「日本外交における人権」
鈴木 誉里子さん
外務省 大臣官房 国際社会協力部 人権人道課 首席事務官
(略歴)1992年4月 外務省入省 以降、ポルトガル、アメリカ、ブラジルでの海外勤務。日本帰国後、情報分析、ODA等。地域的には西欧、南米を担当。2005年8月 国際社会協力部人権人道課首席事務官に就任。人権・国連関係にどっぷりつかるのは初めて。(1996年に国連日本代表部に半年いたが、人権その他の特定分野を担当しなかった。)
■1■ 国連と人権
■2■ 「人権外交」の背景
■3■ 日本の「人権外交」の特色
■4■ 人権外交と人権担当大使
■5■ 最後に
■ 質疑応答
■1■ 国連と人権
人権人道課に入って感じたこと:人権分野における国連の重要性
例えばイラク問題などを巡り「国連の失敗」とよく言われが、一方で人権は国連がもっとも実績を挙げている分野ではないか。人権に関する7つの条約、人権委員会など。NGOの方と人権のことを話していても国連の話になる。
→国連なくして人権が世界でここまで広まることはなかったのではないか。
- これまでの外務省での仕事の中で、人権は、基礎概念として重要とは思っていても、外交の中で大きなウェイトを占めていると感じたことはなかった。普遍的に誰もが享受すべきとは分かっていても、実務ではあまり関係がなかった。
- しかし、人権人道課に勤務後、ここ半年、人権は主流化、メインストリーミング化される方向で重視されつつあることを実感。
(背景)
- 国連での動き
人権委員会を人権理事会にするなどの国連改革の話の中で、外務省内においても、国連の動きに合わせて人権を日本外交の主流にしようという話になってきている。
- 世界の人権侵害
人権保障の第一義的責任主体は当該国家であることが原則。しかし他国の人権侵害について国連も上手く機能していない場合、これまで以上に日本外交における対処が必要という雰囲気が外務省の中でも出てきて、少しずつ浸透しつつある。例えばアジア、アフリカ、旧ソ連諸国など。
- 北朝鮮問題
以上の背景の中で、国内では、北朝鮮あるいは中国の人権問題への関心が高まってきた。北朝鮮の拉致問題は、人権委員会でEUと共同提案して3回決議が採択されたがなお解決しない。最近は、タイ・レバノンなどにも拉致問題は広がりを見せている。今年、第三委員会→国連総会で北朝鮮に関する決議が採択されたが、これまでの人権委員会での決議の取り上げられ方と比べて、マスコミ、国会の反応も違っていた。国会は当時閉会中だったにも関わらず、議員からも問い合わせを受け、各党の部会や委員会に呼ばれて説明を求められた。
- すべての国家が第一義的責任を負うことを原則としつつ、人権理事会、国連総会、人権条約に関する交渉、条約体での議論などのマルチの場面で、各国との交渉の中で、主張していき、メッセージを出していきたい。
- 西側との違い:「人権対話」「人権協議」
マルチの場面では、人権の普遍性・一律適用を主張しつつも、バイの場面では、各国の歴史、文化、伝統等の実情を踏まえ、彼らの声を聞きながら、人権の促進、保護を進めていく。
↓具体的には、
イラン、カンボジア、ミャンマーなど
これら西側が接触できない国と日本が接触できることは誇り。
そこで得た情報を、決議のスポンサー国へ提供、橋渡しをするなどして、マルチの場で活用。人権侵害を容認しないよう気をつけつつも、両者にとって満足できるものが、全会一致で通るよう努力。その国が批判されても納得された批判であることを追及。
- 2005年12月6日 人権担当大使設置。ノルウェーの大使の齋賀富美子氏が兼任。
(背景)
以上の日本外交における人権を、マルチ、バイ、セミナーの場など、様々な場で発信し、広げていきたい。その流れの一環。任期の定めなし。
- 選任について
外務省内部の人間であることにつき批判もあると思うが、我々としては、リストの中から適任ということで選んだ。外務省でCEDAWの締結自体に関与し、その後も人権問題を担当し、現在はCEDAW個人委員となっている。人権に関して長く関わってきたし、国連代表部も3回勤務し、国連自体についても知識・経験がある。
- 今後の活動について
人権担当大使の設置に際していったん帰国後、韓国で開催された北朝鮮での人権に関するセミナーに参加した。CEDAW会期終了後の2月中旬からは、ヨーロッパでの人権セミナーに参加し、日本の立場を表明するとともに、当該国の人権問題についても討議することになっている。ノルウェー大使を兼任しつつ、積極的な活動ができるよう、人権人道課で様々なアンテナをはって、どのような場があるか探していく。
個人的感想。
以前、外務省内には人権難民課があったが、残念ながら、省内で力があるとか尊敬されている課とは言えなかった。しかし人権理事会の設置など国連でも人権が主要なテーマとなる中で、人権人道課が外務省の中で注目され、人権が外交政策の中でいつも取り上げられるような形になるようにしたい。
(担当:北村)