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エネルギーと途上国の発展

第74回 国連フォーラム勉強会

日時:2012年10月11日(木)18時45分〜20時45分
場所:国連開発計画会議室
スピーカー:高田 実氏 (国連事務総長官房 エネルギーに関する上席政策アドバイザー)

 



■1■ はじめに
■2■ エネルギーと開発・貧困問題
■3■ 国連のエネルギーへの関わり、支援
■4■ 国連のエネルギー支援の歴史
■5■ すべての人のための持続可能エネルギー(Sustainable Energy for All)
■6■ 質疑応答
■7■ さらに深く知りたい人へ


■1■ はじめに

国連フォーラムでは、国連事務総長官房にて、エネルギーに関する上席政策アドバイザーとしてお勤めの高田実さんを講師にお迎えし、「エネルギーと途上国の発展」をテーマにした勉強会を開催しました。国連は、2012年を、「すべての人のための持続可能なエネルギー国際年(International Year of Sustainable Energy for All) とし、「すべての人のための持続可能エネルギー(Sustainable Energy For All)」というイニシアティブを国連事務総長のプロジェクトとして立ち上げており、本テーマは現在注目を集めています。また、講師の高田実さんは、アフリカでのエネルギープロジェクトの経験もお持ちであり、まさに現場と政策レベルからの議論が交わされました。なお、以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解が含まれている旨、ご了承ください。


■2■ エネルギーと開発・貧困問題

貧困問題や開発問題を考える際、エネルギーは欠かせない問題である。例えば人口の4割近くが電気にアクセスできない途上国では、料理や日没後の生活など、私たちが普段当然視している活動も実現不可能となり、エネルギー問題が社会、経済生活に大きな影響を及ぼしている。また、発展途上国にはいまだ約30億人はガスの代わりに薪を使用している。薪を使うことで森林破壊が進むだけでなく、煙に含まれる有害物質を吸い込むことによって健康を害し、WHOによると年間約300万人以上(主に女性と子供)の直接の死因となっている。

石油、ガソリンの値段の高騰も途上国の貧困層の生活には大きな影響を与える。貧困層で電気にアクセスがないところでは、電気の代わりにケロシンやバッテリーなどに対する支出の割合が高くなる。また、国家予算のうち、約1000億ドル、GDPの2、3割が石油購入のために使われる後発開発途上国もあり、高騰しているガソリン代や電気代を払えない貧困層による暴動も起きている。このように、エネルギー問題は貧困問題、財政問題、さらにはジェンダーなど様々な開発問題と関連がある。


■3■ 国連のエネルギーへの関わり、支援

国連は、現在どのような形でエネルギー問題に関わっているのだろうか。途上国支援の現場では、国連の役割は開発アクターの環境整備、いわば中間業者としての位置づけである。例えば、新しい電力開発の要請を途上国政府から受けると、担当政府機関と協力し政策立案、フィージビリティスタディやアセスメントなど実施をサポートする。途上国における技術者・政策立案者などの人材不足は、途上国主導の問題解決を遅滞させる原因となっており、国連は長期的な視点から支援終了後にも非援助国が自立していけるように、キャパシティ・ビルディングにも力をいれている。また、エネルギ−問題の解決には民間の役割が不可欠であり、官民提携の推進、必要な技術、知識の共有と移転を計るための多国間(南南協力を含めた)協力の環境整備も重要項目である。

また、国際交渉現場では、エネルギーの将来に関しても討論され、国連は加盟国と協働し対策を進めている。例えば、エネルギー供給と需要は二酸化炭素の総排出量の約7割程と関連があり、気候変動交渉においても非常に重要な問題である。一方で、エネルギ−は地政的問題を含み国際間ルール作りが難しいため、いまだに国際条約がなく、国際政治の場ではなかなか扱いが難しい難題の一つでもある。


■4■  国連のエネルギー支援の歴史

では、国連はいつからエネルギー問題に取り組んできたのだろうか。オイルショックに見られるようにエネルギ−と安全保障の問題はしばしば取り上げられてきたが、国連がエネルギーと開発の問題を包括的に取り組みはじめたのは、1992年リオデジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議(通称、地球サミット)からである。地球サミットでは、持続可能な開発のための行動計画「アジェンダ21」が採択された。1990年代は世界中で多くの国際会議が開催され、エネルギー問題が多くの関連するテーマの一つとして取り上げられた。地球サミットから10年後に開催された2002年のヨハネスブルグ・サミットでは、エネルギーが初めて章立てで取り上げられたことにより、エネルギーと貧困との関わりが国際社会に認識された。世界の開発の枠組みの中でエネルギーをどう捉えていくかという課題は、ODA政策、資金の量、現場の活動にも大きな影響を与えてきた。また、MDGsが高揚した2000年以降は、エネルギーは市場が主体的な働きをする私的財なのか、もしくは政府が大きな役割を果たすべき公共財なのか、という議論もでてきた。しかし、エネルギーは、貧困、ジェンダー、基本的人権、健康、教育問題等と関わる社会事業でもあると捉えられるようになり、貧困とエネルギー問題の相関性に注目が集まった。2000年代後半に入って、一般人の関心の高まりに伴い、各国の政治レベルでも、気候変動やサステイナビリティの問題に関心が集まり、エネルギー問題の重要性の更なる高まりが感じられる。

