パプアニューギニア・スタディ・プログラム

Bank of Papua New Guinea

パプアニューギニア中央銀行(Bank of Papua New Guinea)

1.組織概要(事業目的、ゴール等)

1973年設立。その権限の範囲内で行われる財政政策と銀行政策が、パプアニューギニアの国民にとって最大限に有益となり、安定した財政と健全で効率的な金融構造を促進することを所掌している。

2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細

主として質疑応答を通して活発な議論が行われた。

<伝統的な売買システム:物々交換>

1)通貨単位である「キナ」・「トヤ」の意味は?
――いずれも伝統的に通貨と同様に扱われていた「貝」を意味する。婚姻の際の持参金や売買、部族間抗争の賠償金などで使用されていた貝が通貨単位の語源となった。ミリン・ベイ州では「クラ(Kula)」が使用され、ハイランド地方ではまた別の通貨(貝や豚など)が使用されていた。このような伝統的な売買、すなわち物々交換は、オーストラリアから独立する1970年代まで存在し、現在でも実際の売買で使用されることもあるが、法的な価値は持たない。しかし、そのような重要な歴史を反映した通貨単位の名前の由来となっている。

2)「クラ(Kula)」貿易システムとはどのようなものか?
――「クラ(Kula)」も「キナ」や「トヤ」と同様に伝統的な通貨の1つ。ミリン・ベイ地方で売買などで使用されていたもので、大きなカタツムリの貝。ミリン・ベイ地方の特産品の一つにヤム芋があり、高級品のためヤム芋の所有量で社会的地位が決まっていた。そのヤム芋の売買にクラが使用されており、富を築くためにクラ貝は使用されていた。
 同様の伝統的な通貨は他の地方にもあり、内陸部の地方と沿岸部の地方では伝統的な土器がキナ貝と交換されていた。正式な通貨が導入される以前から、似たような概念が既に存在していたといえる。

3)今後、そのような伝統的な通貨は残るか?それとも近代的な通貨の導入によってなくなってしまうか?
――都市部の人口は、伝統的な通貨や売買システムとの縁が途切れてしまうが、地方部では未だ伝統的な通貨・売買システムが残っている。欧米の通貨文化が浸透して伝統文化が消滅しようとしているが、このような物々交換や伝統通貨はパプア・ニューギニア独特の文化であり、人々にとっても特別で重要な意味を持っている。

<金融包摂>

4)パプア・ニューギニアにおける、金融包摂の現状はどのようなものか?
――我が国の地形と識字率の低さが金融包摂の促進を困難なものにしている。識字能力がない人々にとっては銀行口座を開いてもその責任について理解してもらい、持ってもらうことが難しいからだ。一方で、2013年にCentre for Excellence in Financial Inclusionが設立され、全世界の成功事例を参考に金融包摂への戦略的政策を作成している。他国では、モバイル・バンキングなどの事例があるがそれでも普及するには教育やリテラシーが人々には必要である。直近では男女のバランスが取れた、銀行口座数100万を目標とした戦略を作成している。
 統計をとり、それらを分析した上で金融リテラシーを向上させるための最も効率のよい施策を考えるが、人的・物質的資源の欠如や地方部への物理的アクセス・言語の違いのため、とりわけ地方部における金融包摂についての統計を取ることは困難である。

5)パプア・ニューギニアでのマイクロファイナンスの状況は?
――金融セクターの一部を形づくっており、中小企業を中心に浸透している。効率的に運用されており、10前後のマイクロファイナンス機関や銀行があるだろう。驚くべきことに、マイクロファイナンスの分野のほとんどは女性が担っており、農業で取れた作物でビジネスを起こす女性が多い。

6)パプア・ニューギニアにおける銀行口座の保有状況は?
――フォーマル・セクターでの労働人口が国の30%のため、銀行口座の保有状況もそれに等しいと考えている。しかし、フォーマル・セクターに分類され銀行口座を保有している国民でも金融リテラシーが不足している。インフォーマル・セクターに所属している国民でも収穫した作物を輸出することで十分な収入を得ていることもあるが、金融リテラシーは十分でない。そのため、貯蓄の概念が欠如しておりその日の収入を全てその日に使い果たしてしまうことが広く見られる。この貯蓄概念の欠如は、金融リテラシーにおける一つの問題で国民に広く浸透させる必要がある。

<全体的な活動>

7)中央銀行としての業務の概要と状況は?
――任務はパプア・ニューギニア経済における金利・インフレ率・通貨価値の安定を図ることであり、中央銀行は通貨供給量を管理して統括している。財政政策に関しては政府の方が権限が広く、中央銀行はその政策形成への助言にとどまる。
 パプアニューギニア経済は鉱物資源に依存しているが、国民の生活はほとんど農業による所得に頼っている。官民両セクターでの通貨供給量のバランスをとることを意識しており、日本が輸出入を含め最大級の投資国である。

<資源の輸出と通貨価値の関係>

8)通常資源国はその資源を輸出することで、通貨価値が向上するもの(cf. その結果、その国で作られた工業製品の競争力が低くなることを「オランダ病」と呼ぶ)だが、パプア・ニューギニアではなぜその現象が見られないのだろうか?
――とてもいい質問であり、我々も正確な答えを突き止めたいと考えている。現時点でその原因と考えているのは、我が国で資源開発を手掛ける企業は他国にオフショア口座を保有しており、投資は我が国の外で行われていることだ。この件に関してはプレス・リリースなどを通じて中央銀行が懸念を示している。政府の主要関係者は、適切な規制を施すためにもこの状況をきちんと理解する必要がある。現状では、開発企業との契約を既に結んでいるため資源収入の利益率を上げることはできない。エクソン・モービルやJX石油開発が手掛けている資源開発事業では、2014年から天然ガスの輸出が開始しているが初期の建設費用も莫大なためその利益は100%我が国に入ってきていない。また、資源輸出をきちんと監視していないことも原因だと考えている。現在ではなくなったが、以前はキナと米ドルが闇市場で取引されていたこともあり、資源輸出による利益が我が国にほとんど入らなかったこともあった。

3.参加者所感

中央銀行のシニア・アナリスト以上の職員が対応をしてくれたがどちらも知識に富んでおり、通常の業務から離れた伝統通貨などの文化面についても詳細に説明して頂いた。伝統通貨の将来に関する話でも、資源輸出における収入に関する話でも、これまでの歴史や経緯をしっかりと述べ、問題点を認識し、改善の必要性を語ってくれた姿には国へのプライドも感じられた。