第25回 「平和構築の時代」
星野 俊也さん
国際連合日本政府代表部 政務部 公使参事官
2006年10月6日開催
於・国連本部会議室
国連邦人職員会/国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会
■Q■ 平和構築は平和維持活動とスローガン以外に何が違うのか。カンボジアでは、動員解除、人権など国造りに踏み込んだ複合型のPKOが展開された。政治プロセスにも介入した結果、フン・センの強権政治がまかり通った。破綻国家はお金が欲しいと言い国連が支援する、というこれまでの体制の延長で、シニカルな見方をすると平和構築という概念を出して新たな援助産業を作っているのではないか。
■Q■ 私の見方からすると、カンボジアはNation Buildingではなかった。パリ協定は、あくまでも硬直状態を解消するための一時的な手段だった。その後、国連が入って選挙をし、国民を代表する政府を作ってそれでUNTACは立ち去った。それに対して、東ティモールはまだ当事者が実質的に国を支配する力がなかったので、国連が代わって国造りに踏み込んだ。これは、Nation Buildingにあたる。カンボジアと東ティモールでは、同じ国連の暫定統治でも、中身が異なる。
■A■
星野さん: 100%の成功はありえない。先のシニカルな見方にも一理ある。けれども、現状の単なる固定化や延長では意味がない。情熱をもってどう支援するか工夫が大事。だから、平和「構築」が深い意味を持ってくる。紛争要因を根本から解決する多面的な支援が必要。
山内さん: PBCは、既存の機関による資金、時間のギャップを埋めるという点において革新的な意味がある。PKOが引き上げると、5年以内に50%近くが紛争状態に戻る。PKOが終わっても、PBCが喚起し、国際社会が関心を維持して資金を動員し続ける必要がある。時間的には、PKO、人道支援、開発と直線的に支援をするのではなく、統合的に携わる必要があり、そこにPBCの役割がある。
■Q■ 人間の安全保障と軌を一にしていると理解している。「人間の安全保障基金」プロジェクトの審査基準に、コミュニティー・人民を対象としている、現地の視点の重視、保護と能力強化、複数の機関による実施、市民社会の連携がある。質問は、「人間の安全保障基金」と「平和構築基金」、さらに「民主化基金」は、どう違うのか、ということ。
■A■
山内さん:平和構築基金の目標額は2億5000万ドルで、ノルウェーが3千万ドル、日本は2千万ドルなど、拠出を予定している段階。平和構築において大事な事業で、人間の安全保障基金等今まである基金でカバーできないものに適用される。
■Q■ 最終的には様々な基金も統合し、co-funding になればいいのでは。
■Q■ PBCは、実際には相当な混乱があると見ている。peace building とnation buildingは別のもの。ガリの報告書「平和への課題」での概念整理によると、peace buildingは紛争後の社会をどう安全なものにしていくか、というもの。nation buildingは紛争や平和の段階にこだわらないもっと広い概念。複合型PKOとの違いだが、平和構築には具体的な目的がある。PKO達成後、開発支援のみでガバナンス支援をしなかったので、ハイチのように紛争に逆戻りした例がある。再発予防の観点からpeace buildingの考えが出て、いかに治安、統治能力を向上させるかが問われることになった。具体的には、中央の権力を地方に分散させ、セキュリー・セクター改革や司法の確立をするなどだ。
■A■
星野さん: 立体と多面は違う。多面はただ面が沢山ある状態。立方体を作るためには各辺が繋がり、接合面が常にある。平和構築には、和平合意の段階から、そこに含む諸要素に気をつけなければならない。ガバナンスに踏み込むと、内政干渉や帝国主義などと途上国政府から反発が出ることもある。期待した速度で発展が進まないフラストレーションもあるが、国際社会側の根気強く、腰をすえた支援が必要だ。
■Q■ カンボジアでPKO撤退後、フン・センの独裁的な政治ができたとのことだが、国連の仕事は完全な民主主義を達成することではなく、安定した政治制度を作ることであった。国連は、紛争国の国民にチャンスを与えるまでで、そのあとは各自の責任だ。平和の創生、維持、構築の3つの要素は必ずしも単線的でもなく、現在のアフガニスタンのように混在することもある。アフガンの現状は、平和構築といいつつ、米国がタリバン掃討作戦のために戦争中であり、平和強制に近い。一方で、国連機関は開発活動をしている。ボン合意では、平和の達成のために政治的には軍閥を許したが、人権の立場からは許されない。政治的にタリバンに制裁を加えると、住民の立場としては、社会サービスも届けられない現実がある。現場の厳しい矛盾がある。
■A■
星野さん: マクロの議論をしても、実際に一つ一つのケースにあてはめたら、色々問題が出てくるだろう。今まで平和構築という言葉がなくても、みな何らかの対応はしていた。しかし、「人間の安全保障」という概念が出て来ることによって救われた人がいる。それと同じように、「平和構築」という言葉を打ち出すことで新たに体系的な対応ができるようであれば、有益だろう。
■Q■ 日本の立場について。平和構築の概念の登場で、自衛隊の派遣も含めこれまでの支援のアプローチは変わるのか。
■Q■ PBCは紛争後の対応だというが、紛争予防はどう扱うのか。
■A■
星野さん: 平和構築に直結するDDRなどを日本はアフガニスタンなどで実践しているが、これは日本としては新しい分野の支援である。これからも重要な要素を担当していくだろう。また、平和構築は、「紛争が再び起こらないような社会を作ること」というジェネリックな概念で、JICAはこれを「復興支援」と呼び、自衛隊は「人道支援」というかもしれない。こうした違いは、それぞれの機関のミッションや背景が異なることから生じる。自衛隊の役割は法律とRule
of Engagement等で決まる。役割が急に拡大するわけではない。
山内さん: PBC設立の際、国連加盟国の意見を尊重し反映する政治的必要性があった。紛争予防の名のもとに介入されたくない国としては、紛争予防のコンセプトを含めることに反対し、PBCで紛争予防は扱わないことになった。ハイレベル・パネル報告では平和構築活動にこのコンセプトも含まれていたが、事務総長報告において、先述の理由に配慮して削られた経緯がある。
以上
担当:朝居、山岸