ここ5年から10年は、環境にやさしいクリーン・エネルギーへの資金投資ついて世界中が真剣に考えるようになってきた。各国が解決策に向けて努力してきており、気候変動条約のあらたな枠組みが決定すれば現場での活動も更に増大するであろう。

クリーン・エネルギー政策の中では、直接的補助金、固定価格買い取り制度(フィードインタリフ)、税制優遇といった、普及促進策は特に重要である。近年では、各国でクリーン・エネルギーに対する投資(Clean energy investment)が増加してきた。昨年は、世界全体でクリーン・エネルギーに対する投資総額が、化石燃料エネルギーへの投資総額を上回るという、十年前までは考えられないことが起こった。ここ数年の世界的な経済停滞の影響は明らかにあるものの、大きく見れば右肩あがりでクリーン・エネルギーに対する投資は増えてきている。

一方で、技術の進歩もあり天然ガスや他の化石燃料が今後とも重要な役割を果たしていくことは明らかであり、エネルギ−政策の構築に当たっては、すべてのオプションを検討することからはじめなければならいことに変わりはない。その中での国連の活動は、途上国の政策支援からキャパシティ・ビルディング、グローバルな場でのルール作り等であり、解決に時間がかかるエネルギー問題に少しずつ取り組むことによって、他のステークホルダーが行動を取りやすくなる環境作りのために行動している。


■5■ すべての人のための持続可能エネルギー(Sustainable Energy for All)

グローバルな観点からエネルギーについて議論する場を提供するため、「すべての人のための持続可能エネルギー(Sustainable Energy for All)」というイニシアティブが、昨年の国連総会の折に、国連事務総長の元立ち上げられた。各国政府、民間セクター、市民社会がアイディアを出し、議論し、2030年までにすべての人に持続可能エネルギーをとの目標のもとに行動していこうという呼びかけである。特に、昨年一年で、国際開発銀行を含めた主な開発機関や、EUを中心とした主な先進国、約60カ国の途上国政府から賛同を得ている。2012年6月に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)でも、エネルギー問題は関心を集め、このイニシアティブが成果文書にも取り上げられた。ここ3年程で大きく展開することが期待される。


■6■ 質疑応答

質問:「すべての人のための持続可能エネルギー」のイニシアティブで、イニシアティブが立ち上がるまでのプロセスや、イニシアティブに関して困難だった経験を具体的に教えてください。

回答:このイニシアティブの立ち上げには、エネルギーに関する個々のプロジェクトや財源の重複を回避し、関係機関が集まれる機会を提供するという目的がある。意見調整をする上で難しいと感じる時は、各国政府、援助機関、民間企業などそれぞれの目的と手段を有しているため、協力したいが調整はされたくないと思っている時である。このようにそれぞれの利害を越えたところで協力関係を構築するには国連、特に国連事務総長のような立場からの呼びかけは有効である。協調のシンボルとしての役割のほかに、直接の利害関係から中立の立場にあるため、各国の警戒心を下げるという利点がある。「すべての人のための持続可能エネルギー」のイニシアティブの3つの目標は、(1)2030年までに全世界の人がエネルギーにアクセスすること、(2) 再生可能エネルギーを2倍にすること、(3)省エネを推進することである。イニシアティブに関して、最初は、「再生可能エネルギーを途上国に一方的に押付けている」、「気候変動は先進国が主に責任を持つべきだ」、さらに「進んだ」NGOsなどからは「再生可能エネルギーの目標が不十分だ」といったような批判もあがった。しかしながら、調整を行ったり、語彙を注意深く選んだり(例えば、15%から30%にというパーセンテージ表現ではなく、2倍という表現を使用)することによって、なるべく広く受け入れられるような形に修正を加えた。最も注意した点は、議論に時間をかけすぎず、大きな目標に向かって、あらゆる人、組織に参加してもらえる形で迅速に動き出すことである。そのため、細かい議論は走りながら詰めていくという方針を採っている。


質問:途上国のエネルギーアクセス向上に対する課題と、それに対する解決策を教えて下さい。

回答:途上国の課題は、大きく分けて、政策、財源、キャパシティの3点が考えられる。エネルギー政策は、特定事項に特化しすぎて、包括的に考えられていない部分がある。したがって、解決策はあってもなかなか実行まで辿り着かないという現状になっている。2つ目は財源の問題で、とても大きな問題である。財政の使い道は政治によって決定されるので、必ずしも最適化の観点から財源が配分されていない状況がある。これを改善しなければ、財源が広く効果的に使われないという状況に陥り、その結果、民間の投資が呼びこめられないという問題も発生する。3つ目はキャパシティの問題で、途上国では各省庁、電力会社および関連会社など、多岐に渡って人材や知識が不足している。付随する形で、お金の貸し借りのメカニズムやネットワークも不足している。問題解決に向けて、多種多様な人材による包括的なプログラムが必要である。技術的な問題は、それに比べるとそこまで大きな問題ではないが、途上国には技術を有効利用できるだけの条件が整っていないので、外部からの支援が必要である。「すべての人のための持続可能エネルギー」のイニシアティブが、途上国のエネルギー解決に向けての飛躍となればと思う。


質問:気候変動は、人間の活動によって増加した二酸化炭素によって引き起こされているという意見がある一方、人間の活動に関係なく自然の周期変動の一環であるという対立した意見もあるが、どのように考えているか?

