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第 57 回 見津田千尋(みつだ ちひろ)
イーストアングリア大学院 国際開発学研究科 紛争・統治・国際開発学専攻修士課程
インターン先:国連人道問題調整事務所・神戸事務所(OCHA Kobe Office)
インターン期間:2015年7月〜9月
■はじめに■
現在イーストアングリア大学院で紛争・統治・国際開発学を専攻しております、見津田千尋と申します。2015年7月から9月の3ヵ月間、国連人道問題調整事務所(OCHA)神戸事務所でインターンシップを行いました。
(OCHAとは?)
国連事務局の一部であるOCHAは、紛争や自然発生時の緊急人道支援の調整活動を行っています。またOCHA神戸事務所では所長を中心に、人道問題に関する理解促進や、日本におけるスポークスパーソンとしての役割も担っています。(OCHA神戸事務所HP:http://goo.gl/q7UVCv )
■インターンシップの応募から獲得まで■
2015年5月頃にJICAパートナーのウェブサイトからOCHA神戸事務所のインターンシップの募集を見つけました。緊急・人道支援に元々興味があったことと、大学院で人道支援のワークショップに参加したことをきっかけに、実際どのように人道支援調整が行われているのかを学びたく応募しました。
当初の募集案内では6月1日からの業務開始となっており帰国時期が間に合わなかったため、インターンシップ開始時期を調整可能かどうか、問い合わせのメールに応募必要書類(英文・和文履歴書・英文カバーレター)を添付して送りました。数日後、インターンシップ開始時期は調整可能との返答とともにスカイプ面接のご連絡も頂き、後日面接を行いました。面接では、私自身このインターンシップを通じて何を得たいと考えているか、またどのように将来に活かしていきたいか、など動機に関する質問を重点的に受けました。
大学院在籍中であることが条件であったので、修士論文の提出期限延長を条件にオファーをいただきましたが、当時は修士論文が延長可能かどうか不確かな状態でした。後日OCHA神戸事務所の方から「もし修士論文の締め切り延長が難しいなら、提出後の9月からインターンシップを開始するのはどうか」とご提案もいただきましたが、延長申請が可能であると大学側より連絡が来たことと、なにより8月に控えていた世界人道デーのイベントに携わりたいと思っていたので、7月よりインターンシップを開始しました。
■インターンシップの内容■
インターンシップ中の一大イベントは8月19日の世界人道デー(World Humanitarian Day − WHD)でした。世界人道デーとは、2003年8月19日にイラクのバグダッドの国連事務所が爆破され、100名以上の国連職員及びその関係者が負傷した事件をきっかけに、世界中で頻発する紛争や自然災害などにより避難や困難な生活を強いられている人々と、少しでもこうした人々の手助けができればと願い行動する「エイド・ワーカー」(人道支援要員)の双方に思いを寄せることを目的として、国連総会決議によって定められた日です。毎年世界各地で世界人道デーイベントが開かれ、神戸では2013年より毎年、世界人道デー記念イベントを開催しています。3回目の開催となった今年は初めて神戸のランドマークの数々を世界人道デーに合わせてUNブルーにライトアップしました。(2015「世界人道デー」記念イベント:http://goo.gl/GkM9dn )
私がインターンシップ期間中に行った業務は、大きく分けて以下の3つです。
1.世界人道デーイベント関連業務
今年の世界人道デーのイベント開催に向けて、私はFacebookを使った広報活動や、神戸でICT (Information Communication Technology)技術を学んでいるアフガニスタン人留学生たちに自国の状況や彼ら自身の生い立ち、そしてICT技術をどのように自国の発展に活かすことができるのかなど、今年の世界人道デーのテーマであった「Share the World’s Humanity −あなたを動かすチカラ−」に関するインタビュー、OCHA他事務所(バンコク)との連絡、世界人道デーイベントの一つである写真展の会場コーディネートなどの事前準備に加え、当日は司会を担当しました。
