パプアニューギニア・スタディ・プログラム

ChildFund

ChildFund Australia Papua New Guinea Office

1.組織概要(事業目的、ゴール等)

ChildFundは、1938年に戦争孤児救済のため設立されたアメリカのキリスト教児童基金(CCF)が母体となる国際NGOである。活動目的は、発展途上国等において生活が困難な状況に置かれている子どもの貧困削減と保護である。また、子どもの保護活動の一環として家族やジェンダーの課題解決にも取り組んでいる。パプアニューギニア(以下PNG)では、児童の保護とジェンダー問題に取り組むため、1994年に事務所が設立された。

PNG事務所の活動において特に注力している分野は、教育、ジェンダー、保健衛生である。今回の訪問では、この3つの分野に関する具体的なプロジェクトについての説明を受けた。また、性暴力・家庭内暴力撲滅のためのホットラインの運営事務所に訪問し、そこで働くカウンセラーの方々にも話を聞いた。

2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細

【性暴力と家庭内暴力被害者のためのホットラインプロジェクト】
<背景・現状>
PNGでは、性暴力(Gender Based Violence)が深刻な社会問題となっているものの、PNGにおける性暴力の実態を示す詳細なデータの少なさから、実践的な解決への働きかけ不足が指摘されている。現在は、女性全体の約3分の2の人々が、知人や配偶者等からの性暴力を経験しており、多くの子どもも性暴力を含む家庭内暴力の被害にあっていると報告されている。また、加害者の大半は男性で、飲酒時に暴力に及んでしまう事例が多い。

性暴力・家庭内暴力における課題としては、被害を主張する権利について認知されていない、被害を訴えられる場所がない、などが挙げられる。また、被害の87%は地方で起こっているため、対処が難しいことも大きな課題とされている。これらの課題解決と暴力削減のため、PNG事務所では被害者のためのホットラインを設立した。運営はニュージランド政府などから資金援助を受けながら行っている。

<プロジェクト詳細>
ホットラインプロジェクトとは、暴力行為の被害者や目撃者などが匿名形式で、直通電話を通して専門家に相談できるサービスを運営するプロジェクトである。主な特徴は以下の3点が挙げられる。

  • 携帯電話を活用したサービス:携帯電話の使用者の増加状況を上手く活かし、携帯電話からフリーダイヤルで匿名連絡できるホットラインサービスであることが大きな特徴である。地方の被害者をひろう遠隔対応可能なサービスである。
  • 専門家と複数言語による対応:ホットラインは毎日午前7時から午後7時まで対応。現在は7名のソーシャルワーカーや医療カウンセラー等の有資格のカウンセラーと、2名のシニアアドバイザーで対応している。スタッフは専門的なトレーニングを受け、電話によるカウンセリングが可能となっている。また、対応言語は英語、トクピシン語、モツ語の3言語である。
  • 様々な機関との連携:被害者からの電話相談の内容によっては、様々な機関に専門的な措置を委託する事例も多くある。例えば、警察による対応や法的措置が必要な場合は、専門機関に繋ぐこともあるため、他機関との連携を重視したプロジェクトとして運営している。

<利用状況>
開設してから3年が経過しており、PNG事務所では累計23,000件の電話に対応してきた。利用者数としては、毎年2倍以上の増加推移が見られる。

  • 利用地域:現在は、全ての州において利用されている。特に首都での利用が最も多く、他に多い地域としては、地震被害が甚大であったSouthern highlandsからの電話が最近では多い。
  • 利用者状況:サービス利用者の63%は男性であり、女性は37%である。利用者の多くは被害者だけではなく、家族や知り合いが暴力を受けていることを見た目撃者も含まれている。また、加害者が罪の告白として利用するケースもある。利用者に男性が多い理由は、①男性の方が携帯電話を所持・コントロールしやすい環境にある、②PNGの男性は世間体を気にする傾向にあるため、匿名性で告白できるホットラインは都合が良い、などが挙げられていた。
  • 去年の利用者データ
    専門カウンセリング件数:2,500件 新規利用者:900件 自殺防止:22件 
    外部機関への委託・連絡件数:3,500件(そのうち警察への連絡件数:1,200件以上)

<質疑応答>
1)死の危険や重傷のケースなど、被害レベルに基づいてデータを保管しているのか?
――利用者からの電話の際にリスク評価を行い、そこでのデータを厳重に保管している。命に関わるようなリスクの高いケースの場合、専門医や専門機関への機関への委託や連携が非常に重要になるため、それらの機関への説明責任としてデータを参照しなければならない場面もある。その際にはセンシティブな情報のため、データ共有や保管には細心の注意を払っている。被害報告としては、medium injuriesのケースが多い。被害者の多くは16歳から40歳までの子持ちの女性や既婚者である。

2)対応するスタッフにとってもリスクが高い案件の場合、どのように対処するのか?
――命の危険に晒されている利用者の救済の際など、スタッフにも対応時のリスクが伴う場合は、可能な限り電話を通じたカウンセリングと、警察等への連絡を促すアドバイスを行う。時には、ケースマネジメントサービス(ケアマネ)に直接つなげる場合もある。また、Family PNGなど家庭内暴力などを取り扱うNGO等、他のNGOと連携する場合もある。