回答:気候変動に対する国連の立場は、基本的には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の立場に同調するものであり、人間の活動が気候変動に寄与している確率が高いという立場を取っている。


質問:最近は再生可能エネルギーへの投資が増えていると聞くが、費用対効果の問題があり、財政的に余裕のない途上国などでも再生可能エネルギーへの投資は現実的なのか?

回答:今まで高いと言われてきた再生可能エネルギーのコストは年々下がってきており、再生可能エネルギーに投資することが経済的にも実現可能になってきたと言える。とはいえ、再生可能エネルギーのコストは場所、技術によっては、依然高い場合も多い。そういった場合、政策的にどのように対応するかが大事な問題である。技術の発展により、様々な形態の再生可能エネルギーが増えてきており、今後もどんどん新たな発展があるだろう。

各国の置かれているエネルギー事情は異なるので、エネルギー政策を考える際において、様々な可能性を吟味することは大事であり、再生可能エネルギーが本当にその国で利用価値がどのくらいあるのかどうかを見極め、各国のニーズ、構想も考慮し、長期的視点に立って途上国を支援する必要がある。途上国へ実際に赴きニーズや構想を確認し行動計画を決めることが重要であり、関係機関と調整を積み重ねて進めていくことが大事である。


質問:交渉や各国の主張をまとめる難しさに関して教えてください。

回答:交渉は非常に難しく、心理戦も大きく影響してくる。将来的に最終決定事項がどのくらいの影響を現実に及ぼすのか分からない中で、交渉は進んでいく。どれだけ相手の発言を信頼するか、自分の発言を相手に信頼させるかが大事になってくる。交渉の難しさの一つには、交渉の当事者は交渉自体には長けているが、必ずしもその分野(例えばエネルギー)の政策的専門性があるわけではないため、確認をとっているうちに交渉に遅れがでてしまうこともあげられる。また、一つの分野の決定が他の分野の交渉に大きく影響を与えることもあるので(例えば知的財産の扱いは分野別の問題が財産権全体の基本原理と関連するので複数の交渉が必要だったりもする)複雑になる。特に途上国政府は人材不足によって、専門知識に基づいた十分な対応ができずに、慎重にならざるを得ない場合がある。また、Group of 77に代表されるような複数の途上国で構成された集団の交渉の場合でも、集団が大きくなればなるほど各国の意見調整も必要になり、前に進まないというジレンマもある。こういった場合、時間を限定することで皆を焦らせて纏め上げる、ということも時々(いつも?)やらなければならない。


質問:日本政府のエネルギー分野における途上国支援に関する立場、更に、日本の広い意味での国連での活動ついて期待したいことは?

回答:日本政府はエネルギー支援を行なってはいるが、この分野は日本の技術が大いに活躍する可能性もあり、今後とも益々の支援を期待したい。また、十分に見合った評価をされていない部分もあり、そういう意味では、広い意味での広報は大切だと思う。例えば、北欧の国は、日本より人口が少ないが国際的活動を重視しているため、相対的に国際的地位も高く、また、自国の国益とグローバルな課題をうまく関連付けてることに長けている。私が国連に入った15年ほど前と比べても、国際交渉の場における各国の相対的立場は大きく変化し、また、常に変化している。国連、国際機関、国際交渉をどのように有効利用するかということは、これまでも今後も日本の課題である。国連さらに国際活動の場全般において、日本の政治家、担当省庁の更なるリーダ−シップを期待している。また、国民レベルでも、国際的活動が途上国の発展といった問題だけでなく、今後の日本の将来に深く関連しているという認識を国民一人ひとりが持つことも大変重要である。


■7■ さらに深く知りたい方へ

このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどを御参照下さい。また勉強会後、2012年12月21日にUN Decade for Sustainable Energy for All (2014-2024)の国連総会決議が採択され、「すべての人のための持続可能なエネルギー国際年」は、今後10年に活動が拡張されることが決まっています。

すべての人のための持続可能エネルギー国際年(Sustainable Energy for All)」イニシアティブ
http://www.sustainableenergyforall.org

リオ+20特集
http://eco.goo.ne.jp/topics/environment2

UN Decade for Sustainable Energy for All (2014-2024)の国連総会決議に関するプレスリリース
http://us2.campaign-archive1.com/?u=33cf89da7ade3a85156c5eda4&id=afd9ce8c34&e=6b3ea08c7e

議事録担当:志村 洋子
ウェブ掲載:藤田 綾

 

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