とくに写真展の準備では、展示する写真の枚数や展示方法、写真の大きさ、空間のデザインや配置などを自ら考え、カメラマンの方に提案をしました。世界人道デーのコンセプトを伝えながら、どの写真を展示するのか、写真の説明文の内容はどうするのかなど、展示会直前まで連日メールや電話、スカイプなどで打ち合わせを行いました。
このイベントでは、インターンでも即戦力として、展示会の大枠を設計するコーディネーターのような責任のある役割を任せていただき、またイベント当日は司会という大役も務めさせていただきました。アシスタント業務のみに留まらず、ひとりのOCHAスタッフ・イベントスタッフとして世界人道デーに携わることが出来たことは大きな実りの一つです。
2. 各国ドナーからの資金協力に関するリサーチ
日本を含む主要ドナーからの各国際機関への資金協力についてリサーチを行いました。作成した報告書がジュネーブ本部にも共有された時は、日本にいながらも国連機関でインターンシップを行っていることを肌で実感し、また私自身インターンとしてOCHAの一員であることを再認識した瞬間でした。
3. 通常業務
日本語・英語両方のニュースサイトを閲覧し、人道支援や国際情勢に関するニュースをピックアップしたものを事務所内で共有するためのメディアモニタリングやFacebookへの投稿記事作成、講演原稿作成補助やプレゼンテーション資料の作成・編集、翻訳などです。
UNブルーにライトップされた神戸ポートタワー Photo: Yuki Iwanami
■インターンを通じて学んだこと、感じたこと■
世界人道デーイベントまでは通常業務に加え、毎日アップデートされる情報を毎朝チェックしながら、私自身が担当となっている企画を進め、またニューヨーク本部から送られてくる情報のフォローアップなど、一日があっという間に過ぎていきました。気づけば日が暮れていた時もありましたが、私自身この忙しさが心地よく、楽しみながら業務を行っていました。また、世界人道デーイベント共催の他団体の方との会議にも参加させていただき、OCHA内のみならず、ほかの国際開発学関係者や他業界の方たちなど、様々な方々と協力してイベントを作り上げる楽しさや難しさも感じました。青くなった神戸ポートタワーを世界人道デー関係者の方々と一緒に見た時は嬉しい気持ちでいっぱいでした。
「毎日何度も更新される情報を手元に、限られた時間内で目まぐるしく作業を行うことは緊急支援の状況と似ており、ほかの団体と一緒に業務を遂行することはまさに人道支援現場で行われていることだよ」と後日世界人道デーの振り返りの際に所長がおっしゃっており、実際の支援現場ではなくとも身近なところにも「『現場』はあるのだ」と実感しました。
様々な業務に携わることの出来た3カ月間。インターンシップ初日からOCHAアジア地域の合同テレビ会議に同席し、パソコン越しにOCHAのトップであるスティーブン・オブライアン国連事務次長/緊急援助調整官や、他国のOCHA事務所の職員の方々を拝見しました。そのほかの場では、実際の人道支援現場で話し合われていることや、災害現場での課題、そして人道支援を必要としている数は第二次世界大戦後最悪の状況となっている今、日本に拠点を置く人道支援機関に求められていることなど決して机上では知ることのできない部分も垣間見ることが出来ました。インターンシップ期間中にはイエメン内戦の激化や、ミャンマーにサイクロンが襲い洪水の被害が出るなどの自然災害が発生し、発生直後より毎日のようにアップデートされる最新情報がOCHA本部から届いてくるなど、OCHAの対応を直に感じることが出来たことも大きな学びの一つでした。
国連に関して詳しいことは何も知らなかった10代のころに漠然と「国連とはどんなところなんだろう」と想像とも言えないような想像を膨らませていた機関で、毎日刺激を受けながらインターンシップを行っていくうちに、ベール包まれていた国連がだんだんと現実味を帯びていくような不思議な感覚でした。実際インターンシップを行っていると、一番年下である私を皆さん温かく見守ってくださり、話してみると気さくな方ばかりで、国連で働いている人に対してストイックで厳しいイメージを持っていた私には驚きでした。また、昼食時の何気ない会話や、会議中の会話内容や言い回し、周囲の方々とのメールのやりとりなど、何気ないひとつひとつの場面すべてが刺激であり学びでした。まるで留学中の、スーパーに並んである商品や道路にある看板、友人との会話すべてが刺激であった時と同じような感覚でした。
