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第5回 2005年4月16日開催

「国レベルでの国連調整問題」

三浦 順子さん
UN Coordination Analyst, UN Resident Coordinator's Office


■1■ 国連本部でのコーディネーション強化に向けての動き
■2■ 中国でのコーディネーションの現実
■3■ 中国での反日運動について
 質疑応答



今日は国連のコーディネーションについて理想と現実、本部とフィールドのギャップに焦点をあててお話したい。


■1■ 国連本部でのコーディネーション強化に向けての動き

本部での一連の国連改革があってカントリーレベルでの国連機関間の調整(以下ドナーコーディネーションとことわりがない限り、国連機関間のそれを調整と略す)の必要性が迫られてきた。安保理改革などがメディアで取りあげられているが、なぜ調整が必要と認識されるに至ったかはあまり知られていないと思う。以前から調整への動きはあったが、1997年にアナン事務総長がコーディネーション強化の必要性を訴え、Development Group Office (DGO、国連開発グループ)が設置された。2004年12月のChief Executive Boardのリトリート(勉強会にて報告書要約配布)において、ノルウェーの国際開発大臣ジョンソン女史はこう述べている。「重複、競合、そして(調整のために適合していこうという)意志が欠如していることが資源の無駄遣いを生んでいる。国連がResident Coordinator(RC、国連調整官)制度の強化を中心とした改革案を提示するのであれば、ドナーはそれを支持する。」

上記の会合において、アナン事務総長は調整に関わる争点として以下の3点をあげている:

1.現在増加しているODAが最大のインパクトをもたらすことが可能となるように、国連機関の分裂と資金競争をいかに克服していくか。

2.United Nations Development Assistance Framework (UNDAF,国連開発枠組み)は、国連がカントリーレベルで国別のニーズに対応するのに適した計画プロセスであるか。

3.(多くの国でUNDPのRR(常駐代表)がResident Coordinator(RC)を兼任しているが)RCが中立性を保つにはどのようなアクションが必要か。

上記の報告書およびトレニアルポリシーレビュー(勉強会にて配布。国連本部のウェブサイトからもダウンロード可能、A/59/488/Add.1)をまとめると、調整に関するフォローアップアクションは次のとおり:

−RC制度の強化。

−援助対象国における各国連機関の役割分担の明確化(UNDAFにより各国連機関のプログラムの一貫性を強化する)。

−プログラムのツールと手続きの調和化の加速化。

−Common Country Assessment (CCA)・UN Development Assistance Framework (UNDAF) というアセスメントとPDS(計画・実施・評価)の枠組みの調和化および強化。

− 実効的なナレッジ・マネジメント。例えば中国ではUNCTADやIFADなどはプログラムはあるが、オフィスを持たない。オフィスを持たない機関のプレゼンスを、RCが補完する。

−(UNDAFをもとに、共通の一貫したプログラムを形成する過程で)援助対象国のナショナル・オーナーシップを確保する。

スローガンは1 UN, 1 Voice, 1 Common Country Programming Process。

■2■ 中国でのコーディネーションの現実

Common Country Assessment (CCA)では戦略的な連携が目指されている。中国では、例えば貧困撲滅、教育、エイズ、保健、環境保護といった分野での開発課題を分析したうえで、国連と政府の重点協力事項を提言。中国に多数二国間ドナーやNGOがいるなか、国連がどんな役割を果たすべきかを分析する。

CCAにもとづいて、5年に1度UN Development Assistance Framework(UNDAF)を策定する。例えば中国では現在2006年から2010年のUNDAFを中国政府の(第11回)5ヵ年計画と時期を同じくして策定している。中国では国家発展改革委員会が5ヵ年計画を担当する。各省庁をとりまとめ、各セクターを含めた総合計画を立てる。中国との交渉は時間がかかる。ドラフトを中国語で提出することが要求され、またコメントも中国語で返ってくる。翻訳に時間が必要。またコメントも予定通りかえってこない。省が縦割りなのでコミュニケーション・コーディネーションが悪く、各省庁間で統合されていない内容の返答が返ってくることもある。

