「人間の安全保障について」
佐藤安信さん
東京大学教授 大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム
大菅岳史さん
国際連合日本政府代表部公使
2009年10月27日開催
於: ニューヨーク国連日本政府代表部会議室
国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会
質疑応答
■Q■ 「人間の安全保障」と「保護する責任(R2P)」の相違点はどこか。
■A■
(大菅公使)
国連首脳会合成果文書において、「保護する責任」が生じる状況は、「大量殺戮(ジェノサイド)」「戦争犯罪」「民族浄化」及び「人道に対する犯罪」の4つの重大な侵害についてである旨規定されている。いわば、「人間の安全保障」が脅かされる究極の状況に限定されている。
一方で、「人間の安全保障」についてはそのような限定はなされていない。
■Q■ 「人間の安全保障」に対する批判とはどのようなものか。
■A■
(大菅公使)
従来から、反米色の強い一部の国々の政権は、「人間の安全保障」が内政干渉の口実として使われ、いずれ武力行使につながるのではないかという懸念を有している。
また、人権や人間開発といった既存概念との違いが明確でない、あるいは概念が広すぎて何でも含まれてしまうとの批判もある。これらの点については、「人間の安全保障」の付加価値は何か、今後どのように定義づけていくかについて、さらなる理論の深化が待たれるところである。
■Q■ 佐藤教授のビジネスの視点は、どのようにアフガニスタンにおいて実践すればよいとお考えか。
■A■ (佐藤教授)
アフガニスタンの治安状況は深刻化しており、どのような支援が望ましいかについて、一義的に回答することは難しい。
しかし、自らの経験から言えば、「量より質」「地域経済の重要性を意識し、小さいことからこつこつと」という姿勢が大切だと思われる。地方においてタリバンが支持されている理由は、政府の支援が届かない地方で、食糧支援等についてのある種のきめこまやかな「互助団体」としてタリバンが機能していることが挙げられる。タリバンを、「敵」としてのみ考えるのではなく、その果たしている重要性、行動の合理性といった側面も理解し、支援を含めた今後の戦略を考えていく必要があろう。
ビジネスの視点については、アフガニスタンで大きな問題となっている芥子栽培への対応はできないだろうか。蕎麦等の代替作物の導入が挑戦されているが、なかなか成功していない。適正技術を考えるにあたり、日本のビジネスを通じて日本が育んできた農業の知恵と現地の知恵をうまく融合させていくことはできないだろうか。 ただし、アフガニスタンの支援は命がけである。それなりの覚悟が要求されよう。
■A■ (大菅公使)
佐藤教授が言及された「量より質」に関し、いかに「質」を担保するかは、お金を出す・出さないといった量の問題と必ずしも二律背反ではなく、いかに現場に人が出向き、現地のニーズを把握した上で的確な支援を行うかという人的貢献の在り方にも深く関わっている課題だと思う。
■Q■ アフガニスタンへの文民支援に関し、援助関係者の安全確保は非常に大きな問題ではないか。
■A■ (佐藤教授)
現地での支援において死の危険があることは否定できない。個人的には、個人レベルでの自発性、納得をきちんと確保する必要があると考える。
■Q■ 「人間の安全保障」について、純粋な学問的研究対象としては、どのようにとらえればよいか。
■A■ (佐藤教授)
これまでの研究はどちらかというと、狭く深く分析するということに重きがおかれすぎてきたように思われる。「人間の安全保障」は様々な学問の「総合化」を目指すものであり、どのように学際的視点を持って成し遂げていくか、という点に学問的研究対象としての価値があるのではないか。
■Q■ 「人間の安全保障」とCSRの関係性はどのように考えるべきか。佐藤教授はCSRを広く好意的に解釈しておられるが、スーダンや東チモールでは企業活動が「人間の安全保障」を低下させているとも取れる状況がある。そもそも、法律によってではなく、CSRによって企業の活動を規制することができるのか。
■A■ (佐藤教授)
国連のGlobal Compactにおける10原則や企業の自己規制ガイドラインの設定など、CSRをつうじた企業活動の規制の取り組みは始まっている。
また「社会的責任投資(SRI: Social Responsibility Investment)」という言葉があるが、株主が利益のみならずその他の考慮要素を取り入れ投資を行うことをつうじて、企業活動を規制していくことができる。その意味で、CSRをつうじた企業活動の規制は、我々一人ひとり自身の問題であるといえよう。
議事録担当:錦織
ウェブ掲載:岡崎