サイト内検索



第43回
自然災害に対する国連人道支援−インド洋津波の教訓
猪又忠徳さん 
国際連合諸機構合同監査団 監査官

第42回
世界銀行と脆弱国家
黒田 和秀さん 
世界銀行 脆弱・紛争影響国ユニット 上級社会開発専門家 

第41回
難民救援から平和定着へ-現場でみた国連の活動
水野孝昭さん 
朝日新聞NY支局長

第40回
気候変動の影響と、アジアそして日本の取り組み
三村 信男さん 
茨城大学地球変動適応科学研究機関教授
第39回
「小型武器問題−国連行動計画の履行と日本の取組み」
益子 崇さん
国連軍縮部プロジェクト調整官 
全タイトルを見る⇒

HOME勉強会 > 第44回

「日本とアジアから世界の平和構築に如何に貢献すべきか
-現場での取組、知的貢献、そして人材育成-」

紀谷 昌彦さん
外務省総合外交政策局国際平和協力室長

2007年11月15日開催
於:ニューヨーク日本政府国連代表部会議室
国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会

 

 はじめに
■1■ なぜ今平和構築なのか
■2■ 平和構築における日本の強みは何か
■3■ 日本は平和構築にどう取り組むのか
■4■ 日本とアジアから世界の平和構築へ
 質疑応答

■ はじめに

現在平和構築について、政府関係省庁や実施機関、国際機関関係者、NGO、大学や民間企業など様々な組織・分野の方々の間で議論がなされている。平和構築の実践には、裾野の広い支持と協力を得ることが不可欠であり、その文脈において、NYでの関係者は不可欠のパートナーである。来年3月には東京で第一回平和構築シンポジウムを開催予定であり、どのような切り口で取り組み、どのようなメッセージを発信するかについて、現在関係者と検討を進めている。本日の勉強会での議論も、是非参考にさせていただきたい。

■1■ なぜ今平和構築なのか

冷戦後、世界では内戦が多発し、人道危機やテロなどの諸問題が発生するとともに、国連PKO等が拡大する中、和平・治安確保から復興・開発までの包括的な取り組みとしての平和構築が必要になってきている。これは、国連をはじめとする様々な国際機関やフォーラムでも大きな課題となっている。

日本にとって、平和構築は、日本自身の安全保障環境の改善につながるのみならず、国際社会のリーダーとして世界の課題に取り組む責務があるという意味で重要だ。さらに、日本は歴史的に平和への愛着を持つ国でもある。日本国民には「世界平和のために何かしたい」という思いがある。明治の開国、そして第二次大戦での被爆体験を経て、戦後の復興と経済発展を果たしてきた国としての経験を生かして、日本がアフリカをはじめとする諸国での内戦や、内戦と国際紛争の複合形態といった非人道的状況等にどう貢献していけるかは、大きな課題である。これは、「平和国家日本」の新しい旗印となり得るものである。

来年、日本は引き続き国連平和構築委員会の議長国を務めることに加え、5月にはTICAD4、7月にはG8北海道洞爺湖サミットも開催される。平和構築は、いずれにおいても重要な議題の一つとなり、日本はそういった国際的な場での議論をリードする立場にある。その意味で、今このタイミングで平和構築への取組を強化することには大きな意義がある。


■2■ 平和構築における日本の強みは何か

平和構築は、要員の派遣に関わる各種の制約や安全基準の問題等から、日本が一番苦手とする分野だとする声もある。実際、平和や紛争の分野には国民の複雑な感情がある。他方、平和に愛着を持つ日本が、平和構築という、現実に日々多くの人々が犠牲になっている課題について、遠くからお金を出す形でしか貢献できない、というわけではない。平和構築には様々な切り口があり、和平プロセスの促進から復興開発に至るまで、日本が側面支援できることはたくさんある。

第一に、治安の確保と法の支配の実現である。日本は小型武器、地雷対策にはお金も人も出して貢献している。また、紛争国が現地の文化を維持しながらグローバル化に対応するためには、法整備が必要であるが、日本は過去の経験もあり、この分野で支援を行うノウハウを持っている。

第二に、コミュニティの再建と人間の安全保障である。日本は人間の安全保障の旗ふり役を担い、パートナーシップを推進してきた実績がある。様々な支援のツールを活用しながら、今後とも積極的に広めていく考えである。

第三に、和平合意からの国づくりと行政能力強化である。特に人づくり・国づくりは、長年日本が自らの経験を生かして取り組んできた得意分野である。日本は、自国の発展の経験を生かし、相手の国の人たちと一緒に汗をかき、試行錯誤しながら進めていくという方法をとってきた。また、開発途上国同士が相互に協力し合う南南協力についても、日本が先頭を切って側面支援を行ってきた。

