パプアニューギニア・スタディ・プログラム

第3回勉強会(民族・文化・言語)

第3回勉強会:民族・文化・言語

1.問題意識及び問題意識をめぐる議論

PNGを支援する他のアクターが合理的とするものが「PNGらしさ」を維持したまま適応されうるのかという問いについて、(1)民族・言語・文化に関連する基礎情報、(2)言語、(3)伝統的土地所有、(4)ワントク、(5)宗教慣習信仰の5点から議論した。(2)以降それぞれの要点の概要は以下の通りである。

  • (2)800以上の言語(世界の言語の約12%)がある中で、①大衆言語(トクピシン)の使用、②移行型バイリンガル政策の実行の2点により、国民意識・連帯感を醸成している。 
  • (3)部族ごとに土地を所有しているが境界線が曖昧で、部族間抗争や開発の原因となっている。また、土地開発が困難であるため、公共サービスへのアクセスや治安などについても問題がある。
  • (4)ワントク(語源:One-talk)とは有事の際に支え合うネットワークである。何もしなくとも利益を得られるコネクションであるが、貨幣経済の浸透でその実態は変化しつつある。また、労働の対価としての賃金制度が歪むため、不正/腐敗の温床と化している。
  • (5)政府はキリスト教の重要性を説くが、伝統的価値観とキリスト教信仰の衝突が起きることもある(例:共同体の外部への敵意識、一夫多妻制など女性の地位の低さ、魔女狩りなど基本的人権の侵害)。またキリスト教の「兄弟愛」が、ワントクのみに限られ、それ以上に広がらないという現状もある。

第3回勉強会議事録より

2.ディスカッション内容

上記の縦断的な問いに加え、「PNGらしさ」を維持したまま開発を進める上で、どのアクターが具体的なアクションができるか(国連機関、政府機関、民間企業、NGO/NPO等)、各アクターが気をつけられることは何かという横断的な問いについて議論した。参加者からは、伝統性に対する理解、国民・NGO/NPO・コミュニティ・政府・国連などの役割分担と連携、教育と開発の在り方などについて幅広い意見が提案された。

3.問題意識に対する仮説

  • 「PNG Way(PNGらしさ)」の内容は政府としての公式見解も固まっていないため、外部者が入る前にはPNGらしさについて各アクターが独自の仮説を持った上で実施することが重要なのではないか。また民間企業やNGO/NPOの活動についての詳細が把握できていないため、そこにも焦点を当てるべきではないか。
  • 「伝統」「PNGらしさ」のために基本的人権が侵害されていると見受けられる事例がある。声をあげることができないのであれば、それに価値を置くことはできないのではないか。例として、女性の役割を女性自身が誇りを持って選べるのであれば「伝統」や「PNGらしさ」を評価することはできるが、声が届かないのであればそれは問題である。
  • 伝統には良い面/悪い面が存在している。良い面を生かしていくには現地の文化を熟知したNGO/NGOが入ることが効果的なのではないだろうか。また、大きいレベルでの目標を達成するためには国連とNGO/NPOの協働が重要なのではないか。それぞれの人が多数の選択肢を持てるような、また自身らの文化を客観的に見ることができるような教育と開発が必要なのではないだろうか。
  • 上記の要因を踏まえて、PNGで国際援助を行う際には伝統的な価値観を尊重しつつ、各アクターが各々の長所を生かして協働し、住民との対話を進めていくことが重要である。

4.参加者所感

参加者からは、「PNGらしさとはなんだろうか。共通項を見つけ出すことはできるかもしれないが、定義するのはとても難しい」「各アクターによる役割分担が重要であると考えられるが、各々が好き勝手に動いていてはリソースを無駄にしかねないため、PNGを一つ/全体として見ることも大切ではないだろうか」「たくさんの選択肢の中で価値を出せるか?equalと同時にequitableも重要。昔ながらのあり方に誇りをもつのは良いが、それを現地住民は多様な選択肢の中から選べているのか」などといった感想が述べられた。