第21回 渡部 明人(わたべ あきひと)さん
北里大学医学部6年
インターン先:WHO本部(ジュネーブ) 栄養部
インターン期間:4月〜6月(2.5ヶ月)
■インターンシップの応募と獲得まで■
私は医学生時代の3年間、IFMSA(国際医学生連盟:www.ifmsa.org)という国連認定NGOの国際役員を務めていました。この団体のアジア太平洋地域代表として、WHO総会や西太平洋地域会議などの国際会議に出席し、各国代表団やWHO職員の方々と当団体へのプロジェクト支援のため交渉を続けてきた経緯もあり、いつか国連機関で医療政策の仕事がしたいという夢がありました。そこで、お世話になったWHO職員の方々を通してインターンを募集している部署を探しました。また、私の通う大学のWHOの元職員の先生を通していくつかの部署にインターン受け入れを打診しました。
履歴書・モチベーションレター・推薦状をそろえて、1年ほど前から受け入れ先を探し始めましたが、その時期にWHO事務局長が亡くなられ緊急選挙など人事が流動的となったため、交渉が難航しました。最終的には3ヶ月前に受け入れ先の部署を絞り、出国1ヶ月程前に人事課から無事正式な許可がおりました。また、私の場合は医学部の臨床選択実習期間をインターンシップに割り当てようとしたため、単位互換の前例が無かったことから大学側の許可をとることにも時間がかかりました。
■インターンシップの内容■
私が所属していたのは、本部の生活習慣病と精神保健に関するクラスター:Non-communicable diseases and
mental health (NMH), 内にある栄養部:Department of Nutrition for Health
and Development (NHD) , そしてその中の栄養に関する政策とプログラム:Country focused
nutrition policies and programmes (NPL)のチームでした。
私がインターンとしてサポートしたプロジェクトは、Global BMI データベースでした。BMI(肥満〜やせの指標)は国レベルの政策作りの根拠から個人の健康評価まで幅広く使用されおり、世界中の正確なBMI値を収集することは政策提言の第一歩として、またプログラムの評価として重要となっています。
このような世界レベルのデータベース構築にあたり、一連の流れ(データの検索、データの抽出と編集、データ入力、データのダブルチェック、データの信頼性の評価)を実際に一から学ぶことができたのが貴重な経験となりました。世界中のデータが、グローバルレベルの政策決定にとって重要な判断要素になるので、その一連の流れをイメージできることは将来政策家として意志決定をしていく際に是非必要であると考えます。また、データベースの信頼性の評価についても、関連論文の検索、文献調査、報告書の作成など一連の作業を学ぶことができました。
BMIという値一つをとっても、日本のようにデータ収集のための十分な予算と体制が整っている国では全国調査を施行することが可能ですが、途上国のように保健体制が十分整っていない国にとっては全国調査を実施することは非常に困難です。そのため、世界中から正確なデータを集めるだけでも一苦労です。こういったデータ不足の国々が存在する虫食いの様なデータベースの穴をいかに埋めるか、埋まらない場合はどのように現実的に信頼できるデータとして推定するかなど、データベースを作成する人達の苦労を学びました。
また、WHOには様々なスタッフトレーニングの機会が提供されており、いくつかのトレーニングに参加することができました。新入スタッフのためのオリエンテーション、職場でのHIVとの向き合い方、効率的な情報検索の方法、職場でのリーダーシップ、問題解決の方法、第三外国語講座、科学的な論文の書き方など日本の社員教育ほどのサポートではありませんが、自分のスキルを磨く機会がありました。その他、PubMed(オンライン論文検索)の使い方・効率的な情報収集方法について・EndNote(論文編集ソフト)の使い方など、インターンシップ中に必須なスキルのトレーニングもありました。その他、ランチタイムにはセミナーがほぼ毎日のように開かれており、新しい情報をトップレベルの専門家から受けられる非常に有意義な講義でした。私は、プライマリーヘルスケアの歴史と展望、医療経済、医療と人権、臨床研究計画への患者参加、運動と肥満の関係について、気候変動による健康被害など様々な分野の講義に出席しました。
■その後と将来の展望■
私がWHOにおいて栄養部を今回インターン先に選んだ理由は、子供が病気にならないための免疫力をつけ、将来病気になりにくい体を作っていくために重要な一つの要素であるからです。残念ながら私の大学の医学部では栄養学に関する講義はほとんどなく、インターンシップを通してこの分野を深く勉強したかったのも理由の一つでした。将来、政策から医療を支えていきたいという希望もあり、政策とプログラムのチームに配属させていただきました。
まずは医師として臨床経験を積み上げることが先決ですが、その次のステップとして、私は小児・青少年保健分野で世界中の人々が適切な健康生活・健康行動ができるような枠組みを作っていきたいと考えております。
