国際協力塾
1.概要(事業目的、ゴール等)
国際協力塾は、パプアニューギニア(以下PNG)の首都ポートモレスビーで、有志によって月1回を目処に不定期に開催されている会である。PNG在住のJICA関係者を中心に、その他の邦人の方で開発協力に限らず、民間、大使館、NGOの方も参加している。PNGの開発協力、開発の方向性等について、PNGにおけるそれぞれの活動・成果・教訓等の共有と意見交換、自由なトピックでの議論等、PNGでの活動における相互研鑽・情報共有の場とする目的で開催されている。
2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細
当日の概要
PSP側から、渡航前調査に基づいて構築した仮説と期間中に感じたことをまとめ、発表させていただいた。PSP側の発表では、「PNGには成長も必要だがPIE(パートナーシップ・インフラ・エデュケーションの頭文字)を優先すべきではないか」と提案した。この提案に対して、国際協力塾主催者である大野さんをはじめとする、下水処理工事会社、双日、JICA、PNGの政府関係機関等で勤務されている在住日本人の方々と意見交換を行った。
質疑応答
1)成長よりも、PIEを最初に進めていくという考え方はどう思うか。実際にPNGで実務をなさっていてどう思うか。
――成長を優先することに賛成が大多数。インフラも重要であるが成長がないと持続的な取り組みができない。成長がないことで国の歳入がなかったら成り立たないと実感している。
2)「成長」を目指すべきだというが、「成長」というのはどういうものなのか、国民に浸透していないのではないか。
――今までのPNGの政策は、外国人を中心に策定されてしまっている。教育の話も、PNGの人が自分たちで作っているかどうかが要点になる。人を作る教育は非常に大事だと思うが、そもそもよい教育とは何か、どのように実施していくかはPNGの人々が考えてやっていくべきことではないか。
3)開発に関しての考え方を聞きたい。PNGの方へ支援してどう感じているか。
――インフラ開発への支援を例に挙げると、日本が長年支援を行っている下水道管理は非常にお金がかかる。JICAの借款事業として行われている為、その返済のための費用がかかる一方で、維持管理にも費用がかかる。PNGでは下水などのインフラ設備に対して、下水に何でも捨てて、ゴミや油を流して下水道設備を壊してしまう事例が多々起こっている。ここで鍵になるのが教育であり、人々のモラルを育成する教育が重要である。この事例から、PNGの住民や子どもに対する環境教育が必要だと感じる。
――PNGの人々は、自分たちで積極的にこの国をなんとかしていこうという意識よりも、黙っていたり辛いなと思ったら助けてくれるという意識が強い。従って、彼ら自身の内発的な動機を促すことが重要であり、PNGの人々によって産業を興し収益を上げることが彼らの成功体験につながり、彼らの意識を変えていけるのではないか。
4)(国連人間居住計画(UN Habitat)元職員が携わっている)セトルメント訪問時、セトルメントの村長らが、同日に訪問していた市長を歓迎していた様子が印象的だった。彼らの関係性の背景にはどんな意図があるのか。また、開発が格差や環境破壊の助長を招く要因となる場合も多いが、PNGではどのように考えられているのか。
――「歓迎したら何か貰えるのではないか」という思惑がPNGの人々の中にはある。一方で、支援に対して心から感謝している場合もあるので、開発機関と現地の人々の間の関係性において、上記のような意図をどう理解するべきかといった、さじ加減が難しい。
――開発が及ぼす弊害については、確かに経済成長や産業発展のみを考慮した開発をすると、公害などの問題が発生してしまう場合がある。しかしながら、かつて同様の問題を経験した日本だからこそ、支援という枠組みを用いて解決できることがあると考えられる。公害などの環境問題を引き起こさずに、産業を興していく技術に関して、日本には多大な蓄積がある。これを活用して支援していくことが日本にできることであり、自分たちがやらなければならないことだと思う。
5)成長は持続可能であるべきだとして、「PIE for SDGs」を提唱したいのだが、これはこの国ではうまくいくだろうか。
――PNGはワントクによって、平等社会、村社会が強く残っている。そのため、成長していくという意識が共有されにくい。成長や発展を生むためには人々に対して雇用の機会が必要であり、その雇用創出により収入を得ることでPNGの人々の生活が安定し、治安も改善される可能性がある。現代の貨幣経済の社会システムを考えると、PNGの社会で人々がこのシステムにどうアクセスできるかどうかが要点となってくるため、これを考慮した「PIE for SDGs」に基づく施策を行うことができれば、うまくいくのかもしれない。
6)PNGの成長が阻害された要因とは何か。
――以前は、オーストラリア、イギリスといった旧宗主国や先進国の人々が、PNGにおける政策立案に関する要職に就いていた。当時彼らはPNGの人々に対して技術移転を行うことを重視していなかったが、現在ではそのことが非常に問題として認識されている。その後PNG政府は、海外の人を要職ではなくアドバイザーとして置き、技術移転を進めているものの、この問題がPNGの成長を根本的に阻害した要因として考えられている。
3.参加者所感
国際協力塾に参加し、日本人がこんなに多くPNGに関わっていること、そしてPNGについて真剣に議論する場があることをもっと発信すべきではないかと感じた。ビジネスの観点から関わっている方とディスカッションした際に、ビジネスの領域においてもワントクによってPNGの人々が、「誰かが助けてくれる」という思いが強いこと、自分たちの国の問題を他人事のように思っているような言動は、今後のPNGが成長する上での目に見えない阻害要因になるのではないだろうか。
また、諸外国がインフラや行政にアドバイザーとして関わったとしても、現地の人が内発的に問題意識を持ち、自発的に取り組んでもらうのはとても難しいように思う。日本を含め、他国が支援しても現場の課題解決の要となるのはPNGの人々であり、このことは国際協力塾に参加している方々の話からも共通認識として見られた。他国の関係者や私たちが今後積極的に行うべきことは、技術移転だけでなく、いかにPNGの人々のモチベーションを上げることを促すか検討していくことではないだろうか。その土台となるのがやはり教育ではないかと感じた。