【公衆衛生と結核撲滅プロジェクト】
<背景・現状>
PNGでは、公衆衛生や健康に関する問題が深刻であり、結核をはじめとする感染症も子どもが犠牲になる場合が多く、非常に深刻な事態となっている。また、PNGは結核の発生率が世界で10番目に高い国であり、西太平洋地域では最も高い発生率である。この事態を改善するため、子どもたちが暮らすコミュニティ全体で衛生教育を行い、結核予防の啓発を推進することでこどもや人々を守ることを目的としたプロジェクトを実施している。

衛生と結核に対する具体的な活動としては主に、①コミュニティベースで行う結核撲滅活動、②子どもの健康・栄養管理と衛生環境整備に関する活動を行っている。活動地域は主に首都地区(Port Moresby/Northwest)であり、この地域での活動においては、Advocacy 、Health promotion、Service deliveryの3つの要素を重視している。

<プロジェクト詳細>
例年首都地区では例年6,000人以上が結核と診断されており、患者の3人に1人が子どもである。このような背景から、首都地区における結核の被害を減らすことを目的として、Port MoresbyとNorthwestにおいて以下2つのプロジェクトが実施されている。目標として、2020年までに結核の通知率(TB case notification rate)を10万人につき1,300件以上を維持し、10,000人につき500件を治療可能な段階で発見することを掲げている。

  • コミュニティベースで行う結核撲滅活動:このプロジェクトでは、村やセトルメントなどコミュニティのリーダーを対象に、結核を中心とした衛生教育に関するワークショップの開催やIEC(International Educational Communication)セッションを実施している。コミュニティベースで結核についての意識や危機管理を高めることが重要とされているため、最終的には、結核の疑いがある人が相談できるプラットフォームを構築することを目標としている。
  • 子どもの健康・栄養管理と衛生環境整備のための活動:このプロジェクトは、子どもを取り巻く衛生環境を改善するため、水衛生に関するインフラ整備や関連設備を提供している。また、ワークショップなどを通した啓発活動も積極的に行っており、公衆衛生や健康などのサービス供給に携わる人材の育成やキャパシティ・ビルディングを目的としている。ここでいうサービス供給に携わる人々とは、主にコミュニティのリーダーなどのファシリテーター的な役割を担う人も含まれる。

上記の2つの活動を通して、以下の3点が現在の活動成果として挙げられていた。
⑴ 活動地域の村やセトルメント等に住む、90名以上のリーダーへの研修が実施できている
⑵ 1,800名以上の結核患者が、プロジェクトによって支援できている
⑶ 少しずつではあるが、コミュニティ全体での結核に対する意識が改善している

一方で、プロジェクトの課題もいくつか共有された。最も大きな課題としては、感染源の流動性の高さによる予防活動の難しさが指摘されていた。結核をはじめとする感染症の流行地域は首都地区とされているが、感染源とされる患者の多くはセントラル州やガルフ州出身で、出稼ぎのための首都地区への一時滞在を通して、結核の蔓延や感染に関与していると言われている。従って、感染者を含めた人々の移動が流動的なため、結核の一掃がより困難であることが挙げられていた。

<質疑応答>
1)セトルメント等治安が良くないコミュニティでの活動はどのように実施しているのか?
――トリートメントサポーターと呼ばれる、セトルメントに通じる現地のカウンターパートのサポートのもと活動を行っている。しかしながら、セトルメントの住民の多くは様々な地域や文化圏から来ているため、啓発活動の実施が困難な場合もある。また、失業者が多く治安が悪いセトルメントでは、スタッフの安全管理に特に注意しなければならない。

2)プロジェクトを行う際に政府や他の機関とどのくらい連携しているのか?
――現在PNG政府は、10歳以上のすべての人を対象に結核の確認・早期発見を目的としたスクリーニング調査(事前調査)を一部の地域で開始したこともあり、結核撲滅のための取り組みが国際機関の支援のもと積極的に行われている。そのため、世界銀行やWHOなど国際機関との連携が活発になっている。

【教育のアクセスと質改善プロジェクト:Together for Education】
<背景・活動概要>
PNGの教育事情は、非常に深刻な課題を多く抱えており、初等中等教育課程の修了率の低さや基礎的な学力の低さが指摘されている。従って、国際機関やNGOは教育のアクセスと質の改善に向けた支援を積極的に実施している。ChildFundは、教育分野の支援においてオーストラリア政府(Department of Foreign Affairs and Trade)や国際NGOのWorld Vision等と共同したプロジェクトを行っており、特に教育の質改善に向けた活動を担当している。”Together for Education”と呼ばれるこのプロジェクトは、オーストラリア政府による資金援助で成り立っており、ChildFundとWorld Visionがリードする形で、支援内容に合わせて専門的なNPOとも連携しながら活動している。プロジェクトでは、セントラル州、マダン州、モロベ州の300校を対象としており、このうちの3分の1である100校での活動をChildFundが担当している。

