第49回 岡本 啓史(おかもと ひろし)さん
ニューヨーク大学大学院 国際教育学部 修了
インターン先:ユネスコ・サンティアゴ事務所ラテンアメリカ・カリブ海地域教育局
期間:2012年5月〜2012年9月 (4ヶ月)
■はじめに■
現在、在チリ日本大使館で委嘱員として勤務している岡本啓史と申します。まず、以下に述べる私のユネスコ・サンティアゴ事務所ラテンアメリカ・カリブ海地域教育局におけるインターンシップはちょうど2年前の経験なので、記事の「暖かさ」に少し欠けるかもしれないという点についてお断りしておきます。しかし、インターン後に同事務所でコンサルタントとして5ヶ月勤務し、その後現在に至るまでチリに住んでいるということからも、同インターンの経験がその後の自分のキャリア育成及び生活に大きな影響を与えてくれました。その点を考慮して、自分の経験が他の方にとって少しでも有力な情報になることを望んで、インターン派遣までのプロセス、業務内容、インターン後、インターンの際に要した費用や当時の生活環境について述べたいと思います。
■インターンシップ派遣までのプロセス■
派遣までのプロセスについては、私自身もインターンを探している際に知りたかった点なので、少し詳しく書いておきます。
私の場合、所属していたニューヨーク大学大学院国際教育学部においてインターンの経験を生かした論文を書くことが必須条件であったため、大学院に入る前からインターン探しをしていました。選び方として、とりあえず「機関→地域→分野」の順に攻めようと思いましたが、なかなか一つ目で選択肢を絞ることが難しかったため、「押してだめなら引いてみろ」ということで順番を逆にして「分野→地域→機関」にして考えてみると、自分は中南米の教育に興味があったために意外と選択肢は絞れ、「教育→中南米→ユニセフもしくはユネスコ」という流れになりました。
ユニセフに関しては、とりあえず中南米の幾つかの事務所にダメ元で「インターンさせてくれませんか」という内容のメールを履歴書と一緒に送ってみましたが、案の定返事は返ってきませんでした(中には返事をくれるところもあるようです)。その間、ユネスコ・バンコク事務所で教育プログラムスペシャリストとして活躍されている宮沢一朗さんにご相談に乗っていただいたところ、昔の上司がチリにあるユネスコ・サンティアゴ事務所でディレクターをされているということで、非常にありがたいことに一言お声をかけて頂けました。その後、ユネスコ・サンティアゴ事務所の事務課長の方から連絡があり、簡単な電話面接をした後、とりあえず正規のプロセス(ユネスコのサイトから直接申請)を経てくれと言われたため、同事務所を第一希望にし、インターン希望期間を記入して申請しました。ダメだったかと思いかけていた2ヶ月後、同事務所からインターン採用の通知を受け、健康診断証明書を要請されました(事前に英語の診断証明書を取得しておくことをお勧めします)。しかし、職務内容を記載した契約書(Terms of Reference: TOR)が送られてきたのは、その3ヶ月後(インターン開始の1ヶ月前!)でした。申請から正式に決まるまで5ヶ月と、インターンレベルでもかなり待たされることを実感しました。
■インターンシップの内容■
自分の職務内容は「持続可能な開発のための教育」と「インクルーシブ教育」という、当時はあまりピンとこない2つの分野での業務補助でした。両方ともはっきりとしたイメージは掴みにくいのですが、前者は持続可能な社会づくりの担い手を育む教育(例えば環境教育)、後者は、障がいや異なる言語・文化などの背景を持つことにより社会的に差別されてきた子どもたちを俗に言う「通常学級」の中に入れ、一人ひとりのニーズにあった学びを促進するための教育といったところです。
実は、インターン前はニューヨークで教師をしていましたが、仕事を休んで4ヶ月以上無給で南米チリに住むという投資に対して、担当業務は希望していた「教員養成」ではなくあまり興味の無かった上記の2分野であることや、準備(スペイン語による担当分野の勉強、航空券やアパート探し)の期間が1ヶ月もなかったことを考慮して、辞退させていただこうかとも思いました。結局迷ったあげく、やはり何事も経験で、自分の学びに繋がるのでとりあえずやってみようと思い、引き受けることにしました。今思うとこの決断を下して本当に良かったと思います。
まず「持続可能な開発のための教育」についての職務内容ですが、国際会議(Rio20)の準備、ユネスコのホームページの同分野におけるコンテンツのアップデート、教育省や環境省との会議調整、国連文書の翻訳(英語⇔スペイン語)などと、全体的な通常業務の補助を担当させてもらったので、実際にユネスコで業務を行うのがどういうものなのかを何となく理解することができました。その中で唯一「日の光を浴びた」のは、ユネスコを含む国連3機関合同の環境教育イベントを担当させてもらったことです。これは、国際環境デー(2012年6月5日)の機会において、環境教育科をもつ学校の生徒800人を対象に、環境保全の意識を高めるためのイベントです。「教師の経験があるんだし、狭い会場(体育館)で800人の生徒のために何かダイナミックな活動を考えて下さい。」と言われ、色々考えた結果「3つの色紙を使った環境クイズ」を発案しました。