第10回 山岸 千恵さん / コロンビア大学大学院
インターン先:UNICEFバングラデシュ事務所
(写真:池沿いのスラム街と、後ろにそびえる高層ビル群)
米国コロンビア大学・大学院の学生で、夏季休暇中にユニセフ・バングラデシュ事務所でインターンをしております山岸と申します。インターン期間は6月1日から8月下旬まで。南アジアも、途上国での長期滞在も初めてです。新鮮な体験や発見をリポートしていきたいと思います。これまでのインターンシリーズと体裁は異なりますが、ご容赦ください。
● 首都ダッカ●
リキシャ・人・停電の多さ、古ぼけた商店やビル群、乗客がはみ出しているおんぼろバスに驚いた。なんとも「歩きにくい」街である。河川に囲まれたデルタ地帯で雨期であり、5分歩いても汗がじっとり。道は人(主に男性)や自転車リキシャ、緑色で三輪のベビータクシー、整備不良車などで溢れている。よほど大きな交差点にしか横断歩道はなく、クラクションを鳴らすのが交通ルールのようだ。排気ガスで空気は汚い。そして、視線。外国人で、しかも女性である私は、行き交うムスリム男性陣からの遠慮ない目や掛け声にはじめ戸惑った。外国人や金持ち層が多く住む北東のグルシャン地区でも、この状態だ。
そんな中でリキシャは重要な足だ。「1分1タカ」(1USドル=70タカ)が目安。しかし、荷台に載った私たちを運ぶために、真っ黒に日焼けしてペダルをこぐリキシャオラーの背中に服の継ぎ目を発見すると、痛ましく感じた。
「バングラデシュには大金持ちと貧乏人しかいない」と実感しつつある。北東のシレット地方で茶畑プランテーションを経営し、30名の召使に囲まれ、BMWやトヨタの高級車を乗り回し、NYやフィラデルフィアに別荘を所有し、牛肉ステーキを含め世界各国の料理に日々舌鼓を打つ家族がいる一方で、薄汚れた服に大きな目をして私たち外国人の袖を引っ張る子供がいる。交差点で車両が立ち止まると、赤ん坊を抱いた女性や、花やポップコーンを手にした青年らが窓をノックしてくる。
アパートの値段でも、二分化を感じる。私は現在、月50,000タカ(720ドル)の家具付きを借りている。東京並みの値段だ。同じく高級住宅街では、邦人で月60,000〜120,000タカの人もいる。地区が変われば、月6,000タカ(85ドル)で借りられる。シャンデリア・プール・召使3名付きの3DKに一人暮らしするバングラデシュ人の友人のバルコニーから、対岸に広がるスラム街を望んだ時は、なんともいえない気持ちになった。
この貧富の差の原因は何なのか。「政府が悪い」とはよく聞く理由だ。首相の息子への献金をはじめ賄賂が横行し、腐敗している、と。「たとえば1億円を稼いで1千万円の税金を納めなくてはいけない企業が、担当の役人に200万円を渡せばそれで済んでしまうんだ」とあるIT会社経営者。年5%のGDP成長で培ったはずの富も、一部にしか分配されていないように感じる。
(写真:自転車リキシャは市民の重要な足だ)
● ユニセフ・バングラデシュ事務所●
職員数は200名。世界に126あるカントリー事務所の中で、インドに次ぐ2位の規模。うち外国人(International Staff)は25名のみで、大半がマネージャークラスだ。
大きく、援助プログラムを実施していく部門と、人事、IT、管理、予算・会計等の組織運営部門に分かれている。プログラムは、教育(Education)、健康と栄養(Health & Nutrition)、子供の保護(Child Protection)、水・環境衛生(Water & Environmental Sanitation)、フィールドオペレーション(Field Operation)の5つに大別される。そしてその企画・監視・評価(Planning, Monitoring and Evaluation)、広報(Communication)を担うセクションがある。
私は広報セクションに籍を置いている。オーストラリア人の元気で恰幅のよい女性チーフの下、国内スタッフの広報官が4名。「過去最大級の規模」と副チーフ。5年前はほかの事務所と同じようにChiefを入れて2〜3名だったという。秘書ら事務官のほか、豪政府主催の1年間のボランティアプログラムから派遣されている24歳の同僚もいる。このセクションでは、情報省とタイアップして国営テレビやラジオで子供・女性の権利向上のための広報をし、国内外のメディアへ働きかけ、広報イベントの企画をしている。ミーナ(Meena)という南アジアの少女が身近な問題を取り上げていくアニメ番組や冊子を作り、子供のレポーター体験も支援している。
私は、主に日本政府が出資しているプロジェクトを広報する予定だ。日本は初等教育、予防接種、砒素汚染対策、ヨード欠乏症対策に出資している。昨日19日、大使館を訪れ、広報ツールについて話し合ったばかり。早くフィールドに出て、プロジェクトの現場をみたい。