世界人道デーやそのほかの業務を通じて、インターンという立場でありながらも責任ある役割や中身の濃いリサーチを任せて頂き、業務の本質を垣間見ることが出来たと感じています。人道支援現場の事や自身の経験を話してくださったり、様々な本をたくさん貸してくださったりと、積極的に学びの場を提供してくださった所長をはじめ、インターンシップ中に抱いた私の疑問にも真摯に向き合ってくださった神戸事務所の方々、世界人道デーなど今回のインターンシップでお世話になった皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。
世界人道デーの打ち合わせも兼ねて、アフガニスタン人留学生と一緒にアフガンランチ
■資金確保、生活、準備など■
国連機関のインターンシップは無給です。交通費の支給もありません。実家から通っているインターン生もいましたが、私の場合は神戸に3か月間マンスリーマンションを借りました。インターンシップ開始1週間前ほどに帰国しましたが、その時点では家が決まっておらず帰国後に手続きを行いました。
住居確保もそうですが、もう1つ苦労した点は英文の健康診断書の準備です。イギリスでは健康診断は保険が適応されず、受診するには10万円近く支払わなければならなかったので帰国後に受診することになりました。しかし日本の病院でも英文の健康診断書を発行してくれる病院が周辺になく、私自身で翻訳しても支障ないのか、インターンシップ開始までの限られた時間でOCHA神戸事務所の方と病院側の両方に問い合わせながら準備を行いました。インターンシップが決定しても、大学側への修士論文延長申請やOCHAへ提出する資料、帰国準備や日本での生活準備など、息をつく時間はほとんどありませんでした。資金面では両親のサポートを受け今回のインターンシップを行うことが出来、快諾してくれた両親には感謝しきれません。
■その他感想・アドバイスなど■
今回のインターンシップを通じて、改めて人道問題や緊急人道支援に対する興味・関心が強くなり、これまで机上で学んできた物事をより実社会と関連づけることが出来ました。そして国連機関を以前より身近に感じることが出来た貴重な時間でした。実践的な学びを経験できる機会であり、学生の内にこのような経験が出来たことは、これからの将来を設計していく上で大きな財産になると確信しています。
駐日事務所なので、もちろんの事ですが日本語と英語両方を毎日使います。OCHA本部やアジア・太平洋地域との連絡などOCHA内でのやり取りは英語で行いますが、来客や日本で活動を行っている関連機関の方たちとのやり取りは日本語です。海外でのインターンシップと違う点は日本語を使う機会があることだと思います。日本語は国連公用語ではありませんが、日本語と英語両方を使ってインターンシップを行うことで自分自身の理解も深まり、最初の一歩としてとても有意義であると感じます。駐日事務所だからといって海外とのやり取りが少ない訳では決してなく、日本語と英語両方で表現する力が求められます。私自身、日本語だからこそうまく伝える難しさや表現の大変さを感じる場面も多々ありました。
国連へのインターンシップ応募は条件が多く、提出する英文履歴書は国連専用の履歴書フォームに記入する必要があるかと思います。OCHA神戸事務所のインターンシップも、業務開始時期が合っておらず、また募集要項に‘関連分野での勤務経験者を優先的に考慮’ともありました。私はこの条件に必ずしも当てはまりませんでしたが、実際に緊急・人道支援を取りまとめている機関の現場を知りたい一心で応募書類を送りました。
条件を満たしていないからまだ応募できない、と思う前にまず挑戦してみることが大切だと思います。自分の熱意ややりたいことに対する想いを伝えることで、そこから新たな一歩を踏み出すことが出来る場合も多く、国連のインターンシップも例外ではありません。大学院へストレートで進学し、まだ職務経験を持っていないインターン生の一例として、この体験記が少しでも参考になれば幸いです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。