これは、イベントの前日に800人に3つの色紙を配っておき(大きな色紙を切って計2400枚!)、当日に環境に関するクイズをパワーポイントで実施し、回答の際に色違いの選択肢と同じ色紙を掲げて参加するといったものです。他の機関の担当者がこのアイデアを気に入ってくれたようで、ユネスコ枠が30分から1時間になり、準備が大変になりましたが、生まれて初めてスペイン語で1時間弱のプレゼンをし、生徒も喜んでくれていたようなのでとてもやりがいがありました。もちろんこのイベントは教育プロジェクトを実行して政策作りというものではなかったのですが、翌年も同学校で同じイベントが開かれたことを考慮すると、パートナーシップ強化や生徒の学びに繋がったのではと思っています(実際自分が翌年コンサルタントとして戻ってきた際に、同分野担当ではなくなったにも関わらず、イベントに招待して頂けました)。
3つの色紙を使った環境クイズ
色紙を掲げて回答する800人の生徒
一方、通常業務全般に触れた「持続可能な開発のための教育」とは違って、「インクルーシブ教育」においては1つのプロジェクト運営の補助というピンポイントな業務でした。プロジェクト名は「SIRIED (Regional Education Information System on Students with Disabilitiesスペイン語略) 」であり、各国の障がい児と教育に関する定量・定性的データを集めて地域の現状を把握し、より良い政策作りに貢献するという目的をもっています。プロジェクトの流れとしては、同地域から参加した8カ国が情報をユネスコに提出し、ユネスコが作った指標にかけて比較可能な情報にし、それを基にした分析レポートを出版するといったものです。私の担当業務は、Excelを使って与えられた指標の計算式を作り、各国と連絡を取り合ってデータ入力をしてグラフをデザインし、関連する国別プロフィールを作るといった、最終的な分析レポートの準備作業をするというものでした。ほとんどが淡々とした作業でしたが、結果が目に見える業務だったのでやりがいがありました。
■インターンシップ後■
インターンを終えた後は、大学院を修了させるためにニューヨークに戻り、インターンの論文ではインクルーシブ教育をテーマにしたものを書きました。その後も教育開発の仕事を探していましたが、深刻な財政難に陥っていたユネスコでは今後当分の間仕事を見つけることはできないと考えていたので、他の機関を探していました(実際に私のインターン中も、資金不足のために数人のコンサルタントが解雇されるというのを見てきました)。しかし皮肉なことに、インクルーシブ教育の分野の監督者であった元上司がその後退職していたために、結果として私が同分野担当のコンサルタントとして雇われることになりました。主な業務の一つは上記のSIRIED分析レポートの出版であり、参加国8カ国と連絡を取り直し、殺到する各国のリクエストに対応しながらもデータ分析を終えて出版することができました(特にブラジルの担当者とは、スペイン語⇔ポルトガル語のやりとりで苦労しました)。このSIRIED分析レポート、グラフや指標説明、国別プロフィールを含めると200ページ以上ありますが、同プロジェクトは立案・実践・出版を含めて計5年以上もかかっているということもあり、今後のインクルーシブ教育の政策作りに役立つことを願うばかりです(尚、資金が底をついていたのでスペイン語のみの電子出版でした)。
■おわりに■
上記にもありますが、国連インターンは無給であり、特に海外派遣なら航空券や生活費などの諸費用がかかるため、決して簡単なものでは無いと思います。実際私のインターンでは、飛行機代や生活費を含めて50万円以上かかりましたが、それでもお金には代え難い貴重な経験を得ることができました。また、ほとんどがスペイン語での業務であったので、言語上達にも繋がりました。 チリの生活についてですが、現在も首都サンティアゴに住んでおり、治安も他の中南米諸国に比べて遥かによく、住みやすいところです。また、この縦に細長い国の北はアタカマ砂漠、南はパタゴニア氷河と見所満載な国でもあります(そして何より安くておいしいワインはおすすめです)。
最後に海外で国連インターンを希望されている方にメッセージですが、大学の斡旋、個人の繋がり、自力で見つけるなど色々な手段があるとは思いますが、もしチャンスが目の前にあり、経済的に余裕があるのであれば是非チャレンジされることをお勧めします。また、せっかく海外に無給でいるのだから「失うものはなく、あるのは学びのみ」ということを常に念頭に置き、担当業務をしっかりこなすことは勿論、他の分野の専門家のオフィスを訪れて色々質問などをし、インフォーマルな集まりにも積極的に参加することを通して、専門知識やその地域の情報、そして人とのつながりを増やすことも大事な点だと思います。私のケースでは、ランチや勤務後の夕食等で多くの方(運転手、食堂のおばさん、秘書、専門家からディレクターまで)と自然に繋がることができ、同インターンを通してラテンアメリカ特有のいい加減な部分や陽気さ、人の温かさ、そしてそれぞれが仕事にかけるプロ意識等に触れることができ、とてもいい勉強になりました。最後までこの記事を読んでいただき、ありがとうございました。
インターンの時の上司二人と
インターンの時のマイデスク
2014年9月25日掲載 ▲