UNICEFカンボジア・プノンペン事務所のスタッフと一緒に昼食
第32回 林 真樹子(はやし まきこ)さん
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程
国際関係学専攻
インターン先:
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2006年10月〜2007年2月(5ヶ月間)UNESCO パリ本部(基礎教育セクション)
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2007年10月〜12月(3ヶ月間)UNESCO カンボジア・プノンペン事務所(教育セクション)
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2008年1月〜3月(3ヶ月間)UNICEF カンボジア・プノンペン事務所(HIV/AIDSセクション)
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科に所属しております博士後期課程2年の林真樹子と申します。どうぞ宜しくお願いいたします。この度は私がこれまでに複数の国連機関等でインターンを体験した経験を皆様と共有し、今後国連機関でインターンを志望される方々に参考となる情報が提供出来れば大変幸いです。
■インターンシップの応募と獲得まで■
私が早稲田大学大学院修士課程の2年目を迎えた年に、同大学の交換留学協定先であるフランスのパリ政治学院へ留学をすることが決まっていました。専攻は現在と同様に、国際教育開発をテーマに、当初は特に教育開発の中でも紛争後における教育の役割について研究を進めたいと考えておりました。
また、パリでは学業だけにとどまることなく、その知識を実社会で活かしたいとも考えていました。パリ、国連、そして教育に続いて真先に思い浮かんだのはパリ・ユネスコ本部でした。留学する機会を利用して、是非同機関でインターンを経験してみたいという強い希望から、直ぐにユネスコのホームページより一般的な手順でインターン応募のための書類を提出しました。その後、ユネスコ本部からは何の返答もなく、半分諦めた状態でパリへ留学しました。その後のある日、一本の電話があり、ユネスコ日本政府代表部より面接に来てくださいとの連絡を受けました。そして、面接を受け、ユネスコ日本政府代表部よりユネスコ本部へと推薦をしていただけることが決まり、希望部署であった基礎教育セクションでの面接を経て、最終的にインターンをその直後から開始することが可能となりました。ユネスコ日本政府代表部へは大学院で知り合った知人が私のインターンに対する強い希望を聞き、非公式に推薦書を送って下さっていたという事が後に判明し、その方のお陰でインターン実現に繋がったことに今でも大変感謝しています。
■インターンシップの内容■
ここでは三つの機関におけるそれぞれの活動内容を簡単ではありますが、個別にまとめてお伝えしたいと思います。
1.UNESCO パリ本部(基礎教育セクション)
また、インターン中に大規模な国際会議、題して「学校現場におけるジェンダーに対する暴力」が開催され、英語と仏語での案内状の作成や会議中の議事録を任され、両言語を使用する機会が多いに与えられたことは非常に自分自身にとって自信に繋がる経験となりました。もう一つの大きな作業となったのが、国連における「国連障害者の権利条約」の採択に向けた広報ビデオとなった“The Right to Education for Persons with Disabilities: Towards Inclusion” (障害者のための教育への権利:インクルーシブ教育を目指して)の作成にも携わり、最終的にはビデオ作成者の一員として名前も入れていただき大変誇らしく思いました。
2.UNESCO カンボジア・プノンペン事務所(教育セクション)
中国障害者芸術団体千手観音My Dreamによる特別講演(プノンペン市内にあるチャトムック劇場にて)
3.UNICEF カンボジア・プノンペン事務所(HIV/AIDSセクション)
カンボジアにおけるHIV感染率は1998年を境に今日まで減少し続けています。 2007年(National Center for HIV/AIDS, Dermatology and STI: NCHADS)の統計によると、100人に1人のカンボジア人がHIVに感染しています。しかしながら、HIVはあらゆる感染ルートで未だにその感染を拡大し続け、感染者半数の人口は女性が占め、また三割は母子感染です。その背景には、未だ多くの女性(未婚、既婚)がカンボジアでは弱い立場に立たされていることと関連しています。私はユニセフ•プノンペン事務所のHIV/AIDSセクションチームの一員として主に二つの活動に携わりました。一つ目は、HIV/AIDSに関する意識と知識向上を目的とした広報活動、そして二つ目はHIV感染者の中でも母子感染をした幼児が通院、入院する小児病棟での一種の治療方法として用いられる「ピエロ」を活用した新しいプロジェクトでした。
カンボジア・Kampong Speu地方の病院(小児病棟にて)でのピエロ披露
