ブダル大学
Papua New Guinea University of Natural Resources and Environment
1.組織概要(事業目的、ゴール等)
1965年に設立され、東ニューブリテン州に位置する大学。設立当初は生徒が男性のみだったが、1975年に女性の入学も可能になった。
同学では、自国の農業、漁業、林業、観光業を牽引するスキル・能力を蓄積することを目的としている。また、国民が直面している環境問題や生活課題の解決に向けて研究を行っている。農業、漁業、熱帯林業、観光業・ビジネスのコースがあり、専門的な学びを提供している点が特徴である。
近年は、地域のコミュニティや産業が恩恵を得られるような仕組みを開発し、熱帯農業で2年間の資格訓練と3年間の卒業証書訓練を行い、パプアニューギニアと近隣の南太平洋諸国における農業教育と農村開発に大きく貢献した。
2.ブリーフィング、プロジェクト訪問において説明された内容・質疑応答の詳細
PSPのメンバーによる発表とブダル大学の先生によりご準備いただいたプレゼンを行い、「環境保全と持続可能な開発」に対する理解を深めた。
<PSPメンバーによる発表>
1)環境と持続可能な開発班
まずはじめに、「自然環境」の大切さに関して環境が土台となり社会と経済が回っていることを説明した。次に、環境保全と開発の両立に関してなぜ両立が難しいのか、また政府は何をするべきかについて私たちの見解をお話しした。パプアニューギニアでは違法伐採、政府の管理能力不足などの様々な問題により、自然環境が破壊されつつある。その現状を打開するための解決策として、最後に「観光業」の提案を行った。観光業を促進するにあたって、パプアニューギニアの強みは豊富な自然、英語の使用が可能な点、多様な遺産や文化の存在が挙げられる。反対に課題としては外貨不足、インフラの整備、治安の改善、そして観光立国としてのブランディング(文化、食など)が必要だと考えた。
2)教育・ジェンダー班
PNGにおける教育の問題として学習環境の悪さ、修了率の低さ、就学年齢のばらつきなどが挙げられる。その理由として、学校を卒業しても就職できるとはかぎらないことと、ワントクシステムの存在が背景にあると考える。ワントクシステムは衣食住に困らず生活できるセーフティネットとして機能しているため、特に勉強をして職を得て生活を維持しなければならないという危機感が生まれない。加えて、教育へのアクセスは男女で大きく異なる。伝統的に女性の地位が低いパプアニューギニアでは、女性は教育を受けずに家事を担うのが一般的である。今後の課題として、教育の重要性を伝えていくことが大切である。また、アクセスがしやすくなるように政府が環境を整える必要がある。
3)民族・文化・言語班
800以上の言語と部族が共存していると言われているこの国で、伝統的な文化や、この国ならではの特徴・良さを生かしながら発展していくには、どうしたらよいのであろうか。政府は‟Papua New Guinean ways”を確立するための明確な答えは持っていない。行動する前には多角的な立場の意見を聞き取り、深いリサーチが必要だと考える。
4)Basic Human Needs班
Basic Human Needs(BHN)とは大きく分けて3つあると考えており、1.衣食住などの個人消費 2.基礎的な社会サービス 3.雇用である。PNGにおいてBHNの観点より最も重要な課題は、水・電気・ネットなど「国土横断的なインフラ整備が必要な分野」が特に遅れていることであると推測されている。その要因として、①地形の問題、②資金の問題、③ガバナンスの問題が背景にある。各々の問題が複雑に絡み合っているが、これらの解決策として、以下を提案させていただいた。
- ①地形の問題:PNG最大の援助国オーストラリアも同様の地形であり手本はそばにある。他国から支援を「もらう」ではなく「学ぶ」姿勢
- ②資金の問題:ドナーとのネットワーク構築による大規模な資金集めと整備計画立案
