世界銀行グループ パプアニューギニア事務所
1.組織概要(事業目的、ゴール等)
世界銀行は貧困削減や開発支援を目的とした資金や技術援助を行う国際金融機関であり、2030年までに達成すべき目標として以下2つを掲げている。
(1) 極度の貧困を撲滅:1日1.90ドル未満で暮らす人々の割合を3%以下に減らす
(2) 繁栄の共有を促進:各国の所得の下位40%の人々の所得を引き上げる
世界銀行はパプア・ニューギニア(以下PNG)政府ともパートナーシップ戦略を締結し、積極的な支援を行なっている。現在は、2019年から履行される政府の5か年戦略策定のサポートと並行して、道路整備やエネルギー、農業など多様な分野で10近くのプロジェクトを進めている(World Bank, Our work in Papua New Guinea を参照)
2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細
<World Bank PNGの活動紹介>
世界銀行が現在サポートしているPNG政府の5か年戦略策定では、以下の分野に重点が置かれている。
(1) 民間セクターの開発
PNGは天然資源豊富な国でありながら、産業発展の遅れもあり人々の雇用に結びつくような仕事が少ないことが問題とされている。また、PNGの商社はほぼ全て中国が所有しているため、外資への依存や偏重を解消し、貿易面を強化することも経済発展の上で重要な課題である。
(2) ビジネスのために必要なインフラの整備(電気、水、道路など…)
PNGでは20%程度しか電化されていない。辺鄙な農村部にいかにしてインフラを届かせるかがこの国で重要な課題となっている。
(3) 社会サービスの強化
以下3点が重点領域である。
- 飢餓撲滅:特に子供の飢餓は、成長後のパフォーマンス低下にも繋がる深刻な問題として認識されている。
- 初等教育の普及:政府は初等教育の無償化を政策として実施しているが、教師や教材の不足などによりうまく機能していない。
- 保健サービスの普及:ポリオの蔓延が深刻であり、解決を急ぐ問題である。保健サービスに従事できる人材不足と伝統宗教への依存が問題視されている。
(4) 政府の財務管理支援
PNGのような天然資源依存国では、Dutch disease(オランダ病:天然資源の輸出により、自国紙幣が値上がりすること)が起きやすいが、PNGでは諸外国の開発・投資機関へお金が流入しているため、この現象が起きていない。自国に不利な契約を結ばないようにするため、世界銀行はPNG政府をサポートしている。
<質疑応答>
1)世界銀行は気候変動の問題について、PNG政府にどのようなアドバイスを提供しているか。
――他援助機関と比較して世界銀行は本分野を支援するメリットは薄いため、直接的には関与していない。しかし、それに関連した分野として、以下3つについてプロジェクトを実施している。
- エネルギー:2030年までに、電化率を現在の20%から70%まであげるという政府目標達成のため、水力、風力、太陽光、LNGといったRenewable Energyの活用を推進している。コストを下げ、民間を巻き込んでプロジェクトを遂行していくことが重要。
- 輸送アクセスの確保:POMへの過度な人口流入を避けるため、政府は意図的にハイランド等の地域とPOMの接続経路を作らなかったが、最近は政策の方針を転換しつつある。これは、経済発展のため には欠かせない。
- 政府の運営管理能力:道路の維持能力があることを認めた上で、建設を開始させる。また、進捗を監視し、透明性を保つため、成果連動型融資(Result Based Finance:RBF)を採用している。
2)農業プロジェクトについて、詳細を知りたい。
――PNGの小規模農家にとってのサポーターや買い手を見つけることがプロジェクトの主眼となっている(Productive Partnership Program)。また、農業開発には市場へのアクセスを確保することが非常に重要になってくる。そのため、本プロジェクトの予算のかなりの割合は道路建設に使われている。
3)観光産業をPNGで発展させるためにはどうすれば良いか。
――PNGの観光産業にとっての大きな課題は以下2つ。
- 物価の高さ:飛行機代も非常に高く、裕福な観光客しか来れない。
- 治安の悪さ:失業率の高さが犯罪率の高さに繋がっている。犯罪に走る若者を観光産業に組み込めると治安なども改善すると考えられる。また、身を守る一つの手段は、訪問先のコミュニティーのゲストとなること。そうすれば、彼らは歓迎してくれる。PNGは「危険」というイメージによる不利益を被っている。観光客はもちろんだが、一番深刻なのは新規ビジネスの参入や海外からの投資の妨害要因となることであり、治安の改善は経済成長のためにも重要となってくる。
3.参加者所感
世界銀行は、政府と密に連携を取り、政府が掲げる優先事項を最大限尊重して支援を実施していることが伝わってきた。一方で、財政管理能力やインフラ整備・維持能力の欠如といったPNG政府の難点を正確に把握し、重点を置いて能力強化に取り組んでいることも大変印象深く、世界銀行のような国際機関が政府をサポートすることの意義を再認識することができた。