更に、本プロジェクトの第一次評価を自ら行うという経験もさせていただきました。西洋ではおなじみのピエロを病棟で一種の治療法として使用するピエロパフォーマンスはカンボジアという国では全く初めての試みでした。そこで、若いカンボジア人のアーティストを訓練し、カンボジア人自らが自国の文化や社会的習慣に適応する様々な演出方法を工夫し、エイズ治療に訪れる子供たちや入院をしているエイズ幼児のために披露をしました。私は本プロジェクトの立案過程から、プロジェクト対象となる病院の選択と事前訪問、一緒に活動するピエロたちと共に演出方法の工夫を試行錯誤し、そして一次評価まで係わり、プロジェクト全体を見ることが出来、大変有意義な経験となりました。一次評価の結果、資金確保、文化社会的観点(ピエロに対する抵抗感等)から数多くの問題点が判明しましたが、その一方で、カンボジアでは病院の施設が非常に乏しく、更に子供たちは辛い病状に耐え、治療を受けなければならないという現実を踏まえると、ピエロのパフォーマンスは子供たちにポジティブな影響を与える可能性が高いと思いました。
■インターンシップ実施後の感想と今後インターンを志望、予定されている方々へのアドバイス■
私は、教育分野に深く関わりを持つユネスコ及びユニセフの両機関、また本部での活動と現場での活動といったあらゆる角度から国連機関について自分自身の目と身体で体験することが出来ました。全体を通しての印象としては、同じ機関でも本部と現場の違い、また両機関の違いを観察することで、各機関の持つ特性、任務や役割を理解する上で非常に有意義な経験となりました。ユネスコでの経験は主に国際会議のアレンジ等に最初から最後まで携わる機会があった一方で、ユニセフでは現場により近いかたちで、またインターンを開始したタイミングも良く、一つのプロジェクトに専念する機会が与えられ、どちらも大変重要な実務経験となりました。また、自分がこれまでに描いていたものとは異なる両機関の良い点と悪い点を観察することが出来ました。何より大きな収穫として挙げられるのは、自分が将来国連機関で働きたいという希望を持つ上では自分がどの機関で何を目標に、どういった事を成し遂げることが出来るのか、成し遂げたいのかといった具体的な将来の目標がより明確になったことだと思います。さらに、様々な機関で様々な優秀なスタッフと知り合うことにより、多くの知識を得て、自分自身が今後どのように能力を伸ばしていけば良いのかといった面で大変勉強になりました。また、知り合った方々との人脈を大切に、現在でも継続して連絡を取り合っています。
ユネスコでのインターンは日々の生活面においては全て自己負担であったため、大学院を通じて一部の援助を幸いにもいただくことが出来ました。また、ユニセフについては日本ユニセフ協会の派遣生ということもあり、日本ユニセフ協会より補助していただいたことに大変感謝しております。自分でインターン生活をサポートすることは決して容易なことではありませんが、このように国連機関でのインターンを経験したことは今の自分を導いてくれた大きな一歩となったことには間違いないと確信しております。
また最後に、今後インターンを志す方々、或いはインターンへの派遣が決まっている方々へのアドバイスとして一言だけ述べさせていただきますので、参考にしていただければ幸いです。それは私にとっても教訓として残った点ですが、やはりインターンは限られた時間、通常2ヶ月間〜6ヶ月間、平均で3ヶ月間といった短期間の場合が多いので、その時間を自分自身で最大限に活用するためには事前の準備がとても重要だと思います。それはインターンを実施しようと考える機関の全体の組織像、またその機関のフィールド事務所の戦略や活動方針とその国全体について自分なりに可能な限り積極的に情報を収集し、勉強しておくことによって、インターンを開始した後の理解力、適応力が高まり、結果的にはその環境の中で自分の目標をはっきりと設定することが出来、与えられた短期間をより充実に過ごせると思います。
■その後と将来の展望■
私はユニセフでのインターンを終えた直後、外務省国際協力局多国間協力課で9ヶ月間インターンとしてお世話になりました。複数の国連機関でインターンをする中で、やはり一人の日本人として日本の開発援助政策についてもより理解を深めたいという気持ちが高まり、またその知識がきっと将来国際協力の仕事をする上で役に立つ日が来るのではないかという思いから、外務省でのインターンを希望し、アフリカ開発会議(TICAD IV)やG8サミットを通して様々な分野における日本の開発援助政策について知識と実務経験を積ませていただきました。そして、今年夏より国連日本政府代表部で専門調査員として勤務することが幸いにも決まり、日本政府の立場や国連外交について一層知識と経験を積みたいと考えています。一方で、自分の専門となる教育開発、特に障害児の教育の在り方についても研究を進め、専門性を高めるためにもこれからも地道に努力を続けて行きたいと思います。そして将来、この経験を生かして再度国連機関に戻り、国際協力の場で挑戦し続けていきたいと考えています。
カンボジア・プノンペン市郊外にて健常児とともに学ぶ視覚障害児たち
(インクルーシブ教育が実施されている学校現場にて)
(2009年9月11日掲載 担当:高田 ウェブ掲載:秋山)