- ③ガバナンスの問題:「都市」「地方」というアプローチではなく、PNGを一つの空間として捉え、国、州、自治体すべてを垂直に、また様々な課題を水平に整備していく、「空間設計」のアプローチ
<ブダル大学のプレゼン>
- PNGの重要作物:パプアニューギニアは生物多様性に富んだ国であり、様々な植物・動物が生息している。また、地域によっても気候条件などが違うため、多様性が保持されやすい。
- 現在の重要作物:ココア、紅茶、コーヒー、バニラ、ココナッツ、パームオイル。特にパームオイルは現在、パプアニューギニアの農業の30パーセントの利益を担っている。
- パームオイルを使用した商品:ココナッツオイル、バター、ジャム、リップスティック、チョコレートなど
- パームオイル生産にかかるポジティブ面:地域雇用創出、収入形成、食糧確保など
- パームオイル生産にかかるネガティブ面:自然環境破壊。例えば、大気汚染、森林伐採、地球温暖化、森林火災、土壌汚染など。
- パームオイルの将来:消費者とNGOをはじめとする環境保護活動家の人から啓発することで、生産者は環境保全に適したアプローチを考える機会が得られ、最も大きいニューブリテン島のパームオイル生産者が持続可能な生産ガイドラインにのっとった生産を牽引する。
- ブダル大学では現在、「パームオイルの持続可能な生産」に関するコースを提案している。これは次世代の人々に対して、持続可能な生産を行う知識を身に着けてもらうことを目的としている。
3.参加者所感
日本とは歴史や文化、慣習が大きく異なるパプアニューギニアでも、私と同世代の若者が抱く、将来に対する期待や不安は同じなのだと実感する機会となった。
大学に到着して、まず食堂で昼食をいただいた。その際に、学生が「おもてなし」を披露してくれるとのことで集まると、半裸の男子生徒が、互いに木の枝で体を叩き合っていて、すさまじい音が食堂に響いた(通過儀礼)。この儀式は痛みに耐えたものこそが成人したとみなされ、いわば大人になる証であった。見るに耐えない光景だったが、このようにして始まったブダル大学の訪問は、大学生の私にとって、この国の大学生と同じ課題について考えることのできるとても有意義な時間になった。
議論の中では主に、パプアニューギニアの抱える農業の課題と持続可能な開発に関してプレゼンを通して理解を深めた。ブダル大学は、天然資源の豊富な自国が抱える問題解決に関する、実践的な学びを提供しており、地域と国の発展に貢献する重要な役割を担っている機関だと感じた。
セッション終了後に、各々散らばり、短い時間の中で交流を深めた。「夢は大統領になることだけど夢の叶え方がわからない。」「この国で大学に行くことができる者は本当に特別。しかし自分はまだ卒業後の進路が確定していない。」このような声を聞き、裕福で限られた生徒のみに門戸が開かれている大学へ行ってもなお、就職が保証されていないこの国で、教育を受けるモチベーションやインセンティブはどこにあるのだろうか、と感じた。私が育った日本では、有名な大学を出ればある程度の就職を獲得できる仕組みがあるが、PNGはそうではない。加えて、女子生徒の大学進学率はごくわずかであり、教室の中には男性から放たれる熱気しか感じなかった。ジェンダー平等の意識が未だに浸透していないことも痛感した。
(写真)交流の様子
一方で、ブダル大学には様々な地域から学生が集まってきており、国家への帰属意識が強い。このような学生が、大学で専門的な知見を深めていけば、この国は持続可能な開発により恩恵を受ける時が来るのではないか、とも感じた。
恥ずかしがり屋で人見知りな点が日本人と共通しているパプア人学生から議論の中で意見が出ることは少なかったが、そんな中でもデカさん(現地で大学教師をされている日本人)の話には大爆笑していた。同じ日本人であるデカさんが、この地で活躍されている姿を見て、なぜか誇らしく感じたのとともに、自分も同じように現地の方々から必要とされる存在になりたい、と思うことができる経験だった。