UNDAFでは(中国政府と協議を行ったうえで)3つから5つの重点課題分野を決める。中国の場合は、分野別では環境とエイズの2分野が最優先分野。あと三つは複合的なもの。たとえば、国際条約への加入と実施、南南協力、地域協力など、中国の国際システムへの参加促進など。頭を悩ませた末の選択だった。

他に、社会政策開発とその実施。その中に教育、保健、社会保障などが含まれている。分野を統合する形で国連がアセスメントと協力を行っていく。また、WHOが行う、UNICEFが行うというのではなく、国連全体として一致して課題解決にあたっていくという意図がある。

MDGにしても、ひとつひとつの目標を取り上げるのでなく、例えばジェンダー(目標3)だが、他の目標とも関わるので、各重点課題分野においてUNFPAなど各機関がアセスメントと実施に関わるようにしている。2005年9月のミレニアム+5サミットに向けて、MDGの進捗をレビューするので、中国もそれに向けて努力している。

理想があるが、現実はどうか。

1.UNDPのResident Representative (RR、常駐代表)がRCを兼務しているので、各機関のあいだの調整が難しい。各機関の長はいずれも経験・能力もあって、個性がある人が多い。RCが中立を保っているとあまり思われていない。RCを強化すると言っているが、中立性がないと思われているときにはそれでよいか。

2.RCがUNDPのリソース(HR、ファイナンシャル、時間)を使ってRCの業務を行うのを、UNDPのDRRなどが歓迎していないことがある。

3.政府と協力してCCA、UNDAFを行ってきたが、どこまで政府のオーナーシップを高めることができたか疑問。

4.キャパシティー不足。たとえばアシスタントがほかの業務との兼務で、コーディネーションサポートに時間を避けていない。自分が秘書業務もやることもあり勤務は夜10,11時まで、土日も出勤と言う状態が半年くらい続いた。

5.ステークホルダーが多い中で民主的に意思決定/調整していくのはとても時間がかかる。また、非常駐国連機関の意向をプロセスに反映していくのは難しい。

6.常駐機関であっても、機関の大小にばらつきがあり、コーディネーションプロセスへの参にばらつきがある。たとえば、中国のUNIDOはRRとJPOで動いている。代表がミッションでいなくて、次が若手となると、組織としての意思決定をスムーズにしてもらえない。

7.世銀もUNDAFにメンバーとして加わっているが、枠組みへの合意だけで、プロセスに積極的に関わったとは言えない。世銀側でも調整への動きに関して本部とカントリーレベルでギャップがある。

各機関のやっていること/計画を積み上げするだけなら、調和化にならない。どうやって、真の調和化に向けた機能強化を行うかが課題。上記の様な現実を受けて、RCシステムのキャパシティー強化と40カ国において試験的にカントリー・ディレクター制度(UNDPのDay-to-day operationをRRはカントリーダイレクターに権限を委譲し、RRはRCの業務に専念する)が提案された。その結果を踏まえて、全対象国で広げていく予定。

■3■ (国連コーディネーションと関連はないが)中国での反日運動について

北京、上海、広州などで1万から3万人の運動。中関村という北京のシリコンバレーのようなところで、大きなデモが起こった。その後デモ隊が日本大使館前まで20kmも行進。トマト・卵・コンクリートブロックなどが投げ込まれ、20枚以上の窓ガラスが割れた。天安門事件以来、政府の統制によってあり得ない事態。政府が当初デモを制御する意図を持たなかったということではないか。私は中国語のクラスに行く際に日本大使公邸近くでデモ隊が見え、家に引き返してNHKのテレビで事態の概要を知った。大使館もまったく想定していなかった事態だと思う。

町村外相が訪中予定だが、外相訪中のあいだは、反日デモはないだろうとの予測が出ている。しかし、5.4運動が近い。中国ではこれまでの反日運動について教育を受けており、5.4、7.7などの歴史的日付も良く知られている。それらにあわせて再び運動があるのではないかと予測されている。

 

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