第四に、雇用の確保と経済成長の促進である。除隊兵士をはじめとする若い失業者の雇用を確保することは、紛争後の社会の中で非常に重要な問題である。日本は、インフラ整備の重要性を身にしみて感じている国であり、円借款などのツールも活用したインフラ整備を通じて、経済成長を推進することに強みがある。また、日本企業をはじめ、ビジネスとの連携も、現地社会の平和構築に大きく貢献するものである。

このようにして見ていくと、日本は平和構築に必要なツールを全ての主要分野で持っている。平和構築を日本の強みとして打ち出していく可能性は大いにある。そのためには、他の国や国際機関にはないどういった強みを日本がもっているか、改めて見直し、認識を新たにすることが重要ではないかと思う。

■3■ 日本は平和構築にどう取り組むのか

2006年8月、外務大臣が初めて平和構築についての演説を行い、現場での取組、知的貢献、人材育成の3本柱を日本の新たな方針として打ち出した。去年から今年にかけて、これが着実に進んでいる。

まず、現場での取組については、安全基準・安全対策が引き続き大きな課題であるが、国際平和協力活動の本来任務化、中央即応集団の編成等、制度面での整備が進んでいる。更に、国連PKO等への要員派遣として、東ティモールへの警察要員の派遣、ネパールへの武器監視要員の派遣が新たに行われた。また、近年では2003年にはODA大綱に、平和の構築が重点事項の一つとして盛り込まれ、これも踏まえ2005年にはコンゴ民主共和国の警察支援のための南南協力を行うなど、支援アプローチの多様化に向けて様々な工夫を行っている。このような取組には、基盤としての現地機能の強化が極めて重要であり、様々な方策が具体的に進められている。

第二に、知的貢献については、日本には様々な経験や知見はあるものの、それを如何に整理・深化して対外発信していくのかが大きな課題となっている。日本の貴重な知的リソースを、政策面での骨太の方針につなげていく必要がある。そのためには、日本の強みを見据えて、学術面で国際的に信頼されている政策研究と、実際の資金手当も伴う実践との合わせ技が求められる。

第三に、人材育成については、優秀な人材を育成しても、育成した人材が卒業後に就くポストが十分になく、これを確保することが大きな課題となっている。平和構築に携わりたいと思い、修士まで取っている日本人はたくさんいるが、なかなかその分野での就職先が見つからず、志半ばで他の道を進む人もいる。人材育成は、キャリア支援との合わせ技が不可欠である。今般の平和構築人材育成パイロット事業では、人材育成のみならず政策研究・キャリア支援のハブ形成も視野に入れている。本事業の日本人研修員には、数名程度、JPO相当の国際機関派遣支援を行うこととしている。国内研修は、9月半ばから10月末まで行われ、現在、日本人15人、アジア人14人の研修員の多くが海外研修中である。この事業は、昨年から今年にかけて、相当なハイペースで進めてきたことを自ら実感している。更に、関係省庁連絡会議等を通じて政府一体の取組も推進している。また、日本のみならず、アジアやアフリカの人材育成も視野に入れて事業を実施している。

■4■ 日本とアジアから世界の平和構築へ

現在、来年3月に平和構築シンポジウムを開催する方向で準備を進めている。研修員が海外研修から戻ってきたタイミングで、ASEANをはじめとするアジアのパートナーの協力等を得つつ、日本・アジアから世界の平和構築へ知的に貢献し、実践を通じて広めるという試みである。

なぜアジアかといえば、アジア各国・地域から豊富な事例が出てくるのみならず、より持続可能で付加価値のある取組になりやすいという認識からである。また、アフリカにも開かれた形で進めたいと考えている。アジアの研修員が日本とともに世界で活躍する手伝いを日本がする、アジアの様々な知見と人材を生かすためのプラットフォームを、日本が縁の下の力持ちとして提供するという形でやりたい。

現時点では、例えば"Peacebuilding Experience and Wisdom from Asia to the World"といったテーマで、アジアにおける様々なベスト・プラクティスを取り上げ、世界に広めたいと考えている。以後、毎年開催し、平和構築を巡る世界の取組にアジアから付加価値を提示するとともに、日本が率先実行により範を示し、実践と発信の相乗効果を実現したい。このような場で、いかなるアジェンダやメッセージを打ち出していくか、どのように持続・発展させていくかについて、皆様のご意見を伺いたい。


 

関連リンク
○席上配布資料「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/peace_b/pdfs/pj_gaiyo.pdf
○外務省・平和構築ウェブサイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/peace_b/index.html
○広島平和構築人材育成センター(HPC)http://www.peacebuilderscenter.jp/index_j.html

質疑応答へ

 

議事録担当:石塚



HOME勉強会 > 第44回