アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)ポートモレスビー事務所
1.組織概要(事業目的、ゴール等)
事業目的:アジア諸国に対する開発資金の融資と技術援助を目的として設立された金融機関。世界最大の貧困人口を抱える同地域の貧困削減を図り、平等な経済成長を実現することを最重要課題としている。
主要事業活動:(1)開発途上国に対する資金の貸付・株式投資、 (2)開発プロジェクト・開発プログラムの準備・執行のための技術支援及び助言業務 、(3)開発目的のための公的・民間支援の促進、(4)開発途上加盟国の開発政策に関する調整支援等
3.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細
ブリーフィングにおいて説明された内容
組織の構成国と出資国について
計67カ国で構成されており、最大の出資国は日本とアメリカ(共に出資比率は15.6%)
担当者のプロフィール
担当のDavid Hill氏はPNGに約2年半以上住んでおり、ADB PNGオフィスは数十億ドル規模の融資を行ってきた。
質疑応答
1)他の銀行機関との所掌業務の棲み分けは存在するか?
――その時々で、どのプロジェクトに関わるかは変わる。現在は政府のパイプライン敷設計画の一部を請け負っており、JICAとの共通融資を行うにあたってのFeasibility Studyを実施している。他の機関に対してADBが優位性を持っている点としては、PNG内にナショナルスタッフが多いため、より機動性が高く、安価にプロジェクト実施が出来る点にある。
2)中国政府設立のアジアインフラ投資銀行(以下、AIIB)との役割の違いについて
――ADBは、中国からの出資も受けているため、重要な国家として認識をしている。キープレイヤーであるためADBとしてもサポートしていきたい。ADB元職員もAIIBに入職をして、働いており相互に協調し合っている。パキスタンにおいては、ADBとAIIBで協調して融資を行った案件もある。
3)ADBが政府腐敗の有無についてどのようにモニタリングをしているのか?
――政府向けに融資した資金を後追いするシステムを機関内で保有している。専門のファイナンシャルオフィサーが資金監査を定期的に行っている。
4)インフラ融資を巡るCustomer Land Ownershipの運用はどのように行っているか?
――仮に土地の所有権が設定されていない場合には、ADBが土地取得を行うことはなく、土地取得は政府が担うことになっている。政府による土地取得完了後に、ADBがインフラ融資を実施する。その土地土着の固有民族についてはマイノリティの比率が高すぎて、その点を考慮して施策を行うことは現実的に困難となっている。
5)PNGにおける観光業に対する融資計画はどのようになっているか?また、PNGは観光業発展において国の安全性の低さが懸念されるが、その点についてはどのように考えるか?
―― ツーリズムマスタープランは保有している。安全性の点については国際連合安全保安局(UNDSS)が所掌業務としているため、発言は控えた。
6)ジェンダーと教育に関連する課題解決についてADBとしてどう考えるか?
――ADBマニラ本部より教育課題解決に向けた政策は入手している。発展に向けたパートナー探しをしている段階で、2020年にマニラからPNGに本部職員が視察に来ることになっている。
7)民間セクターへのADBの関わりについて
――PNGにおいてはコーヒー産業に対して、ADBも含めて4つの銀行が融資を行っている。プロジェクト実施に際しての障壁として挙げられる点は、利子率が高く融資先の利便性が良くないこと。
8)マイクロファイナンス施策の成功事例について
――中央銀行と共同実施している多くのプロジェクトがある。成功事例としては、地方在住の国民が銀行口座を利用できるようになったこと。マイクロファイナンス実施に銀行口座保有は非常に重要であり、PNGにおいては “My Bank” という口座が多くを占めている。
9)道路インフラへの融資に対する今後の考え
――道路融資はPNGにおいて重要であると認識している。夜間に道路灯環境がある道路を敷設することや、歩行者向けに道路の利用方法の認識向上キャンペーンなどを行っていく必要がある。
10)ADBに就職した理由 ※同席したエコノミストのEdward Faber氏が回答
――大学時代、自然災害に関する研究分野を専攻しており、ロンドンの民間セクターで銀行員として働いていた。その当時に諸外国との銀行業務を担当しており、かつ50カ国近くのADBカバーエリアとの連携があった。当時の経験を生かしてADBにおいて働きたいと希望をして就職をするに至った。
3.参加者所感
・AIIBとの協力について:
首都POM市内では、中国政府からの出資による建設ラッシュが垣間見え、AIIBとしてもADBとの役割の分断があるのでは?という初期仮説があったものの、実際にはADBとAIIBが相互に連携を取りながら進めているプロジェクトもあるそうで、かつ中国に対して「重要なパートナー」としての認識も持っている点で、仮説が裏返った有益な情報となった。
・PNGの教育課題に対するADBの取り組みについて
「2020年にマニラからPNGに視察にくる」という発言について、裏を返すと教育課題に対する差し迫った施策は今のところ取っていない可能性もあるのでは、といった考えも生まれた(どちらかというと、比重は道路インフラなどの融資業務となっている可能性がある)。