栄養セクションの同僚と
第50回 鶴岡 英幸(つるおかひでゆき)さん
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 社会政策と開発学 修士修了
インターン先:UNICEFインド・デリー事務所(子どもの発達と栄養セクション)
期間:2013年9月〜12月 (3ヶ月)
■はじめに■
大学院での修士論文提出後、審査の間、ユニセフのインド・デリー事務所でインターンシップをさせて頂きました。機関・国・業務内容によりインターンシップも様々であるとは思いますが、参考にして頂けると幸いです。■インターンシップ派遣までのプロセス■
大学院入学前は、途上国開発の分野では、青年海外協力隊など、草の根レベルでの経験がほとんどであり、現場に入って主にプログラムの実施に関わっていました。フィールドでは受益者の喜怒哀楽をじかに感じとることができ、とても有意義なものでしたが、よりインパクトをスケールアップさせ、仕組み作りや政策レベルの仕事をしたいと考え、大学院に通い、そして、ユニセフのインターンシップへ応募しました。ちなみに、過去に寄稿された数名の方と同じく、公益財団法人日本ユニセフ協会の国際協力人材養成プログラムを通じての派遣となります。私の修士プログラムは1年間のため、9月に入学後、すぐに書類を準備して応募しました。イギリスにいたので、年末にユニセフのジュネーブにある地域事務所にて面接を受け、年内に合格通知を頂きました。インドで働いた経験があることと、インドに関する修士論文を書いていたので、インド事務所への赴任を希望していました。一方で、同事務所では毎年、独自で行っているサマーインターンシッププログラムがあり、通常それとは別にインターンを受け入れる事はしていないようですが、日本ユニセフ協会と同事務所の職員の方に調整して頂き、実現しました。
■インターンシップの内容■
まず、ユニセフのインドにおけるオペレーションに関してですが、通常予算ベースでは世界で最も大きい規模の国の一つです。12億超の人口を抱え、91年に経済を自由化してから高い経済成長を遂げている一方で、一日1.25ドル以下で暮らす貧困層がいまだ約3割いると言われています。栄養の側面では、5歳以下の子どもの10人に7人は貧血を、2人に1人は慢性的な栄養障害を抱えています。また、人口の半分が、下痢のような疾患の原因の一つである屋外排泄をしていると考えられています。人口も多く、州ごとに言語が異なるように多様であることもあり、ユニセフは、デリーのカントリーオフィスに加え、13のフィールドオフィスがあり、政策提言やキャパシティビルディング(能力強化・向上)、プログラム実施のサポートなどを行っています。
デリー事務所
インターンシップにおける私の主な業務内容としては2つありました。1つ目は栄養ライブラリーの作成です。前述のように、インドには、13のフィールドオフィスがあり、それぞれのオフィスに栄養セクションのスタッフが1〜2人常駐しています。それぞれの活動は、母子の栄養状態、対象となる地域のインフラ、経済レベルやカウンターパート(政府機関・NGOなど)となる機関の実務能力に応じて異なり、普段は、必要に応じてコミュニケーションをとる程度です。そういった中、スタッフの知識レベルの体系的な底上げと、それぞれの州で実行されているプログラムの経験とツールの共有化という事が課題となっていました。そこで、ナレッジマネジメント[1] の一環として、それらを可能にするプラットフォームの作成を行いました。まず、インド全域における子供の栄養と発達セクションの仕事に沿って、ライブラリーの骨組みと、関連するウェブサイトの一覧を作成しました。その後、関連する政策、ガイドライン、証例などを、ウェブサイトや、デリー事務所と13のフィールドオフィスのスタッフの協力を経て抽出しました。最終的に、それらの抽出した資料を、改めてセクションのスタッフに確認してもらい、最低限必要と考えられるものを厳選しました。当ライブラリーは、フェーズIIとして、ウェブサイトとして立ち上げられる予定であり、外部のウェブデザイナーと契約するために必要な委託事項書の作成も行いました。
2つ目の業務として、水と衛生のセクションとともに、栄養指標と水・公衆衛生指標の相関関係の分析の補助を行いました。汚水の使用や野外排泄は疾病負荷を増やし、栄養の吸収を妨げ、発育障害の一環となる、と一般的に考えられていますが、インドにおいても同様なことが言えるのかどうか、改めて分析しました。そこには、その分析結果を基に、政策やプログラムの提案を行う、という意図があります。そこで、複数の国内の動態調査のデータを入手し、それらの指標の相関関係の分析するチームのサポートを行いました。
その他、政府機関やドナーに対するプレゼンやレポートの作成、様々な関係機関・団体との会合やワークショップにも参加させて頂きました。以前から、国連フォーラムのウェブサイトなどで、ユニセフの仕事内容を読むなどしていましたが、実際に働いてみると、業務内容や進め方、必要なスキルがより明確になり、短い期間ではありましたが今後のキャリアを考える上でとても参考になりました。
企業対抗フットサル大会にて
■資金確保、生活、準備など■
生活費、渡航費用、保険に関しては、日本ユニセフ協会より支援をして頂きました。以前もインドで仕事をしたことがあり、また、3ヶ月と短い期間だったので、生活していく上で、特に不自由はありませんでした。住居は、同僚の親戚の家が一部屋空いていたので、そちらに滞在させて頂きました。また、インターンシップの最中に、企業・団体対抗フットサル大会があり、ユニセフのメンバーとして参加しました。他のチームに比べてユニセフチームは平均年齢が高かったので、結果はさておき、練習を通して、普段接することがなかった部署の職員と交流でき、よい思い出となりました。
■その後と将来の展望■
インターンシップ終了後、現在はJPOとしてユニセフ・グルジア事務所で社会政策オフィサーとして勤務しています。主な業務としては、国の社会福祉政策に関する提言、評価や、各プログラムに関するデータの利便性向上・強化などを行っています。インドのデリー事務所での業務とは背景や規模・内容はかなり異なりますが、様々な理由で社会的に脆弱な立場にある人々であっても、積極的に自分の力を発揮し、社会に貢献できる仕組み作りを行っていきたいと考えています。そのアプローチは様々であり、国際機関として、国家の社会福祉制度の拡充をサポートすることもその一つになると考えています。
■おわりに■
国際機関におけるインターンシップの応募に関して、機関によっては一般公募では積極的に採用せず、個別採用が中心の場合もあると伺っています。また、実際に内部で話をしていると、インターンを積極的に採用したい、と考えている職員もいるので、興味のある方は、知人などを介して職員を紹介してもらい、個別にアプローチしてみる方法を模索してみるといいと思います。その際には、国連機関での仕事を体験するという目的もありますが、自分には何ができて、何をしたいのか、そして、何を望まれているのかという点をベースに職務内容を事前に具体的に詰めておくと、より有意義な機会となると思います。
また、インターンシップの最中は、自身の業務に集中するだけでなく、時間のある時に、様々な同僚と話をし、ネットワークを広げておくといいと思います。それはいろいろなアイデアを得るということもありますが、その後の人脈を広げることにもつながります。コネというとネガティブな含みがありますが、様々な関連する機関・団体と調製して仕事をすることが多いので、普段から背景の異なる人とコミュニケーションをとり、よい関係を築いていくことは業務・キャリアの面において重要なスキルの一つであるともいえるでしょう。
滞在先の家族と
[1] ナレッジマネジメント:組織において、個人の知識、特に暗黙知を形式的にまとめ、普及・有効活用させる施策
2014年9月28日掲載 ▲