■資金確保、現地での生活■
WHOなど国連機関は、無給という条件で数多くのインターンを雇っています。国際保健の最前線の現場が経験できるため、非常に良い経験だと思いますが、こういった費用を負担できる人に限られています。例えばILOではインターン期間に必要となる最低限の生活費を支給しており、WHOにおいてもインターンの最低限の費用くらいはカバーすべきであるとの勧告をILOから受けていますが、まだ改善がなされていません。ジュネーブの物価を考えると、途上国のインターンを優先して採用するという名目もあるようですが、先進国の一部の裕福層や奨学生くらいしかインターンシップができないのが現状です。
滞在当時は、1CHF=98〜100円でした。マクドナルドのセットが10CHF程度、スターバックスのTallサイズが6CHFといった具合に、東京と比べても非常に物価が高いと実感しました。日本での生活費と同程度に抑えようとすると、毎日自炊をして節約してやっと維持できるくらいです。多くのインターンと同様に、ランチを持参したり、職員食堂で安くあげるような工夫を毎日していました。
滞在場所については、ジュネーブインターンネットワークのホームページやWHO職員用のイントラネットに空き部屋のアナウンスが登録されていました。しかし、いつも需要が供給を上回っており短期間の契約をとりつけるのは難しいようです。幸いなことに私の場合は、職員の方から空き部屋を紹介していただき、比較的スムーズにみつかりました。一部屋で風呂・トイレ・キッチン共有、電気代と水道代込みで1ヶ月875CHFでした。この価格は、コルナバン駅(ジュネーブ中央駅)の裏という立地条件もあり比較的高かったようです。相場はルームシェアで600CHF〜1300CHF程度でした。
■ジュネーブインターンネットワーク■
ジュネーブには国連インターン同士をつなぐ自主的なネットワークが存在します。この任意のネットワークのおかげで、同じような境遇同士インターン中にいろいろと助けられました。WHOはそれぞれの部署で独立して仕事をしているので、なかなか他の部署との交流が無いのが欠点でもあり、その点インターンネットワークは色々な部署のインターンと情報交換できる良い機会です。このネットワークを通して、ランチ・勉強会・研究報告会・インターン主催のキャンペーン活動・交流会・旅行などを行っていました。
■インターンシップ応募のアドバイス■
インターンは公募となっており、人事課へ申請書類を提出し、それが2週間ごとに各部署を回るというのが公式な方法です。しかしながら、その方法で通った人は私が知る限りは数人しかおらず、ほとんどの人が大学からの推薦や大学プログラムの一環、大学教授の研究関連で派遣されるなど、何らかのつながりをたどり直接志望課へアプライする人が多いようです。そのため、人事課がWHO本部内のインターンの状況を十分把握できておらず、公式なインターンリクルートシステムは十分機能しているとは言えません。
インターンシップの目的は、就職活動、大学の研究の一環、大学院入学のCV作り、単なる職場経験など様々なようですが、何かしらの目的意識を持った優秀なインターンが多いので励みになります。ただ、先ほどインターンシップシステムが十分機能していないと言ったように、インターンシップが有意義なものになるかならないかは、自分がついたメンター(世話人)個人の力量と相性による部分が多く、中には机もパソコンも与えられず、任務も与えられず1ヶ月放置された、メンターがひたすら海外出張で連絡が取れないといったかわいそうなインターンもいるようなので、インターンシップ開始前に条件をしっかりとチェックしていくことをお勧めします。
■ これからインターンを希望する方へのメッセージ■
私は、インターンシップ開始以前から、国際NGOの役員としてWHOの会議や事務所に出入りしていたため、一般の学生と比べればWHOの全体像をつかんでいたつもりでした。しかし、実際にその中で働いてみると、会議では見えてこない職員の日常生活や地道な仕事の積み上げを実感することができました。国際機関というと、憧れや自分とはかけ離れた遠いところというイメージをもつ事が多いですが、実際に職場で働いてみると、親近感がわくと同時に現実的な部分(良い点も、悪い点も)がしっかりと見えてくると思います。特にこの現実的な部分は、人によって合う合わないところがあるので、自分の進路を決める前に、是非インターンシップを通して職場体験をすることをお勧めします。
私がインターンシップをしていた期間は、WHO本部だけで150人ものインターンが働いていました。大学生から院生まで、年齢も分野も様々な人がいましたが、その大半がアメリカ合衆国の学生でした。特にアメリカ人が優遇されている訳ではありませんが、在学中に様々な場所で実務経験を積むことを積極的に認めている大学が多いようです。国連職員の本採用に比べれば、インターンシップの採用は非常に閾が低いですし、これだけ多くのインターンを実際に採用しているので、自分で積極的に情報を集めつつ、支援してくださる先生方の支援を得て、是非夢に近づく第一歩を実現していただきたいと思います。
(2007年12月29日掲載)