN
PNGと同程度のGDPを持つ各国と比較をしてみたところ、清潔な水へのアクセス、電気へのアクセス、インターネット普及率が遅れをとっていることが分かった。
Vision2050に基づき策定されたDevelopment Strategic Plan 2010-2030では、予算の40%以上がインフラ整備に利用されており、政府・国際機関が共に、インフラを重点分野として掲げている。BHN班では「国土横断的なインフラ整備が必要な分野が特に遅れをとっている」という仮説を立て、その原因と対策を考察した。
<問題>
①地形の問題:急峻な地形に加え、広い国土に人口が分散していることで、効率的な整備がしにくい(一度の整備でサービスが受けられる人が限られる)。
②資金の問題:様々な援助機関が分散してインフラ支援することにより、インフラ資金や人的リソースの分散化による大規模整備のしにくさや持続的整備の難しさがあるのではないか。
③ガバナンスの問題:近年の急激な人口増加と経済成長、都心部への人口流入によってインフラ需要と供給のバランスが昔と変化し、当初のインフラ整備計画とズレが生じている。計画→中断→再計画の繰り返しにより地方まで手が回らないのでは。
<対策>
①地形の問題:PNG最大の援助国オーストラリアも同様の地形であり手本はそばにある。他国から支援を”もらう”ではなく”学ぶ”姿勢をもつことが重要だと思われる。
②資金の問題:ドナーとのネットワーク構築による大規模な資金集めと整備計画立案を行うこと。③ガバナンスの問題:”都市””地方”というアプローチではなく、PNGを一つの空間として捉え、国、州、自治体すべてを垂直に、また様々な課題を水平に整備していく、”空間設計”のアプローチが有効ではないか。
3.BHN班が考えたこと
PNGではインフラの遅れが顕著であり、政府や国際機関もフォーカスを当てて対策を行っていることが分かった。しかし、インフラの整備が進めばPNGの人々のBHNは自然に向上するものなのであろうか。決してそれだけでは十分ではないと考える。
インフラの整備に加えて、PNGの人々が今自分が置かれている状況が「変える必要性のある」ものであるという認識を持つためには、継続した教育とメディアによる啓発が必要である。自分たちが声をあげれば、その状況が実際に変えられるという政府への信用は、政府による透明性の確保がなければ達成できない。さらに、変化を求める国民の声を拾う仕組みを整えることも重要であろう。