<プロジェクト詳細>
ChildFundが具体的に実践しているのは、①学校運営の能力向上②教員の授業実践能力の改善③教材提供④研究・調査の4つのテーマに沿った活動である。また、主な活動対象は初等教育課程である。それぞれの活動内容は以下の通りである。

  • 学校運営と教育の意識化に関する活動
     この活動では、子どもの親や保護者、子どもが生活するコミュニティの人々に対して、子どもの教育の重要性を認識してもらうことを最大の目標としている。また、学校側が教育の重要性を村や地域などのコミュニティに根付かせるために、学校運営を工夫することも目標の一つである。
     具体的には、保護者や親へのトレーニングとして、定期的にワークショップや集会を学校で開催し、子どもの教育に関する相談の対応やアドバイス等を実施している。現在まで、500名以上の保護者に対してトレーニングしており、彼らの子どもの教育についてサポートしている。また、学校に通えない子どもにも教育機会を与えられるように、対象学校付近のコミュニティ在住の全ての子どもを対象に読書クラブを開催している。
  • 教員教育に関する活動
     教員教育に関しては、対象学校の教員に対して、授業実践能力を向上させるための活動を行っている。PNGの初等教育課程では、年齢の異なる生徒が多い複式学級が多く、読み書きや計算能力について教える際には、教員は年齢の違いによる理解度を認識しながら授業を行わなければならない。ChildFundでは、このような授業を全ての教員が実践できるよう研修等を行うとともに、他の教員のモデルとなるようなリーダーシップのある教員を中核人材として育成する活動も行っている。現在は、300名近くの教員への教育を行っている。
  • タブレットを含む教材提供に関する活動
     この活動では、国際NGOのLibrary for All(現在の名称はNABU)と共同で教材提供を行っている。具体的には、授業の質や図書館の蔵書の充実を図るため教科書を提供するほか、タブレット等の電子教材を配布するなどしている。現在は対象の学校にそれぞれ50個ほどのタブレットを配布しており、盗まれたり破損したりする等の報告はされていないため、良質な状態で使用されているとのことである。このような教材提供の働きにより、生徒がタブレット等に興味を示し、学校の出席率は改善していると報告されている。
  • 研究活動・調査活動
    ChildFundでは、教育支援の成果や影響、教育実態の調査活動や研究活動も行っている。具体的には、①読み書き・計算能力に関する評価と、②学校環境の実態調査の二つの調査を実行している。①読み書き・計算能力に関する評価では、対象地域の小学校80校の1154名の生徒を対象に、EGRA(Early Grade Reading Assessment)とEGMA(Early Grade Mathematics Assessment)というテストを実施し、学力調査を行っている。②学校環境の実態調査では、41名の校長と55名の教頭、40名の教育委員会代表にインタビューを実施し、子どもに対してもグループインタビューを行った。その結果、教員や保護者による子どもへの体罰の実態が報告された。子どもへの体罰の問題は深刻であり、調査対象の子どもの85%が重傷を含む体罰を経験していることが指摘される。体罰は教員だけでなく、保護者を含めた大人が躾の一環として日常的に行っているため、大人の躾や教育への意識をすぐに変えていくのは難しいとのことである。

<質疑応答>
1)ChildFundの活動において、どのくらい政府と連携して動いているのか?
――ガバナンスに問題の多い政府との連携は、課題は多いが比較的良好な関係性が築けている案件もある。しかしながら、政府との連携の中でChildFundとしては、①政府による活動の透明性を担保できるよう支持しながら良好な関係を築く事や、②ChildFundが蓄積してきた知識を活用してもらいながら政府関係者の能力を高めていく事を目標として掲げている。

2)部族の文化的要因が作用して体罰が根付いているとすると、体罰の横行が特に深刻な地域などはあるのか?部族や地域によって違いはあるのか?
――調査のサンプル数が少ないため、地域間や部族間における体罰の違いは比較することはできない。特に少数部族の数や彼らの文化は年々減少しており、政府の把握も難しい。

3)平和教育等の観点から、異なる部族への理解を促す教育はされているのか?
――彼らの伝統文化について学ぶ機会をカリキュラムの一部に設けてはいるが、親や教育関係者の多くは、将来のため英語による教育の機会を充実させる事を望んでいるため、あまり機能していない。また、教育分野において、伝統文化の維持に積極的なアクターは少ないため、多文化教育のような活動は実施が難しい。

4.参加者所感

PNGで最も深刻だとされる女性や子どもへの暴力の問題や、教育、衛生など人々が生きる上で必要不可欠な分野における課題や実態について、詳細に学ぶ事ができた。また、NGOがコミュニティ単位のエンパワメントに関してどのようにアプローチしているのか、そこにはどのような課題と可能性が存在するのか、多様な観点から理解できた一方で、課題の早急な解決というのは非常に難しく、地道な実践の重要性を改めて認識した。

今回学んだ3つの分野について共通する課題は、多様な部族が持つ言語や価値観に基づいた要望への細かな対応とされているが、現地の文化や価値観を海外のアクターが根本的に理解しながら対応することは極めて難しい。だからこそPNGの人々自身の努力が必要であり、海外のアクターは彼らの内発性をどのように引き出すことができるのか考える必要があると実感した。